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第39話 「さとるくん、楽しかったねっ!!」

 

 *


 俺は暗闇の中に居た。俺一人きりで、周りを見回しても誰もいない。ユイユイも、親も、そして、恵菜も。俺一人だけがこの暗闇の世界に囚われたみたいだと思った。


 時が経つのが早い気がするし、遅い気もする。時間感覚も、平衡感覚もない世界の中で俺は佇んでいた。また、不運に見舞われたのか? ……そうだ、思い出した。俺は、トラックと衝突したのだ。俺も不運には慣れっこだが、ここまでの不幸は久しぶりだった。それこそ、コンビニ強盗と鉢合わせした以来かもしれない。いつものことながら、嫌気が差す。


「はあ……」


 自然とため息がでる。ため息をつくと幸せが逃げるというが、ため息をつかずとも幸せは勝手に逃げていくのだから、変わんないじゃねーか。さすがに、こうも不運の連続だと、泣きたくなってくる。でも、いつからだろうか。不運も一つのアイデンティティだと、ポジティブに考えられるようになったのは。そう、たしか、あれは、保育園の年長次クラスのときの出来事だ。


 *


「はーい、じゃあ、遠足の班をつくりますよー、好きな人と二人組を作ってくださーい」


 先生の掛け声で、みんなが一斉に動き出す。よし、俺もパートナーを見つけるぞ。まずは、最近仲良くなった、たっちゃんに声をかけてみようかな。たっちゃんの顔をみると、明らかに嫌な顔をして、れん君へと駆け寄って行った。たっちゃんは、れん君と一緒の班になるみたいだ。と、じゃあ、ゆうき君と組もうかな。ゆうき君は、この年長次クラスのばら組の中でも一番仲がいい。きっと、ゆうき君も俺と一緒に組みたいと思ってくれるだろう。


「ゆうき君、一緒に組もう!!」


 ゆうき君はたっちゃんと同じように、顔をしかめる。


「えー、いやだよ。さとる君と組むと絶対に良くないことが起きるじゃん!! ゆり組のときの遠足でも、鳥のフンが降ってくるし、蜂に追いかけられるし、僕たちだけ迷子になるし!! 最悪だったもん!! 絶対にイヤだよッ!!」


「そ、そっか……」


 俺だって、イヤなのに! 好きで不幸を引き寄せているわけじゃないのに。グっと、こぶしを握りしめて、泣くのをガマンする。周りをみると、俺とは誰も目を合わせてくれなかった。みんな、俺を避けるようにして、二人組を作っていく。次第に数は少なくなっていき、限られた子だけが残っていった。それでも、俺だけは選ばれずに、とうとう最後の一人となってしまった。


「あら、さとる君、余っちゃったのね。どの班か入れてくれるひとー?」


「せんせい!! 絶対にイヤですッ!! さとる君と一緒だと、良くないことばかりおこるんです!!」

「そうだ、そうだー!!」

「うちの班も絶対にいやだー!!」


 友達だと思っていた子たちも、同調して俺を除け者にしようとしてくるのだ。いま思えば、子供は素直な生き物だ。当人たちは、そこまで、悪気がないのかもしれない。それでも、人生経験が少ない彼らから放たれる言葉は、配慮という二文字がない。ナイフのように鋭利に俺の心を抉ってきた。そして、気がついたら、俺は床をぽつぽつと涙で濡らす。自然と涙が流れたようだ。木製のフローリングで出来た床がまだら模様になる。そんなとき、一人だけ手を上げて、発言をした女の子がいた。


「えー? いいじゃんっ。思ってもいないようなことが起こるんだよ? 絶対に楽しくなるよっ?」


 思えば、初めてだった。俺の不運を認めてくれるのは。そして、遭遇するアクシデントを楽しいと言い切ってくれたのも、彼女・・が初めてだった。俺は、彼女の笑顔を今でも

 忘れない。本当に心の底から楽しみにしているような、そんな満面の笑顔だ。


「もし、良かったら、うちの班にこないっ?」


「うぅ、ありがとう、えなちゃん……」


「泣かなくてよいんだよ、よしよし」


 俺は恵菜に頭を撫でられる。俺だけでなく、みんなに優しい恵菜にとっては自然の行動だったはずだ。慰めようと撫でてくれただけなのに、俺の心は救われた気がした。


 実際に、遠足では不幸の連続だった。それでも、恵菜は全部笑い飛ばした。帰りのバスでは、俺の隣の席に座った恵菜が、話しかけた。


「さとるくん、楽しかったねっ!!」


 思えば、俺はこの瞬間に恵菜に恋をしたのかもしれない。もちろん、初恋だ。


 *


 どれだけ不運に見舞われても、恵菜を不幸にすることだけは出来ない。


 俺は死ぬわけにはいかない。このままだと、恵菜が自分を責めて、塞ぎ込んでしまうかもしれない。だから、俺は何としても生きなければならない。俺は暗闇の中に一筋の光の道があることに気づいた。最初からあったのかもしれないし、突然現れたのかもしれない。正直、よくわからんが、一つだけわかることがあった。この光の先には、恵菜がいるということ。


 俺は確信をもって、その光の道に沿って、歩みを進める。一歩、一歩、確かめるように歩き、安全であることが分かると、小走りで光へと向かった。恵菜に会いたい。会って、伝えなくてはいけないことがある。だから――。


 俺の身体は光へと包まれた。




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