11話 馬車に乗る
朝、黒の砂と空を走る光が、黒の森の中を歩いている。
ピーちゃんは空を走る光を眺めて言った。
「遠征の時はいろんな国からたくさん冒険者が集まるから、同じような見た目の物を身につけて、同じパーティの人だって分かりやすくした方がいいって話だったよね」
空を走る光は青を基調とした色合いの統一感のある装備を着ている。
「そうだよ」
「その装備って私があげたやつだよね。いきなり装備がガラッと変わったら、久しぶりに見た人が混乱するんじゃない?」
空を走る光はきょとんとした様子でピーちゃんを見る。
そのあと何かに気がついたような顔をしてウィルが言った。
「ああ、僕らはいつも森の王の角から作った飾りを武器につけてるから、大丈夫だと思うよ」
ウィルは剣の鞘についている飾りをピーちゃんに見せた。
ピーちゃんは少し感動したような声で言う。
「この飾りってそういうやつだったんだね」
ピーちゃんは黒の砂で揃えてきた、アンティーク調のゴーグルを見る。
(いつか黒の砂にも討伐を記念した飾りを作れたら楽しそうだね)
ピーちゃんが黒の砂の将来に思いを馳せていると、大きな広場のような所に出た。
サラが肩の上のピーちゃんに声をかける。
「ピーちゃん 、到着したようです」
「気づかなかったよ、ありがとう」
ピーちゃんはどの辺りに、転移させようか周りを見渡す。
空を走る光が楽しみだと言いたげにしている様子も目に入った。
「なんか楽しそうだね?」
空を走る光は顔を見合わせて、笑って言う。
「だって王族くらいしか乗れないって話の馬車に乗れるんだよ」
「最初聞いた時はやめた方がいいと思ったが、乗ることになったんなら楽しまないと損だしな」
「どんな景色が見られるのか楽しみだわ」
ピーちゃんは、私も初めてなんだよねと内心笑いながら言う。
「じゃあ呼ぶよ」
純白の馬の体を持ち、2枚の白い翼が生えた存在が現れた。
ペガサスと呼ばれるこの存在は、この世界ではその希少さと見た目の神聖さ、そして獰猛な性格から様々な力を持った王家でなければ飼うことはできないとされている。
それが計8頭、2台の馬車を引く存在として目の前に転移された。
空を走る光は、あのペガサスが目の前にという雰囲気で喜んでいる。
ピーちゃんは、ペガサスかわいいよねと頷いている。
アルバートとサラはその光景を微笑ましく見ている。
三者三様の笑みを浮かべていると、ピーちゃんから見て右側にある馬車の扉が音もなく開いた。
空を走る光とアルバート、サラは気配に気がつき、馬車から出てきた人影に声をかける。
「おはよう、ファーストさん」「おはようございます。ファースト様」
ファーストもかけられた声を認識した。
「おはようございます。皆さん」
その声で気づいたピーちゃんはファーストの方を向いて言う。
「どうだった?」
ピーちゃんは転移ポイントを移動する馬車につけても大丈夫かの確認を、ファーストに頼んでいた。
ファーストはピーちゃんに近づく。
「おはようございます、ピーちゃん 。問題なさそうです」
さっきまで目の前にいたのに、と内心笑いながらピーちゃんも言う。
「おはよう、ファースト。確認ありがとう」
ピーちゃんはそう言うと動きが止まった。
ファーストが出てきた馬車から、歩く音がする。
ファーストは後ろを振り返った。
開いていた扉から、ファーストや黒の砂と同じ、歯車の装飾のついた装備のリリが出てくる。
全員の方を見て笑って言った。
「おはよう、みんな」
全員が面白そうに笑ってバラバラに挨拶を返す。ピーちゃんもおはよう、リリと言った。
リリは笑顔のまま手招きして言う。
「今日からしばらくよろしくね。みんなは全員こっちの馬車だよ」
空を走る光は馬車を見る。
頑張って6人乗れるかどうかという大きさだ。
ウィルが言う。
「この大きさだと全員は乗れないんじゃないかな」
「見れば分かるよ」
そう言うとリリは中に戻る。
黒の砂とファーストも続いた。
空を走る光は、木製の白い馬車を前に、不思議そうに顔を見合わせる。
宝石や金などによる装飾を軽く見てから、リリの後を追った。
9人が入ってもかなり余裕がある空間には、ソファーやテーブル、お茶を入れるスペースなどが揃っていた。
床は半透明な素材でできており、下の地面がよく見えるようになっている。
馬車の中に入った空を走る光は驚いたような疲れたような雰囲気だ。
「こんな馬車見たことないです……」
「広すぎるな……」
「これじゃあ普通に部屋みたいよ……」
「これ下はガラスか……?」
ウィルは一応言っておこうという雰囲気で言った。
「リリさん、普通部屋を大きくする魔法を、馬車なんてすぐ壊れるようなものにかけたりしないよ。家建てた時に知ったけど、これかなり高いんだよ……」
リリは異世界では家を建てる時のオプションに空間拡張があるんだねと、謎の感動を覚えた。
「そういう感じなんだね。でも、この馬車はただ広いだけじゃないよ。〈起動〉」
リリがそう言うと、真っ白だった壁と天井が透明になったかのように外の様子が見える。
空を走る光は驚いて慌て始めた。
「壁を透かして覗くような魔法はあるけど、壁を誰から見ても透明にする魔法は見たことないよ!」
「それよりも、外から丸見えだったらまずいんじゃないか」
と言って、グローが一度外に出た。すぐに戻ってくる。
「外から中は見えないみたいだ」
「それはそれでどうなってるのよ……」
ナリダの言葉と同じことを全員が考えたようで、空を走る光はグロー以外が一度外に出て本当に透けていないことを確認して戻ってきた。
歩きながら疑問符を飛ばしている様子を、カラクリを知っている4人は笑って見ている。
スキルを使うと、簡単に本物みたいな映像が流せるんだよねと思いながらリリは言った。
「とりあえず、外だとこういう使い方はされてないみたいだし、誰かに見られそうな時は切るように隣の馬車に言っておいた方がいいよね」
「そのようですね。連絡しておきます」
「よろしくね」
ファーストは隣の馬車に〈通話〉で連絡し始める。
リリはまだ考えている様子の空を走る光に、笑って言う。
「みんなは答えが分かったら教えてね。きっと似たような魔法があると思うよ」
「そうするよ」「ああ」「分かったわ」「そうだな」「そうします」
空を走る光は考えに沈んだ様子のまま、それぞれ返事をした。
ファーストがリリに連絡が終わったことを伝える。
リリは頷いた。
「じゃあ出発だね」
リリは馬車のペガサスがいる側の壁に近づく。
全員がリリを見ていた。
リリは壁についている窓を開ける。
「みんな、馬車引くのよろしくね」
ペガサス達が振り返って言う。
「私達にお任せください」「が、頑張ります」「リリ様には安心安全の旅を提供するっす」「リリ様とお出かけなんて楽しみです」
空を走る光は目を合わせる。
彼らは目だけでお互いが何を言いたいか分かったようだ。
(ペガサスも話すんだな……)
(だから御者がいないのね……)
ウィルが伝える。
「リリさん、御者いないとさすがにおかしいよ。あと、ペガサスは普通話さないよ」
リリは御者の存在を言われて思い出した。
「みんなには、ザーツマールに着いたら話さないようにって、言ってあるから大丈夫だよ。それよりも御者は普通に忘れてたね」
ファーストは当然のように言う。
「はい、空を飛べるものに任せましょう。御者とは何かから説明してくるので、少し時間をいただきます」
「え、うん、任せたよ」
ファーストは馬車を出ていった。
リリはよその馬車に乗ったことのない人にファーストが、どう説明するのかを考えてみる。
(確か普通は手綱とか使って馬に指示出すんだよね? ……ペガサスに手綱なんてつけてたっけ)
リリは慌てて、アイテムボックスから手綱と書いてあるものを、手当たり次第に取り出す。
両手いっぱいに抱えた状態でリリは言う。
「これ持ってるか聞いて来るね」
「「運ぶのは私達にお任せください」」
アルバートとサラがリリから手綱を受け取って、出ていく。
その後をついて行こうとしたリリには、空を走る光が思い思いに言っている言葉が聞こえた。
「全員が話せるとこうなるんだね」
「本当に全員話せるって実感してきたわ」
「ただ馬車に乗るだけでここまで違うなんてな」
リリは常識って難しいよねと思って馬車を出た。




