第22話 「やっぱり、俺は”運″がなぁぁぁああい!!」
「ちょっ、クモキくんっ!? あの女の人、手錠を持っている!!」
「……え?」
ちょ、ちょっと待て。俺はこの世界でまだ何もやっていない。心当たりあるとすれば、酒を呑んだことと、通行人の女性達を持ち前の妖艶さで、情欲的に魅了しただけのはずだ。なので、俺じゃない。きっと別のクモキなのであろう。
「あー、クモキですか? 俺じゃなかったっす……」
クモキは俺じゃない。フェードアウト作戦。
『貴様がクモキかッ!?』
失敗した。
『我が名は、王直属の近衛騎士団、ユーストレン。クモキとやらを連行しろと我が王より命を受けて馳せ参じた。貴様を拘束の上、バルリレキア城へと連れて行く!!』
「ちょ、ちょっと待ってください!! 俺は何もやっていない。罪状も無いのに連行するなんて不義に類する行為じゃないか!?」
ユーストレンと語った女性は顎に手を当てて、考え込む。僅かばかり思考した後に、口を開いた。
『……ふむ、たしかに。我に道理はないのは理解した。連行理由を確認できていない我の落ち度もある。……ならば、本当に貴様が罪人ではなく、聖人君子のような人物か。貴様の同業である冒険者に問おうじゃないか?』
「ふっ、言ったな! 一度発した言葉だ。約束は遵守して貰うぞ! さあ、みんな、俺の身の潔白を証明してくれ!!」
シーーン。
辺りを静寂が支配する。
この騒ぎを傾聴していた冒険者の女性がおそるおそる手を上げた。ふっ、女性ならポジティブな印象しか出ないはず。この勝負貰ったな!
「わたし、見たわ。確かそこのエトナを羽交い締めにしてた。女子高生の残り香がどうとか、言っていたわ!!」
ウォォォォイッッ!!!! そこだけ切り取るな!! たしかに事実だが、むしろ静止した側だ!!
「そのユイユイに対しても、パパと呼ぶことを強制させたり、パパ活をしていたわ!!」
ウォォォォォォイッッッッ!!! ライセンスカードを発行するためだ! 決して、自分の趣味じゃないぞ(たぶん)。
一気に周囲の人間の目が冷酷に変化していく。鋭い視線が胸に刺さり、ざわざわと呟かれる噂話で耳が痛い。
誰か助けてくれ!! 救いを求めて、パーティーへと目を向けるが、大勢の前で過去の出来事を暴露されて、もじもじと小恥ずかしそうにしてやがる。この陰キャどもめ!! まずは、俺のピンチを助けて欲しいのだがッ!! そうだ。まだ、奴がいた!!
「ち、違うんだ!! いや、一部事実だけども、事情があるんだ。な、メギツネッ」
俺は狐っ娘へと目をやる。
すると、「えーっ、女子を女狐呼ばわりするなんて非道……」と、ぐるりと囲む外野から非難轟々《ひなんごうごう》だ。
そういうキャラ名なんだよッ!!
「メ、メギツネ様、お前を助けてやったよな! な!! 俺がいかに素晴らしい人間か。俺の魅力の伝道師になってくれ!」
狐っ娘は俺にとって劣勢な状況を察してくれたのだろう。親指を立てた上で、アイコンタクト。さらに、ちょこちょこと近づいてきて、耳元で嬉しい言葉を囁く。
「……大丈夫です、私に任せてください。先のご恩、ここでお返します!!」
た、助かった……。やはり持つべきものは苦楽を共にした仲間だ。これで俺の汚名が晴れる……。
「……みなさん、聞いてください!!」
いいぞ。散開していた視線が狐っ娘に集まった。
「このクモキさんという方とは出会って間もないです!」
うんうん。
「ですが、出会った時の事は強烈だったので、よく覚えています! コボルトを勇敢に殲滅し……」
うんうん。
「『助けてやった報酬におっぱいを見たい!』と言い放ったのです!」
え?
『ふん、やはり我の思惑通り、下衆ではないか。罪状は婦女暴行でよい。連れて行け!!』
『『『ハッ!!』』』
ユーストレンに手錠を嵌められた。手首に縛り付けられる鉄の感触がひんやりと冷たい。また、衛兵に両脇をがっちりと固められ、腕を組まれる。その上で大の男二人が俺を強制的に連行。爪先が木目に沿って引きずられていく。
「……ですが、安心して下さい。最初だけでした! 思ったより害は少なかったのです!」
狐っ娘は感情的になり、目を瞑りながら演説。この状況を全く把握していない。うん、ちょっとは周りの様子も確認しようか。
あと、パーティーのみんなもいつまで恥ずかしがっているんだ。
もう既に手遅れだ。故に、一言だけ叫ばせてほしい。
「やっぱり、俺は”運″がなぁぁぁああい!!」
俺は筋肉ムキムキの衛兵に引っ張られながら、豊樹の枝木を後にしたのだった。
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