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第34話 「ずんだ餅をご馳走してやるから、ついてこーい!」


 *


「うう、頭痛が痛い」


「それ、痛いが被っているからっ! でも、良かったよ、正気を取り戻してくれて」


 エトナがミネラルウォーターを渡しながら、介抱をしてくれている。聞いた話によると、【酒乱化】の効果が切れて、錯乱状態に陥り、味方をドラゴンゾンビと誤認して、攻撃していたらしい。俺はなんてお茶目なんだ。


「いや、まさか混乱状態に陥ると、あそこまで敵と味方の区別がつくなんて思わなかったぜ」


「それより、ユイちゃん、大丈夫かな。岩に頭をぶつけてから、あんな調子で……」


「なんで岩に頭なんかぶつけたんだ?」


「いや、クモキくんのせいだからっ!! クモキくんの矢を避けようとして、岩に頭をぶつけてダメージを負っていたよ」


「な、なんだってー!?」


 まあ、なんかその場面だけは記憶に残っていたが。本当に申し訳ないことをしてしまった。だいぶ、酔いも醒めてきたし、ユイユイに謝罪しに行こう。


「俺が様子を見てくる。エトナは他の冒険者の解毒を頼んでよいか?」


「うん、分かったっ!」


 エトナは俺から【解毒薬】を受け取って、冒険者たちに配りに行った。俺も、ユイユイの元へと向かう。


「大丈夫か、ユイユイ? 悪かったな。俺のせいでダメージを負わせたみたいで」


「大丈夫なのです。むしろ、そのおかげで失った記憶を取り戻しました。忘れている方が良かったのかもしれませんが……」


 記憶?? なんのことだ? 失った記憶を取り戻すとか、なんか厨二っぽいフレーズだな。ははーん。さては、先程のドラゴンゾンビを打倒した俺の言動に影響を受けたな。うんうん、大人の階段を登っている証拠だ。俺は暖かい眼差しをユイユイに向ける。


「かわいそうな子を憐れむように見ているような視線なのです!!」


「そんなことはないぞ、ユイユイが大人になったのを微笑ましく眺めていたんだ」


「気色悪いので、辞めてほしいのです!!」


「ひどいッ!!」


 俺がへこんでいると、ユイユイは俺の肩をトンと叩く。いや、励まそうとしてくれているのかもしれないが、お前の発言のせいで落ち込んでいるんだけどな。そんな俺のことなど、気にも留めずにユイユイは話し始めた。


「パパ、覚えていますか?」


「ん、なにをだ?」


「この世界は嘘で構築されているって話――」


「ああ」


 月花町タワーの麓でユイユイから打ち明けられた。あのあと、コンビニを走り回ったが、やはり人は見当たらなかった。ユイユイが話した内容は間違っていない。おそらく、俺はなにかの不運・・に巻き込まれている。その、なにかの不運の正体がなんなのかが、全く見当がついていないのだが。


「わっち、思い出したのです。たしかに、この世界は嘘で構築されていました。でも……それは、わっちが思っているよりも、ずっとずっと、優しい嘘でした」


 ユイユイは涙をぐっとこらえるような表情だ。なんだろう、嫌な予感がする。ユイユイに何かしらの不幸が襲っている。そんな予感が、俺の脳裏に浮かぶ。


「どういう、意味だ?」


 説明するのが難しいというように、「んー」と人差し指を口元に当てて考える。じっくりと考えた後に、ユイユイは口を開いた。


「パパ、今日の夜も現実世界で会えますか?」


 たしかに、この戦闘終了後のごちゃごちゃした中だとちゃんと話が聞けないしな。俺が「大丈夫だ」と答え前に、ユイユイは、にこりと微笑んだ。全てを諦めて、その上で、無理に取り繕ったようなそんな顔色で。


「これが最後かもしれないですし……」


 最後?? どういうことだ?


「何言っているんだ、あれだけご近所なんだ。いつでも会えるさ」


「……うん。そうです、そうなのです……」


 どうも歯切れが悪いな。やはり、大きなトラブルに巻き込まれたのかもしれない。俺も電柱に貼ってあった、お姉様の相手をするだけで高収入のアルバイトがあると見かけて、電凸したら、大変なことになったからなー。うんうん、わかるぜ。


 エトナがちょうど【解毒薬】を配り終わったみたいだ。俺らに駆け寄ってくる。ユイユイはそんなエトナの姿を見て、無理矢理、笑顔を作る。


「ユイちゃん大丈夫だった?」


「……はい、大丈夫です! ありがとうなのです。ママ」


「エトナ、わかってやれ。ユイユイはお年頃だ……」


「うん、絶対にクモキくんは勘違いしてるよっ」


「……なん、だと!?」


「ユイちゃん、もしかして……」


 エトナの問いかけに、ユイユイはきょとんとして、首を傾げる。その様子を見て、エトナは両手を前方に出して、全力でふりふりと振った。


「ううん、なんでもない。なにか気になることがあったら、言ってね?」


「ママ!!」


「うん?」


「大好きなのです!!」


「私もだよっ!! こんな可愛い娘ができて、お母さんは幸せです♪」


「てへへー」


 エトナはユイユイを抱きしめる。もちろん、エトナはぴちぴちの女子高生だから、本当の母親みたいだいうと、怒られるかもしれない。それでも、こうやって見ると、親子みたいだ。そのくらいユイユイはエトナを慕っている。それでも、トラブルの件を相談しないのは、エトナに心配をかけたくないのかもしれない。俺はその気持ちを汲み取ってやることにした。


 もちろん、今日の夜の相談内容次第で、自分の手に負えないと判断したら、エトナも巻き込むつもりだ。三人寄れば文殊の知恵だしな。


 そんな思考を妨げるかのように、【解毒薬】で状態回復し、元気になった冒険者たちの会話が耳に入ってきた。


「くそ、ここまでの被害がでるなんて……」


「奴の毒が散らばってやがる、こりゃあ、完全復旧まで時間がかかりそうだな」


生ける死竜(ドラゴンゾンビ)は、本来、人里まで降りてくるレイドボスではないはず……。なにかきっかけがあったのか?」


 ギクッ。この流れはマズい。とりあえずは話の流れは修正したほうがいいかもな。


「みんな、安心してくれ!! この運王ウンキング生ける死竜(ドラゴンゾンビ)を討伐した!! 俺がいる限り、エラルドの街は守り切ってみせるぜッ!!」


「「「うぉぉぉぉおおお!! ウンキング、ウンキング」」」


 あぶねー。なんとかなったな。こいつらがバカ、じゃなくて、単純で助かったわ。俺がエラルドの街に居たせいで、こんな惨状になったことは黙っておこう。


「あれ、わっち、なにか思い出せそうな気が?」


「私も……あのドラゴンゾンビさん、どこかで?」


「きっと、気のせいだ! ほら、それより、さっきの射的の件、俺の負けでいいぞ! ずんだ餅をご馳走してやるから、ついてこーい!」


「やったなのです!」


「ずんだ餅、ずんだ餅ー♪」


 ずんだ餅で、証拠隠滅できるなら安いもんだ!! 


 俺はドラゴンゾンビが出現したのが、自分の不始末であることを、墓場まで持っていくことにしたのだった。


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