第18話「お前の敗因はただ一つ。博打を打つ相手を誤ったことだ」
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二つの賽は静止した。
出目は6と6。ロクゾロの丁。
《次のダメージが36倍になります》
「さて、次のゲームだ。ダイスロォォルッ!!」
またしても、二つの賽が小石に当たり転がり回る。蛮族の狂戦士は俺の行動を阻止しようと大斧を振り回した。だが、斬撃は空を斬る。無駄だ。全ての物理攻撃は俺の前では無力。
賽は静止する。
出目? そんなもの、確認するまでもない。
《次のダメージが36倍になります》
「これで1,296ダメージ。次。ダイスロォォルッ!!」
くるくる、くるくる。
『糞がッ!!』
奴にも焦りが見え始めた。無理もないだろう。ダメージが指数的に増えていくのだ。そこから来る不安を拭える筈もない。
だが、奴は逆に大きく深呼吸。それを機に、憤りではなく、落ち着きを覗かせる。そして、口から漏れ出す白い煙と共に詠唱を開始する。
『爆ぜろッ! 我が覇道を阻む者を何人たりとも許容しないッ!! 塵一片たり……』
そのパターンで来ることはお見通しだッ!!
「愚者めッ! 俺の絶対回避が物理攻撃だけだと思ったか? 無論、魔術もだ。いかなる攻撃も回避可能なんだよッ!!」
「っ、クモキくんっ!!」
不安そうな面持ちで俺の名を呼ぶエトナ。心配してくれているのだろう。もしかしたら、勘の良い彼女の事だから気づいているのかもしれない。これがブラフだと。
【身躱しマント】の能力はあくまで物理攻撃に特化したもの。つまり、魔術の回避など不可能。奴が魔術名を語った瞬間、俺らの全滅は確定する。
だが、既に引き返せない。そう、賽は投げられたのだから。
ギャンブルなんだ。賭けるに決まっているだろう? 自分の命も。
『糞、クソガァァァァァァアアア!!』
勝運を辿り寄せられるのは諦めない者のみ。奴は勝負から降りたんだ。賽は運命を告げる。
《次のダメージが36倍になります》
「これで46,656ダメージだ。次で十万を遥かに超える。つまり、次の賽は死の宣告を意味する。……生にしがみつかなくて大丈夫か?」
『……、死? シ、死にタクナイ、死にタクナイッ!!』
奴は踵を返して、一心不乱に逃亡した。足に小枝が引っかかり、顔に枝木が衝突し、それでも自己の命を守るために、逃げ出した。
巨人の足が地に着くたびに、爆発音のよつな足音が、静謐な森林に響き渡る。小鳥も一斉に空へと舞い上がり、危機から逃げていた。
俺は既に最期の賽は投じている。つまり。
《次のダメージが36倍になります》
「1,679,616ダメージ。遂に百万を超えたな。……さて、」
俺は矢を弦に番え、引いた。だが既に狙いの奴は遥か彼方へと逃げていた。カーソルには既に射程外の表記。この距離では矢を当てることが叶わない。そう、普通であれば。
「俺が放った矢は必中。距離など関係ない。いかなる軌道を描く矢も、等しく標的へと収束する。運命に導かれるようにッ!! ──さあ、再び、必然の運ゲーと興じようか────」
俺は静止していた手を離した。自らの手で刻を動かしたのだ。
ギュウウン。
矢が放物線上に飛んで行く。だが、その落下位置に奴は居ない。
「こ、このままじゃ当たらないのです!!」
「……いや、狙い通りだ」
矢はぐんぐんと進む。木々の合間を掻い潜り、空へと抜けると、突如として軌道が変わった。
「ほ、ほかの矢と衝突したのです!? まさか最初から二本の矢を放っておいたのですか!?」
「フッ……」
軌道変更を余儀なくされた矢は、落下位置が全く異なる場所へ。その矢の放物線上に奴は居た。緑色の巨体を震わしながら、足を必死に回転させている。ここまで来れば安全圏だ。そう、判断を誤ったのだろう。
奴はゆっくりと頭をこちらへと振り返った。矢が迫ってきているとも知らずに。
『なん、ダトォォォオオオ!!』
眉間に矢が貫いた。クリティカルダメージ。それでも、僅か1のダメージのはずだった。それのはずだったのに。ツケが膨れ上がり、莫大なダメージを計上した。
《クリティカルダメージ。1,679,616ダメージを与えた》
『お、おのれェェェエエエエェェェエエエエ』
絶叫は確かに俺の鼓膜を震わせた。
「お前の敗因はただ一つ。博打を打つ相手を誤ったことだ」
奴の巨体は幻のように消滅していく。気付いたときには既にこの世界には存在しなかった。
《Congratulations!! 森林の覇者 蛮族の狂戦士を討伐した!!》




