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15話 伝説級の武器

 トレニアが真っ先に手を挙げて言った。


「くーが経営のトップなんですから、くーが出てさえいれば何も言われないんじゃないですか」

「確かにリリさんの立場ならできそうだが」

「リリ様が出席しなければならない理由があるのかということですね」

「この馬車の持ち主は誰になるのかしら」

「この馬車は、キャラリックメルでは一般的に使用されている移動手段です」

「かなり無茶ですけど、商人が使えるってことはそう説明するしかない気もします」

「リリさんが氾濫で活躍することはないよな」

「ゴーレムと魔法だけで倒し切れるとは思いますが」

「リリさんは登録で弾かれないように、人を選ぶ武器を持ってきてるんだよね」


 全員の視線がリリを向く。


 リリは今回のために作ってきた武器を思い出して、まずいかもと思う。

 正直なところ、ゲームを攻略する時には使わないような性能だったが、小説や映画で出てきたらテンションの上がる設定だったので、見た目はすごい物のように作ってしまったのだ。


(この世界の美的感覚的に大したことありませんように)


 リリはそう祈りながらアイテムボックスから1冊の本を取り出す。


「これだよ」


 全員がリリが本を持っているのを見て、一瞬理解できないものを見たような顔をした。

 リリは慌てて聞く。


「そんなにおかしい?」


 ファーストも早口で言う。


「おかしくありません。リリ様の手が急に燃えたように見えたので、理解するのに時間がかかりました」

「ああ、そういえば最終的な見た目は言ってなかったね」


 リリはちょっと見た目の火力を強くしすぎたかなと手に持っている本を見る。

 その本は、炎に包まれているというよりは、本当に燃えているかのように刻々と色合いを変化させ続ける見た目をしていた。


 いつまで経っても燃え尽きる様子のない本を見て固まっていた空を走る光は、ファーストとリリの会話を聞いて正気を取り戻す。

 そして現状を理解して途方に暮れ始めた。


「こんなにはっきりと炎が見える武器なんて聞いたことないわ」

「遺物級か、……まさか伝説級だったりしないよな」


 リリは伝説級と聞いて、新人研修の話を思い出す。

 この世界でもゲームとは違う呼び方ではあるが、アイテムをレア度のようにランク分けしていると聞いていたのだ。


「伝説級が外だと1番ランクが高い武器で、遺物級が2番目ってことでいいんだよね。研修の本に書いてあったやつには、ほとんど説明文にどっちかが書いてあったけど、何がまずいの?」


 そこから違うのかと、グローは呟いた。

 ルティナが説明する。


「遺物級は家宝として残っていることや、見つけた冒険者がそのまま持っているということもあります。でもですね、伝説級の物はほとんど国宝として国が持っています」

「国宝を持ってきたって思われるってこと?」


 グローが真剣な様子で言う。


「それも問題だが、それよりも遺物級はまだ見つかる可能性はあるが、伝説級の物が新しく見つかるってことはほぼないってことが問題だ」


 リリは何が国宝を持ってきて偉い人扱いをされる以上の問題になるのか、よく分からなかった。

 伝説になって行方不明だった物が見つかったという話なら、問題になるのは分かる。でも、リリが持ってきた物は特に伝説があるわけではない、ただ強い魔法が使える武器というだけなのだ。


「この本、別に伝説とかないし、伝説級の扱いはされないんじゃない?」


 キャラリックメルの4人はリリの認識を知って遠い目をした。

 ファーストが重要なことを伝えるように言う。


「リリ様、実はそちらの本ですが、伝説があります」

「え、どんな?」


 リリには昨日作った本に一体いつ伝説がついたのか想像もできなかった。


「そちらの本はリリ様が作られた物ですね?」


「そうだね」


「我々からしますと、その本はリリ様が制作者であるという事実が確認できただけで、書物や口伝で残して後世に伝えていくものという扱いになります」


「……つまり私が作ったっていうだけで伝説になると」


 そうなりますとファーストは頷く。


 リリは言いたいことは分かったので、気になることを言う。


「うちのみんながそう考えるのは別にいいけど、外の人たちにそんな説明はできないし、今回の問題には関係ないんじゃない?」

「あるよ」


 あるの!? と驚いているリリにウィルが事実を教えるように言う。


「物のランク付けは伝説のある、なしじゃなくて、鑑定した時に分かる込められた魔力量の多さで判別するんだ。だから、鑑定の結果次第では伝説級って扱いになるよ」


 ウィルは少し緊張した様子で続ける。


「それでね、僕は伝説級の物っていうのは国王とか皇帝とかそういう国の主君に、精霊様がこれで国を守りなさいって授けた物だって聞いて育ったんだ。だから伝説級の物っていうのは精霊様に与えられたとか、それに匹敵する伝説を持ってないと、もしリリさんのことを知らなかったら僕はおかしいって考えてると思うよ」


 リリの頭の中で、元いた世界にも精霊にすごい武器を授けられる話がいろいろあったな、と現実逃避とも今ウィルが言った話そのものとも思える考えが浮かんだ。


 リリはまだ現実を受け止められないと思って聞く。


「伝説がないのはおかしいってことは分かったけど、この本ってそもそも伝説級で決定なの?」


 空を走る光は諦めきれない様子のリリを見て、ほっとしたような雰囲気だ。

 ナリダが言う。


「その本に込められてる魔法はどんな効果なのかしら? それによると思うわ」

「炎で壁を作る魔法だよ」

「それだと中級魔法にも同じ効果の魔法があるから、効果範囲とか、効果時間も説明する時は言った方がいいわよ」


 物は同じなんじゃないかなと思いつつ、リリは言う。


「効果範囲は城壁の長さの4キロ以上で、効果時間は6秒って分かんないよね。ファースト、6秒数えてもらえる?」

「かしこまりました。1、2、3、4、5、6」


 ファーストは正確に6秒を数えた。

 リリはどうかなと思って空を走る光を見る。

 空を走る光はなんだか深刻そうな様子だ。


「効果範囲と効果時間がこんなに両立されてる魔法なんて聞いたことないわ」

「これは確実に伝説級だろ」

「これを作戦に入れられれば4万出てきても勝てそうだしな」

「言葉で説明しても、効果は信じてもらえない気がします」

「鑑定結果が出れば、信じてはもらえると思うけど……、うーん」


 ファーストが悩んでいる空を走る光に声をかける。


「鑑定してもこちらの本の魔法の内容は、不明となると思います」


 空を走る光は予想外のことを言われたのか、ファーストをなぜという目で見て固まった。

 ファーストはそれを受けて続ける。


「今回リリ様が用意されたこちらの武器には、通常、人が鑑定することができないよう鑑定に対する防御が施されています。全てを看破することは不可能でしょう」


 リリはすごい武器だと思ってもらえるように、鑑定のスキルレベルによって、見える情報が制限されるように妨害をかけたのでそれのことだと思った。人が全く読めないようになんてするつもりはなかったので、焦る。


「え、いや、ちょっと初心者を弾いてあるだけだから、設定文くらいなら普通に読めるし、上級者なら効果だって読めるよ」

「リリ様がそう仰られるのであればそうなのでしょう。であれば、ザーツマールの首都ビルデンテにはおそらく上級者がいないので、こちらを鑑定できるものはおりません」

「もう分かるんだね……」


 リリがちょっとやりすぎたかなと考えているところに、ウィルが話しかける。


「リリさん、大勢の人に顔を知られたくないって理由で欠席するのはどうだろう」


「それって理由になるの?」


 ウィルは頷く。


「効果は鑑定できなくても、ランクは分かるはずだからね。伝説級の武器を扱えるって知られて、犯罪者に狙われる可能性を考えれば欠席できると思うよ」


「警備上の理由ってことだね」


 犯罪者に狙われる可能性もあるんだと、リリは危機感を覚えた。そして元々の予定を思い出して言う。


「元々みんなが頼んで連れてきたのが私って設定で、その流れで護衛してくれるって言ってたけど、警備上の理由だとみんなも城に行けなくならない?」


 空を走る光は困ったように笑って目を合わせる。


「リリさん、僕たちは皇城に呼ばれて褒美の話はされないから、気にしなくていいんだよ」

「氾濫が終わった後皇城に呼ばれるのはよっぽどの活躍をしたとか、他の国から援軍で来た兵士とかそういう人達よ」


 ウィルとナリダはリリを見て言った。


「Sランクになったら、そうなることもあるんじゃないかって期待した時はあったが」

「冒険者は氾濫で戦うのが仕事だからな。報酬が出るだけで十分だろ」


 グローはダグの言葉に違いないと頷いている。


「あ、でも氾濫が終わった後、冒険者割引きでいろんなお店で買い物できるのはご褒美みたいじゃないですか」


 空を走る光はルティナの言葉を聞いて、確かにと笑った。

 リリは冒険者割引きと聞いて、期間限定の感謝セールみたいなものだと思った。


「そんな割引があったらすごい人が殺到しそうだね」


 空を走る光はその通りというように頷く。


「町中で勝利をお祝いしてくれるから、いつも人で溢れかえってるよ」

「その時限定で屋台が出るんだが、そこで買うとなぜかいつもより美味く感じるんだよな」

「そのせいで食べ歩きする人が多いぞ」

「おかげで、その町の食べ物に詳しくなってる気がするわ」

「あとですね、すごいのが教会で――」


 コンコン


 ペガサスがいる方から窓を叩く音がする。

 全員が音のした方を見る。


 馬車は動くのをやめ、御者とペガサスが振り返って、何か言いたそうにこちらを見ていた。

 トレニアが立ち上がって、リリに言う。


「アタシが聞いてきますね」


 リリのよろしく、という言葉を聞いてから、トレニアは瞬間移動したように窓の前に移動して窓を開けた。


 リリはトレニアが一瞬で移動したのを見られたので、少し感動してファーストを見る。

 ファーストはリリの視線の意味を少し考えた後、まじめな顔をして言う。


「リリ様がお望みであれば、あの速度で行動いたしますが」


 リリは少し迷った。


「あの感じで動くファーストは正直ちょっと見てみたいけど、ずっとやって欲しいかって言われるとそれはなんかやめて欲しい……」

「リリ様ー!」


 トレニアが声をかけてくる。

 リリがトレニアの方を見ると、トレニアが走ってリリの方に近づいて来ているのが見えた。


 トレニアはリリの前で止まる。

 リリは帰りは普通に走るんだねと思ったが何も言わなかった。


 トレニアは言う。


「お待たせしました。フクが言うには、ビルデンテがそろそろ見えてくるそうです。このまま進んでも大丈夫か確認したいようですが、どうしますか?」

「もう着くんだね」


 トレニアの言葉を聞いた空を走る光は、日が真上に来ていないのを見て早すぎると言っている。

 リリはファーストに聞く。


「あと何か話すこと残ってる?」


 ファーストは滞りなく言う。


「先ほどの、リリ様が欠席される理由とそちらの本の伝説についてのみだと思われます。偵察の結果についての報告は終わっていますので、トレニアが調整後の数をキャラリックメルに持ち帰れば元々予定していた内容は終わりです」


 リリは分かったと言って、サクッと決めることにした。


「まず欠席する理由だけど、ウィルが言ってた大勢の人に顔を知られたくないからで問題あると思う人いる?」


 馬車の中にいる全員が、ないと伝えるように首を振った。

 リリは問題ないと判断する。


「じゃあ欠席する理由はそれでいいね。まだ招待もされてないのにどうやって欠席を伝えるのかよく分からないから、その辺は任せたよ」


 キャラリックメルの4人はお任せくださいと言って、空を走る光は頷いて返事をする。

 リリは続ける。


「それからこの本に伝説がないとおかしいって話だね。まあ、これに関してはキャラリックメルの秘密だって言って全部断っちゃえばいい気もするけど、さっきの感じでいいなら伝説を作るくらいすぐできるし」


 少し遠い目をしている空を走る光をスルーしてリリは言う。


「ということでトレニア、この本に風の加護かけてもらえる?」


 トレニアはワクワクした様子で聞く。


「私がやっていいんですか」


 リリはトレニアの才能の名前を思い出して、笑って言う。


「もちろんだよ。思いっきりやってね、風の精霊王!」


 トレニアは目を輝かせる。

 空を走る光は嫌な予感がした。

 ファーストが言う。


「リリ様、トレニアが今ここで思いっきりやった場合、氾濫が起きると思われますがよろしいですか?」


 リリとトレニアが一瞬固まる。

 リリは言う。


「氾濫は良くないね、どんなものでも加護は加護だし、氾濫が起きないくらいでかるーくやろう」

「分かりました! かるーくですね」

「それなら平気だよね」「それなら平気ですね」


 2人は揃ってファーストを見る。

 ファーストは頷く。


 ファーストのOKが出たので、リリはトレニアに向かって本を差し出して言う。


「じゃあ、お願いね」


 トレニアは元気よく返事をして、手を本にかざす。


「〈風の加護〉〈移り行くもの〉」


 トレニアの手から緑色のささやかな光が本に向かって降り注ぐ。

 降り注いだ光は本に当たって吸い込まれるように消えていった。

 リリは本を見て笑顔で言う。


「ありがとう、トレニア。これで風の加護がついたね」

「リリ様に任せてもらえてアタシも嬉しいです」


 トレニアも笑顔になった。

 リリはトレニアに笑いかけてから、空を走る光に聞く。


「これで伝説は問題ないと思うけど、どうかな?」


 空を走る光はあまりにあっさりした光景に拍子抜けした様子だ。

 ウィルが言う。


「見た目からはよく分からなかったんだけど、加護はついてるんだよね」


 リリは少し残念そうな様子だ。


「かるーくだから見た目は仕方がないね。加護はついてるよ」


「加護がつくほどなら大丈夫だと思うよ。ただ風の精霊って種族は聞いたことあるけど、精霊王についてはよく知らないからどういう扱いになるのかは分からないかな」


 リリは一応確認する。


「風の精霊は魔物扱い? それとも人?」


 空を走る光は悩んでいるようだ。


「冒険者に風の精霊がいるって聞いたことはあるよ」

「討伐依頼でも風の精霊を見たことはある」

「風の精霊を召喚する伝説があったと思います」

「風の強い場所には風の精霊がいるって習ったわ」

「風の精霊が風を吹かせてるって話は、ナリダと被ったな」


 空を走る光は、残念そうに言うダグを見て笑っている。

 リリは風の精霊の扱いが人によってだいぶ変わりそうな気がした。


「そんなにバラバラなら、風の加護は鑑定で見えるだろうし、精霊王のくだりはなしで言うことにしよう」


 キャラリックメルの4人は仰せの通りにと合わせて言って、空を走る光は分かったとそれぞれが言った。


 リリは全員を見て話す。


「これで今決めることはもうないよね」


 全員がリリを見て頷いた。

 リリは笑顔で言う。


「じゃあ会議はこれで終了ということで、あとはビルデンテに着くまでのんびりしよう」


 さっそくリリがソファーに沈み込んだのを見て、各々笑った。

 ファーストが聞く。


「リリ様、馬車は出発してよろしいですね」

「そういえば止まってたね。もちろんいいよー」


 ファーストはペガサスに連絡し始める。

 トレニアは立ち上がった。


「リリ様、アタシは報告の内容を持ち帰りますね」

「よろしくねー。後で偵察やってる全員に分けてって差し入れ送るから、代表して受け取ってもらえる?」

「それはみんな喜びますね! お任せください」


 トレニアは笑って、リリに失礼しますと声をかけてから、旗を使ってキャラリックメルに転移していった。


 リリはトレニアを見送って、忘れないうちにとメニュー画面を開く。そしてトレニアに差し入れのジュースを樽で送った。


 リリがメニュー画面から目を離すと、馬車の中から見える風景が動き始めていた。

 馬車は森から進路を街道に変え、進んでいる。

 リリは今回の旅行のルートを思い出して、本当に最後の方だねとしみじみと思った。





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