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陰謀論者編-2

 昼過ぎ、約束通りにミチルがメゾン・ヤモメにやってきた。


 手土産にケーキ屋スズキのものと思われる焼き菓子を貰った。正直、店の唐揚げでなくて栗子達はホッとした。ケーキ屋スズキの焼き菓子は美味しいので嬉しい。


 客間に案内し、テーブルの上に紅茶、ベーカリー・マツダで買ったチョコやキャラメルのラスクを出す。紅茶の入った客用ティーカップは品のいい花柄でオシャレである。


「美味しそう!」


 ミチルは実に可愛らしい笑顔を見せた。


「ところで、お店は順調? この町は慣れた?」


 栗子は務めて優しそうな笑顔を作った。羊の被り物は完璧と言えるだろう。


 桃果も紅茶を啜り、隣に座るミチルに笑いかけた。桃果は若干気が強い見た目だが、こうして笑顔を見せていると人の良いおばさんである。


「それが…」


 ミチルはちょっと泣きそうな顔で俯いた。この様子だと何か悩みがあるのかもしれない。


「お店は行列ができていて、人気っぽいけど?」


 確かに肝心の唐揚げは不味いが、願いが叶う唐揚げとして人気があるように見えたが。


「最近、お客さんにきた人にこんなのインチキだって嫌味言われて」


 可愛らしい若い子が、泣きそうにしていると思わず、同情してしまうと栗子は思う。


「誰かしら? この町でそんな事言う人いましたっけ?」


 桃果はラスクをかじりながら、首を傾ける。栗子も思い当たる人がいないと思う。


船木陽介(ふなきようすけ)さんって人です」


 栗子と桃果は顔を見合わせた。あの嫌味で性格の悪い陽介だったら十分ありえる事だった。陽介の被害者がこんなところにも居たなんて。栗子はますますミチルに同情する。


「私を胡散臭い呪い師とか言うんですよ。ひどいですね」

「あなた呪い師だったの?」


 単なる唐揚げ屋だと思っていた。栗子の目が驚きで丸くなる。


「ええ。実は唐揚げ屋は副業みたいなものです。呪い師ってそうそう儲かる仕事でも無いですし。霊媒師ほど私は霊力が無いんです」


 呪い師と聞いて納得する。願いが叶う唐揚げというのは、お遊びやジンクスではなく、ガチだったようだ。栗子はちょっと気味が悪くなる。実際幸運な事もあり少し怖い。


「もしかしてこの町に住む香田香水(こうだこうすい)さんと仲良い?」


 栗子はなんとなくそんな気がした。


「仲良いっていうか、一応あの人は私の師匠です」


 確かに二人は似てないが、なんとなく雰囲気が似たものがある気がした。栗子はぽりぽりとラスクをかじる。硬いのでやっぱり咀嚼(そしゃく)が面倒くさいが、味は文句なく美味しい。いくらでも食べられそうである。


「願いが叶う唐揚げって本当? どういうカラクリで願いが叶うの?」


 一番知りたいことを栗子はズバリと聞いた。ハッキリと質問され、ミチルはちょっと面食らっていた。確かに人の良さそうな見た目なのに物の言い方はハッキリとしていてギャップはある。


「実は儀式をしてるんですよ。詳しくは言えませんけど」


 ミチルはニヤリと笑う。その笑顔がちょっと悪魔的で、栗子こそ嫌なギャップに面くらう。


「まあ、私のやってる事はお遊び、気休めですね」

「そうなの?」


 栗子も桃果も身を乗り出すように聞く。


「本当の呪いの儀式は、もっと大変ですよ。私じゃ無理です…。それに意外と接客も楽しくなってきたし、もう呪い師稼業からは足を洗おうかと思ってるんです」


 ミチルはちょっと疲れた顔を見せた。栗子達には想像できない苦労があるのかもしれない。


 その後、三人で陽介の愚痴で盛り上がったが、特に改善策は思いつかなかった。女の愚痴大会などそんなものである。


 それでもみんなでお茶をしながら、愚痴っているだけでミチルは気が楽になったのか、最後は笑顔を見せて帰って行った。


 売っている唐揚げは不味かったが、栗子も桃果もミチルについての悪い印象は消え去ってしまった。二人とも孫はいないが、ミチルについては孫でも思うような気持ちを抱いてしまった。


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