第29話 「行かない、俺は行かないぞッ!!」
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「エトナ、ユイユイ、射的をしようぜ!! 負けた奴はずんだ餅おごり、な?」
「おっ、ずんだ餅いいねっ!! ちょうど甘い物が欲しい気分だったよ!!」
「お、おごりなのです? なんて甘美な響きなのでしょう!! 絶対に負けられない戦いがここにあるのです!!」
エラルドの街、冒険者ギルドである“豊樹の枝木”。その一角にはゲームコーナーが存在する。卓球やビリヤードからはじまり、輪投げや金魚すくいなんてゲームまであるのだ。EternalSagaの運営が本筋のRPGだけじゃなく、冒険者同士が交流できるようにミニゲームを用意してくれているということだろう。
そして、今回はその中の射的のゲームでお菓子を巡る血みどろな戦いが始まろうとしていた。
「お前ら、言ったからな? 負けた奴はずんだ餅おごりだぞ。そして、ユイユイ、エトナの胃袋をなめない方がいいぞ。ずんだ餅なら軽く10個は平らげることが可能だ」
「じゅ、10個です? 一つ200ギル、それだけで2000ギルになります!! わっちたちの分も考えたら、約2500ギル。くっ、やはり負けるわけにはいかないですッ!!」
「ずんだ餅、ずんだ餅♪」
ヨシ、これで参加者は揃った。ふっ、残念だったな。俺が射的で負けるわけがないだろう。なぜならば。
「固有才能発動、【オーバーフロー】!!」
これで命中率に関わる運の良さはカンスト状態に早変わりだ。命中率が影響する射的で、負けるわけがないのだ。的と反対方向にコルク銃を撃っても、当たるはず。
「なっ!? クモキくん!? それはズルだよっ!!」
「そうです! そうです! 大人げないのです!!」
「勝負に、ズルも大人げないもあるかッ! 勝てば官軍なんだよッ!!」
俺たちが射的前で揉めていると、ドタドタという足音と共に、冒険者ギルドの入り口、両開きの扉が開かれた。
「た、大変だッ!! このエラルドの街に、生ける死竜が向かってくるぞ!!」
「な、なんだって!? あのSランクのレイドボスが!?」
冒険者たちの報告を受け、拳を握りしめながら、受付のお姉さんが立ち上がる。
『み、みなさん、手伝ってください!! 緊急クエストです!! Sランクのレイドボスともなると、難易度もSランクの依頼になります』
「よっしゃ、やってやろうじゃないか!!」
「俺らがこの街を守るんだ!!」
ギルド内に居た冒険者たちが一斉に立ち上がる。武器を携えて、道具の準備をし始めた。よし、これだけの冒険者がいれば、いくらSランクのレイドボスといえ、討伐も可能だろう。
「俺らは射的をやるぞ」
「「へっ?」」
俺の発言にエトナとユイユイが驚きの声を漏らす。
「さすがに、冒険者のみんなをお手伝いした方がいいんじゃないかなっ?」
「そうですよ! それに難易度Sランクの緊急クエストともなると、報酬もSランクでなのですよ!!」
いや、俺の不運レーダーがビンビン言っている。この件に関わるべきじゃないと。絶対に俺はやらないぞ。
「行かない、俺は行かないぞッ!!」
「クモキくん、覚悟してっ」
「ほら、行くのです!!」
俺の両脇をエトナとユイユイの腕で、がっちりと固められる。この状況じゃなかったら、両手に花でウェルカムなのだが、いまは俺を連行する警察官のようだ。
「あ、あそこにいるのは、もしかして!?」
「称号付きの運王じゃないか!?」
「お、俺らのピンチに駆けつけてくれたんだ」
いや、俺最初からここに居たんですが……。こうなっては仕方がない。称号付きがレイドボスから逃げ出したとなっては、せっかく貰った称号が没収されるかもしれない。いや、正直、運王なんて、クソださい称号は返却したいくらいだが。ここまで注目が集まってしまっては逃げるわけにはいかないか……。
「ウンキングッ!! ウンキングッ!!」
俺は指を弾いて、歓声を止める。途端にギルド内は静寂に包まれた。
「俺に、コッ(舌を弾く音)、任せておけッ!」
「「「うぉおおおおおおおお!!」」」
い、行きたくねー!! 両脇を固める女子陣から、冷ややかな目で見つめられながら、俺はエラルド街門へと足を運ぶのだった。




