第17話「さあ、必然の運ゲーを興じようか」
「……赦さないと言ったんだッ!! 俺の総てを賭して、オマエを屠る」
興が乗ってきたぞッ! 中二のときの感覚を思い出してきた。
『フフ……フフハハハ、威勢が良いノハ勝手ダガ、貴様ごときニ何が出来ル!?』
「あまり俺を舐めるなよ?」
「パパ……」
「……クモキ、くん…………」
再度弓を引き、矢を放つ。
《クリティカルダメージ》
《クリティカルダメージ》
《クリティカルダメージ》
全てでクリティカル。だが、与えたダメージは僅かだ。全てが1ダメージ。徒労に終わる。だが、得られた情報も大きい。試行回数は少ないが、1ダメージは確実に与えられそうだ、ということがわかった。
『フハハ、ソレガどうした!? こんなモノ、ダメージのウチにも入らんワ!!』
「こんな事で倒せるなんて思ってない。俺はただ試行を増やして検証しただけだ。必ずダメージを与えられるということをなッ!!」
『ナンダと?』
何かを感じ取ったのだろうか。俺へと斧による連撃を繰り出した。だが、無駄だ。【身躱しマント】──如何なる斬撃も俺は自動で回避する。
ひらり、ひらりと。まるで未来を視ているかのように。
『な、ナンデ当たらないッ!!』
「ふっ、簡単な事だ。偶然による運任せも、俺の前では必然へと収束する。確率による回避ではない。絶対回避だ」
『な、何を言ってヤガル!?』
初めて見る生物に対する恐怖。それは、奴の双眸に、色濃く現れる。
「こっちの手番だ。──さあ、必然の運ゲーを興じようか────、収納」
俺が所持しているアイテム。そのうち、あれ《・・》を選択した。俺は狐っ娘の説明を思い出す。それは【身躱しマント】を狐っ娘に【鑑定】してもらった時まで遡る。
*
「この【運命のダイス】ってアイテムは、レアリティはどのくらいなんだ?」
「あ、それですね……、それはあまりに有名ですから、【鑑定】するまでもありません」
ん? 有名とはどういうことだろうか?
「あまりに、『使えない』で有名なんです。それは、レアリティB。かなりのレアアイテムで入手が困難なくせに、効果がランダム値の能力上昇なんです。二つのサイコロが投じられ、偶数ならその出目の数だけ次のダメージが積算されます。しかし、仮に奇数が出た場合にその出目の数だけ除算されてしまうのです……。しかも、確率的には奇数の方が出やすいイカサマサイコロみたいで。多くの冒険者が最後にこのサイコロに望みを乗せて、そして儚く砕け散っています」
「なるほどな……、つまり、最強のアイテムということか」
「ん?? 一体どこをどう聞いたらそうなるんですか?」
「だって、そうだろう? 運が良ければ、無限のダメージを与えられるんだから──」
*
「──さあ、必然の運ゲーを興じようか────、収納」
「【運命のダイス】ッ!!」
俺の手中にサイコロが握られる。手を開くと、赤と黒の二つの賽だ。【運命のダイス】の効果は言ってしまえばギャンブルで言うところの丁半だ。丁半は賽の出目から偶数《丁》か奇数《半》かを賭けることになる。偶数の場合はダメージの倍率が積として掛け合わされ、奇数の場合は、除算されることでダメージが極端に減少してしまう。
さらに、出る目は完全にランダム。最大数は6×6=36倍の倍率で積算されることになる。それだけ聞くと期待値的には悪くない。だが、奇数の方が出やすく、最大で5×5=25、つまり、1/25のダメージ量になってしまうのだ。分が悪く誰もやらない、運が絡むギャンブル。だが……。
「既に賽は投げられた。故に問おう。お前は、勝運を引き寄せられるか? この、俺から──」
『テメエ……』
くるくる、くるくる、と。
二個の賽が転がる。
回る。回る。
次第に回転は緩やかに。
二つの賽は静止した。




