第14話「おぱーいを見せて下さーい!」
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アーゼスト森林。そこは夜かと思うほどの常闇で。静寂が辺りを包んでいた。
注意深く進まないと、俺らも無事に帰ることが出来ないかもしれない。見通しも悪く、魔物が出現しても気づかない恐れもある。ゴクリ。気を付けないとな。
「暗くて先が見えないのです…」
「ユイちゃん、気を付けてね」
「……いたっ、コケました」
「うわー、大変だっ!? ケガはない!?」
「ママ―、おべべが汚れたー」
「帰ったら、洗濯しましょうねー」
……コホン。そう、俺たちは今まさに、魔物の巣窟に足を踏み入れたのだ。
「わぁ! 可愛い花があったんだよ!!」
「ユイちゃん!! 近づいちゃダメっ。ダメって言っているでしょっ!!」
「いやあああああああ」
「クモキくんっ!! 大変、花が急に大きくなって、ユイちゃんが食べられちゃう!! え、来ないで、こっちに来ないでぇぇぇええ」
「「うわぁぁぁあああ!!」」
コイツら……うるせえ!!
全く緊張感が無い。賑やかなのは嫌いじゃないが、ワクワクする冒険気分を味わいたかったのに、台無しだ!!
俺たちがどうでもいい会話(ユイユイは結構致命傷だが)をしていると、突如として、闇を切り裂くほどの叫び声がッ!! なんてな。まさか、そんなこと……。
「きゃあああああッ!?」
女性の叫び声!? フラグ建てといて良かったぜ!! こうでもしないと、敵と遭遇できないかもしれないしな!! 俺は周りの様子を伺う。エトナとユイユイは食人植物の口から抜け出したばかり。もちろん、二人の声じゃない。森の奥からだ。
ふっ、俺の使命はあらゆる女性を助けること。ここは、超絶イケメンの俺の出番だッ!!
「みんな、助けに行くぞッ!」
「えーっ、タダで? わっちに助けを求めるなら、お金を積んでもらわないとなのです!」
「ユイちゃん、お尻に先程の食人植物の花が付きっぱなしだよっ!」
「意識したら、急にお尻が痛い気がするのです!!」
うん、こいつらは当てにならん。
俺は仕方なく一人で駆け出した。すると、ユイユイが渋々、本当に渋々と言った表情で、後ろからついてきてくれた。さらに、その後ろからエトナがユイユイのお尻に噛み付くお花を取り除こうとしている。
結果的に古き良きRPGのように、勇者を先頭にした縦一列で、パーティーとして行動することになった。が、一言、申したい。最初から文句を言わずについて来いよ……。
悲鳴が上がった方へ向かうと、可愛らしい女性が倒れていた。そして、彼女を取り囲むようにコボルトが。一、二……全部で十体か。
「ギギギ」
人には理解できない言語で俺たちを威圧していた。そして、この光景を待っていましたと言わんばかりにユイユイが口を開く。
「コボルトめ!! 駆逐してやるッ!! 一匹残らずッ!!!」
やだ、どうしちゃったの。うちの子、怖い。コボルトに親でも食べられたのかしら。
「ふう、言ってみたかった台詞を言えたのですよ! 一生のうちに声に出したい言葉をまとめたメモ帳から、取り消し線をしないと、ですね」
そんな過激な言葉が、メモ帳に!? お父さん、この子の成長が心配です……。はっ!? いかんいかん。ひとまずは、目の前に倒れているおっぱいじゃなくて、女性を助けなくては!
エトナは倒れている女性の間へと陣取り、彼女への攻撃を防ぐ位置どりをしている。タンク役である騎士として、盾を構える。
ユイユイはというと、木の杖をコボルトへと向ける。
「貫けッ! 氷塊の礫よ。我が名に於いて、結晶の投槍器を……」
ユイユイはもしかしたら中二病を発症したのかしら。やっぱり、お父さん、心配です。
「創造し給え!」
それが詠唱だと気づいたのは、ユイユイの周囲に氷の塊が浮かんだからだ。よかった、厨二病を発症したのかと思ったぜ!
氷塊の槍が合計で5つほど宙へと舞う。尖頭はどんな刃物よりも鋭利だ。これで貫かれたら最期。命の保証はないだろう。
「氷塊の槍!!」
氷塊の槍は無情に標的へと襲いかかった。
「GYAAAAAA!!」
コボルトの絶叫が飛び交う。半数は倒れ、敵の数も片手一本分になった。だが、コボルトはそんなに甘くない。味方の死など省みず、一斉に女性へと襲いかかったのだ。
地を駆け、飛び掛かるコボルト。だが、その急襲をエトナが大骨の盾で防ぐ。
さすが、エトナだ。
ヨシ、俺の出番だな!!
俺は奴等に的を絞る。矢を番い、弦を思いっきり引いた。
木々が陽の光を遮り、辺りは暗い。だが、俺には【夜目】のスキルがある。敵の位置は正確に把握できている。本来、夜であれば射程距離が短くなるらしいが、【夜目】のスキルのお陰でそのような心配をする必要はない。
よって、奴らの眉間を目掛けて放った矢は、もちろん。
コボルトにかすりもせず、大木へと突き刺さった。パスッという乾いた音とともに。
「……」
ヤベッ!! 今、固有才能を使用していないんだった!!
「クモキくん、何しているの!?」
「パパ……?」
う。エトナとユイユイの視線が痛い。
「仕方ねーだろ! 今、運の良さステが最低の状態なんだよ!! 固有才能を発動させるからちょっと待ってくれ!」
「クモキくんは通常運転だね……」
「固有才能発動、【オーバーフロー】!!」
これで俺の運ステはカンスト状態になった。命中率は運ステに依存している。従って、外れるなんて事はあり得ないッ!
俺は矢を放った。
「ウギャアアアアア!!」
寸分違わず額へと貫通。コボルトの断末魔が辺りへと響き渡る。
「ウギギッ!!」
戦況が不利と判断した数体のコボルトが、散り散りに森へと消えていく。逃すものか。
俺は三度矢を放った。だが、今回は先程とは違う。試したのだ。魔物の身体を狙わなかったのならどうなるかと。どう考えても、的中しそうにない方角を狙って。だが、放った矢は木へと衝突。矢は撓り、あり得ない軌道を描いて、逃げ惑うコボルトたちの後頭部への直撃した。
「ウギャアアアアア!!」
結果、全てのコボルトを殲滅した。
なるほど、試して正解だったな。俺のステについて、一つ分かったことがある。やはり運の良さカンストの状態だと敵にカーソルがあっていようがいまいが、最も近い敵へ当たるということだ。これは使えるかも知れん!
コボルトを無事に倒したものの、流石にレベルは上がらないようだ。
俺はコボルトに襲われていた見目麗しい女性へと視線を向ける。彼女には、狐のような耳と尾がそれぞれ頭と尻についていた。獣族を選択したのだろう。こうやってみると、コスプレイヤーみたいだ。
「皆様、本当にありがとうございます。この御礼、一体、なんと申し上げれば良いか……」
「フッ、当然のことをしただけですよ」
俺は斜め45度からの得意のキメ顔。これで落ちない女は居ない。いや、あの受付のばば……コホン、お姉さんくらいだ。
ほら、見ろ。彼女も俯いて頬を紅潮させている。
「ぽっ。あ、あなたのお名前は?」
「クモキですッ」と輝く瞳で彼女の顔を見つめる。うむ、小ぶりだが中々良いものをお持ちだ。
「感謝しても仕切れません、御礼になんでもさせて下さい!!」
なんでも、だと!? ……いかん、いかん。俺はジェントルマァァン! エロいことなど一切要求しない。そうだな……。現実的に叶えてくれそうなことにしておくか。
「おっぱい!!」
「え?」
「おっぱいを見せて下さいッ!」
狐っ娘は俺が何を発言したのか理解できないと言わんばかりにキョトンとしている。あれ、日本語通じているよな? もしかして発音が悪かったかな?
「おぱーいを見せて下さーい!」
エトナとユイユイからの冷酷な視線が突き刺さる。痛い、痛いぞ。これでも、色々思いついた要求のうち、最も現実的なものなのだが……。本当は揉みしだきたいところを、視姦するだけにとどめたというのに!! はあ、仕方がない。前言撤回しておくか。
「……というのはもちろん冗談です。貴女も冒険者ですか?」
「はぁ? 冒険者ですが、なにか?」
う。先程までと明らかに態度が違うのだが……。あんなに熱視線を向けていたのに、舌打ちでもしてきそうな勢いだ。彼女は狐につままれたような感じだろうか。狐だけに……。
コイツには任せてられないと言わんばかりに、エトナが間に入ってくる。
「あ、そうなんだねっ、駆け出しなの?」
「そうなんです。パーティーのみんなと逸れちゃって……」
「なるほど~、ここら辺は危険そうだし、パーティの人が見つかるまでは一緒に来ないっ?」
狐っ娘は嬉しそうに目を輝かせる。
「本当ですか? 何から何までありがとうございます!!」
「当然なのです! 人が困ってたら助けるものなのです!!」
ユイユイ……。俺が助けに行こうと伝えたら、「えーっ、タダで?」とか、ほざきやがったよな。どの口が言いやがるんだ。
「名前は……、えーっと。メギツネっ? す、すごい名前だねっ?」
「思い切ってつけちゃいました」
「私も人族にしたんだけど、獣族も可愛いねっ」
「そうですか? ありがとうございます!!」
「尻尾がふわふわなのです!!」
「き、急に触るとくすぐったいですよ」
……。
…………。
ぴゅぅぅぅぅうう。
木枯らしのような冷えきった風が身体を包む。
俺など目もくれずに、彼女たちは、ガールズトークに花を咲かせながら、森の奥へと進んで行ってしまった。なんだろう、これが孤独というものか。ぐすん。




