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7話 命令

 直轄地エリア、機械の国にある機械の城。


 その城は機械の国でもすごく浮いた存在だった。

 周りは高層ビルが立ち並び、近未来都市といった景色だ。


 そこに突然、周りのビルにも劣らない、むしろ頭ひとつ分飛び越えた高さの、ファンタジー色に溢れた城が建っている。

 風車がそこかしこに取り付けられクルクルと回っていた。

 垂れ幕がヒラヒラとなびいている。

 サーチライトがそこかしこを照らしていた。


 リリは動くものがたくさんついたその城の、玉座の間に1人でたどり着く。

 リリは機械の城に転移すると同時にファーストと空を走る光と別れ、戦闘モードで走って移動してこの玉座の間に先回りしていた。


 玉座の間にはファーストを除く代表全員と、形が人に近い種族の者たちが大勢揃って空を走る光を出迎えようとしていた。

 リリは玉座に小走りで近づきながら聞く。


「全員揃ってる?」

「準備はバッチリですよー!」


 トレニアの声に続いて、その場にいる全員が準備はできていますという内容の声をリリに投げかける。

 リリは玉座に座ると、周りを見渡した。


「みんな、これからよろしくね。ちょっとだけ決めたけど実際の王族のマナーなんて知らないから、大事なのはノリと勢いだよ」


 全員が楽しそうに笑いながら、お任せくださいと言った。

 リリはアイテムボックスから、王冠を取り出してかぶる。


「どう? それっぽいかな?」

「とてもよくお似合いですよ」

「ありがとう」


 いなもは嬉しそうに、尻尾を振っている。


「それから、みんな。さっきファーストと話してて気づいたんだけど、やりすぎると吐くかもしれないみたいなんだよね。だからほどほどでお願いね」


 それは難しい気が、という雰囲気を全員が漂わせ始めた。

 デモクが言う。


「俺たちがちょっとでも威圧した時点で、無理じゃないですか?」


 リリは目を泳がせた。


「一応命令で吐かないでねとは言っておいたよ。効果あるかは分からないけど」

「意識的にやることじゃないですからね。リリ様が命令し終わった時点で、やめておきますか?」

「吐いた時点でやめてあげてね。もうそこまでいったら彼らも余裕ないでしょ。吐かなくても命令終わったらやめていいよ。みんなの話聞いてると話すのも難しそう」


 全員がはい、リリ様と言った。

 そろそろ着くという合図がはいる。


「そろそろ来そうだね。じゃあみんな、気分は王様と臣下だよ」


 全員が面白そうに笑ったあと、真剣な顔になって頷いた。



 扉が重厚感を感じさせる動きで、開いていく。


 空を走る光は目の前に現れた、とてつもなく広い玉座の間を見渡した。

 玉座の間の中は天井から巨大なシャンデリアがいくつも垂れ下がり、部屋全体を明るく照らしている。壁にはタペストリーや時計が、その下には機械仕掛けの武器や防具が飾られていた。赤くて柔らかい絨毯が玉座まで続いている。


 機械の城の玉座の間という、空を走る光が見たことのない豪華な光景だ。


 だが、それらは空を走る光の目にはあまり入らなかった。

 彼らは、絨毯を避けるようにして立っている大勢の存在に気をとられている。


 空を走る光が知っている人や魔物に似た存在。

 エルフ、ドワーフ、獣人、巨人、小人、ドリアード、人魚、ケンタウロス、オーガ、バンパイヤ、オーク、スケルトンなど。


 彼らの知らない人に近い形をした存在。

 黒い影そのものが人型をとったような者、赤い顔で鼻が長い者、全身が金属でできた人型の者、見た目は人だが体の一部が明らかに人ではない特徴を持っている者など。


 そんな存在が玉座の間を埋めるように、並んでいる。


 そして少し高い位置にある玉座と同じ高さの所に、少し間を開けて8人が立っている。

 プニプニ、デモクは知っていた。


 残りの6人は彼らの知らない存在だ。


 つなぎを着た男の子、4枚の羽を持った可愛らしい服を着た女の子、4本腕の白銀の鎧を着た巨大な存在、白い羽を12枚持った男性、8つの黄色い尻尾を持った赤い服を着た女性、背が高くピンクがかった青色の鱗の生えた顔にドレスのような服装から女性であろうという存在がいる。


 最後に玉座を見た。

 そこには王冠を被ったリリが座っている。


 玉座の間にいた全ての存在が、空を走る光を見た。リリを除く全員が、少しだけ威圧的な雰囲気を纏っている。


 空を走る光は今まで何度も招待され、色々な国の玉座の間に入ったことがある。

 だが、その時とはあきらかに違う雰囲気だと彼らは思った。


 騎士はいたが、威厳を出す為に行われた威圧はここまでのものではなかった。

 そして、実力差というものが、はっきりとこの世界では存在している。隠す気がなければ、動きを見なくとも感覚で分かるほどだ。

 だから、玉座の間にいる存在から漏れ出ている威圧的な雰囲気は、空を走る光にとって、少しといっていいものではなかった。


 空を走る光は圧倒的な実力差を、鋭敏に感じ取ってしまった。


 手や足が冷えていっている。体が押さえつけられているように重い。今自分が息をしているのかさえ分からなくなる。

 奇蹟はここまで届くのだろうかと、当たり前のことさえ不安になった。


 ファーストが後ろを振り返る。


「皆さん行きますよ」


 そう言ってファーストが歩き出した。

 空を走る光は声をかけられて、我を取り戻す。

 そして足を踏み出そうとした瞬間に、思い出す。


 ここでしてもらったことだって、奇蹟のようなことだった。


 ぞわっとした感覚が背筋を通り抜ける。

 全身に鳥肌が立つ。


 空を走る光はこの瞬間になって初めて、自分達が今どこにいて何に向かってお願いをしたのか、について理解した。


 ファーストがゆっくりと前を歩いている。

 空を走る光はそれについていくだけで、精一杯だった。



 リリには空を走る光がおぼつかない足取りで歩いているように見えた。彼らは何をどうやって感じているんだろうと、疑問に思う。

 リリには一切威圧感は感じられなかった。

 リリを威圧する気がないというのもある。だが、そもそもリリの方が実力が上なので、じっと見られていることしかリリには分からないだろう。


(威圧の効果は出てるみたいだけど、結局何してるんだろう。見てるだけだよね。……威圧するぞって思いながら見たら威圧できたりしてね。って危ない、威圧しない、威圧しない)


 リリはもし本当にできた場合、戦闘モードと同じように、今考えただけで何かが出る可能性に気がついた。なので、心の中で否定している。


(一応今は空を走る光は見てなかったし、セーフでしょ)


 リリは周りを見てみるが誰かに分かる範囲では、何も出なかったようだ。


 ファーストが空を走る光に止まるように言う。

 そしてファーストは段差を登り、リリに一番近い位置で代表と同じ場所に立った。

 ファーストが話し出す。


「リリ様、空を走る光を連れてまいりました。前から順にウィル、グロー、ルティナ、ナリダ、ダグです」


 リリは何も言わずにゆっくりとした動きで頷いた。

 ゆっくり動くと貫禄が出ると聞いたので、できるだけ実行するつもりだ。


 その様子を全員が見ている。

 ファーストが全員に聞こえるように声を張る。


「みな、我等の王よりお言葉を賜ります。リリ様に忠誠を」


 拠点の全員が一糸乱れぬ動きで跪いた。

 その後、ある種異様ともいえるほどの静寂に包まれる。200人近い人数が集まっているのに、一切の音が聞こえてこないのだ。彫像にでもなったかのように跪いた状態で、全員が動きを止めている。

 今立っているのは、空を走る光だけだ。彼らは緊張した面持ちで、周りを見渡している。

 リリは事前に考えていた内容だったので、非日常的なその光景にみんなすごいなと感心していた。

 そして段取りでは次は自分が話す番だと思い出したので、偉い人っぽく話し出す。


「みな、おもてを上げなさい」


 全員がリリの方を見る。


「今日はみな、よく集まってくれました。空を走る光のみなも」


 リリは空を走る光を見た。

 彼らは自分達では絶対に敵わない相手に威圧された状態だ。誰から見ても顔色を悪くしながら必死に立っているように見えた。


 リリには今にも倒れそうに見える。でも最初から本題に入るのはさすがに偉い人っぽくないよね、とリリは考えた。

 リリは、一応聞いてみようと話し出す。


「ウィル、グルークの町であなたは私に力を貸して欲しいと言いました。今もその気持ちに、変わりはありませんか?」


 ウィルはかなりの気力を振り絞って、今まで似たような状況でやっていたのと同じように話そうとした。


『僕たちの、気持ちに、変わりは、ありません』


 リリは目を瞬かせる。

 リリには言葉が聞き取りやすいように、はっきりとした発音で話しているように聞こえた。


(え、なんか見た目より元気だね。もしかして実は威圧そんなに効いてない?)


 リリはこの状態で、命令して平気なのかなと視線をさまよわせ始めた。

 ファーストと目が合う。

 ファーストは今このタイミングということはと考えを巡らせる。そして、指を1本立ててリリを見た。

 リリはとりあえず聞こうと思って言う。


「発言を許可します」

「感謝いたします。リリ様、今ではなく、終わらせてからの方がよろしいのではないでしょうか」


 リリはさっさと命令をした方がいいという意味だと思った。

 頷いて言う。


「そうですね。先に終わらせましょう」


 空を走る光に余裕があろうが無かろうが、やらないといけないよねとリリは覚悟を決めた。

 リリは今回の作戦を、拠点のみんなを巻き込んだ全力のいたずらくらいの気持ちで行っている。なので今リリが決めた覚悟は、いたずらの一番重要な部分を成し遂げるぞという覚悟である。


 リリは拠点の全員を見回す。


「みなの者、勇者達はこれより、我々、キャラリックメルによる偉業の協力者となるでしょう」


 跪く全員から、はい、リリ様と声が聞こえる。

 リリは空を走る光を見て話し出す。


「まず『空を走る光の全員が、私と私の家にいる者全員に、嘘をつくことを禁止します』」


 空を走る光は言われてもおかしくない命令の内容に頷いている。


「次に、『空を走る光の全員は、私達と私の家の全ての情報を、許可なく誰にも伝えないようにしてください。同じことを知ってる人には言ってもいいですよ』」


 空を走る光はこれにも頷いた。

 リリは真剣な様子で言う。


「そして、これがやって欲しいことです」


 空を走る光は、一体何をやらされるのかと緊張しているように見える。


「『空を走る光の全員は楽しいことがあったら、私達に教えること』絶対ですよ」


 それを聞いた空を走る光に理解の色は無かった。

 口から言葉は出ていなかったが、全員の顔にありありと疑問の表情が浮かんでいた。


 それを見て、拠点の全員が立ち上がり威圧するのをやめて歓迎するように笑った。

 リリはイタズラが成功したような様子で、笑いながら言う。もう偉い人のフリもやめだ。

「そういうことだからみんな、美味しいお店とか、色々売ってる雑貨屋とか、遊べる場所とかあったら教えてね。あとは絶景ポイントとか、前にも聞いた異世界の話とかでも未知の場所って感じで楽しいから教えてね」


 空を走る光はますます混乱したようだ。

 顔に、そんなことに何の意味が? と書いてあるような気すらする。

 ウィルが言う。


「リリ様。やることは分かったけど、どういう意味があるの?」

「リリ様?」


 リリはウィルにそう呼ばれて首を傾げた。

 ファーストが言う。


「私から玉座の間にいる間は呼び方を変えるように伝えさせていただきました。リリ様を王に見立てるのであれば、呼び方も様をつけた方がふさわしいかと」

「ああ、だから呼び方だけ変わってるんだね」

「話し方も変えさせますか?」

「いや、そこまでされると話しにくそうだからそのままでいいよ」


 リリはウィルの質問に笑顔で答えた。


「ウィル、そのままの意味だよ。私達はね、楽しいことが好きなんだ。だからいろんな場所に行ってそうなみんなに、案内を頼もうと思ってね」


 空を走る光は悩んでいるような表情をしている。何と言ったらいいのか分からない、といった感じだ。


 リリはそんな表情の空を走る光を見て、ファーストが言っていた通り、理解できなかったんだろうと思った。

 自分も空を走る光が何をしたかったのか全く分からなかったからこれで同じだ、という気分で笑いながら言う。


「それで、聞きたいことは他にあるんだけど気になるから先に聞いちゃうね。吐き気止め効果あった?」

「あったと思うよ」

「そっかー、支配ってある意味すごいなー」

「リリ様、できれば吐き気止めの効果だけは無くしてくれないかな。毒とか食べた時に吐けないからね」

「毒は食べること前提なんだね……。もう吐き気はないのかな?」

「それは自信ないよ」

「じゃあ、あとでだね」


 リリは冒険者がいったい、いつ毒なんて食べるんだろうと不思議に思った。

 そして本題に入る。


「それでこれが聞きたかったんだけど、さっき店で聞かせてくれた話って全部本当のこと?」


 ウィルは店で言われた言葉に納得した様子だ。


「そうだよ。嘘は一切ついてない」


 リリは、あれが全部本当なら敵にするには惜しいくらいの実力でどうにかできないか話し合わないと、と思った。

 リリは頷いて、ファーストを見る。


「ファースト、まだ皆にはこの話言ってないよね」

「はい、リリ様。今回の件について全員に周知させるのであれば、アルバートとサラも呼んではいかがでしょうか?」

「そうだね、2人も聞いておいた方がいいね」


 リリは〈通話〉で呼ぼうかと一瞬思ったが、一方的に呼んだ方が王様っぽいなと思いついた。なので、メニュー画面から呼ぶ機能を使ってみることにする。

 ファーストとの話し合いで、空を走る光にはほとんど隠さなくてもいいのではという話になったので、見られていることは気にせずに使い始める。


 メニューを開く。

 パーティ編集画面でアルバートとサラを、リリのパーティに入れて招集をかけた。ピーッと集合を知らせる音がする。それと同時に、メニューのマップに2人がいる場所の様子が詳細に表示され、ステータスに自分と2人の能力値に補正が入ったことが表示された。

 リリはこれゲームの効果音と同じだ、と思う。それにちゃんとゲームと同じように索敵の様子も共有できるんだ、とリリは気がついた。この世界に来てからは遠距離でパーティを組んだことがなかったので、パーティを組んでも組まなくても特に違いはないと思っていたのだ。


 新たな発見は楽しいけど、全部の機能を知るまで先が長そうだなと思いながらメニューを消す。

 リリが前を見てみると、空を走る光が何とも言えない表情でリリを見ていた。

 ナリダが何かつぶやいている。


「魔力の……けど音が……素に……魔法の……」


 リリはメニューってどう見えてるんだろうと思った。

 2人が来るまで時間があるので、ナリダに聞く。


「えーと、何か変だった?」

「……今の音って魔法よね。発現の時に魔力が感じられなかった気がするのだけれど」


 リリは常識の違いを、確認するチャンスだと思った。


「魔力ってMPのこと?」

「MPって前にもここで聞いた気がするわね。それはここ以外では聞いたことがない考え方よ。私の言っている魔力っていうのは、簡単に言うと生き物なら誰だって持ってる、魔法を発現するときに使う力の事よ」

「……それはMPなのでは?」


 ファーストがリリに言う。


「リリ様、皆さんが魔法を使うときに使用しているものも、我々が魔法を使うときに使用しているものも違うものとは思えませんでした。言葉がMPと翻訳されていないのは、恐らく認識が異なっているのだと思われます」

「うーん、魔力って言葉も魔法を使うための力のイメージなんだけどね。魔力の方は、使えば何でも想像通りの現象を起こせます、みたいな感じじゃない?」


 空を走る光も同じような印象は持っているらしい。

 ナリダは頷いて言う。


「極端な話をするなら、魔力の量さえ足りていれば生き物以外は何でも作り出せるっていうのが通説だから、そういう考えもあるわよ。逆に言うと、魔力を使わないで何か現象を起こせるはずがないっていうのも、当たり前の考え方だったんだけど……」


 ナリダは常識がここから違うなんてと悩んでいるようだ。

 リリはメニューとエディット機能の話は封印した方がいい、という結論に至った。

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