42話 店舗作製
一番最初に起きるのももちろんリリだ。
リリは起きてすぐにもう一度〈無詠唱〉〈範囲〉〈浄化〉をかける。
そして〈無詠唱〉〈消音〉でリリの音も聞こえなくした。
音もたてずに、起き上がり着替え急いで調理場に向かう。
調理場には多くの人が朝食の準備をしていた。
カーヘルの姿を見つけて、声をかける。
「ありがとうカーヘル、すごい美味しかったよ」
「いえ、リリ様こちらこそありがとうございます。クッキー最高でした」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
周りからもクッキー最高でしたと言う声が聞こえた。
それにどういたしましてと返してからリリは言う。
「今から私も一緒に作るね、それでみんなにどっちがどっちか当ててもらおう。面白いでしょ」
「やめましょう、リリ様、うちの者達は当てられるとは思いますが、当てられなかったら可哀そうですよ」
「まあそうなんだよね。じゃあ言わないで渡そうか、もしかしたら誰か気がついて、言ってくるかもしれないでしょ」
「逆に難しくなってますね、それ」
「いいんだよ、カーヘル。だって私が作らなくても最高の味が味わえるんだよ。それって最高だよ。カーヘルが作ってくれたらまた私も作ってあげるね。しかもカーヘルにはどれが私の物なのか絶対に分かるという特典つき、面白いね」
「最高ですね、リリ様。リリ様の負担を考えるとたまに、になりますが絶対にやりましょう」
「最高だね、カーヘル、絶対に他の人が作った物の方が美味しい気がするから、カーヘルの方が私には美味しいんだよ」
「それはとても嬉しいですね、では作りますか」
「そうだね、すごい量を作っちゃおう、この館の人の分も考えて大量にね」
「みなとても喜びますね」
リリとカーヘルはスキルを使って、大量に料理を作り始めた。
いつも食事を運んでくれる人達が、館の人に先に届けていく。
まだ寝ている皆の分は後で作ることにする。
トランプの館の全員が満腹になったあたりで、リリは大量に作ってからその場を離れた。
カーヘルは寝ている人数に対して多過ぎるので、不思議そうにしている。
予定があるからねと伝えた後言う。
「カーヘルまたあとでかな」
「何かあるんですか?」
「準備ができたらいうよ」
「畏まりました、リリ様。お待ちしております」
リリが戻ってもまだ全員が寝ていた。
なので魔法の言葉で起こしてあげる。
「みんな、朝ご飯の時間だよ」
全員が一斉に目を覚ました。
そのまま一斉に布団を脇に寄せる。
そしてソファーとテーブルをすぐに置いた。
リリはベルを鳴らす。
すぐに大量に食事が運ばれてくる。
テーブルの上に大量の食事が並べられた。
全員が一斉に食べ始める。
リリはカーヘルが作ったものを中心に食べた。
自分の物はいつでも食べられるので、特に食べる気がしない。
リリが何も言わなかったので、拠点の者達はリリが作ったものを中心に空を走る光にはバレないように、何も言わずに食べた。
気がつかない方が悪いし、食べる量を思えば気がつかれるとまずいと、拠点の者達は思っている。
空を走る光はまだ繊細な味の違いに気がつくほど、拠点の料理に慣れていない。
お礼は後でこっそりとだ。
そして食べ終わる。
皆満腹になったようで幸せそうだ。
「今日もカーヘルさんが作ってくれたんですね」
とルティナが聞いてきたのでリリは答えた。
「そうだね、きっとカーヘルが作ったんだよ、色々とね」
特に何も言われなかったので、そのままリリは言う。
「じゃあ町に向かおうか、今日は黒の砂はお休みだよ。勇者パーティの代わりはしばらくしたくないかな」
ウィルが伝える。
「店の開店準備で忙しそうだから、しばらくはお休みでいいんじゃないかな。そうやって言っておくよ」
「いや、ギルドには報酬をもらいに行くから一緒に行くよ。思ったんだけど商業ギルドの場所だけ先に教えてもらっていいかな。そうすれば店の場所を決めてから伝えられるね」
「確かにそうだね。じゃあ商業ギルドの近くまで一回行ってから、一緒に冒険者ギルドに行こう」
そう言った後、準備をしてから黒の砂と空を走る光が転移でピーちゃんの前に着く。
入れ替わるようにクロが拠点に転移された。
クロはリリに言われる。
調理場に行ってそこにある、私が作った料理好きなだけ食べていいよ。
お礼だよと。
急いでクロは調理場に向かった。
リリはピーちゃんとしての活動に戻る。
ピーちゃんはアルバートの肩に乗っているので、自動的に町へと運ばれていた。
ピーちゃんがいなかったことに、誰も気がついていない。
なので声をかけた。
「急ごう、急がないと全部混んでそうだよ」
全員が確かにと思ったので走って、運ばれることになった。
町の中に入る。
まだそこまで混んでいないので、全員が安心した。
一度商業ギルドの場所を教えてもらってから、冒険者ギルドにつく。
人はそこまでいないが、勇者パーティが来たことに気がついた全員が歓声をあげた。
犯人逮捕のことを全員が知っているらしい。すごいお手柄だなと言う声が聞こえた。空を走る光は手を振ってそれに答えている。
マッチェの受付に向かう。
マッチェは全員に元気よくおはようございますと、言ってから言う。
「すごい額の報奨金が町から出ましたよ。犯人はもうあんな目にはあいたくないから、全て白状すると言って自白しました。腕輪を大切そうに抱えていたところから、再犯は起きないと思われているようです。罰としては氾濫兵になるんじゃないかって言われています」
驚いた表情を浮かべている。
マッチェの驚いた顔を見た空を走る光も、珍しいものを見たと驚いていた。
ピーちゃんは、氾濫兵という聞いたことのない言葉が出てきたので聞く。
「氾濫兵って何?」
マッチェは簡単に教えてくれる。
「氾濫兵というのはその名の通り、魔物の氾濫が起きた時に限定で戦ってもらう、主に戦える犯罪者達が集まった兵隊のことです。氾濫の規模によっては1番危ないところを任されることもあるので、重い罰になります。氾濫のよく起こる国では一般的なものですね」
「なるほどね、教えてくれてありがとー」
ピーちゃんは思う。
この世界では犯罪者だろうがなんだろうが、戦える人はガンガン戦わせるんだね。
豪雪地帯だから人手がたりないんだろうなと遠い目だ。
気を取り直して聞く。
「それで報奨金はどれくらい出たの?」
「なんと白金貨3枚ずつが2つのパーティそれぞれに出ます。犯人が元Aランク冒険者だったことから、危険な依頼だったと報奨金が跳ね上がりました。そして町長が直接会いたいと、望んでいるようです。どうされますか」
全員がピーちゃんを見た。
ピーちゃんは言う。
「もちろん、会うよ。どんな人なのか楽しみだね」
「有能で優しい方ですよ。町のためを思って身を粉にして働ける素晴らしい方です」
「町のためには、そういう人が町長になるのがいい感じだね」
「そうですね、しばらくはあの方が町長なので町も安心です」
「それでいつ頃になりそうかな」
「明日以降ならいつでもいいそうですよ」
「皆は明日とかでもいいのかな?」
全員が頷いている。
「明日にしようか、早くあってみたいな」
「ではそう伝えておきます」
「よろしくね、それでもう報奨金は受け取れるの? あとマナーとかはある?」
「今お渡しすることは可能です。それから公式の場ではないので、特にマナーはないですよ」
「じゃあしゃべり方はこれでいいのかな?」
「よろしいと思いますよ。あの方は話し方は気にしません」
「分かったよ。じゃあ報奨金よろしくね。しばらくは勇者パーティがいるから働かないよ」
「そうしていただけるとこちらも助かります」
そう言ってマッチェは報奨金を取りに向かった。
ピーちゃんにウィルが聞いてくる。
「町長さんに何を頼むか決めたの?」
「もちろん。コフシーの店主さんが仲間じゃないから、町の人たちにばれないようにこっそりと香辛料を回収してほしいってことを頼むよ」
「それは叶えてもらえそうだね」
「味は変わらないから問題ないと思うんだよね、高くしない方が売れそうだよ」
「高いのを買う分が全部そちらに流れますから、売れるかもしれませんね」
ウィルとルティナが楽しそうに話してくれた。
マッチェが戻って来る。マッチェは小さい袋を2つ持ってきた。こちらになりますと言って渡してくれる。
マッチェにありがとうと言って袋を受け取った。
そのあと黒の砂は、空を走る光と別れる。
「じゃあまた後でね」
「「それではまた後で会いましょう」」
それに手を振って答えて来たので、こちらも手を振って答えた。
ギルドを出る。
商業ギルドに向かった。
商業ギルドは木製の大きな建物だ。中に入る。
そこまで人はいなかった。
受付の人に、今日ここに来た用件を伝える。
どうすれば店を開く許可が取れるかを聞きに来ました。土地も買おうと考えています。
と伝えた。
冒険者にはたまに店を開く人がいるようで、特に驚かれなかった。
月額銀貨10枚を払えば商業ギルドを使えるようになるらしい。
商業ギルドに売り上げを伝えると、税金が幾らや物件の紹介、他にも色々と教えてくれるのでそれの手数料のようだ。税金も商業ギルドに渡せば勝手に町に支払われるので、簡単になっている。
そしてなるべく広くて安い物件を何件か紹介してもらった。
地図を渡される。
午前中はそれを見て回る予定だ。
簡単にお礼を言って商業ギルドを出た。
「どういう場所がいいと思う?」
それを聞いてアルバートとサラが答える。
「人通りがほとんどない方がよいかと思います」
「支配の問題がある間しか、普通の町の人が来ないくらいでも、よろしいのではないでしょうか」
それを聞いたピーちゃんは嬉しそうだ。
「よく分かってるね、こっそりとすごいものを売るがモットーだよ」
「そう聞くと冒険者の方しか来ないような気がしますね」
「そうだよ、アルバート。きっとそうなるよ。というかそれってかなり稼げるね。じゃあ、町の端の方から見ていこうかな」
「「畏まりました」」
「なんだか、1件目で当たりな気がするよ」
そこは人通りがなく、周りに若干の草原の広がるここは本当に町の中と思えるような場所だった。
まあ、こんなところ売れないよねと3人は思う。
夜は完全な闇に包まれそう、かつ普通の店からだいぶ遠いので生活がしにくいのだ。
「通りがかりに見ていく人がいなさそうって意味では、ここはいい感じだね」
ピーちゃんの言葉にアルバートとサラが答えた。
「そうですね。ここで店を開いているというのは、宣伝しなければ分かりません」
「水を売るにはぴったりな場所だと思います。普段使いの店に行くときに、ここを通るルートにすることはできるようになっていますから」
2人の言葉にピーちゃんが考えて言う。
「それを含めて当たりだね。周りの草原もついてくるみたいだよ」
アルバートとサラがそれを聞いて話す。
「それで金貨50枚なのは売りたい、という意思が伝わってきますね」
「お兄様の言う通りです。早く買ってあげましょう」
「実はまだ売りに出されてからそんなに日が経ってない、そこもいいね。じゃあここにしよう」
3人はそこに決めたので商業ギルドにそこを買うことを伝えた。
受付の人はお金を払ったので、土地を買ったことを証明する紙をくれる。無事にその土地は3人の物になった。
その土地を売りたがっていた人も、嬉しく思っている。
なのでいそいそと、3人はまた店舗になる予定の土地に戻った。
「じゃあ、店を作ろうか、はっきり言って誰も通らないから誰にも気がつかれないよ」
ピーちゃんの言葉にアルバートとサラが言う。
「その通りですね、こんな所に今くる方はいないでしょう」
「面白くなってまいりましたね。すぐに作ってしまいましょう」
拠点でリリがベルを鳴らす。
急いで大勢の人がやって来る。
カーヘルがいたので声をかけた。
「今からグルークの町で店を作るんだ。手伝える人を30人くらい連れてきて欲しい。材料は石と鉄で作ろうと思ってる。それで、今回は全部任せようと思うんだけど問題ないかな?」
「全部というのは?」
「必要なことだけは伝えるけど、設計図を作るところからやって欲しい。見た目とか内装とかは全部まかせるよ。もちろん何か聞きたいことがあったら聞いてね。出来そうかな?」
ゲームでNPCに建物を作ってもらうには、設計図をエディット機能で作って、それを見せ、その通りに作ってもらうというのが普通の方法だった。
だが、武器屋やグルーク資料館を直す時にはこの世界の図面を見ることで、カーヘルを含む拠点のNPC達は普通に元通りの建物を作ることができた。
だからリリは、もしかして図面なり設計図なりを作るところから出来るんじゃない、と思ったので今回カーヘルに頼んでみる事にした。
カーヘルは少し驚いてからいう。
「リリ様がそうおっしゃるのであれば、このカーヘルに全てお任せください。急いで30人ほど連れてまいります。リリ様が御手を煩わす必要もございません」
「ありがとう、よろしくね」
「はい、では行ってまいります」
そう言って、すごい速度でカーヘルはトランプの館を出ていった。
大勢の人たちはリリに朝食最高でしたと言ってから、元居た場所に戻っていく。
リリはピーちゃんを動かす作業に戻った。
「カーヘルが30人くらい連れてきて、石製で店舗を作ってくれるって」
それを聞いてアルバートとサラが言う。
「それはすぐに終わりそうですね」
「すごい勢いで作られていく店舗は面白そうです」
本当に誰も通らないなと面白く思いながら待っていると、カーヘルが30人を連れて戻ってきた。
リリが〈範囲〉〈転移〉でピーちゃんの前に転移させる。
31人がやって来た。
カーヘルが聞く。
「どのような店舗をお望みですか」
「地下室があって、上は3階建て、かつ1階の高さが4m以上あるといいんじゃないかな。バックアップの人たちも使うかもしれないし、大きめにお願いね」
「ほとんどビルですね。畏まりました」
今ある建物の中を一応見てから壊す作業に入った。
使えそうな素材だけ外に出してある。
そのあと一気にスキルで燃やして、解体は終わった。
アイテムボックスから素材を出していく。
地面を掘るスキルを使うものもいる。
カーヘルを中心に何人かがその間に、設計図を作っていた。
ピーちゃんの趣味にまったく合わない建物を作ってしまってはいけないという共通認識があるので、ピーちゃんにこれで大丈夫かを確認した。
内装は後でいくらでも変えられるので、そこはピーちゃんにも楽しみにしていてもらおうと伝えていない。
ピーちゃんはゲームで作っていた設計図に、とてもよく似た書き方をされた設計図を見てOKを出した。
全員がそれを確認する。
そして一気にスキルを使って店舗を完成させた。
すごい速度で外側が石製のビルが地下室から、出来上がっていく。
そしてすぐに店舗は完成した。
カーヘルがやってきて言う。
「ピーちゃん 、出来ました」
「うんうん、皆よくやってくれたよ。流石のスピードだね」
全員が嬉しそうだ。
ピーちゃんに送られて拠点に帰っていった。
リリがもう一度似たような言葉をかけてから、全員が元の職場に帰っていく。もちろんご褒美の美味しい食事を食べてから戻った。
リリは店舗を作ることを予定していたので大量に作っている。
ピーちゃんが言う。
「見事なスピードだったね。中を見てみよう」
「楽しみです」
「どうなったのかしら」
アルバートとサラは楽しそうに扉に手をかけた。
扉を開けて中に入ると、まだ商品の置かれていない広い店といった光景が広がっていた。
カウンターと商品を置く机が置いてある。
ピーちゃんがアルバートとサラに話しかける。
「ここでしばらくは水を売れば良さそうだね」
「そうですね。ここが店舗ということになるようです」
「とても広いですし、多くの水が置けそうですね」
「じゃあ2階に行こう」
2階は調理場や炉、作業台など、生産に使える設備が集まっていた。
流れる水を作るのにちょうどいい感じだ。
「ここで水の生産を行っているようにみせかけてもいいし、作ってもいいね」
「最初は両方できるようにした方がよいかと思います」
「たくさん買う方がいらっしゃると困ってしまいますからね」
「それは見てみたいね。じゃあ3階に行こう」
3階は休憩所になっていた。
ベッドや机やいすがあり、簡単な食べ物が作れるようになっている。
シャワーやお風呂なども一通り揃っていた。
ピーちゃんが大きめにと言った効果が、出ている光景だった。
「ここで休む感じなんだね。なんか50人くらい寝れそうなくらいベッドがない? 空間拡張スキルも使ってるし、すごい大きい感じだね」
それを聞いてアルバートとサラが言う。
「ベッドの数がそれくらいはありそうな気がしますね。生活ができる設備はすべてそろっています」
「ベッドも寝心地がよさそうですね」
「カーヘル達作だからね、きっとすごくいいよ」
きっとここでご飯だなと思ったのでピーちゃんは言う。
「ここに転移できると便利そうだね。旗を刺しておこう」
アルバートとサラが楽しそうに言う。
「素晴らしいですね。行き来が簡単になります」
「移動の手間が減るのは、よろこばしいことです」
リリはピーちゃんの前に小さい旗を転移させた。
ピーちゃんは旗を端の方にそっと刺す。
転移ポイントが小さく展開される。
「最後は地下だね」
地下室は頑丈そうな金属製で出来ていた。
何でも好きなようにしてくださいというように何も置かれていない。
「ここはフリースペースなんだね」
アルバートが聞く。
「何を置くおつもりですか?」
「まだ秘密かな」
「気になりますね」
全部の階を回り終わったら、そろそろ昼食の時間だ。
食事はトランプの館で摂ることにする。
午後は襲撃の予定なので、一度森に行かなければいけない。
森から始めた方が良いだろうと、店舗に鍵をかけて外に出る。
森に着いてからピーちゃんは、アルバートとサラをトランプの館に転移で飛ばした。




