第13話『人間風情ガ、喚《ワメ》きヤガる』
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──??? Side──
生い茂った大きな樹木が、陽の光すら侵入を拒む森林地帯、アーゼスト。その薄暗い森の中を蠢く眼光が点々と散見される。
緑色の肌色に、尖った耳と牙を有している。明らかに人ではない。そう、彼等こそがコボルトである。
五体のコボルトが、注意深く観察をしている。ぎらりと鋭く光る眼で捉えるのは、宿敵、冒険者だ。彼等を一人残らず殲滅しようと、コボルト達は棍棒を握りしめ、人ならざる声を発して意思伝達を取り合っていた。
木々の合間を畝る細道。そこを冒険者達が通り抜けていく。コボルト達は死角である背後から、一斉に最後尾の冒険者へと襲いかかった。彼がわざと隙を見せていることも知らずに。
「GYAAAAA!!」
「馬鹿がッ!!」
最後尾の青銅の鎧を身に纏った剣士。彼は剣を横一閃に振り回した。才能を使うまでもなく。ただ、それだけで、五体ものコボルトは一掃された。断末魔があたりに響く。
「「「UGYAAAAA!!!!」」」
「……流石だな。あのミノタウロスを倒したという猛者だけのことはある」
仲間の一人が最後尾の剣士に声を掛ける。だが、剣士はさぞ当然と言わんばかりの仏頂面で答えた。
「ふん、こんな雑魚、いくら襲いかかってきても相手にしてならんわッ!!」
「さすが、頼りにしているぜ! ……じゃあ、先の湖に……、っと、なんだ!?」
ドシィィィン。
ドシィィィン。
冒険者達は地震かと思った。それほどの地鳴りが、足音だと気づいたのは、その正体を垣間見たからだ。
コボルトと同じ緑色の肌に尖った牙と耳。姿見に相違はないのだが、問題はその体の大きさだ。
五メートルを越そうかと言うほどの巨大な体躯。そして、赤褐色の瞳には怒気が宿る。先ほど、呆気なく倒されたコボルトと全く同一の個体とは思えない。もはや、別の生き物だ。彼こそが森林の覇者。蛮族の狂戦士。
『……ほぉう、人間風情ガ、喚きヤガる』
重低音の声が反響した。その声には、静謐で包まれる森を踏み荒らした冒険者に対して強い殺気を帯びている。
「な、なんだあれは!?」
「あんな化け物見たことないぞッ!! それに、アイツ……人の言葉を喋っている!?」
「……だが、こちらには、あのミノタウロスを倒した剣士もいる!! 全員で戦えば……」
「何を言ってやがる!? 識別もしくは瞳の才能をさっさと使えッ」
剣士がパーティーの全員に才能の使用を促した。既に剣士奴のレベルを確認している。それは彼の二倍を越す数値。圧倒的強者。絶望的戦力差だ。
「ヒィィィイッ!! LV80!? 駆け出しのダンジョンでLV80だと!?」
「……皆は早く同盟へ!! この異常事態を知らせるんだッ!! 俺は少しでも時間を──え」
ブオォン。
最後尾に居た、実力者の剣士は為すすべなく、身体が真っ二つに分かれた。他の冒険者もあまりの風圧に地べたに尻餅をつく。
ボスである彼が握っていたのは大斧だ。巨体を誇る彼とサイズ的には変わらない。それを大木のような太い腕で、軽々と振り回し、一瞬で一人の命を奪ったのだ。
《体力が0になりました、あと5分で強制離脱します》
青い炎が剣士が倒された場所に咲く。これは命の灯火。少しずつ火を小さくなっていき、最後には消えてなくなる。蘇生の才能かアイテムを使用しない限り、彼には厳しいデスペナルティが課せられる。
「い、いやだ!! デスペナだけは!! 所持金半減なんて……」
先頭を進んでいた冒険者の言葉はここで途切れた。
巨体から大斧が振り下ろされる。冒険者の双肩は既に同体になかった。
《体力が0になりました、あと5分で強制離脱します》
「き、きっと、キツネが助けに来てくれる! それまで時間を稼ぐんだ!!」
『フ、フハハハハハ』
蛮族の狂戦士は冒険者を嘲笑う。全ての冒険者を無に帰すために、語るは呪文。
『爆ぜろッ! 我が覇道を阻む者を何人たりとも許容しないッ!! 塵一片たりとも、我の前に漂うことを愚行と知れッ!!』
放つは魔術。
『爆炎の華!!』
刹那、蛮族の狂戦士の左手から爆炎魔術が展開される。オーバーキルだ。残り二人の冒険者を屠るのに、放つのは最高位魔術だ。
木々が薙飛ばされ、一瞬で爆炎が冒険者を包み込む。樹木は倒木されると、システムにより即時復旧がなされ、辺りは時間が巻き戻ったかのように木々が生い茂った。
それでも、四つの灯火が、確かに冒険者を屠ったことを証明していた。
《体力が0になりました、あと5分で強制離脱します》
《体力が0になりました、あと5分で強制離脱します》
《パーティーが全滅しました。強制離脱します。また、デスペナルティが発動します。所持金半減、入手アイテム消滅、十分後に潜入可能となります。Eternal Sagaは貴方をお待ちしています》
蒼炎の灯火は静かに消える。その光景に満足したのか、蛮族の狂戦士は高笑いしながら、森の奥へと帰って行った。
《次章予告》
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「既に賽は投げられた。故に問おう。お前は、勝運を引き寄せられるか? この、俺から──」
『テメエ……』
ついにコボルトバーサーカーと対峙することになったクモキ、果たして勝つことは出来るのか?
さらに、豊樹の枝木にて。
『ふん、やはり我の思惑通り、下衆ではないか。罪状は婦女暴行でよい。連れて行け!!』
『『『ハッ!!』』』
俺は衛兵に手錠を嵌められた。
「やっぱり、俺は〝運″がなぁぁぁああい!!」
俺は筋肉ムキムキの衛兵に引っ張られながら、豊樹の枝木を後にしたのだった。
婦女暴行罪で王国衛兵に連れて行かれるクモキ、とうとうなにかをやらかしたのか?
クモキに人生最大のピンチが襲う!!
第1章もお楽しみに!
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これで序章が完結となります。一旦完結済みにしますが、再度連載済みに変更して、僅かばかり期間を空けてから投稿します。
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