第26話「パパ、いまから、現実世界で会えたりするのです??」
*
「パパ、いまから、現実世界で会えたりするのです??」
夜、漆黒の飛竜を討伐した後、エトナは「予定がある」と離脱をした。ユイユイとは引き続き、依頼を受けて楽しんでいたところ、唐突にお誘いを受けたのだ。
ふっ、俺ってやつは罪な男だ。小学生まで惚れさせてしまうとは。でも、さすがに小学生と付き合うのは、現実世界ではアウトだろう。それにユイユイはどちらかというと、娘として見てしまっている。ユイユイの恋心に、コッ(舌を打つ音)、応えるわけにはいかないんだッ!
「ごめんな、さすがに、恋人になるわけにはいかないんだ。ユイユイがもう少しお姉さんになってから、もう一度告白してくれ!」
「はは(乾いた笑い声)、パパと? ありえないのです」
「なん、だと!?」
どこか駄目だったんだ!? こんな完璧超人を前にして、ありえないだと? やはり、ライバルが多すぎて、諦めてしまったのかもしれない!! 俺は優しくユイユイに微笑みかける。そんなことで諦める必要なんてないぞというアピールだ。だが、ユイユイにはまったく伝わっていなそうだ。首を傾げ、何事もないように話を続ける。
「たしか、パパとママは月花町二丁目に住んでいるんですよね? ママから聞きました」
「おう、その通りだ。ユイユイの家も近いのか?」
「そうなのです。いまから現実世界で会いたいのです」
「わかったが、さすがにもう夜遅いし、控えた方がいいんじゃないか? 親御さんも心配するだろ?」
「そうなのです、そのことを確かめたいのです」
「は? どういうことだ?」
「本物のパパとママが、最近、ものすごーい優しくて、何しても許してくれるのです。前は、夜に外出たいというものなら、『危ないでしょ』と言われて、絶対に許してくれなったのです。でも、いまは『夜に外出てもいいよ、好きなことをしなさい』と言われるのです。もしかしたら、もう、わっちのことなんて、好きじゃなくなったのかもしれないのです」
「つまり、あえて心配をさせて、親御さんがユイユイのことを心配してくれるのかどうかを確かめたいということか?」
「はい、その通りです」
なるほど。ユイユイは心配をしてくれることが愛情であると考えているのだろう、親から受ける愛情が本物なのかを確かめたいということか。もしかしたら、そういうお年頃なのかもな。俺が小学生のときも、共働きの両親に俺のことを気にかけてほしくて、よく学校でやんちゃをしていた。学校に呼び出されると、親には迷惑をかけることにはなったが、自分のために行動をしてくれているという事実が嬉しかったっけ。
「なんとなく、事情は理解できたが、同級生の友達とかのほうが親御さんも安心するんじゃないか?」
俺は言ってしまえば、見ず知らずの男性だ。天も羨むほどのイケメンとはいえ、さすがに、女児と夜に密会は逮捕もありうる。近所の人に一緒に居るところを見られて、誤解されてもまずいし、な。
「同級生の友達……」
ユイユイは遠くを見つめる。顔色に影が見えた。
「ユイユイ、もしかして友達が……」
……これ以上は言うまい。きっと、小学校でボッチなのだろう。たしかに、少し大人っぽいしな。普通の小学生と遊んでも浮いてしまうのかもしれない。
「で、出来るのです! きっと、学校に行けたら、友達が百人出来るのです!!」
せめて、俺とエトナだけでも、ユイユイの友達でいてあげよう。うん、それがいい。
「わかった、わかったから」
つまり、頼れるのも俺しかいないと。うーん、どうしたものか。ただ、さすがに夜道を一人で歩かせるのは危ないよな……。
「住所と本名は言わなくてもいい、ただ、ユイユイの家の近くまで俺が迎えに行く、それでいいか?」
「パパ、ありがとうなのです!! じゃあ、夜8時に月花町のランドマークタワー前集合でいいですか?」
「ああ、わかった。もし、親御さんに少しでも止められたら、外に出るなよ?」
「はい! わかりました」
こうして、俺らは現実世界で会うことになった。




