43話 襲撃
「ここが真犯人のいる所だね」
「間違いなく、中にいる者達の映像もトレニアに見せてもらいましたが、昨日見た者達で間違いなさそうでしたな」
昨日プニプニが見つけた魔族系の者達がいる館の周りの森は、一見今までと何も変わらないように見えた。
だが、リリの目から見ると違う。
プニプニの種族スキルで、真犯人の大雑把な場所が分かったリリはファーストに探して欲しいと頼んでこう言ったのだ。
「真犯人の方がちゃんと高レベルっぽいから、支配に気をつけて。森の中だし見た目も気にしなくていいから、こっちが見つからないようにだけ注意して、ちゃっちゃっと見つけちゃってね。あと逃げられたり連絡もできないようにしてね」
それを正確にファーストは実行した。
真犯人はグルークの町からみて北東、黒の森の奥の方にいる。
その情報をもとに、役職種族関係なくレベルの高い方から順に送り出された捜索隊は、午前中の内にその数が200を超えたあたりで館を発見した。
〈転移禁止令〉、〈通信妨害網〉などで魔法で逃げたり、連絡を取ったりする事を防止し、周りを捜索隊で取り囲む事で物理的にも逃げられないようにする。
もちろん捜索隊は地下にも空にも配置された。
その後幻術が得意な森林エリア代表のトレニアと、建物の中の捜索も得意な情報の国の局長のアイが、タッグを組んで中の様子も確認済みだ。
はっきりいって過剰戦力だったが、リリの安心の為にと、ファーストを含め捜索隊の全員が張り切っている。
リリが安心して行動できさえすれば、この世界にだって恐れるものは何一つないと、拠点の全員が思っている。
だが、リリを安心させること、それが一番難しい。
「リリ様ー! あの館おかしいですよ。あんなに大きいのに2部屋しかないし、寝る所も食べる所も無いんですよ」
「本当におかしい所であります。隠れる場所もなさそうなので、偵察は簡単で良かったですが」
「トレニア、アイ見てきてくれてありがとう。魔族って食事不要、睡眠不要の種族が多いからそのせいかな」
それを聞いたトレニアはご飯を食べないなんて勿体ない、と可哀想なものを見る目で館にいた魔族と似たような見た目のデモクを見た。
デモクは見られたので、いや、俺達は食べてるからなとツッコミを入れた。
そんなやりとりをしている皆を、楽しそうに見ながらリリは言う。
「まあ、広いなら不意打ちもされないだろうし、問題ないかな。支配をかけるのも問題なさそうだよね?」
「リリ様がかけられない相手なんて、いないですよ」
「装備品や事前に支配にかけられておくといった対策も、していないようであります。実力に自信があるようでなりよりです」
「ならいいね、実力に自信があるなら攻撃魔法スキルの一発でも当ててあげようかな。支配にかけても逆らう気満々のままじゃ、命令の抜け道を見つけちゃうかもしれないし。悪魔っぽい見た目の種族なら、きっと魔法防御力にも自信もってるよ。私ってこの世界の人達から見ると子供に見えるんでしょ。威厳はないしビビリだから驚かせると危ないって、教えてあげないと。それにここの人達がいなかったら、空を走る光が支配にかかることも、あの犯人が好き勝手することもなかった訳だからね」
リリは、真犯人に当てても大丈夫そうなスキルを考えている。
それを見ているファースト、プニプニ、ぼーん、デモク、トレニア、アルバート、サラ、アイは真犯人達に当たるスキルが、彼らの行動によっては殺す威力のあるものに変わりそうだなと思った。
なのでファーストが伝えた。
「リリ様、安心してください。今回はアルバート、サラ。あと、芸術の国からライアンとカミラが音楽隊を連れてきてくれるので魔法攻撃は問題ありません。それに物理的な手段でしたら我々が止めます。昨日の犯人は正直なところ弱すぎたので、犯人がどんな武器や魔法を使おうが、リリ様に傷ひとつつけられないと油断しておりました。申し訳ありません」
「謝らなくて良いんだよ、ファースト。正直私も同じ気持ちだったからね。怖いのは見た目だけだって、知ってはいるんだよ」
「ありがとうございます」
噂をしたからか、ちょうどその時リリ達の前に楽器を持った一団が現れる。
今現れた噂の音楽隊はリリのなんとなくの知識で作られた、なんちゃってオーケストラだ。
その音楽隊の中から黒髪で、アルバートとサラと同じ青い目をした男女2人がやってくる。
「リリ様、お待たせいたしました。僕、じゃなくて私ライアンも兄さん、姉さん、カミラ、音楽隊の者達と一緒にリリ様の支援をさせていただきます。よろしくお願いします」
ライアンは僕と言った瞬間に、アルバートとサラから視線を感じたので、私と言い換えてリリに優雅に挨拶した。
カミラはライアンを見て残念そうな顔をした後、リリの方を見て優雅に頭を下げながら言う。
「リリ様、私達兄妹一同誠心誠意努めさせていただきます。よろしくお願いします」
音楽隊の全員もお辞儀をする。
リリはこれでキラキラ兄弟が揃ったねと思いながら、返事をする。
「よろしくね、ライアン、カミラ。音楽隊の皆もよろしくね」
ライアンとカミラはそのあとアルバートとサラに、兄さん、姉さん、ひさしぶりと声をかけて、アルバートとサラもひさしぶり、ライアン、カミラと返事をしている。
アルバートとサラは拠点仕様の服に着替えているので、今は白を基調とした豪華な服を着ている。
ライアンとカミラは、暗い色の光沢のある豪華な服を着ていた。
リリは大人数になったなと思って言う。
「それでどうしようか、流石にこの人数で押し入ったら、逃げようとするよね」
「リリ様、あたしの幻術で見えないことはさっき入って分かってますから、中に入る私たち代表とリリ様以外、全員隠しちゃいますよ」
「それなら大丈夫だね。あとファースト、一応確認なんだけど、遠くから私達を覗けないようにはしてあるんだよね? また誰かに見られたら、いたちごっこだからね」
「はい、今この辺一体は遠視のスキルで見ることも、肉眼での確認も出来ないように魔法陣を敷いて、スキルを展開してあります」
うんうんと頷いてリリは言う。
「平気そうだね。じゃあぼーん、外の指揮をお願いね。ぼーんが地上と地下担当で、ルエールに空をお願いしよう。ぼーん以外の今ここにいる代表のみんなと芸術の国から来たみんなは一緒に来てね。あとの代表のみんなは、拠点の防衛に残ってるからこれで平気かな」
「承知いたしましたぞ、リリ様。ルエールには拙者が伝えてまいります。御武運を」
そう言ってぼーんは、白銀の鎧からガシャンガシャンという音を鳴り響かせて去っていった。
それを見送ったリリは言う。
「よし、じゃあアイ、情報の国の皆で外の見張りは適当に捕まえておいてくれる? 捕まえたあとは刑法の国のみんなに渡しておいて、支配はあとでかけよう。それで、外の見張りがいなくなったら、残りのここにいるみんなで中に襲撃をかけるよ」
それを聞いた全員が跪き、仰せの通りにと言った。
「たのもー」
リリは扉を壊すんじゃないか、という勢いで開け放った。
鍵がかかっていたら壊れていただろう。
中にいた全員も驚いたし、なんだったら拠点のメンバーも少し驚いている。
リリは人生初の敵と戦うぞという周りの皆の雰囲気に、少しだけ緊張しているのだ。
昨日は戦ってないし皆も適当だったし、と戦いに入っていない。
部屋の中は壁際にポーション類や武器防具が置いてあり、中央では偵察を行った時と同じように十数人の魔族の者達が空を走る光の追跡と黒の砂などの捜索を行なっていた。
全員が入ったところで、リリはトレニアに聞く。
「どれが一番強いのかな?」
「さっきはいたんですけど、今はここに居ません。きっと奥の部屋です」
「なるほどね。じゃあどうしようかな」
その部屋にいた者たちが復活する。
「な、何者だお前達、いや、お前達は探していた、どうしてここにいる!」
いきなり現れたリリ達に、理解が追いついていないようだ。
自分達のことがバレていないと思っていたのだから、当然の反応だ。
デモクは、辺りにいる魔族の者達の様子を見ながら言った。
「ここで騒ぎでも起こして出てくるのを待つか、あの壁壊して、いっそ一部屋にしちゃうのも良いんじゃないですか」
「それ面白いね。じゃあこの館自体が壊れないように周りの補強はするから、魔法っぽくあの壁をよろしくね」
〈無詠唱〉〈スキル刻印〉〈耐久度増加〉
リリがスキルを使ったのに合わせて、魔法陣が外に面している壁に現れる。
外側の壁全体が一瞬光る。
それを見たデモクは内壁を攻撃する。
「お任せください、広い〈範囲〉を突き穿て、〈鉄球〉よ、アイロンボール」
デモクの詠唱に合わせて、デモクの目の前に1つ50cmくらいの鉄球が十数個現れる。
それが勢いよく飛び、木製の内壁にぶつかった。
見事に大穴が開き、もう一つの部屋がよく見えるようになった。
もう一つの部屋にいる者達も、今いる部屋にいる者達も驚き、固まっている。
リリはもう一度トレニアに聞く。
「ありがとう、よく見えるようになったね。それで、どれが一番強いのかな?」
「はい、えーと、あの真ん中にいる、赤い髪で黒い服に赤いマントを着て、闇のオーラを出しながら剣を持っている悪魔っぽい魔族の男ですね」
拠点の者達の視線が全部、その魔族の男に集まる。
その魔族の男は驚いていたがすぐに復活したようだ。
「おい、何が起きた。現状を説明しろ」
「し、将軍、我々が探していた者達が現れたと思ったら、急に大きな銀色の玉が現れて、それが壁を破壊して」
それを聞いた第5魔将軍は居場所がばれるという想定外の出来事に対しても、冷静に判断を下した。
「探す手間が省けたじゃないか」
と言って、リリ達を見る。
そしてデモクを見つけて第5魔将軍は納得した様子で言った。
「おい、そこの裏切り者。魔王様に忠誠を誓う身でありながら、裏切っておいて、よくもまあ俺の前に姿を表せたものだな。お前の顔は見たことがない。だからただの一般兵だろう。なら第5魔将軍のこの俺に、逆らったらどうなるかは分かっているよな」
それを聞いたリリとデモク以外の拠点の者達は、デモクが変な勘違いをされていると少し笑っている。
リリは天然の魔王もいるのかーと、ちょっとだけ見たいような見たくないような気持ちになった。
それを聞いたデモクは、こいつは何を言っているんだと思ったのでちょっと馬鹿にしながら聞く。
「なんでこの俺が、魔王なんていう俺よりも弱そうなやつに忠誠を誓っているなんて思ったんだ? お前、第5魔将軍とかいう偉そうな地位についてるのに、俺とお前の格の違いも分からないのか」
「貴様、自分が何を言っているのか理解しているか。魔王様より強い存在など、この世に存在しない。そして我ら魔族の中から、魔王様に将軍の地位に選ばれていないような奴が、俺より強いはずがない」
「俺はこのお方以外に忠誠を誓ったことはないし、お前とは生まれも育ちも違うんだ。仲間みたいに言わないでくれ、気色悪い」
「何を言っている。ならば何故ここに来れる」
リリ達はそれを聞いて、デモクが情報を流したからここに来たと思われているようだと思った。
デモクは将軍の無知を、鼻で笑った。
「ふっ、お前あれだけ堂々と覗いておいて、なんでばれないと思ったんだ。馬鹿なんじゃないか」
「貴様、言わせておけば」
第5魔将軍はデモクに向かって手を向ける。
「あいつを殺す力を貸せ〈黒帝〉よ、切り刻め〈黒き刃〉、ブラックブレード」
デモクの前にいきなり、3mはあろうかという楕円形の黒い刃が現れる。
それがかなりの勢いで、デモクに向かって飛んできた。
デモクは当たる寸前に一歩身をずらすことで、追尾性能があるそれを余裕そうに回避した。
デモクに当たらなかった刃は何に当たることもなく、リリ達が入ってきた側の壁にぶつかり、壁を切り裂いて出ていった。
第5魔将軍は怒り心頭の様子だ。
「何故避けられる!」
「はっ、あんなの誰でも避けれるだろ。お前みたいな雑魚じゃなければな」
リリを除く拠点の者達は楽しそうに、当たり前だなと思って聞いている。
リリはあの距離まで待たないといけないとか、嫌すぎると思いながら聞いている。
第5魔将軍はデモクの自分の中での脅威度を、少し上方修正したようだ。
「お前達、あいつら全員に魔法を当てろ! この数だ、一斉に撃てば当たるだろう」
30人は越えようかという第5魔将軍直属の部下達が、それを聞いて魔法の詠唱に入る。
第5魔将軍も今度はリリに向かって同じ魔法を展開した。
黒い炎、小さな竜巻、氷の槍、石、雷、地を這うように動く炎、水の柱など様々な魔法が展開された。
それが飛んでくる寸前、迫力のある音色が鳴り響く。
展開された魔法はリリ達の方に向かっていたが、広い室内に響き渡る音が増えていくにつれて弾けるようにして、その姿を消していった。
その光景をみた魔族の全員が驚いている。
「何が起きている! この音はなんだ!」
魔族の者達は、大迫力の演奏に理解が追いついていない。
リリはそれを聞いて思った。
(裏ボス戦っぽい曲だ! 皆よく分かってるね!)
リリのテンションが上がった。
曲を少し聞いてから、リリはちょっとだけ脅すように言う。
「もういいかな、ねえ、あなた達。大人しく私に従うなら、あんまり痛くしないであげるよ。でも、もし抵抗するなら死ぬほど痛いよ。どうする?」
リリは自分で言っていて、どっちが悪役か分からなくなった。
拠点の者達はそれを聞いてついにこの時が来てしまったかと大半が思ったが、一部、言われたいなと思う者もいた。
それを聞いた第五魔将軍は弱い者が生意気な口をとでも言いたげな雰囲気でこう返す。
「なぜ、魔王様に遠く及ばない者に俺達が従うと思う。デルベルド程度に背後を取られるお前は、俺にだって勝てない。魔法を防げた程度で調子に乗るな。お前は支配で周りを従えているつもりかもしれないが、忠誠を向ける対象にはなりえないことを知れ」
曲が止まる。
第5魔将軍の言葉を聞いたリリ以外の拠点の者達は端的にいうと、ブチギレていた。
支配は確かにかかっている、だがこれはリリが自分達の身を守る為にかけてくれたものだ。
リリは自分達を創り出した存在で、リリのために生きることが自分たちの存在理由で、リリのおかげで強く育ち、リリのおかげで楽しく暮らせているのだ。
最初から絶対的な忠誠を、育ってからは心からの忠誠をリリに誓っている。
そんなリリに自分達が忠誠を向けていない、もしくはリリを忠誠に値しない者であると言われたのだ。
言った奴は次の瞬間に、死んでいてもおかしくはなかった。
でも、死んでいないのはリリが事前に、抵抗するなら死ぬほど痛いよと言ったからだ。
拠点の者達は知っている。
リリは基本優しいし、臆病だが、育てるときはスパルタだ。
そして、リリが本気でやると言ったら、絶対にやるのだ。
もうすでにリリがやると言っている。
自分達がやらなくても確実に魔族達は理解するのだ、リリは忠誠に値するお方だと。
第5魔将軍はそのことを知らない。
だから剣を抜いた。
そしてリリに剣を向けていう。
「全員、魔法が効かないなら武器を取れ! 我々の力を見せつけるのだ!」
それを聞いた第5魔将軍以外の魔族達も武器を持つ。
完全にリリの苦手な光景だったが、リリは殺気立ち、殺そうとしてくる魔族達にはまだ恐怖を感じないでいられた。
それには理由が2つある。
なぜか第5魔将軍と名乗った魔族と同じ部屋にいた魔族以外、へっぴり腰なのだ。
デモクの方をチラチラ見て武器を手に持ってるだけですという様子の魔族たちは、リリですら脅威を感じないレベルで何か葛藤しているように見えた。
そしてもう一つ。
リリは音が鳴り止んだ時点でおかしいな、と思って周りを見てみたのだ。
周りの皆が、並々ならぬ感情を抑え込んでいるような顔をしていた。
その感情が周りに剥き出しになっていれば、リリは見たことがないので、なんか危なそうだと言っただろう。
空を走る光や目の前にいる魔族など、この世界に生きる者が浴びれば、恐怖で動けなくなりながら、とてつもない殺気を感じるとでも言っていただろう。
リリは剣を持っている魔族よりも、周りの皆から微妙に漏れている怒っているような気配の方が、危ない気がしてそっちに気を取られている。
ビビリの本能である。
周りのみんなが緊張感をもって行動していれば緊張するし、怒っていたら気が気でないのだ。
リリがまだ危機感を持っていないのは、その感情がリリに向けられていないし、爆発していないからに過ぎない。
でも不発弾を持って冷静でいられるほど、リリは落ち着いていないのだ。
リリは第5魔将軍の言葉を全て、まあそうとしか見えないよねと思いながら聞いていたので、怒る理由が分からなかった。
リリには周りの全員がたいした理由もなく、いきなり怒り出したように見えてちょっと焦っている。
(あー、もう、みんなに何に怒ってるのかいっそ聞きたい。でも、もう攻めてきそうだしそんな時間はない。戦闘モードでも、話すとみんなの速度になるから、時を止めなきゃ話せないよ)
リリが戦闘モードと考えたので、全てのものの動きが止まったようにみえる。
それを見たリリは少し時間をかけて考えた。
(さっきあの第5魔将軍っていう人が言った言葉で怒ったのだとしたら、私の強さに関してしか言っていないよね。だから、それで怒ってるみんなを宥めるには、支配にかける以外の方法でその魔王とやらよりも強いということを、あの第5魔将軍に教えないといけない)
事前に考えていた魔法や、支配をかけただけだと、第5魔将軍よりも強いという事しか伝わらないのだ。
そしてちょっと慌てているリリは思いつく。
(分かった! 誰でも知ってて使えるくらい簡単な魔法で、明らかに威力が違えば、あの第5魔将軍っていう人も違いに気づくでしょ)
そうしてリリが使う魔法が決定された。
第5魔将軍の運命も決まる。
「みんな、先に言っておくけど、ちょっとやったことないことをやるよ。私達にどれくらい影響があるか分からないから、防御力と魔法防御、あと炎耐性も上げておいて」
リリはゲームなら大丈夫だけど、現実でやったらやばそうという危機感から言った。
それを聞いた音楽隊は、全員がDFE上昇、RST上昇、炎耐性上昇の効果をつけて演奏を始めた。
全員の演奏から若干の必死さが感じられる。
無事にリリを含む拠点の全員にかかる。
魔族の者達はまた演奏が始まったので、警戒していた。
リリは演奏が始まると同時に、アイテムボックスから今持っている杖の中で、一番魔法攻撃力を上げる効果の高い物で、炎に特化した杖を取り出す。
そしてリリは全員に演奏の効果がかかったことが分かってから、さあ言うぞと気合を入れる。
詠唱が魔法っぽくしなくても、めちゃくちゃ長いのだ。
「じゃあ、やるよ! 〈INT上昇〉〈INT超激化〉〈全てを知る者〉〈会心率上昇〉〈会心率超UP〉〈炎強化〉〈炎王〉〈炎帝〉〈炎神〉〈奇跡の一撃〉〈会心の一撃〉〈最後の一撃〉〈青い炎〉〈必中〉〈貫通〉〈速度上昇〉〈命の灯火〉〈範囲〉、〈火球〉! ファイアボール!」
それはその世界の誰が見ても初級魔法、ファイアボールだとは思えない見た目をしていた。
通常のファイアボールの魔法は詠唱すると、赤い炎が球形になって飛んでいく範囲攻撃魔法だ。
でも、リリの持っている杖の先に現れた物は、まず色から違った。
青い炎の球が、馬鹿げた大きさで現れたのだ。
そして現れた瞬間、周囲が溶けていく。
木製の建物が燃えるのではなく、溶けて無くなっているように見えるのだ。
(うわっ、なんか溶けてる! しかもちょっと暑い)
リリ自体は気温が上がって暑い程度なので、溶けたりはしなかったが、リリが立っている床は無くなっていく。
足元が無くなる前に、リリは急いで〈飛行〉を使って元の位置に浮く。
そしてファイアボールを第5魔将軍に向かって放った。
リリが火球と言った時点で、何が現れるか分かった代表達は音楽隊の方に向かって、リリから少し距離を取っている。
ファイアボールが魔族達に向かってかなりの速度で飛んでいく。
目標地点は第5魔将軍だ。
魔族達はリリが詠唱をし始めたのを聞いて、魔法防御上昇の魔法を詠唱していた。
障壁を張っている者もいる。
だが、彼らのそんなちょっとした抵抗は、初級魔法であるはずのファイアボールの前に意味をなさなかった。
魔族の者達はありえない熱量をもった青い炎を前に、どうしたらいいか分からず動けなくなっていた。
どんなに想像しても思い描けなかったのだ、どうすれば生き残れるのかを。
まだ当たっていないのに、体が燃えているように熱い。
必中を付与された青い火の玉は、狙いを外さずに障壁を張った第5魔将軍に落ちていく。
障壁を溶かすように貫通する。
そして第5魔将軍に直撃したファイアボールは、当たった瞬間勢いよく燃え広がる。
魔族の者達全員を燃やし尽くすように広がった炎は、リリ達の立っていない館の半分以上を魔族と共に綺麗に燃やし尽くした。
ように見えた。
魔族達は、元々の形を保っている。
リリは詠唱に命の灯火を入れた。
そのため、絶対に死ぬような威力だったとしてもHPが1、必ず残るのだ。
だから焼け焦げてボロボロの魔族達はまだ息があった。
種族特性で少しずつ回復していく。
そんな魔族達を見ながら、リリは良かった死んでないと安心した。
見た目が完全にオーバーキルだったのだ。
そしてリリを除く拠点の全員が、死ぬほど痛いよの意味をこういうことかとよく理解した。
そのあとリリは一瞬で振り返って、拠点の全員を見た。
あの怒ったような雰囲気がどうなったのか、一番気になっていたのだ。
じっと見つめる。
振り返った直後の彼らは魔族達を見て何か納得したような表情をしていて、特に怒っているようには見えなかった。
怒らせた原因の第5魔将軍が倒れているのを見て、さっぱりしているという感じでもなさそうだなと、リリは思う。
リリが見えない速度で振り返って、自分達をじっくり見回すという奇行に走ったので拠点の全員が驚いた。
何か疑っているような雰囲気のリリに、ファーストが近づきながらちょっと不安そうに聞く。
「どうされましたか?」
リリはできれば、また思い起こさせて怒らせるようなことはしたくなかった。
でも知っておかないと何度でも怒らせるということもよく分かっている。
そしてリリは拠点の皆のことを知って、仲良くなりたいと思っていた。
だから悩みながら聞く。
「うーん、いや、えっとね。さっきみんなが怒ってるみたいだったから、なんで怒ってたのかなって思ってさ」
ファーストを含む拠点の全員がそれを聞いて、第5魔将軍が言っていた言葉を思い出してしまったようで、少し嫌そうな顔をした。
トレニアがやってきて言う。
「リ、じゃなくて、あなた様を忠誠に値しない存在とか言われたら誰だって怒りますよ」
「あー、ちょっと先に名前呼び出来るようにしてから話そうか」
リリは大量に自分の名前が出てきそうだったので、先にそう言って第5魔将軍の方を見る。
リリは動けなさそうな魔族の全員に、まず状態解析をかける。
ウィンドウを見ると、全員の名前の項目に名前が入っていなかった。
なんでだろうと不思議に思いつつも、全員に支配が確実にかかっていないことをちゃんと確認してから、絶対的支配と強制度増加をかける。
そしてまたウィンドウを見て、全員に支配がかかったことを確認した。
とりあえず全員に支配をかけ終わったので、その場にいる皆と相談しながら命令の内容を決めていく。
とりあえず魔族の国との連絡は、一切取れないようにした。
自分達の名前をバラすのも全部禁止だ。
それから拠点の全員に逆らったり、攻撃したりもしないようにする。
支配の魔法をかけること自体も禁止した。
また、拠点の全員からもし他に忠誠を誓っている相手がいるのに、自分達が支配にかけられて忠誠を求められたら自害する可能性もあると言われたので、お互いに殺したり傷つけたり、自害することも禁止する。
そのあとは必要そうなものをとりあえず命令していって、もういいかなというあたりで命令を止めた。
名前呼びが解禁になったので、それでとリリは言ってから聞いた。
「えーと、その私は誰かに忠誠心を持ったことがないからよく分からないんだけど、忠誠を向ける対象じゃないっていうところに怒ってたの? 魔王よりも弱いとか、あの魔族の人よりも弱いって言ってたところじゃなくて?」
「リリ様はこの世で一番、忠誠を誓うのに相応しい方ですよ! だから皆、そうやって言われて怒ったんです。弱いとか強いとかはあんまり関係ありません。それにリリ様がいまさら自分のこと弱いって言っても、拠点の皆誰も信じませんよ。リリ様は弱いって言われたの嫌だったんですか?」
トレニアを含めて今いる全員が、リリの疑問を興味深そうに聞いている。
リリが彼らの考え方をあまり知らないのと同様に、彼らもリリの考え方はそこまで知らないからだ。
ゲーム中にNPCに自分の考えを全部説明しながら行動する人は、そんなにいないだろう。
だから彼らが知っているのは、ほとんどリリの行動と結果だけだ。
「うーん、特に気にはならないんだよね。そう見えるのは自覚があるし。同じ理由で忠誠に値しないって言われても、あんまりみんなの気持ちを分かってあげられないんだ」
「見た目でなめられるなら、リリ様は見た目自由に変えられるんですから、強そうにしてみるのはどうですか?」
リリはそれを聞いて、最近はあんまり変えてなかったけど、転生とかで色々種族や性別も変わってたからそう思ってるのかなと思う。
今のリリの種族は、全種族制覇後のボーナスキャラなので見た目をいつでも好きに変えられる種族に、設定としてなっている。
だから、今のリリは女性で人の姿をしている。
「あんまり姿は変えたくないんだよね。元々身長これくらいだったし、変えてあんまり感覚が変わるのも嫌だからね。それに姿は変わっても性格は変わらないから、厳つくても性格はビビリなんですってバレた方が、馬鹿にされる率が高そうじゃない?」
拠点の全員が納得してしまったという様子だ。
プニプニが困ったように話す。
「難しい問題ですな。リリ様の強さを知った上で、馬鹿にする大馬鹿者はそうそういないでしょうが。知らないと分かっていてもリリ様を馬鹿にする言動をされれば、我々は腹立たしいですからな」
「私はあんまり気にしてないからみんなも出来れば、知らない人の言葉は受け流すくらいの気持ちでいて欲しいな。今見てる感じだと、この世界の人達ってついやっちゃったで死にそうな気がするし。一応復活魔法はあるけど、この世界で扱いがどうなってるか分かんないから、あんまりバレたくないんだよね」
全員が頑張りますと言いつつ、難しいという顔をした。
そんな話をしていると、第5魔将軍が話せる程度に回復したようだ。
第5魔将軍も他の魔族と同じで焼け焦げた状態だ。
そして他の魔族達と違って、第5魔将軍は確信している。
この子供は魔王よりも強いと。
第5魔将軍は今ここにいる魔族の中では一番強い。
だから完全にどれくらい違うというのは分からなくても、魔王よりは強そうだということは何となく分かった。
なぜなら第5魔将軍はリリが強調して言った火球、ファイアボールという単語だけは、間違いなく聞き取っていた。
なので第5魔将軍は、見た目が違ってもあれが下級魔法であることが分かっている。
あの魔王だって下級魔法1発で、自分をここまでの状態にすることは出来ない。
それだけは確かだからだ。
リリは第5魔将軍がこちらを見ていることに気がついた。
なので話しかける。
「ねぇ、あなた名前はなんていうの?」
「俺に名前はありません。ここにいる者全員に名はついていません」
それを聞いてリリ達は驚く。
そして話し方は強制していないのに、なんだかおとなしい態度になっていることも気になった。
「えーと、それ不便じゃない?」
「我々のいた、魔族の国では普通のことです。役職や、特徴で呼び合っていたので特に不便はありません。それに名など覚えていても、すぐに死ぬので意味はありません」
「うーん、関わりたくない世界な気がしてきたよ。それで一番聞きたいことは他にあるけど、先に気になるから聞いちゃうね。なんで敬語?」
「我々魔族はより強い者に従いたいという気持ちを、生まれた時から持っています。貴方は魔王よりも強い。そして従えと俺達に言いました。なら貴方は俺達の主人で間違いありません」
「うん、すごい下克上の横行してそうな世界だね。魔王やるの大変そう」
「貴方なら簡単に魔王になれますよ。魔族の国には魔族しかいないので、魔族が王になっているだけです」
「今の所、魔王になる気はないかな。うちに魔王いっぱいいるし」
「リリ様、そう聞くとリリ様はすでに大魔王みたいで面白いですね」
トレニアの言葉に魔族以外の全員が笑った。
元第5魔将軍は不思議そうだ。
それを見てリリは言う。
「まあ、気にしないでよ。魔王の才能がある人なんていっぱいいるよってだけだからね。デモクもあるもんね」
「リリ様が大魔王で、俺が魔王なら楽しそうで良いですね」
「確かにね。それからこれが聞きたかったことなんだけど、なんでグルークの町に支配なんてかけてたの?」
元第5魔将軍は全く躊躇わずに、元々仕えていた魔王の目的を話し出す。
「俺達魔族は魔王の命令で世界征服を目標に行動しています。なので、グルークの町に支配の魔法をかけて支配することでザンネル王国を、支配する足がかりにする予定でした」
「ザンネル王国は確か、グルークの町がある国の名前だよね。そして目標は世界征服かー」
リリはそれを聞いて面白いなと思った。
「勇者がいて、魔王がいて。魔王の目的は世界征服。そして魔王の配下が勇者の妨害をしたとかすごい王道だね」
それを聞いてファーストも楽しそうに言う。
「それですと、我々は脇役になってしまいますね。脇役が主役の倒す相手を先に倒して仲間にしてしまいましたが」
「まあ、良いんじゃない? 彼らの冒険は終わってしまったってならずに済んだわけだし。魔王の世界征服計画についてはちょっと考えた方がいいかもしれないけど、できれば関わりたくないからね。この世界の強い人が、どうにかしてくれるのが一番良いよ」
それからとリリは考えて言った。
「支配はどうやってかけてたの?」
「俺の部下がライという人間になりすまして、デルベルドと接触しています。その際に支配の魔法を食べ物に付与する方法を教えました。これなら同格相手にも必ず効くと、思わせるようにしてです」
元第5魔将軍が香辛料に支配かける光景を、思い出しながらいう。
「デルベルドが香辛料に支配を付与したあと忍び込んで、同じ香辛料に支配の魔法をかけるようにしていました。俺達はデルベルドの行動を、ずっと見張るだけで町が支配できる作戦です。直接あいつが支配をかけた相手には何もしません。ですが、香辛料による支配をかけた相手に命令している時は、こちらでも同じ命令を遠視の魔法を使って出すことで、違和感をなくすようにしていました」
「遠視で支配をかけてたわけじゃないんだね」
「支配の魔法は遠視でかけることはできません。命令だけは書き換えが可能です」
「なるほどね」
リリはあと自分達の情報はどこまで行っているのかなと思ったので聞く。
「魔王とか他の誰かに私達のことは伝えたの?」
「いいえ、していません。貴方の名前もいる場所も分からない状態で伝えても、魔王を苛立たせ殺されるだけです。俺達は最低限の情報は伝えてからでなければ、役に立たないまま死ぬことになると思ったので報告はしませんでした」
「死ぬのは確定なんだね」
「失敗した者の処分は、ほとんどの場合運が良ければ生き残る程度のもになります」
「そーなんだー」
リリは魔族達を見渡しながら聞く。
「それであなた達って今いるので全員?」
「あとは外の見張りをしていた者がいます。それ以外は貴方の捜索のため一度全員を呼び戻していたので、ここにいるので全員です」
「何人いるの?」
「34人です」
「じゃああなたのことは今後1番って呼ぶね。で、あと全員2〜34番までで呼んでいこう」
拠点の全員がリリの適当な名付けに、顔を見合わせた。
デモクが伝える。
「リリ様さすがにそれは、こいつらも嫌なんじゃないですか」
「いえ、それで構いません。個人を識別するということ自体、我々はほとんどやってきていません。言い分けられさえすれば、名前にこだわる気はありません」
「大丈夫なようです」
「それは良かった。じゃあとりあえず1番達には今後デメシードを採ってきてもらいたいんだよね。場所は知ってる?」
「デルベルドには俺達がデメシードについて教えていました。なので、問題なく分かります」
「なるほどなー、他にも何か協力したの?」
「支配の使い方を色々教えたり、ポーション類を譲ったりして我々に協力的になるようにしていました。そこにある筋力増強のポーションが、1番最近渡したものです」
リリは1番が指差した先にある棚に置いてあるポーションを見る。
リリのいた場所より後ろにあったので、何本か燃えないで残っているようだ。
リリは今いる位置から〈鑑定〉をかけた。
「上位のSTR増強薬だね。魔法職なのに物理で空を走る光をいたぶってたみたいだから、おかしいと思ったんだよ。毎日殴ったり蹴ったりしかしてないみたいだったし。彼らには悪いけどせっかくむかつく相手を支配にかけたなら、もっと色々出来るんじゃないのって実は思ってたんだよね。急に力を手に入れたから楽しくなっちゃったのかな?」
「私も同じ意見です。話を聞く限りでは、確かに単調な行動だと思いました。リリ様の言う通り、楽しくなっての犯行の可能性もありえそうですね」
リリは自分がこの世界にきて、いきなりすごい力を手に入れたという体験をしている。
だから、手に入れた力を思いっきり使ったら楽しそうだな、という気持ちもちょっと分かるのだ。
リリの場合桁違いなので、力を使ったあとが気になるリリはあまり好き勝手に魔法をばら撒けないのを、残念に思っている。
力を手に入れて楽しくなる話をしたので、リリはまだ好き勝手にばら撒ける方の力を使うことにした。
「まあ、犯人の話はもういいや。とりあえず全員治そうか、〈範囲〉〈全回復〉」
その場にいる魔族達の下に光の輪が現れる、それが上に向かって魔族達を通り抜けた。
全員の傷が癒える。
全員が立ち上がってリリの方を見た。
全員意識はあったのか、1番が魔王よりもリリの方が強いと言っていた話を聞いていたようで、リリに従うと伝えてくる。
反抗してきそうな人がいなさそうなのでリリは大丈夫そうだね、と頷いてから聞いた。
「あとは見張りの人達にも同じように支配をかけないとね。もうファイアボールは当てなくても平気かな?」
「俺が従ってるところを見て説明もすれば、問題なく従うと思いますよ」
「リリ様のファイアボールで館の半分が燃えてますから、見てた可能性もあるんじゃないですか?」
1番とデモクが言ったので、とりあえずアイに連絡して連れてきてもらう。
そして同じように支配をかけた。
見張りの3人はファイアボールを、見せられていたようだ。
1番がリリに従っている様子と見た光景から考えて、リリに従う気になっているようだ。
リリは魔族の全員がとりあえず従う姿勢をみせているので、これで大丈夫かなと思う。
それから店舗に移動しようという段階になって、彼らからずっと出ている黒い闇のオーラが気になった。
闇のオーラは抵抗出来なかった者に、ステータス低下の効果を与えるパッシブスキルだ。
グルークの町で垂れ流されると困る程度には濃いオーラなので、リリは消して欲しいなと思いながら声をかける。
「じゃあ空を走る光には会ってほしくないから、後から店舗まで来てもらおうかな。1〜34番はその闇のオーラ消せるの?」
「闇のオーラって何ですか?」
「そこからか。今1番から出てる黒いエネルギー? みたいなやつだよ」
「これを消そうと考えたことは無かったですね」
「なるほど、よくそれで忍び込めたね」
「これごと隠す装備があるので問題ありませんでした」
「うーん、ちょっとデモクも出してみて」
「闇のオーラですか、畏まりました」
デモクが闇のオーラを放出し始める。
今回りにいる代表達には元々効果がなく、音楽隊は装備で打ち消せるので問題ない。
1〜34番には種族特性で効果がない。
そして今まで見たことのない濃度の闇のオーラに、1〜34番は驚いている。
リリはその様子をみて言う。
「デモクは出したりやめたり出来るもんね。デモク、どうにか1〜34番に消し方教えられない?」
「問題ありません。俺のエリアの者達と一緒に教えてもいいですか」
「もちろんいいよ。空を走る光が帰ったら連絡するから、そしたら全員連れて店舗まで来てね」
「お任せください」
では失礼しますと言って、デモクは魔界エリアの者達に声をかけに行った。
リリは他にやることはないかなと確認して、ありませんと全員から首を横に振られた。
なのでやっと終わったと思ったリリは、森に向かって声をかける。
「みんなお疲れ様! 撤収だよ!」
森から歓声が聞こえた。




