第3話「迫ってくるのは圧倒的存在感を放つおっぱい!!」
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《牙狼と爆弾岩を討伐しました》
《体力が残りわずかです。回復することをオススメします》
メッセージウインドウにシステムメッセージが垂れ流れる。だが、俺はというと、正直それどころじゃない!
「コホコホッ!! ……おい、白うさぎ、初戦闘で、危うく死にそうになったんだが!?」
『……チュートリアルはこれでおしまいぴょん! 南下するとエラルドって街があるから、同盟でクエストを受注するといいぴょん! では、楽しい仮想世界ライフを!』
白うさぎはそう言い放つと、そそくさと退散。生い茂る森の奥深くへと消えていった。……あいつ、逃げたな!
そんな思考を巡らせていると、システムの効果音と共に仮想ウインドウにお知らせが告げられた。
パンパカパーン!!
《おめでとうございます! レベルが上がりました! LV1→3》
《振分ポイント10獲得。ステータスに分配して下さい》
何はともあれ。レベル上がったし良しとするか。今までの現実世界の不幸を考えれば、爆発に巻き込まれることなんて、日常茶飯事だし……。達観、ここに極まり。さて、そんなことより、ステ振りどうするかな。
▶︎体力35
力14
身の守り2
知力12
素早さ9
運の良さ−999
とりあえず、力に極振りしておくか。運の良さあげても効果薄そうだし、身の守りはどうせ紙装甲だし。
▶︎力14+10
《これでよろしいですか?》
《▶︎はい》 《いいえ》
はい、っと。……あまりパワーアップした実感はないな
《新しい才能を獲得しました》
おおおお、才能か。どれどれ……。
識別LV1……パッシブスキル。標的をロックオン時に敵のレベル、ステータス、弱点部位、弱点属性を把握できる。取得できる情報はプレイヤーと敵のレベル差に依存する。スキルレベルが上がるほどレベル差に依存しにくくなる。
び、びみょー。まあ、まだLV3だし、こんなものか……。俺の確定ステータスはこうなった。
プレイヤーネーム:クモキ
種族:人族
職業:弓兵
固有才能:
短を捨てて長を取る……ランクE 長時間、最も低いステータスをレベル分減少させ、最も高いステータスをレベル分増加させる。
称号:なし
LV3
体力35
力24
身の守り2
知力12
素早さ9
運の良さ−999
才能
識別LV1
俺はこのとき、ステ振りに気を取られ、感知していなかったのだ。迫ってくるアレに……。
たゆんたゆん。
幼少時から見慣れた顔。
肩にかかる程度の艶を帯びた黒髪。全てを包み込む大海のような藍色の瞳。そして、陸上部で鍛えた健康的な脚線美。癒し系の美少女だ。そんな美少女が俺の元へと走ってくる。
そして、何よりッ!! 乳が大きい。もう一度言う巨乳が大きい(語彙喪失)。そう、迫ってくるのは圧倒的存在感を放つおっぱい!!
その凶悪なOPPAIを持っている美少女に抱きしめられる。
え、ちょ。幼馴染とはいえ、さすがに男と女だ。子供のとき以来、抱きしめられたことなどない。お父さん、お母さん、僕は今日で大人になるかもしれません。俺は妄想だけではなく、ジュニアも膨らませる。
「良かった、本当に……、良かった……」
彼女の顔を覗くと、瞳には涙が浮かんでいた。いつもの元気爛漫な彼女らしくない。
「よぉ、恵菜。どうしたんだ?」
「うう、良かった、悟くんに会えて……」
この柔らかい巨乳の感触をずっと感じたままでいたい。そう思っていたのに、恵菜は涙を堪えながら、笑みを浮かべて俺から身体を離す。
彼女の全身をいまいちど眺めてみる。
いつもとは違い、学校指定の小豆色のジャージにハーフパンツという格好ではない。肩や腹や膝に鉄の装甲を身に纏っている。もちろん、巨乳は鎧に包まれていない。白Tシャツ。ここ、重要だ!!
「おぉ、なかなか鎧姿も似合っているな」
「……って、今明らかに私の顔を見てなかったよね、おっぱいを見てたよねっ!!」
「いや見てないぞ、言っちゃえば顔の一部だろ」
「ひ、ひどいっ!!」
「……それにしても、VRゲームの中でも顔立ちは同じなんだな?」
「悟君も全くもって現実世界と同じだねっ。悟君の顔みたら、ほっとしちゃったよ。キャラメイクはデフォルトのままにしたんだね?」
「まあな、俺のままが一番カッコ良いからな。恵菜もやっぱり自分の容姿が一番かわいいと思ったのか?」
「え、いや、何の話っ? 私はそんなに自信たっぷりになれないからっ!!」
「え!! またまたぁ。世界で一番お姫様♪だって、本当は思っているんだろう? 俺もビジュ強だからな。その気持ちはよく分かるぜ!!」
「そんなこと思ったことないよ!? 巻き込むのやめてぇ!?」
「え、まじか?」
「え、まじだよ」
「え、鯵か?」
「え、鯵だよ……、なんていうわけないよねっ!? 何で私が鯵の開きにされているの!?」
いや、さすがに鯵の開きなんて言っていないが。こんなぴちぴちJKを干物に例えるなんて失礼極まりないだろう。何言っているんだ、こいつは。
「その、『何言っているんだ、こいつは』って顔やめてー!!」
さすがにふざけすぎたか。そろそろ本題へと入ることにしよう。先ほどの憂いを帯びた表情はなにを示していたのか。確認してみることにしよう。
「恵菜」
俺が呼びかけると、恵菜は人差し指を立てながら、ちっちっちと右へ左へ。
「この世界では私は恵菜ではないんだなっ! ”エトナ”って呼んでほしい」
「エトナ?」
「そうそう、私のキャラ名だよっ。”恵”と”菜”で、”エトナ”」
「また、随分と安直だな」
「悟くん……、いや、クモキくんに言われたくないよっ!!」
そうだった、俺のキャラネーム、本名そのままだった。少しはプライバシーを考えろよ、過去の俺ッ!!
深い溜息を挟む。こうなっては仕方がない。あまり目立たないように、注意するしかないな。本名で悪行がバレるとか、現実世界で晒されて、住所が特定、挙句の果てには退学に追い込まれるかもしれない。ヒィ、こ、怖くなってきた。
目立たないように、目立たないように。トラブルに巻き込まれるのはごめんだ。そうやって意識しないようにしていたのに……。
どうしても目に入ってしまう。
遥かに続く若草の布団。その地平の彼方に、モクモクと立ち上がる砂埃。
「なぁ、エトナ。アレなんだと思う?」
砂埃の方向に指をさして、異常の発生を共有した。だが、エトナはあまり関心を示さない。無理もない反応だ。距離的にもまだ遠く、身の危険は感じない。普通ならば……。
だが、俺の直感が告げている。これは何かの前触れ。運がない俺はこういった危険察知能力で人生を乗り越えてきたのだ。
その紛うことなき能力が、早鐘を鳴らして、危険信号を伝えている。
「んーっ? まんじゅう? かなー? 美味しそうだねっ」
「まあ、確かに白くて丸いな……」
ドドドドドドドド。
やっぱり凄い勢いで近づいてくる。不穏な空気感だ。先ほどまで俺らを照りつけていた太陽もいつのまにか隠れて? ……いや、違う。
あの大群から逃げるように、一斉に飛行型のモンスターが飛び立ったのだ。魔物が影となり日差しが俺の元へと届かない。
あの大群は一体? 俺は再度、目を細めて土煙を確認してみる。
ドドドドドドドド。
「なんか饅頭に穴が開いているな。ん? 饅頭に身体が付いていて、走っている? ……って」
「骸骨じゃねーかッ!!」
「骸骨なんだよっ!!」