11章 屋根裏部屋
セーラとローラにとって屋根裏部屋で過ごした最初の夜は、絶対に忘れられないものとなりました。
セーラとローラの生活は少しずつではなく、いっぺんに変わりました。
「お、お姉様!?いくら何でもやり過ぎじゃない?」
「姉さんの言う通りだ。彼女たちを奨学生にするという手段もあったはず…。」
こう言った妹と弟に、ミンチン先生は言いました。
「どうせなら早い方が良いわね。自分たちの境遇をしっかりわからせてやらないと。」
マリエットは解雇され、翌朝にはミンチン学院の使用人のための社宅から出て行きました。開いているドアのすき間から、かつての自分たちの部屋をのぞいたセーラとローラは何もかも変わっていることに気づきました。豪華な家具は運び去られ、新しいプラチナ生の部屋に変えるために、すみにベッドが置かれていました。
朝ご飯を食べに食堂に行くと、ミンチン先生は冷たく言いました。
「さっそく新しい仕事を始めてもらいますよ。お前たちは初等部の1年生と一緒に座りなさい。みんなが静かに、お行儀よく食べるよう、気をつけなさい。ロッティがもうお茶をこぼしているから、明日からはもっと早く下りてきなさい。」
それがはじまりでした。セーラとローラの仕事は増えていきました。何をやらせてもそつなくこなすので、他の家政婦や料理人から次第に感心されました。上流階級の子息や子女のための寄宿学校の使用人であるためかプロとして仕事に誇りを持っており、厳しくもマナーをわきまえた真面目な人たちでした。
部屋の掃除や片付けも上手で、使う人にとっては重用されました。特に、セーラには難しい仕事や責任のある仕事も任せられ、請求書の支払いもたのまれることがありました。
セーラとローラの勉強は過去のものになりました。色々命じられた忙しい一日の後、夜に教室で勉強することを許されました。
セーラはこんなことをつぶやきました。
「覚えたことは復習しないと、忘れてしまうわ。もしかすると、ヘンリー8世に6人の妻がいたことも忘れるかもしれないわ。」
生活が変わって1番セーラとローラがびっくりしたのは、生徒たちの態度でした。小さな王族のような存在だったのに、今では仲間とも思ってくれていないようです。多くの男子生徒がセーラに恋をしていたことを忘れたのですが、ハリーはセーラへの想いを捨てられませんでした。しかし、セーラにとっても、ハリーにとっても、恋愛は他人事になっていました。
また、ミンチン先生はセーラとローラをなるべく生徒に近づけたくなかったので、こう言いました。
「あの子たちを生徒たちと親しくさせたり、話させてはいけません。もしあの子たちが自分たちのことをロマンティックに語りでもしたら、あの子たちは悲劇のヒロインになってしまい、生徒の保護者に間違った印象を与えてしまうことになってしまうからね。」
セーラとローラは、別に生徒に近づこうとは思っていませんでしたし、生徒たちは生徒だった双子にどう接したらいいかわからずとまどっていました。
「君たちは美しい。今夜、僕の部屋に来てくれるかい?」
クラウスはメイドになったセーラとローラを見下し、ことあるごとに口説いてきました。セーラとローラには優しげなクラウスの口調の裏には、下心と悪意が潜んでいることがわかっていたのです。
クラウスは裕福な家に生まれましたが、お父さんの愛人関係やお母さんのゆがんだ愛情に悩まされていました。自暴自棄のあまり、自宅に放火しようとしたところを祖父母に見つかり、ミンチン学院に編入させられることとなりました。そのため、その甘いマスクで女の子たちをとりこにし、騙して自分の言いなりにさせるような最低な男でした。
ニコルとハリーは、メイドになったセーラとローラのことを気にしていました。
ニコルは、セーラとローラの心配をするあまり、翌日もショックから立ち直れず部屋に閉じこもっていました。授業に出ないどころか、朝食の時間になっても食堂に姿を見せなかったので、マルク先生が心配して様子を見に行きました。
「今日は君の姿を見ていないけど何があったんだ、と担任の先生は心配していたよ。」
「そうですか…。俺、セーラとローラが心配で…その変化について行けなくて……!」
安心したのか、いつもならめったに泣くことがないニコルは泣きだしました。
「彼女たちのことが心配なのか…。まぁ、その気持ちはよくわかるよ。でも、君のことを心配している人もたくさんいるんだよ。」
マルク先生は料理人のジェームスに無理を言って、サンドイッチをニコルのために作ってもらいました。ニコルは朝食を食べていなかったので、おなかが空いていました。そのサンドイッチを食べるのを見た後、部屋を出るときに言いました。
「今日は休んでていいけど、明日は食堂や教室にも顔を出すんだよ。」
「はい、マルク先生。」
ニコルはうなずき、マルク先生を見送りました。このことで、これ以上引きずるのは良くないと考えたのです。
その日の放課後、ハリーはお母さんからの手紙をローズガーデンで読んでいました。
クリスマスには帰省しようかな、と考えながら手紙を読んでいたハリーでしたが、「好きな子」について書かれていたことに驚きました。もしセーラがメイドにならなかったら、ハリーはそんなに驚かなかったでしょう。
しかし、自分とセーラは結ばれることはないのだと思うと、目には涙があふれてきます。そこにリックとロッティが来たので、あわてて涙をぬぐいました。
「ハリー…セーラお姉ちゃんのこと好きなんでしょ?」
「ななっ!?ロッティ、なんでそれ知ってんだよ!?」
ロッティにそう言われたハリーは、顔を赤らめました。ちょっとおませなところのある妹と違ってリックは鈍感なので、ハリーのセーラに対する気持ちには気づいていませんでした。
セーラとローラはメイドになっても、プリンセスのように気高い心を持つことを忘れてはいませんでした。




