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第21話『クエストの報酬は出ませんよ?』


 *


『クエストの報酬は出ませんよ?』


「「「え!?」」」


 豊樹の枝木で受付のお姉さんから衝撃の一言が投じられる。あれだけ苦労してあの巨大なコボルトを倒したのに、クエストの報酬が出ないと? よろしい、ならば戦争だ。


「ちょ……ちょっと、待ってくださいよ。俺達は、命懸けで蛮族の狂戦士(コボルトバーサーカー)を倒したんですよ!?」


『はい、おめでとうございます! 裏ボスですね! まさか、駆け出しの皆さんが倒すとは思いませんでした。みなさんの勇敢な行動に、非常に感銘を受けています』


「だ、……だったら、報酬を!!」


『……皆さん、クエストの内容を覚えていますか?』


 「……あっ!?」とエトナは短く叫ぶ。エトナは先程までお菓子を心待ちにして、瞳が輝いた。しかし、次第に小刻みに震えだし、耳を塞いだ。どんどん、どんどん腰を曲げて、最終的には膝を抱えて縮こまった。


 一体、何に気づいたんだ? 再度、俺は考えてみる。クエストの内容? 決まっている。裏ボスである蛮族の狂戦士(コボルトバーサーカー)とかいう怪物を……。


 そこで、俺は気づいた。気づいてしまった! あ、これ、報酬貰えないやつだ。俺は一気に黄昏(たそがれ)る。


「パパッ、ママッ、どうしたのです!? ここはお金の為に闘う必要があるのですよ!」


 ユイユイは全く気づいていないようだ。仕方がない。現実を見せてやるしかないだろう。


「ユイユイ、思い出してみろ。俺らの受領したクエスト内容を……」


「あの『おっきい奴を倒す』なのです!」


「いや、違う。只のコボルト退治だ」


「なーんだ、コボルトなら、いっぱい倒したのです!! だから、お金を……」


「いや……」


 ここで、俺が話を続けるよりも早く、受付のお姉さんが遮った。太陽が(きら)めくような眩いほどの満面の笑みで。


『数が足りませんね!』

「うぅ……」


 流石にユイユイも気付いたようだ。俺らが殲滅したコボルトは十体。だが、クエスト内容は二十体の討伐である。あと半分、数が足りない……。


「な、なんで……、どうして……こんなことになったのですか!!」

「俺が倒したんだ。報酬が入るに決まってる。嘘だ、こんなの嘘だ……」

「あはは、かしわ餅がいいかな、みたらし団子にしようかなっ、あはは」


「……あれ、良かった皆さん、ご無事だったんですね? ってあれ? おーい、もしもし!」


 あまりの衝撃だからだろうか。丁重に弔ったはずの狐っ娘の声が聞こえる気がする。きっと、空耳であろう。彼女は死んだんだ。


「私、帰ってきましたよー。デスペナ終わりましたよー」


 室内に悲鳴や絶叫が交錯し地獄絵図だ。そこに、やはり狐っ娘の、か細い声が混ざっている気がする。


 俺らはそれどころではない。金が掛かっているんだ。幻影の相手をしている場合ではないのだ。取り敢えず幻聴は無視しよう。


「もしもーし、皆さーん、聞こえますかー?」


「……」


「もしもーし、皆さんってば!!」


「うるせぇぇええ!!」


「ひ、ひどいです!! 何があったかは分かりませんが、次がありますよ! 次が!」


「気休めなんかいらんッ!!」


「ひ、ひどいです!!」


 仕方がない。そろそろ相手をしてやるか。俺は狐っ娘の芸術的な二つの膨らみへと視線を向ける。


「よぉ、良かった、無事に帰ってくることが出来たんだな!」


「……、なんか目線が合っていない気がするんですが……」


「顔の一部を捉えているから大丈夫だ、安心しろ」


「草団子、ずんだ餅……って、それっ、おっぱいのことだよねっ!!」


 すかさずエトナが正気に戻りながらツッコむ。新しい。これこそ現実に戻りツッコミだ。


「っと、それはさておき。……良かったよっ。メギツネさん、無事帰ってこれたんだねっ!!」


「はい、ご迷惑をおかけしました……」


「悪かったな。助けてやれなくて……」


「いえ、私が早々に戦意喪失してしまったのが原因ですので。私のパーティーメンバーにも会えたので大丈夫です! 皆さん、本当にありがとうございました!!」


「お、おかね……」


 ユイユイはお金のことで頭がいっぱいになっているのだろう。メギツネのことが見えていないようだ。


「また、一緒に冒険をしてくれますか?」


「ああ、もちろんだッ!」

「うんっ、当然だよっ」

「おかね……」


「良かった、それでは皆さん、またどこかでお会いしましょう!!」


 狐っ娘が唯一の出入り口を出て行こうとした、まさにそのとき、ドタドタと甲冑を被った衛兵が数名侵入してくる。冒険者ギルド、豊樹の枝木は物々しい雰囲気に包まれた。


『……クモキッ、クモキという冒険者は居るかッ!!』


 甲高い女性の怒声が同盟ギルド内に響く。俺の瞳に映ったのは、甲冑の衛兵を掻き分けて前進して来たお姉さんだ。


 高い紅色のヒールに黒いタイツ。胸元から覗く白い柔肌が際立つ。漆黒の髪と涙ボクロが特徴的な美人の女性だ。いや、あと一つ。おっぱいだ。


 おっぱいがエトナ並みに大きい。まだ、この世界にエトナと争える核兵器(おっぱい)を所有している奴がいるとは!? これは応じない訳にはいかない。


「はいッ、俺です!!」


 俺は指先までピシッと手を伸ばして、位置を伝えた。


 ふっ、また俺が女性を(たぶらか)してしまったか……。毎日のように女性から告白をされる俺だが、こんな熱烈な告白は流石に初めてだ。さて、断り文句を考えておかないとな。「俺は一人に縛られない。俺はみんなのクモキだろう?」ヨシ、これにしよう。


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