37話 情報共有会議
薄暗いホールの天井から、大きな布が垂れ下がり、そこに教会の一室と思われる映像が流れている。
ホールには会議の映像を共に見ようと様々な種族の者たちが集まっていた。
それぞれが昼食を食べていた席で、お菓子を食べながら会議が始まるのを待っている。
リリは同じ長方形のテーブルに座っている面々を見て聞いた。
「流石にないとは思うけど一応確認したいから聞いていい?」
リリの右隣の席から即座にファーストが言う。
「もちろんです」
リリは左を向いて、教会の映像を指さす。
「テーブルの左側に座ってる4人が他の国から援軍に来た軍の将軍的な人達で、テーブルの右側の4人がSランクパーティのリーダーで間違いないよね」
映像には会議の出席者が11人映っている。
リリの言っている丸テーブルの左側には奥からエルフ、ドワーフ、ネズミの見た目をした獣人、人の順番に座っており、丸テーブルの右側では奥から、深碧の風のフォス、金石の盃のイーゼン、キオットの陽ざしのモスカ、空を走る光のウィルの順番に座っていた。ちなみにくーはウィルの隣、一番手前になる位置に座っている。
「その通りに座っています。ちなみに一番奥の2人は神官長とギルド長です」
「そうだよね。分かった」
リリの向かいの席にいる空を走る光の4人は目を合わせた。
ナリダが聞く。
「何が分からなかったのかしら?」
リリはばつが悪そうに目をそらした。
「いや、ドワーフって見た目がそっくりだから、将軍的な人と金石の盃の人が入れ替わっててもちょっと分かる気がしなくて……」
「見た目じゃ無理よ」
空を走る光は、ナリダの言葉に頷いている。
「それはいまだに俺も分からない……」
「私達は鎧で見分けてますが、顔だけで見分けるのは難しいですね」
「グルークの町だとあんまり見かけないもんな」
リリは空を走る光が見分けられてないなら、自力ではしばらく無理な気がした。
「ファースト、特徴とかよく見ておいてね」
「かしこまりました。特徴を記録しておきます」
グローが映像を見て声を上げる。
「お、始まるんじゃないか」
リリが映像を見ると丁度皇帝が入ってくるところだった。
ギルド長と神官長が立ち上がり、皇帝を迎え入れている。
リリは空を走る光に言う。
「分からないことはどんどん聞く予定だから、会議の内容を追いながら私に教えるの頑張ってね」
空を走る光は目を合わせて仕方がないと言いたげに笑った。
ルティナが言う。
「できる限り頑張ります」
リリも笑ってから、映像に目を向けた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ギルド長ランカルが進行を務めるようだ。
その場にいる全員の顔を見回して言う。
「全員そろいましたので、情報共有のための会議を始めます」
その場にいる全員が返事をするように頷いた。
「まず最初に最新の偵察結果についてです」
ランカルはしゃがんで丸まった紙を拾うと、広げて木製のボードに貼っていく。
そしてランカルが紙の脇に移動すると、内容を初めて読んだ全員から驚いたような声が聞こえる。
「グレイトホーンの数だが、これは間違いないんだな」
ランカルは質問者の方向を見て答える。
「はい、グレイトホーンは約2万8200頭で間違いありません」
参加者たちはざわめいている。
増え方がおかしいというべきか、このくらいで済んでよかったというべきか。援軍がなければ全滅もありえたぞい。厳しい戦いになりそうだ。他の魔物も数が多い……。
――――――――――――――――――――――――――――――――
リリは同じ席に座っている全員の顔を見回して言う。
「今、2万8千って言った?」
空を走る光は困惑したようにリリを見た。
ファーストが答える。
「はい、そう書いてあるようです」
2万に減らしたことを知っているリリとファーストは、ポカンとした顔で見つめあった。
リリは首を振って切り替えて言う。
「いや、というか、本当に2万8千いるの?」
「現在、トレニアから本当に2万8千頭いるのか確認のため、もう一度森の偵察を行うと連絡が来ました」
リリは実際のところは確認待ちということなので、とりあえず置いておくことにする。
「それで結局2万8千って出てきても平気なの?」
「前衛に被害が出る確率は高くなりますが、勝つ確率も十分に高く作戦変更はないレベルかと思います」
映像からランカルの声が聞こえる。
『次に今回の作戦について説明します』
――――――――――――――――――――――――――――――――
緊張の面持ちで次の言葉を待つ全員に、ランカルは続けて言う。
「今回集まっていただいた全員で、城壁を主戦場とした配置で行うことに決定しました」
全体にホッとしたような空気が流れる。
「まあ、油断できる数じゃないが、何とかなりそうじゃしの」
ランカルはまたしゃがんで丸まった紙を拾うと、今度はテーブルの上に広げ始めた。
その紙は城壁から森までが詳しく書かれた地図のようだ。様々な記号が大きく記されている。
全員が地図を覗き込む。
「数は多いですが、配置はいつも通りの形のようですね」
「そうなります。今までとの違いとしては、スノージャイアントの方々がいつも守っている範囲を、キャラリックメルのゴーレムが代わりに守ることになります」
ランカルは地図上の大きく線が引いてあるところを、ゴーレムが守る範囲として指でなぞって言った。
「また、もう1つの違いとして、神官や回復術士の方にも攻撃を優先する方を増やしていただこうと考えています」
すぐに疑問の声が上がる。
「それでは、回復が追いつかないのではないですか」
「いや、ゴーレムには回復魔法が効かないんじゃ。ゴーレムが前線を保っとる間にできるだけ数を減らさんといかんということじゃろ」
「そのゴーレムだが、スノージャイアントの代わりにと言っていたな。スノージャイアントと同じくらいの戦闘能力がゴーレムにあるということか?」
皇帝が答える。
「キャラリックメルのゴーレムの強さは、私が直接戦って確かめさせてもらった」
「陛下がですか……!?」
その場にいなかった全員が驚いた顔をした。
「ああ、攻守ともにスノージャイアントの戦士に引けをとらない強さであったことを私が保障しよう。ドラゴンとなった私の攻撃を一度耐えて、攻撃し返してきたのだからな」
ははは……、それはすごいですね……、とんでもないな……などと、良いことと悪いことを同時に聞いたような雰囲気だ。
「ともかく実力は十分のようじゃな」
「100体もいるなら、ゴーレムがいる間は被害もほとんど出ないだろう」
「攻撃に集中した方が傷つく方も減らせるということですね……」
全員が作戦にある程度納得したような雰囲気だ。
ランカルはそんな全員を見回して口を開く。
「では――」
「報告いたします!」
ドアを勢いよく開けて、ザーツマールの兵士の鎧を着た人物が駆けこんできた。
皇帝が聞く。
「何があった」
兵士は皇帝に近づいて耳打ちする。
皇帝は苦々しい顔をすると、その場にいる者達に言う。
「スルテリスの光より予言が届いたようだ」
「何!?」「何じゃと!?」
その場にいる者達は信じられないことを聞いたような顔をした。
皇帝が兵士に重々しく言う。
「内容を頼む」
兵士は、はっと返事をしてから真剣な表情で言う。
「今回の試練、魔物の数は5万を超え、試練の番人に選ばれし者が汝らの価値を測るだろう。これは最も価値のあるお方からの預言である。試練を乗り越え、自らの価値を高めよ」
瞬時に場が騒然とする。
「5万だと!?」「ふざけたことを!」
ランカルが兵士に近づいて聞く。
「ヒューチは動いているか?」
「はい、ヒューチ隊長は現在緊急で偵察部隊を送り、森の偵察を行っています」
「何か分かったらすぐ知らせてくれ」
――――――――――――――――――――――――――――――――
リリは空を走る光に聞く。
「スルテリスの光って何?」
空を走る光は渋い顔をしている。
グローが答える。
「スルテリスの光っていうのは、国際手配されてる犯罪組織なんだが。今みたいに氾濫とか強い魔物が現れた時に、その内容を試練だって言って予言してくるんだ」
リリは未来予知のようなスキルは知らなかった。
「その予言って当たるの?」
グローは頷く。
「最悪なことに、内容はほぼ当たる。しかも、予言が当たると酷い被害がでることが確実な内容だから無視もできないんだ」
リリは嫌そうな顔をして言う。
「えー、でもさ、予言とか未来予知が実際あるかっていうのは別として、明日までに2万2千頭増えるのは物理的に無理じゃない?」
「明日氾濫を起こすのは決定なんだな」
空を走る光は、こっちはこっちで確定してることを思い出したのか、ややこしいことになった顔をしている。
リリはスノージャイアントの集落の方も氾濫が起きると聞いていたので、改めて確認する。
「さっさと起こさないと山の方に間に合わないんでしょ? 伸ばす理由あるかな?」
ファーストが真剣な表情で言う。
「予言が当たったことにするのであれば、1日延ばしていただく必要があります」
「予言って未来のことなんだから、変わってもいいんじゃない?」
リリは外の人達に怪しまれないのであれば、変えなくてもいいのではないかと思った。
ファーストは落ち着いた様子のまま確認する。
「予言が当たらなかった場合、スルテリスの光という組織と敵対する可能性がありますがよろしいですか?」
「え、それって私達のことがバレてるの?」
「どの程度未来を予知できるのかによって変わってきます。自由に未来が見えるのであれば、すでに一度2万にまで減っていたことを知っていて、その上でわざと5万と言っているということもありえます」
「私達が5万に増やすと思ってってこと?」
「そうです」
ファーストはそう言って頷く。
リリは5万に増やしたらを考える。
(ここで5万にするってことは、相手の思惑通りに動くということで、今後も似たようなことをされた時に要求を飲まないといけなくなるってことだし。そもそも5万に増やさないといけない理由は、私達が裏でコソコソやってるのをバレたくないからだし。つまり………)
「裏でコソコソやってるのをバラされたくなかったら、5万にしろって脅されてるの?」
「もし未来が自由に見れるのならその可能性はあります」
リリの恐怖感が限界を迎えた。
立ち上がって言い放つ。
「脅してくるようなやつに従うなんて絶対に嫌だね! 氾濫は明日だよ! 何が何でも予言を粉微塵にしないと! それにこっちからも逆に調べ尽くして、もし本当に未来が見えるなら二度とこんなことができないようにしよう!」
キャラリックメルの全員がリリに跪いた。
ファーストは決意に燃えたような声で言う。
「かしこまりました。スルテリスの光の予言が実現しないように全力を尽くします。調査もすぐに取り掛かれるよう準備を進めておきます」
「よろしくね!」
リリは一息ついて少し冷静になった。
「というか別にバラされた所で証明しようがなくない?」
ファーストも通常通りに戻った。
「そうですね、証明は難しいかと。ですが、犯罪組織に信用がある人物が属していないとは限らないので――」
「あの!」
リリは急な大声に驚いて空を走る光の方を見た。
空を走る光は少し顔色が悪そうに見える。
ルティナが必死な様子で言う。
「ウィルに氾濫の日程は変えないと伝えてもらえませんか」
グロー、ダグ、ナリダもハッとした様子だ。
「そうだった、このままだと防衛戦に作戦が変えられるぞ」
「作戦が防衛戦に変わってたら、2万8千でも城壁はほぼ確実に壊されるよな」
「とにかく防衛戦にならないようにウィルに伝えて頂戴」
リリは慌てて〈通話〉を使った。
「ウィル、返事しなくていいからそのまま聞いてね。氾濫は予定通り明日起きるし、予言は粉微塵にするよ。あと防衛戦になるのだけは避けた方がいいみたいだから、どうにかして話を誘導してください。健闘を祈ります」
――――――――――――――――――――――――――――――――
会議室には重苦しい空気が流れていた。
「やっと光が見えたと思ったらこれか……」
「そんなことよりどうするのだ」
「普通にやったら勝ち目は薄いじゃろ」
全員の視線が皇帝に集まる。
皇帝は目を瞑り、苦悩するように口を閉ざしていた。
そしてようやく何か決心がついたのか、諦念のこもった目で全員を見回すと口を開く。
「今まで防衛戦を選ぶ者などと思っていたが、後の世で愚かしいと評されている者もこのような葛藤の末だったのかもしれないな」
ランカルが苦渋に満ちた表情で皇帝に言う。
「それでは作戦は……」
皇帝は重く頷いた。
「ああ、後の世にビルデンテを残すため――」
「ちょっと待ってほしい」
言葉を止められた皇帝は驚いたようにウィルを見た。
その場にいる全員がウィルを見ている。
ウィルは視線を受け止めて堂々と言う。
「僕は最初の作戦で進めることを提案するよ」
イーゼンが怒鳴る。
「話を聞いていなかったんかおんしは、5万じゃぞ! 普通にやったら勝てないんじゃ!」
ウィルは落ち着いた様子でイーゼンに話す。
「予言では魔物の数が5万を超えるとしか言ってなかったよね。だったらまだ、グレイトホーンが5万を超えて出てくるって決まったわけじゃないよ」
「うぬぬ」
フォスが冷静に聞く。
「だが、黒の森の氾濫に出る魔物はほとんどがグレイトホーンだ。なら合計で5万だったとしても、4万近く出てくると考えるのが自然ではないか」
「あら、4万なら対応できるわよね」
モスカが、そうでしょ? と全員の顔を見た。
全員ウィルが何を根拠に先ほどの提案をしたのかに気がついたようだ。
「伝説級の武器か」「灰色の線を引いたものでしたね」「鑑定はできなかったんじゃろ?」
少し希望が見えてきたような雰囲気になった部屋の中に、皇帝の低い声が響く。
「本当にできるのか?」
ウィルは緊張を感じさせない顔で皇帝を見ると、しっかりとした声で返事をする。
「武器の効果は間違いないよ」
皇帝は首を振る。
「そうではなく、本当に使えるのか? 怖がって使えなかったでは作戦として成り立たないだろう」
皇帝はリリが娘との手合わせを怖いからと断っていた姿を思い出したようだった。
ウィルは皇帝の心配していることが分かり、何とも言えない表情でくーの方を見た。
くーも申し訳なさそうな顔をする。
「怖がって使えないってことはないだろうね……」
「怖がってすぐ使用される可能性の方が高いと思いますワン……」
違う心配をし始めた2人にイーゼンが言う。
「……それはそれで問題じゃろ」
ウィルは切り替えるように息を吐くと、挑戦を突きつけるように全員を見る。
「でもさ。魔法を当てさえしてくれれば、タイミングが最初の方だろうと城壁で止められるよね」
モスカ、イーゼン、フォスは、ウィルの魂胆が分かったのか不敵に笑った。
「私達が頑張ればフォローできる数にはなりそうね」
「最初から諦めるよりはマシじゃな」
「厳しい戦いになるなら、望むところだ」
援軍の将達も伝説級の武器の使い手の正体に察しがついたようで、続くように奮起した様子で話し始めた。
皇帝は全員の顔を見て、困ったように笑った。
「分かった。誰も諦めていないというなら、私が最初から諦める訳にはいかないな」
「じゃあ」
皇帝はウィルに頷いた。
「ああ、城壁で氾濫を食い止めることとする」
だが、と皇帝は続けて言う。
「臆病な考え方かもしれないが1つ頼みがある。偵察でグレイトホーンが4万を大きく超えるとなった時は、防衛戦も改めて検討したい。ビルデンテを失うわけにはいかないのだ。その時は頼む」
ビルデンテが落ちてはならないというのは、全員よく分かっていることのようだった。
全員が皇帝の心配は分かっていると伝えるように頷いている。
皇帝が気を取り直して言う。
「さて、あとの問題だが、試練の番人とやらの見当はついているのか?」
ランカルが皇帝の質問に答える。
「今までの記録によると、氾濫に対する予言で試練の番人という文言が入っている場合、突然変異種が見つかっているようです」
偵察では見つかっていないようだな 、大量のグレイトホーンに紛れられては面倒じゃぞ、氾濫が起きる前に見つけ出して対処した方がよさそうだ、などといった対策を考える声が続いていく。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「今度は突然変異種だって、偵察ではいないって言ってたよね」
「そうですね。ですがこれはまずいかもしれません」
リリは、なんで? とファーストを振り返る。
「このままですと、突然変異種が見つかるまで森の偵察を続ける可能性が非常に高いです。そうなりますと氾濫を起こす際、我々が追い立てていることに気がつかれることが予想されます」
リリは、キャラリックメルの者達が森の外まで威圧を続けて、グレイトホーンを追い出す場面を想像した。
「森の中に誰もいないタイミングで起こしたいってことだよね? 元々の予定はどうだったの?」
「観察の結果、偵察は朝同じ時刻にそれぞれの担当区域で行い、報告のために全員ビルデンテに戻るを繰り返しているようでした。ですので、全員が戻るタイミングで決行の予定でした」
一日中偵察のために森にいるわけじゃないんだねと、リリは考える
「さっさと起こした方がいいよね? 夜はダメだろうから、朝早くとか?」
グローとダグが言う。
「あんまり朝が早いと、会議で決まった作戦の内容を見てない冒険者が出てくるんじゃないか」
「全員が真面目に夕方にも冒険者ギルドに行ったりはしないだろうな」
リリはどうしようかと悩み始めた。
ファーストが言う。
「リリ様、キャラリックメルより続報です。全体数の計測途中で、グレイトホーンの突然変異種が見つかったようです」
「え、なんで?」
リリがつい言ってしまった言葉に、ファーストは律儀に答える。
「何故かは分かりません。現在の報告数は6、いえ、7件に増えました」
「多すぎない?? 増やしてないのに勝手に増えたってことだよね?」
ファーストは、そうですと言って頷いた。
「予言が実現しようとしてるの?」
リリは、もしかしてリスポーンしているのだろうかと悩み始めた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「報告します! 偵察に出た4つの部隊から、グレイトホーンの突然変異種を発見したという連絡がありました」
扉を開けて入ってきた兵士の言葉にざわめきが広がる。
「1頭ではないのか」「今までの予言でも複数だったのか?」
フォスが笑みを浮かべて言う。
「見つかったのなら話は早い。氾濫が起きる前に片付けてしまえばいい」
モスカも機嫌がよさそうに鼻を振った。
「そうね。ちょうど4頭なら1パーティ1頭でちょうどいいわね」
イーゼンがモスカに大声で言う、
「何わしらをしれっと全員行かせようとしとるんじゃ! 4頭ならお主らだけで十分じゃろ」
フォスがイーゼンを鼻で笑った。
「ああ、そうだった、貴様は森の中は不得意だったな。勝てる自信がないなら、ここで俺達の活躍を聞いて待っているといい」
「はぁー!? なーに言っとるんじゃ! わしらが倒せんわけないじゃろ! 見とれよ! お主らより余裕じゃ!」
モスカがふふっと笑って言う。
「金石の盃も参加と、あなた達も参加よね?」
話を振られてウィルは困った様子だ。
「いや、僕たちは――」
「もちろん、あの子も連れて行きましょ」
信じられないことを聞いたような目でSランク冒険者達がモスカを見た。
イーゼンとウィルが言う。
「いやいやいや、それはおかしいじゃろ」
「危険すぎない?」
モスカは力強く言い返す。
「おかしくないわ。あなた達がそんなだから、あの子が怖がってるんでしょ?」
モスカは鼻を立てて説明するように言う。
「いい、あの子が怖がらないでいられるほど、自分に自信を持つっていうのはすぐには難しいわ。でも、私達が今回の氾濫に出てくる魔物くらい簡単に倒せるって、信じてもらうのはすぐにできるはずよ」
フォスがモスカの言いたいことに気がついたようだ。
「なるほど、冒険者ギルドがない土地から来たというなら、Sランク冒険者の実力を知らないということも考えられるか」
それはありそうだ、という理解したような雰囲気が全体に広がっていく。
――――――――――――――――――――――――――――――――
リリは困った様子でファーストを見た。
「うちのみんなが沢山いてもちょっと怖いのに、氾濫直前の森に行って無事に帰って来れるかな?」
ファーストはリリが森に行った場合を演算して答える。
「森は消えるかもしれませんが、リリ様は無事だと思われます」
「それだともう氾濫も無くなりそうだね」
「そうですね。周辺一帯が消し飛ぶほどの規模になりますと、ビルデンテは氾濫からは守られるかもしれませんが、黒の森の中層と直接面することになるので、ビルデンテの人々では今後対応できなくなると思われます」
「そっかー、仕方がないねー」
グローとナリダが軌道修正を試みる。
「いや、リリさん。諦めないでくれ」
「私達だけではなくて、ファーストさんも一緒に行くのなら、平気ではないかしら?」
リリはファーストを見た。
「今回も、ファーストは残った方がいいんじゃない?」
「何故ですか??」
ファーストの圧を感じたリリは手でどうどうと抑えて言う。
「ファーストって、偵察した範囲を壁とかに投影できるよね?」
ファーストはできますと頷く。
「じゃあ、今のパーティを組んだ状態なら、私が偵察した結果も投影できるよね?」
「やったことはありませんが、おそらくできます」
「じゃあちょっとやってみよう。広い壁がいいよね」
リリ達は立ち上がって、会議が流れている方向の反対にある壁に近づいた。
「じゃあ、やるよ」
リリは無詠唱で〈完全索敵〉を、ファーストも無詠唱で〈投影〉を使った。
壁にビルデンテを真上から見たような映像が現れる。ビルデンテの上には青色の点が縦横無尽に動き回っていた。
リリは自分とファースト、アルバート、サラを示すアイコンを見つけて、自分のメニュー画面上のマップと比較してみる。
「同じのが見えてるみたいだね。これを森でやれば魔物がどんな動きして増えてるのか見れるでしょ」
リリはもし、リスポーンしているのであればいきなり点が増えるのが見えると思った。
ファーストが言う。
「リリ様、現在トレニアが森にいます。トレニアと私を同じパーティに入れていただければ、すぐに森の様子を映すことも可能ですがいかがですか?」
「確かに」
そう思ったリリは、森にいるはずのトレニアをマップから探し始めた。
そして気がつく。
(私の偵察範囲広すぎない?)
リリは自分の索敵によって既に黒の森まで偵察範囲に入っていることに気がついた。
(これってファーストも分かってて言ってるわけだし、トレニアをパーティに入れた方がいいって意味なんだよね? たぶん)
そう納得したリリはトレニアを自分のパーティに入れた。
リリとトレニアのステータスの変化がメニュー画面上に表示される。
「入れたよ」
「かしこまりました」
壁に映し出された映像が西側にずれていき、黒の森に移動した。
こちらも青い点が大量に動き回っていた。
空を走る光は、感心したような雰囲気だ。
「偵察を使うと地図が見えるとは聞いていましたが、こんなに分かるものなんですね」
「偵察を投影する人はあまり聞かなかったが、見せられてもこの量じゃ魔物の位置の把握も難しそうだし当然かもな」
「いつもよくやってるわね」
「いや、普通こんなに色々見えないぞ。というかこれと比較はしないでくれ」
リリは全員に言う。
「この青い点が魔物なんだけど。青の点を見て何か気がついたことがあったら、誰でもいいから教えてね」
そう言うとリリは青色の点が何か変な動きをしていないか見回し始めた。
ファーストが森の西側を指さす。
「リリ様、こちらの青い点ですがビルデンテの方に移動しているように見えます」
リリはファーストがの指さすところを見る。
青い点が縦一列になって左から右へ動いている。
そしてその列の右側には、青い点が一塊になって同じ方向に動いていた。
塊は他の点に近づくと、その点も巻き込んで右へ右へと大きくなりながら進んでいるようだ。
リリは信じられない物を見たような気分で言った。
「なんか追われてない? え、氾濫って何かに追われて森から追い出された魔物が出てきてるとかある??」
空を走る光は渋い顔をして目を合わせた。
ナリダが言う。
「縄張り争いに負けて出てきたって説は聞いたことがあるわよ。でも、あんな積極的に追われたりはしないんじゃないかしら」
ファーストが言う。
「リリ様、トレニアに調査するように伝えました」
ファーストが言うと同時に、トレニアを示すアイコンがすごい速さで移動して問題の青い点に近づいていった。
「トレニアより報告です。聖族のような見た目をした者達が、魔物を追いかけているようです」
聖族はゲームで敵でも味方でも出てきていたので、リリには魔物なのか判断はできなかった。そして、もし魔物じゃないとすると、嫌な可能性しか思いつかないので、ぜひ魔物であって欲しいと思った。
リリは前にも聞いた気がするが、一縷の望みにかけてもう一度空を走る光に聞くことにする。
「聖族みたいな見た目の魔物もいるよね?」
ルティナが申し訳なさそうに言う。
「聖族の見た目を知らないんです」
「聖族はルエールがそうなんだけど、白い羽があるよ。あとは進……強くなると羽の数が増えるのが特徴かな」
空を走る光はルエールを見ると言いにくそうに言う。
「残念だが……」
「ルエールさんみたいな見た目の魔物は聞いたことがないな」
「あともし本当に聖族だったら、魔物だって思う人はほぼいないと思うわよ」
リリは項垂れて話す。
「つまりわざと氾濫に出てくる魔物を増やそうとしてる組織が、森にいるってことだよね……」
「これってもしかしてスルテリスの光の予言を実現させるためにってことですか?」
空を走る光は、今までの予言も裏でこうやって作られてたってことかと気づき慌てだした。
ルティナの言葉にリリは呆れた様子だ。
「えー、もう予言というか、なんか違うじゃん」
リリはため息をつく。
「はぁ、同じ組織だったら、もう予知能力なんて持ってないってことだし、その辺はっきりさせておいた方がいいよね」
「そうですね。非常に僅かですが別の組織の可能性もありますので、その辺りの確認のため、話を聞いた方がいいかもしれません。ですが、捕まえて口を封じるとなるとまた別の問題があります」
「問題?」
「はい、1番からの報告書にあった通り、もし聖族だった場合、実力としては魔族と拮抗している可能性が高いです」
リリは話を聴きながら、魔族と聖族はずっと戦ってるけど、決着がつかないみたいな話だったと思い出す。
ファーストは続ける。
「しかし、現在偵察で見つかっている聖族のような者達には、1番のような実力の高い個体や指揮官と見られるような個体がいないようです」
「まだ別の部隊みたいなのがどこかにいてもおかしくないってこと?」
「そうです。なので今見つけた者達だけを捕まえた場合、異変に気付かれることになるでしょう。逆に、隠れている存在を探すのに時間をかけすぎた場合も、偵察で魔物が増えなければ不自然に思われることになります」
「今見つけた人達に支配かけて場所を聞くとかはダメなの?」
「リリ様がどこまでやるつもりかによるかと。隠れている者達が実働部隊を監視し続けていた場合、何者かの妨害が入ったということには気づかれてしまう可能性が高いです。警戒を強められる程度ならいいですが、撤退されると探すのは困難になります。本拠地に乗り込むつもりがあるのでしたら別です」
リリは曖昧に笑って言う。
「本拠地はやめておこうかな。とりあえず時間をかけずに全員見つけて、どっかに連絡取られる前に言えなくしないといけないってことだね。何かいい方法ある……」
リリは空を走る光に案を聞こうとして、そういえば何も説明していないということに気がついた。
「えーと、どこから分からない?」
グローが聞いた。
「さっきから言ってる1番っていうのは、この間俺達が帰りに店舗で一緒にご飯を食べたあの1番さんってことでいいのか?」
「そうだよ。あと1番達にはさんとかつけなくていいよ」
空を走る光は疑問に思った様子で目を合わせる。
「扱いが悪いのは気になるけれど、それよりも私達では戦いにすらならない相手が裏で動いてるってことを考えましょ」
そうだな、そうですねとそれぞれが考えを振り切るように頷いた。
「今までの予言では、そこまでの強敵が出てきたって話は聞いたことがない。もう一度調べてはみるが、今回も直接敵として出てこないと考えた方が良さそうだ」
「試練の番人が価値を測るという予言ですから、突然変異種と戦っている所は隠れて見ているんじゃないですか。ああ、でも、もし遠視の魔法を使えたら近づいては来ないんですかね」
「予言が実現したかどうか知るために偵察結果は確認してるだろう。スルテリスの光と関係があるなら、そこから辿れそう……いや、ギルドには説明できないから情報を流す人数は絞れないしきついな」
リリは今言われたやつくらいなら、どうにかできそうな気がした。
ファーストを見る。
ファーストはリリに頷いた。
リリはダグに聞く。
「まだ今回の偵察結果は広まってないんだよね?」
「そうだな」
リリはファーストの方を向く。
「じゃあ、とりあえず今の2個で引っかからないかやってみながら、違う方法を思いついたら追加していく感じでやっていこう」
かしこまりました、と言ってファーストは一礼した。
「言っておいてこんなこと言うのもあれだけど、偵察結果見た人全員追うってかなり人数が多くなりそうだよね。人は足りてる?」
「前回グルークの町でも似たようなことをやっているので、それの反省点を活かし効率的に行えば問題ないと思います。ですが今回は国際指名手配されている相手ですので、ビルデンテの外に連絡を取られると追いきれない可能性が高いです」
「うーん、まあ、スルテリスの光の方はビルデンテの中にいる人は全員見つけられればいいな、くらいの気持ちで緩くやってこう。予知能力さえなければじっくり時間をかけてできるから、ちょっとした練習目標としても丁度いいんじゃない?」
ファーストは笑顔で同意する。
「実践相手がいるとなると皆気合が入りますから、訓練効率も上がって素晴らしいですね」
空を走る光は話についていけないと言いたげな様子だ。
「俺達できない話をしたはずだよな」
「ビルデンテの中にいるやつは全員見つけるって緩いのか??」
「私達が知らない所ですごい人数が来てるってことよね……」
「もう1つは何をするんですか?」
ルティナの質問に、リリは思いつきを今全部言ってしまったら面白くないと思った。
リリは非常に楽しそうな笑みを浮かべると言う。
「詳しくは用意してから教えるけど、戦ってる所をどこかから見てるっていうなら、なんとかなると思うよ」
空を走る光は何をするつもりなのか想像もつかなかったが、また突拍子もないことをやるつもりだと思ったようだ。
キャラリックメルの者達は何をするつもりかは分かったが、どうやるつもりなのか分からなかったようだ。
全員がある種の信頼を感じさせる目でリリを見ていた。
リリは1人楽しそうに笑うと聞く。
「ただちょっと準備が必要だから、1回帰らないとね。いつ頃行くことになりそう?」
空を走る光は考え始めた。
ダグが答える。
「会議の結果次第だろうな」
リリは会議のことをすっかり忘れていたので、慌てて映像を見る。
既にそこには誰もいなかった。
ファーストが言う。
「会議は先ほど終わりました。最終的に国からの依頼という形で、突然変異種の討伐は冒険者ギルドに一任されたようです」
「それならいつ行っても大丈夫だ」
ナリダがリリに聞く。
「氾濫は明日のままでいいのよね?」
リリは頷く。
ナリダとルティナが言う。
「それなら今から行かないと間に合わないのではないかしら」
「Sランク冒険者全員でという話でしたから、私たちだけ先に行くのは難しそうでしたね」
リリはこれからやることを考えてファーストに聞く。
「くーとウィルはもう帰ってくるんだよね?」
「はい、そろそろ着く頃かと」
「じゃあ私は準備してくるから、説明とか今すぐに行く理由づけとか任せてもいい?」
「お任せください」
ファーストがそう言うと丁度ドアが開いて、くーとウィルが入ってきた。
「戻りましたワン」
「戻った……よ……?」
ウィルは周りを見て挙動不審だ。
リリは手を振って迎え入れる。
「おかえりー、お疲れ様ー」
くーとウィルは手を振り返しながらリリの元に近づいた。
ウィルが聞く。
「今どういう状況?」
「私は一旦戻るから詳しくはここにいるみんなに聞いてね。じゃあまた後で」
リリはそう言うと、キャラリックメルに転移した。




