8話 話し合い
MPポーションで魔力が回復していたんだからMPと魔力は同じだよねという話や、メニュー画面自体は見えなかったという話をしていると、アルバートとサラが到着する。
「お待たせいたしました」
豪華な装飾の施された白い服で身を包んだ2人は、リリに優雅に一礼した。
拠点仕様の2人を初めて見た空を走る光は、2人の普段の生活がさらに想像できなくなったようで、ポカンとしていた。
リリは笑って2人に手を振った。
「よく来てくれたね、ふたりとも。とりあえず、前の方にどうぞー」
アルバートとサラは、はいと返事をしてから、左側の列の一番前に並んだ。
リリはファーストの方を見る。
「ファースト、説明お願いしてもいいかな」
「お任せください」
ファーストは1歩前に出て、話し出す。
「ザーツマールで起きる氾濫について、追加の情報になります。――」
ファーストはスノージャイアントの集落がある雪山で、氾濫が起きることが分かったこと。戦力を分けた結果、ザーツマールの首都が落ちてもおかしくないような状況になったこと。それを踏まえて、ウィルがザーツマールを助けるために、リリに力を貸してほしいとお願いをしたことを、地名や氷の杖などの話も入れながら説明した。
「――以上になります」
そう言って、ファーストは1歩後ろに下がる。
リリはファーストにありがとうと声をかけてから、今この場にいる全員に言う。
「それでね、みんな。私はどうにかして助けてあげようと思ってるんだ。でも、私達のことがそのままバレるのは問題があるよね。だから、今から話し合って、外にバレてもよさそうな範囲でどうにかできないかを考えるよ」
キャラリックメルの全員が仰せの通りにと言った。
リリは空を走るの方を見て言う。
「という訳だから、空を走る光のみんなも一緒に考えてくれるかな?」
「僕達が頼んだんだから、できる限りの協力はするよ」
リリは頷いてから、また全員に言う。
「じゃあ、質問も提案も自由にしていいから、思いついたことをどんどん言っていってね」
リリはとりあえず助ける方向で動くということだけ伝えて、全部放り投げてみた。
外の常識も、拠点の常識も、よく分かっていないということにリリは気がついてしまった。だから、とりあえずどんな感じなるのか見ていようと考えている。
代表たちが顔を見合わせた。人類の敵にならないように行動したいと、リリが言っていたことは全員知っている。
プニプニが一回転して前に出ると、空を走る光を見て言った。
「さて、まず君達に聞いておきたいのだがね。もし私のような見た目の者が、君達が見たあの大きさになって、氾濫で出てきた魔物たちを引いて倒していったとしたら、外にいる者達はどう対応するつもりかな」
いきなり何言ってるの、とリリと空を走る光の心は一瞬同じだった。
空を走る光は動揺を隠して、もしそうなったらを考え始めた。
リリはいきなり敵認定されそうだなと思いながら、空を走る光が考えている様子を見守っている。
ウィルはあまりいい想像はできなかったのか、難しい顔をして話し出す。
「まず氾濫の時にプニプニさんが出てきたら、攻撃が効くかは試すと思うよ。事前の話の持って行き方次第で対応は変わるけど、対策できるのかは話し合われることになるね」
空を走る光の全員が似たような想像をしたようで、頷いている。
代表たちは冷静に各々がどうしたら良さそうかを考えていた。
リリは試しに攻撃してみるなんて勇気があるなと思う。
プニプニは瞬きするとすぐに、また聞いた。
「ふむ、ではルエールのような見た目の者が、魔法で殲滅した場合はどうだろう」
プニプニがルエールを見る。
ルエールは人当たりのいい笑みを浮かべながら、空を走る光に向かって手を振った。
ウィルは少し考えた後、頷いて言う。
「いきなり攻撃はされないけど、対策については考えると思うね。それに、力を見せて欲しいって言って、挑んでくる人が結構いるんじゃないかな。国も含めていろんな人が、ルエールさんのことを知って仲良くなろうと行動するはずだよ」
意外に思う、面倒だと思う、利用できそうだと思うなど代表たちの反応は様々だ。
リリは挑まれたら、魔法使った時点で相手が死にそうだなと思った。
プニプニは頷く代わりに、ゆっくりと瞬きして言う。
「なるほど、では君達より少し弱いくらいの者を、1千人ほど連れていった場合はどう思われるかな」
空を走る光は少し驚いた様子だ。
ウィルが困ったような調子で言う。
「うーん、1千人はちょっとどうなるか想像できないよ。100人くらいなら、どこかに隠れ里みたいな場所があるって皆考えるだろうね。実力者が多いから、よっぽど危険な場所にあるんだろうって、想定すると思うよ」
「一応言っておくが、種族的に強いって訳じゃなければ100人でも多過ぎるくらいだ」
グローが補足を入れた。
プニプニはどれが一番いい反応か、考え込んでいる様子だ。
ファーストが聞く。
「隠れ里とは?」
「隠れ里っていうのは、国から離れた人たちが寄り集まってできた村みたいなものだよ。隠れてる理由はその里ごとに違うから、一纏めにはできないけどね」
リリは、まあ、うちもそんな感じだよねと思いながら聞いている。
ファーストは頷いて、問題点を口にした。
「同じ種族の者で100人揃えるとなると……」
「ゴーレムを使ってはどうだ。あれは材料さえあれば同じ物がいくらでも作れる。いきなり実力者が大量に現れるよりは納得できるのではないか?」
「あ! それいいね、カーヘル! あれだったら誰でも使えるから1日もあれば練習できて良いんじゃない」
代表達もそれはよさそうだと、それぞれが口にした。
カーヘルはトレニアに呆れたように言う。
「作る時間が計算に入っていないのだが……。まあ、それはいい」
カーヘルはリリの方を見た。
「リリ様、ゴーレムを使用するのはいかがですか?」
「うん、元々氾濫で試すつもりだったし、いいと思うよ」
カーヘルは胸に手を当てて頭を下げた。
「ありがとうございます」
空を走る光はこの場所で見せてもらったゴーレムを思い出したようだ。
難しい顔をしてウィルが声を上げる。
「えーと、カーヘルさん」
「なんだ」
「ゴーレムって前に、ここで見せてもらったやつだよね?」
リリが割り込んで言う。
「あれとは違うやつだよ。飛べないし、鉄製だよ。写真あるから見せるね」
と言ってリリはゴーレムバトルの時の写真と、ゴーレムコントローラーを取り出す。
リリは無詠唱で〈浮遊〉〈移動〉を唱えた。
写真が浮いて空を走る光の前に移動する。見やすい位置でピタッと止まった。
空を走る光は写真を見る。
巨大な鉄製のゴーレムが戦っている様子が、写っていた。
「鉄製ってことはかなり強そうだな」
「この大きさは見たことないよ」
「周りに人はいないみたいですけど、どうやって指示しているんですか?」
リリがコントローラーを持ち上げながら言う。
「指示はこのコントローラーでやるよ。ボタンを押したら決まった形の攻撃とか防御をやってくれて、このスティックを倒したら倒した方向に移動するようになってるよ」
ウィルが聞く。
「指示できる距離はどうなってるの?」
リリはカーヘルに聞いた。
「どれくらいいけたっけ?」
「1キロは試しましたがそれ以上は分かりません」
「1キロもよく試したね……。えーと、1キロメートルで通じる?」
ウィルは分からないと言いたげに首を振った。
「メートルはどこかで聞いたような気がするけど、普段使われてないから想像ができないかな。距離は冒険者ギルドではレールがよく使われてるよ。グルークの町の城壁がだいたい6千レールだね」
ファーストが計算して言う。
「では1キロは約500レールになります」
空を走る光は耳を疑った様子だ。
「500レールもあったら」
「魔法よりも先に攻撃できるわ」
「前衛の前でスノージャイアントの代わりができるな」
「魔物の誘導もやらせられるんじゃないか」
「治さなくて良いなら、回復役も攻撃に参加できそうです」
全員が写真を見ながら、色々できそうだと言い合っている。
デモクがカーヘルに聞いた。
「外で真似されないか?」
「実物を見てしまえば構造は分かる、とは思う。だが、そもそも技術を極めないと真似はできないぞ」
乙姫が悩ましげに言う。
「たった100体で足りるのか?」
「スノージャイアントだって多くても50人くらいだよ」
「なんと、それで足りているのか?」
ウィルは困ったように答える。
「冒険者もいるからね。今回は魔力ポーションさえ尽きなければ、いくらでも大丈夫なくらい集まる予定だったんだよ」
ぼーんが聞く。
「今、首都に残る予定の戦力は如何程の魔物に対抗できるのだ?」
「氾濫の時はグレイトホーンだけじゃなくて、森の奥から色んな種類の魔物が出てくるんだ。ザーツマールだと空飛ぶ魔物が結構多いかな。そういうのを含めるなら、2万は超えるけど、グレイトホーンだけなら1万2千くらいだよ」
リリは1万とちょっとくらいしか出てこないと思っていたので、驚いて聞く。
「え、出てくるのは1万じゃなかった? そんなに出てきそうなの?」
ファーストがすかさず言う。
「リリ様、つい先ほど確認したのですが、空を走る光はギルド長より、黒の砂にあいまいに情報を伝えるように言われていたようです」
リリはファーストを見る。
「なんで?」
「狙いとしては冒険者ギルドで開示された情報を、自分たちで直接確認する習慣をつけたいようでした。他の冒険者から聞いた情報が誤った情報だった時に困るということを身をもって体験させ、教訓にしようと考えているようです」
「誤った情報? えーと、嘘はついてないんだよね?」
「そうですね。ただ、どれくらいの数が出ると予想されているかという情報をあいまいにして、危機感を煽らないようにしているようでした」
リリはあの話だけでも十分危ないと思ったけど? という気持ちでウィルを見る。
ウィルは少し気まずそうに言った。
「……今、2万は出てくるんじゃないかって言われてるよ。記録では10万を超えたこともあったみたいだから、まだ増えるんじゃないかって予想してる人が多いね」
グレイトホーンって一体……、リリはまた悩み始める。
カーヘルが聞く。
「グレイトホーン以外の魔物は何がいるんだ? 他の魔物の対策も必要なら、ゴーレムに動きを追加しておこう」
ウィルが考えている様子で言う。
「普段通りなら、Dランクの人たちが相手するような魔物が多いよ。銀狼、八足鹿みたいに足が速いやつとか、あと飛ぶ魔物だったらスウーパとスコールだね」
ウィルはカーヘルの方を見て付け足す。
「一応言っておくと、銀狼とか八足鹿みたいな中型の魔物は城壁を壊したり登ったりできないから、最悪後回しにしても大丈夫だよ。それにザーツマールでは飛べる人も多いから、スウーパとスコールもEランクの人たちでも狩れるくらい弱いって思われてるみたいだね」
「分かった、中型の魔物対策の動きは検討しておこう」
リリは飛べるだけで討伐のランクが上がるなら、ピーちゃんもランクが高い使役獣かもしれないと思った。
ぼーんが聞く。
「基本的な作戦は、遠距離から魔法で攻撃し、生き残った魔物を前衛が狩っていくというもので相違ないか?」
「そうだよ」
「守る必要のある城壁の範囲は?」
「黒の森に面してる所だけに纏めるから、だいたい2千レールだね」
ファーストが変換して言う。
「約4キロですね」
(広すぎない?)
リリは漠然としたイメージしかできなかった。
ぼーんはしっかりイメージできた様子で聞く。
「後衛の数は?」
「Cランク以上の実力者で、1900人は超える予定だよ。1レールに1人って考えるから、ほとんど余りなく並べる感じだね。でもBランクが約200人、AとS合わせて40人くらいだから、ほとんどがCランクくらいの実力の人になるよ」
グローが付け足す。
「前衛もCランク以上で2600人くらいにはなる予定だ。Bランクが300人、AとS合わせて60人くらいは集まるはずだ」
「ふむ、それではゴーレムを入れてもギリギリではないか」
(ギリギリなんだ……)
リリはぼーんが言うからそうなんだね、と思って聞いていた。
ダグが聞く。
「スノージャイアントだったら100もいたら十分なんだが、何が違うんだ?」
「このゴーレムでは近接魔法が使えないんだ。だから装備を工夫するか、数を増やすかしないと全てに対応しきれないのは確かだろう」
「あー、確かに2万頭以上出てきたら、引き付けられないと厳しいな」
カーヘルの返答にダグは納得した様子だ。
トレニアが思いついた様に話し出す。
「あ、それなら、出てくる魔物の数の方を変えちゃえば良いんじゃない?」
ファーストが頷いて言う。
「それはいいですね。偵察を行い、多い分を減らしてしまえば問題は無くなります」
他の代表達も、そうですな、いいですねと賛成している。
ルエールがのっかるように言った。
「それなら減らすついでに、氾濫のタイミングもこっちで決めようよ。さっさと起こして、首都の戦力が動けるようになれば、スノージャイアントの方に僕達が何もしなくても平気でしょ」
代表達はルエールらしい意見だなと笑っている。
空を走る光は、色々おかしい、それができるなら、などと言いたいことはあるが言えない様子だ。
リリはうちの子がゴメンねと思った。
プニプニが全員を見渡しながら言う。
「あとは誰なら行けるかですな」
「リリ様、ここに集めた者達が候補ということで、よろしいのですね?」
リリはファーストに頷いて言う。
「そうだね。もう分けてもらっていいのかな?」
「はい、そうしましょう」
リリは空を走る光を見て言う。
「みんな、ここにいる全員を見た目で、人と人じゃない人に分けてもらえる?」
ウィルが気を取り直して返事をした。
「分かったよ。……もしかして、ザーツマールに行ける見た目の人を選ぶために呼ぶ予定だったのかな」
「まあ、それもあったね。私から見て右側に人、左側に人じゃない人って感じでよろしくね」




