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第10話「……一体、俺は何をやっているんだぁぁぁああ!!」


 *


「うぉりゃぁあ! 早く酒もってこぉぉぉおおい!!」


 ちなみに、魔物を倒せなかった、やけ酒ではない。そう、これは立派な勝負。戦いなのだ。冒険者一の酒豪を決める「大酒呑み選手権」もついに佳境だ。残るはエトナただ一人。腕ならぬ喉が鳴るぜ!!


「クモキくん、私に勝てると思わないことだねっ!」


 今、二人の勝負の火蓋が切って落とされたのだ。こうなった経緯はユイユイと別れるときまで遡る。


 *


「パパ、ママ、また、明日なのですー!」

「おう、また明日な!」

「うん、またね、ユイちゃんっ!」


 ユイユイの身体が0と1の2進数に変換されたかと思うと、体が透けて、姿が見えなくなった。


 ユイユイはEternalSagaの仮想世界から離脱ダイブアウトをして、現実世界と帰っていった。無事にユイユイの冒険者ライセンスカードも発行できたことだし、依頼クエストを受注したいとユイユイは聞かなかった。だが、すでに夜に差し掛かっていたこともあり、本当の親御さんも心配するかもしれない。一旦、帰った方が良いとなったのだ。


 また、明日一緒にパーティーを組んで冒険する約束もしたし、時間はたっぷりあるしな。


「ユイユイは帰ったけど、俺らはどうするか?」


「うーん、そうだね、もう少し遊んでいたいなっ」


「確かに、な。よし、一狩り行くかって……、どうした、エトナ?」


「クモキくんッ!! 大変だよ、あれを見てっ!」


 ん、どれどれ? エトナが指差す方向を眺めてみる。


 な、なんだと!? マジか!? これは逃げるわけには行かないな!


 俺とエトナは完全に同一タイミングで声を発する。


「「大酒飲み選手権!!」」


 冒険者ギルドの支部、豊樹(ほうじゅ)の枝木。入り口に向かって左側に、冒険者たちの憩いの場所として、イートスペースが存在している。そこで、現実世界19時から開催されるイベント。その広告がエトナの目に留まったのだ。


 なんと、参加費はたったの100ギルだ。一位には豪華報酬あり。参加賞として、グザイア豆のずんだ餅との引換券がもらえるらしい。俺は豪華報酬という文言に惹かれ、エトナはずんだ餅の引換券が欲しいということだ。いま、俺らの目的は一つに重なった。


 この謳い文句で、参加しないなんて選択肢はない!


 もちろん、俺達は高校生だ。現実世界でお酒を飲むのはご法度だ。二十歳になってからとテレビCMでも口煩(くちうるさ)く伝えている。しかし、ここは仮想世界。身体には直接悪影響を与えないため、仮想現実での未成年の飲酒は問題視されていないのが実情だ。


 で、あれば飲むしかないッ。いや、むしろ酒に溺れてみたいのだッ!!


「目の前の戦いから逃げて何が冒険者か。俺は参加するぞ。俺の実力をとくと見るがいいッ!!」


「大酒呑み選手権に少し大袈裟じゃ……」


「いや、何を言っているんだッ、エトナ!! これこそ真の闘争、負けられない戦いがここにあるんだッ!!」


「うーん、戦いかどうかはわからないけど、無料で酒が呑めて、豪華景品の可能性があると言われたら、参加するしかないよねっ! 私ももちろん、参加するよ!」


 こうして、参加者は出揃った。俺とエトナ、他の冒険者たち、生死(急性アルコール中毒)を賭けた激闘の火蓋が切って落とされることになったのである。


 *


「くっ、やるなぁ、エトナ!!」


「ふっ、クモキくん、まだまだいけるよっ!! 次、くださいっ!!」


 俺達のテーブルには、他の卓とは桁違いのビールジョッキが並べられており、もはや、数え切れないほどだ。今、先頭をひた走るのは俺とエトナ。どちらかが勝者となるのは明白だ。


 俺らの激闘に見物客からも歓声が湧き上がり、盛り上がりを見せる。


「ア、アイツら……。他の奴がグロッキーになっている中、命のやり取りすら楽しんでやがる」

「こんな激闘、見たことねぇぇええ!! やれ!! やっちまえぇぇええ!!」

 ※大酒飲み選手権での見物客の感想です。


 時間も僅かだ。で、あれば俺がやる事は一つ。ラストスパートだ。


「ジョッキ二杯よこせッ!!」


「なっ、バカな!? 死ぬぞ!?」

 ※大酒飲み選手権での見物客の感想です。


「ふふ、勝負あったね。あと残り一分。私はこの一杯を飲み切ればカウントされ、クモキくんの杯数を上回ることになるっ。……でも、クモキくんは注文した二杯を完飲しないと二杯分のカウントがされない。主催者がルール説明をしたときを思い出して欲しいな? 注文した杯数を飲みきった際に、初めて数として認められるというルールだってことを!!」


「た、たしかに!! これで、エトナ選手の優勝は確定的か!?」


 いつのまにか、見物客の一人が実況を始めていた。おいおい、俺を誰だと思ってやがる。いや、訂正しよう。俺のステータスをなんだと思ってやがる。


「ふっ、確かに残り一分で二杯を飲み干すのは至難の技だ。俺の飲むスピードを考えると……、運が絡む勝負になるだろう」


「ま、まさかっ!?」


 エトナは目を見開き、しまったという表情を浮かべる。今更、気づいたか。だが、遅いッ!!


「あぁ、その通りだ。先ほど効果時間が切れた固有才能ユニークスキル【短を捨てて長を取る】を開始前にかけなおしておいたのさッ!! つまり、現時点での俺のステータス、運の良さはカンストしている状態だ。そして、残り二杯のジョッキ、間に合うかどうかは運に絡んだ勝負になるッ!!」


 ゴクゴク。


 俺は置かれた二杯のジョッキに口をつけて、ただひたすらに喉へと流し込んでいく。


 体が悲鳴を上げている。それでも、負けるわけにはいかない。勝つのは、俺だッ。


 間に合えぇぇええッ!!


 ピィィィィッ。


 終了の笛の()が会場を包み込む。結果は……、見物客の一人が高らかに宣言した。


「ブザービートだぁぁぁあああ!!」


 二杯完飲。最終的なジョッキの杯数で、俺が一杯差で勝利したのだ。


「こんな試合見たことねぇぇええ!!」

「感動をありがとうッ!!」

「歴史的瞬間に立ち会ってしまった……」

 ※大酒飲み選手権での見物客の感想です。


「くっ、まさか負けるなんて……。だが、いい勝負だったねっ」


 エトナは俺に手を指し伸ばす。俺は彼女の意図を察し、激闘を終えたライバルの掌を固く握り返した。


「いや、危なかった。間一髪だったよ」


 留まることのない感動が見物客中を伝播して、今日一番の歓声が轟く。ふっ、また、新たな歴史の1ページを刻んでしまったようだ。


 このイベントの主催者から賛辞とともに、豪華景品を手渡すために壇上へと呼び寄せられる。俺はふらふらになりながらも、エトナと肩を組みながら、壇上へあがる。そして、イベントの主催者が、俺の胸に手を当てて、「解放リリース」と唱えた。


 与えられた物は、この世界の根幹を成す物、――才能スキルだ。


「クモキ様、感動をありがとう!! 是非、貴方様がこの才能スキルを駆使して活躍されることを願いますッ!!」


 《クモキはイベントで固有スキルを獲得》

 酒乱化(しゅらんか)……アルコールを摂取した際に、一定時間のみ攻撃速度が三倍に向上する。ただし、効果終了後、一定時間眠り状態へと陥る。


「ク・モ・キ、ク・モ・キ!!」


「ありがとう、皆の声援が俺の心に届いたぜ。だが、もうお開きの時間だ。俺もこの熱を現実世界でも憶えていたいからな」


 クモキコールが鳴り止まない。俺は手を高く掲げて、後方の見物客の声援にも応えていく。死闘の余韻を永遠に味わっておきたいが、いつまでも見物客の視線を俺だけに集めておくわけにはいかない。俺の美形な顔立ちは、どうしても目立ってしまうので、仕方がないかもしれないが。


「……離脱ダイブアウト


 俺の身体が次第に薄くなり、0と1の数列へと変換されながら、消失していく。


 目が覚めると、現実世界へと戻ってきた。既に夜へと移り変わっていたため、部屋の隅々までは見えない。だが、見渡せば分かる、ここは、俺の部屋だ。体を包み込む程のふかふかのベッドの上で仰向けに寝転んでいた。


 頭部を覆っていたヘッドギアを外して、勉強机の上へと両手で丁寧に置く。


 誰もいない部屋で、少し先ほどの光景を思い出してみた。


 狩りをやらずに、飲んだくれとなっていた自責の念に、称賛を真に受けて調子に乗ってしまった格好つけた言動。それらが後悔と羞恥という名の元に一気に押し寄せてくる。俺は叫ばずにはいられない。


「……一体、俺は何をやっているんだぁぁぁああ!!」



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