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第16話「俺の総てを賭して、オマエを屠る」


「きゃあぁっ!! クモキくん、後ろっ!!」


 俺は慌てて振り向く。


 俺の数倍の身長に、大木と錯覚するほどの上腕筋。獰猛(どうもう)な牙に、鋭い眼光。コボルトなのか? いや、それにしてはコボルトの四〜五倍ほどの巨体だが。


 俺は言葉が出ず、地に尻餅をつく。


 だが、コイツはそんな羽虫程度の弱者である俺にも躊躇なく、巨大な斧を振りかざした。


 迫り来る死。ここが仮想世界であっても、関係ない。死とは生きているものが等しく感じる恐怖。そう、刷り込まれているのだ。


 恐怖からの逃避──それは生物の根幹をなす行動である。俺も例外ではない。そういったこの場から逃げだしたいという思いが回避という行動になって、【身躱しマント】が応える。


 小学校の体育の授業でやったマット運動の時間で、俺は華麗な後ろ回りを決めたことがある。俺は、自分の意思など関係なく、ソレをやっていた。


 俺は立ち上がると、俺の身体と紙一重の位置に斧が地面を抉っていた。この回避行動がコンマ数秒遅かったら、俺は間違いなく生き長らえてなかった。


「あっっぶねぇえええ!!」


『フフ、フハハハ。まさか二度も我が制裁を躱すとは思わナンダ!! フハハハハッ!!』


「え!? コイツ、魔物(モンスター)のくせに喋ってるぞ!?」


『フッ、ソコラ辺の雑魚共と一緒にされてはコマルナ。我はコボルトを統べるモノ。蛮族の狂戦士(コボルトバーサーカー)様ダ。絶対にシテ、唯一の存在でアル!!」


「コボルトなのです!! わっちが駆逐してやる!!」

「もう、それ、さっきやったからっ!! それに、ふざけている場合じゃないからっ!!」


 ユイユイとエトナの声だけが背後から聞こえる。俺はコイツから目を離す訳にはいかない。一番距離が近くて、餌になりそうなのが俺なんだ。


『フハハ、威勢が良いナ!! さっきの殺した冒険者達とは大違いダ!』


「さっきの……って、まさか!?」


 俺の視界にギリギリ映る狐っ娘。彼女がハッとした顔色を浮かべた。何かに勘付いたようだ。そして、みるみるうちに絶望色に染まっていく。


『何か叫んでいヤガッタな……。タシカ、キツネが助けに来てクレルだったカ? 助けに来タトコロデ、我の相手になどなランというノニ』


「あ……、あ………」


 狐っ娘はぺたりと膝から崩れ落ちる。戦意は既に喪失していた。


 マズイッ!!


 俺は即座に弓を構える。俺の行動に呼応するかのように、エトナとユイユイも動きだす。彼女を助けたい。その想いが重なり、一斉に行動を開始した。


 ユイユイは、詠唱を。

「貫けッ! 氷塊の(つぶて)よ……」


 エトナは、狐っ娘の前へ。

鉄壁アイアンシールドっ!!」


 だが。


 ブオォォォン。


 一歩。たった一歩で狐っ娘との間合いを詰め、斧が振るわれたのだ。


「きゃあぁぁぁぁっ!!」


 狐っ娘を守っていたエトナに斧が振り下ろされる。これだけの防御をしても、軽々しくエトナの身体は吹き飛ばされ、大木へと激突した。


「エトナ、大丈夫か!?」


「うぅっ、だ、大丈夫。だけど、体力があと一桁しかないっ!!」


「クソッ! 一回下がれ!」


「で、でもっ」


「俺がヤル」


 俺は矢を放った。奴の丸太のような太腿へと突き刺さる。


 《クリティカルダメージ》


 ヨシ!! 流石は運の良さMAXだ。これで少しは、体力を減らしただろう。念のため、減り具合を確認しておくか!


「【識別ジャッジ】!!」


 敵の情報を探ることができる弓兵アーチャーのスキル。仮想ウインドウに敵のステータスが表示される。


 しかし、詳細のステータスは《???》と表記されて確認出来ない。【知力】や【運の良さ】は《??》と二桁で表示されている。


 なるほど、ボスだからだろうか。もしくはスキルのレベルが不足しているから、かもしれない。桁は判別可能だが、詳細の数値までは不明ということか。


 だが、目的のステータス体力については、しっかりと数値で表示されている。それで減り具合を……って。


「はぁ!? バグってんのか!? 体力10万ってなんだよ!!」


 しかも、さっきの攻撃、体力1しか減ってねーじゃんか!


退()くのです、パパッ!! 氷塊の槍(フロストニードル)!!」


 氷柱のような氷の槍が数多出現。巨大なコボルトへと突き刺さる。


 ユイユイの詠唱か! これなら……、ッ! ダメだ。5しか減ってねーぞッ!!


 氷柱は一瞬で蒸発した。巨体にかすり傷一つ、ついていない。


『フハハハ、蚊も騒ぐと(うるさ)いナ。まずは、キツネとやら。貴様カラだ。仲間の元ヘト送ってヤル』


「キツネじゃないッ!!」


「え!?」


 俺の言葉に狐っ娘が目を見開く。大丈夫だ、俺は間違えたりしないぜ!


「メギツネだッ!!」


 あれ、なんか狐っ娘の顔に感情がないぞ。ちゃんと名前を訂正しただけなのに。あ、「キツネじゃない仲間だ!」みたいな格好良いセリフを期待したのかな。


 ……。


 …………。


 なんだろう。何故か戦闘中なのに訪れる静寂。うん、求められているなら仕方がない。俺が封印していた中二時代の黒歴史を解き放ち、格好良いセリフを語っていくことにしよう。


 ブオォォォン。


「メギツネぇぇぇぇええええ!!」


 とりあえず、格好よく仲間の死を叫んでみたが、よく考えるとすごい名前だな。なんだ、メギツネって。


 《体力が0になりました、あと5分で強制離脱します》


 メギツネがいた場所に青い炎が咲き誇る。


 それは彼女の死を意味していた。俺の中で何かが弾ける。この感覚はなんだろうか。ただのゲーム。それでも死を許容できないのが、人の本能だ。うん、こんな感じ、こんな感じ! 中二のときを思い出してきたぜ!!


『フハハ、あとはキサマらダ!! フハハハハ!!』


「…………赦さ、ない……」


『ハ?』


「……赦さないと言ったんだッ!! 俺の総てを賭して、オマエを(ほふ)る」


 興が乗ってきたぞッ! 中二のときの感覚を思い出してきた。



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