第31話 「うぅ、もうお嫁に行けない……」
「クモキくん、危ないっ!!」
エトナは俺とユイユイを守るようにして、前方に飛び出す。エトナが俺らのダメージを肩代わりするようにして、一身にダメージを受けた。
「エ、エトナアアアアアアアア」
エトナが膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れる。クソッ!! 俺らの大事な仲間になんてことをッ!! 俺とユイユイは慌てて、エトナに駆け寄る。そして、俺の腕に抱き抱えた。
「だ、大丈夫か、エトナ!?」
「ク、クモキくんっ……、私のことは気にしないでっ」
「そんなこと言うなよッ!! 仲間だろッ!!」
「そうなのです、ママ!! 一緒にドラゴンゾンビを倒すのです!!」
「クモキくん、ユイちゃん……」
抱き抱えた大切な仲間であるエトナを見つめながら、俺とユイユイは吐き捨てるように言った。
「クッセッ!!」
「臭いのです!!」
明らかにエトナから臭ってやがる。キムチと納豆とチーズの発酵食品を混ぜ混ぜして、一ヶ月間放置したような強烈な匂いだ。やったことはさすがにないけども!! こういうところまで、律儀に五感を再現しなくて良いのにッ!!
「うぅ」
エトナは【毒のブレス】での攻撃よりも、俺らの言葉での精神攻撃の方がダメージを受けていそうだ。
「うぅ、もうお嫁に行けない……」
「まあ、臭いけど貰ってやるよ。うん、臭いけど」
「ひ、ひどいっ!!」
仮想ウインドウからパーティーのステータスを確認すると、エトナは毒状態に陥っていた。俺は、こんなこともあろうかと、こっそり道具屋で買っておいた【解毒薬】を収納から取り出す。俺の手元には水色の液体が入った瓶が顕現化した。そして、それをエトナに飲ませる。
いつもなら、口移しで飲ませてやろうかと冗談をかましたはずだが、流石にこんな強烈な臭いを放っているエトナとは一刻も早く距離をとりたかった。
《エトナの毒状態が回復した》
ちなみに、臭いは全く取れていない。
よし、距離を取ろう。エトナの上半身を抱き抱えていた支えとなる手を離した。もちろん、彼女は地面に激突する。
「いたっ!! うぅ、踏んだり蹴ったりだよ……」
「くッ、ドラゴンゾンビめ、なんてことを!?」
「いや、クモキくんのせいだよ」
俺は無視を決め込むことにした。それよりも、こんな臭いを纏うことになるなんて絶対に耐えられない。
奴に魔術攻撃以外の弱点があれば……。再度、【識別】のスキルで他に弱点がないかを確認する。そのとき、あるステータスが目に留まる。
《毒耐性 98%(-2%) 【狂戦士の腕輪】の効果で耐性DOWN》
俺は思考を巡らせる。考えろ、考えろ。そして一つの結論に達する。この絶望的な状況を打開する策を思いついた。
「くく……はは…………、はーはっはっは」
「パパ、どうしたのです?」
「奴を斃す。俺の全てを以て、お前を料理してやる」
「うわー、でたっ、厨二モード……」
うん。エトナが何か言っているが気にしないでおく。せっかく、興が乗ってきたんだ。楽しませてもらおうか。
まずは、下準備から始めようか。どんな料理も下ごしらえをして、初めて旨味を引き出すことが出来る。まあ、俺は料理なんてやったことないんだが。唯一やる料理はカップラーメンにお湯を入れるくらい。うん、立派な料理なのだ。
というわけで矢にある効果を付与してやる必要がある。
「【アイテム付与】:【解毒薬】」
【アイテム付与】で【解毒薬】の効果を矢に付与する。【解毒薬】の効果を付与したところで意味もないと思うかもしれないが、毒薬変じて薬となる、薬も過ぎれば毒になるというように、奴にとってはこの【解毒薬】は毒になるはずだ。実際に、エトナの毒はこの薬で解毒した。つまり、毒を分解する薬ということだ。この【解毒薬】を矢に塗ることでドラゴンゾンビにとっては、毒状態を負うことになるとみた。
ゲームでもドラゴンゾンビにフェニックスの尾を投じたら即死するなんて裏技もあるくらいだしな。回復する力が逆にダメージとして作用するはずだ。
だが、本来、奴には毒に耐性があり、【解毒薬】も効果がないはず。その耐性を下げる役割を果たしているのが、俺の左腕に付けている【狂戦士の腕輪】だ。このアクセサリによって、奴の毒耐性は2%低下している。
つまり、奴の毒耐性は98%であり、毒になる確率はたったの2%ということだ。だが、その状態異常に陥る確率は運が絡む。運が絡むのであれ、全ての確率は必然へと収束する。
俺はドラゴンゾンビを睨みつける。奴も感じとったはずだ。俺が何かを企んでいることに。
「すでに多くの冒険者の命は蒼炎の華へと昇華した。その罪、お前の身を以て償ってもらおう。――さあ、必然の運ゲーを興じようか――」




