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32話 星

 外に出ると空はいつも夜空といった空模様が広がっている。

 完全に宇宙にいる気がした。

 宇宙には大きな星がいくつも浮かんでおり。

 溶岩地帯の星もあれば、森林地帯の星もあった。

 トランプの館がある迎賓の星はその中でも小さい方の星だ。

 客が来たらという設定で作られた星なので、いろいろな環境が楽しめるように作られている。


 外に出た空を走る光は驚いて声も出ないようだ。

 そしてまた聞いてくる。

 ここはいったいどこなんだと。

 それにリリが答えようとしたところで、ファーストが答える。


「ここは私達の主人が、私達と一緒に暮らすために作った家です。なので皆さんからみると異世界に見えるかもしれませんが、皆さんがいた場所とここは繋がっています。なので安心してください悪いことは何も起きませんよ」


 不安は消えないが落ち着きは取り戻せたようだ。

 それを見てリリは聞く。


「今からこの星を案内するけど、歩くと結構時間がかかるんだ。だから軽い運動として走るのはどうだろう」


 空を走る光は、リリが自分達の走るスピードについてくることは出来ないんじゃないかと思った。

 ウィルが伝える。


「リリさんが走るスピードと、僕たちの走るスピードがだいぶ変わってくると思うんだけどどうしようか」


 リリは思った。

 まあ逆だけど合ってるねと。


(思いっきり走ってるところを見せるのもありだけど、それだとまた驚かせることになるだろうし、やめておこう)


 なのでこう伝える。


「大丈夫だよ。私は空を飛んで一緒に行くから」


 それを聞いてナリダが聞いてくる。


「え、空を飛ぶ魔法を使えるの?」

「そうだよ、だから皆は好きなスピードで走ってね」


 空を走る光は、それなら大丈夫そうだと思った。

 リリは空を飛ぶ魔法を詠唱する。


「羽ばたけ、そして〈飛行〉せよ、フライ」


 リリが浮く。

 問題ないことを確認できた。

 空を走る光は、自分達のスピードで走ることに決める。


「じゃあ、ついてきてね」


 リリは道なりに進み始めた。


 リリの下をファーストが走っている。

 その少し後ろを、空を走る光が走っていた。

 道の左右は森が広がっている。

 しばらく進むと、だいぶ大きな広場が現れた。

 建物が1軒だけ建っている。


 リリはその建物に皆を案内した。

 中に入ると武器や防具が大量に置いてある。

 それを見て空を走る光のメンバーは驚いている。

 リリは伝えた。


「ここにあるものは全部自由に使っていいからね。訓練に使えるように用意したんだよ」

「すごい量だね。これ全部用意したの?」

「そうだよ、みんなに犯人を捕まえてほしいって、ここの全員が思ってるから準備できたんだ。すごいでしょ、だから自由に使ってね」


 それを聞いてダグが伝える。


「ああ、こんなに俺たちのために用意してもらったんだ。絶対に捕まえてやる」


 リリは楽しそうに言う。


「よろしくね。じゃあ、また外に出よう」


 リリはまた道なりに進む。

 そろそろ景色が変わりそうだなと思ったので、先に伝えておく。


「皆、そろそろ景色が変わるけど危なくないから安心してね。次は草原だよ」


 空を走る光のメンバーは不思議そうにしている。

 少し走るといきなり景色が変わった。

 空は青空に、周囲は一面の草原に変わる。

 所々に1本だけ木が生えていた。


 空を走る光のメンバーはかなり驚きながらも、走り続けている。

 リリは伝えた。


「この星はこうやっていきなり景色が変わるのが、特徴なんだ。だから、これからも変わるちょっと前に伝えるね」


 空を走る光のメンバーはさっきの注意は、このことかと気がついた。

 知らない世界に来た気分で、声をかける。


「分かった、頼んだよ」


 空を走る光が草原を走っている。

 角の生えた兎のような魔物、巨大な牛のような魔物などが目に入ったが一切襲ってくる気配はないようだ。

 リリの言っていた通り、ここでは魔物に見えても違う存在だということが分かった。

 その時リリが声をかけてくる。


「次は熱帯雨林だよ」


 景色が切り替わる。

 左右には木が密に立ち並び、人が入っていくのも難しそうだ。

 木にはつるが巻き付いている。

 そのまま走っていくと、かなり大きな幅を持った川が現れる。

 空を走る光のメンバーは戸惑った。

 しかしファーストは、そのまま川の上を走っていく。

 リリは伝える。


「皆が履いてる靴は、ファーストみたいに川の上を走れるようになってるから大丈夫だよ。ファーストが走れる場所はみんなも走れるから、これからも気にしないで走ってね」


 空を走る光のメンバーはそれを聞いて、そのまま川の上に走り出した。

 川の上を走る空を走る光は楽しそうだ。

 そのまま川を渡り切る。

 いろいろな虫の魔物がここにはいるようだ。

 それを気にせず走っていく。

 大きな山が見えてきた。

 そうするとリリが声をかけてくる。


「次は溶岩地帯だよ」


 景色が切り替わる。

 地下奥深くにいるようだ。

 真っ赤なマグマがそこら中を流れている。

 遠くでマグマが噴きあがった。

 空を走る光のメンバーは確実に熱そうな風景なのに、全く熱さを感じないことに気がついた。

 そしてこれがリリがトランプの館で言っていた、服にかけられた魔法かと感心する。

 そのまま走っていくとマグマの川が出来ていた。

 ファーストは気にせず、そのままマグマの川の上を走り抜ける。

 なので空を走る光も、マグマの上を走った。

 熱さは全く感じない。

 そのまま走り抜けることが出来た。

 巨大な赤いトカゲのような魔物や、マグマから顔をのぞかせる魔物がいるようだ。

 そういう魔物を見ているとリリが声をかけてくる。


「次は砂漠だよ」


 景色が切り替わる。

 熱い大陽がさんさんと照り付けている。

 周りにあるものはすべて砂だ。

 砂の量で高低差が生まれている。

 少し走ると、サボテンや植物が所々に生えていた。

 足の数が多いラクダのような魔物が、いることが分かる。

 空を走る光のメンバーはここでも熱さを感じなかった。

 そして砂で足を取られて走りにくいというような印象も、特に受けなかった。

 さらに走っていくと、オアシスが見えてくる。

 ファーストはオアシスの上を走った。

 なので空を走る光のメンバーも続く。

 ここでリリが声をかけてくる。


「次は海だよ」

 

 景色が切り替わる。

 一面の大海原だ。

 水平線がよく見えた。

 道の代わりにウキが道を示している。

 さらに走っていくと、所々に小さい島などがあるようだ。

 木製の船なども止まっている。

 鳥の魔物が空を飛んでいた。

 そのまま走っていくとリリが声をかけてくる。


「次は氷河だよ」


 景色が切り替わる。

 辺り一面に雪が降り積もり、全てのものが凍り付いていた。

 雪が降っている。

 地面が凍り付いているが、特に滑ったりはしないようだ。

 遠くに高い山があるのが見える。

 かなり寒そうな景色だが、全く寒さを感じなかった。

 白い熊や小さなペンギンのような魔物がいるようだ。

 そのまま走っていくと、雪の積もった木が生えている森にたどり着く。

 ここでリリが声をかけてくる。


「トランプの館がある森に戻るよ」


 景色が切り替わる。

 最初に走っていた森と同じ種類の木が生えていると、分かった。

 さらに走ると大きな湖が道の右側にある。

 そこには色々な種類のスライムがいた。

 跳ねたり、転がったりと自由にしている。

 そのまま走っていくとトランプの館に到着した。


 トランプの館に到着すると、リリが聞く。


「この星面白かった?」


 空を走る光はとても楽しそうに、ウィルは気に入ったよ、グローは楽しかった、ダグは面白かったな、ナリダはもちろんよ、ルティナはすごかったですと答えた。

 全員の言葉を聞いたリリは満足そうだ。

 リリは伝える。


「途中にあった熱そうなやつとか、寒そうなやつに直接手で触ったらだめだよ。流石にそこまでは防げないからね」


 空を走る光は頷いた。

 それから、リリは今のうちにプニプニを紹介しておいた方がいいと、思ったので先に伝える。


「今からここを管理してる、1つ目の丸い魔物みたいな見た目の人を紹介するよ。かなり驚くとは思うけど、襲ってきたりはしないので安心してね」


 それを聞いてウィル以外の空を走る光のメンバーは、大丈夫だと言った。

 ウィルはデメシードの外見を思い出してしまったので、一応聞く。


「ああいう見た目ではないんだよね」

「色も形も違うから大丈夫だよ」


 安心するウィル。

 それを不思議そうに、空を走る光の4人が見た。

 ウィルは首を横に振って、何でもないよと言った。

 リリは宇宙に向けて手を振って、プニプニを呼ぶ。

 そうすると、巨大な星と見間違えるほどの大きさの、丸い体をした存在がやって来る。

 空を走る光は全員が、空を見上げて驚いているようだ。

 その球体に1つだけ目のついた存在は、目を動かし全員を認識した。

 そして話かけてくる。


「リリ様、いかがいたしましたか」


 リリは笑って答える。


「空を走る光のみんなに、プニプニを紹介しておこうと思って。プニプニのことだから、みんなが運動してるのを見つけたら、気になって見に来るでしょ?」

「流石、リリ様。私のことをよく理解してくださっている。彼らがこの星で運動するようであれば、間違いなく私はここを見にくるでしょうな」


 プニプニは空を走る光の方を、見てから言う。


「さて、皆さま初めまして。私はこのエリアの管理を、リリ様より任せられているプニプニというものである。以後お見知りおきを」


 空を走る光はあまりの大きさに驚きながらも、初めましてと頭を下げた。

 その後リリに聞く。


「えーと、リリさん、彼は一体何者なの?」


 リリは笑って答える。


「最初に言ったでしょ、ここを管理してる人だよ。種族について知りたいんなら、最初はスライムだったから、スライムってことになるんじゃないかな」


 それを聞いて、空を走る光は呆然としている。

 これがスライムとは信じられないという気持ちのようだ。

 リリは伝えておく。


「さっきプニプニに言ったけど、きっとみんながこの星で運動していたら気になって見にくると思う。でも、襲ってきたりはしないから安心してね」


 空を走る光は星で魔物に襲われなかったことと、併せて考えて問題ないと判断したようだ。

 全員が分かったと言った。


 そのあと、プニプニが空を走る光に話しかける。


「私も君たちが見事に犯人を捕まえるのを、応援しているよ。私が見にきている時に協力してほしいことがあるようであれば、気軽に声をかけてくれたまえ。必要なものは用意しよう。よろしいですよね、リリ様」


「もちろんだよ。みんなには今日ここで自由に過ごしてもらって、明日犯人を無事に捕まえてもらわないといけないからね。そのためには全力で応援するよ」


 プニプニはリリの言葉を聞いて嬉しそうだが、宇宙なので跳ねられなくて残念そうだ。

 そしてリリに言う。


「それでは顔合わせも済みましたので、私はこのエリアの巡回に戻らせていただきますな。リリ様御前失礼いたしますぞ」


 そう言って、プニプニは宇宙の彼方へ飛んでいった。

 星空に溶け込んで見えなくなる。

 リリはプニプニが飛んでいくのを見送って、空を走る光に言う。


「とりあえず、みんなに見せたかったものは全部紹介できたから、私も一旦ここでの仕事に戻るね。みんなにはウィルの世話役だったスペードをつけておくから、ご飯のタイミングとか教えてくれるよ。それからもし気になることとかあるようだったら、スペードに聞いてね」


 空を走る光はそれを聞いて、頷いた。

 リリはここに戻るタイミングについて言う。


「今日はお昼を過ぎたあたりで、戻ってくるね」

 

 そう伝えてからリリとファーストは手を振って、トランプの館に戻っていく。

 空を走る光とスペードも、リリとファーストに手を振り返す。

 スペードが既ににいることに、空を走る光の全員が驚く。

 リリとファーストは、トランプの館に入った。

 そこでリリはファーストに言う。


「ねえ、ファースト。空を走る光がどうやって訓練しているか、こっそりでも堂々とでもいいから見ていてくれない?」

「どうしてですか?」

「彼らは今回人と戦うわけだから、きっと対人戦の練習をすると思うんだよね。私は正直どうやって対人戦の練習をしたらいいのか、全く分からないんだ。だから、ぜひファーストに見ておいてもらって、どうすればいいのか教えてもらいたいんだよね」


 ファーストはそれを聞いて、リリが人相手に勝つのに練習する必要はないと思う。

 つまり、リリが手加減が出来ないと悩んでいるようだと察した。

 そして思った、何とかして自分がリリ様のお相手を務めることはできないだろうかと。

 ファーストは考える、自分がリリと戦ったらどうなるかを。

 きっとリリはその場から動かないだろうから、自分が攻撃を加えることになるだろう。


 殴りかかってみる。

 手を握りつぶされる予感がした。

 遠くから銃で撃つ。

 撃とうとした時点で、すごい勢いでなぎ倒される気がする。


 攻撃魔法系スキルを使ってみる。

 数百倍になって返ってきそうだ。

 ダメだ戦いにならない。


 手加減をしてらっしゃるのにきっとこうなる、リリ様は強すぎる。

 リリが戦闘モードで動くと、この拠点の最高レベルの者たちでも目で追うのが、やっとの速さになるのだ。

 そこでふと気がつく。


 自分の強さに合わせて手加減をしていただく、必要はないのだと。

 きっと手加減が必要な場面は、空を走る光のような強さの者と戦う時に必要になって来るのだろう。

 ならもっと遅く動く必要がある。


 きっとリリ様には、ほとんど動いていないように見えるくらいの速度だろう。

 これならきっとリリ様も、手加減の練習が出来るはずだ。

 ファーストはリリにこのことを伝える。


「リリ様、空を走る光の練習風景はもちろん見させていただきます。そしてリリ様が手加減の練習をする際はぜひ、このファーストをお呼びください。彼らより少し速い程度で、動いてみせます。リリ様にはほとんど動いていないような速度に見えると思いますので、無事に手加減の練習が出来ると思います」


 リリはそれを聞いて、喜んで言う。


「すごいねファースト、その方法は思いつかなかったよ。ちょっとどれくらいの速度になるのか見てみたいから、今やってみることってできる?」

「はい、ラウンジでなら問題なく行えると思います。ではいきます」


 リリは戦闘モードと思う。

 ファーストは拳を構えて、右の拳を前に突き出した。

 リリには、それがとてもゆっくり動いているように見える。

 リリはこの速度なら、何とかなるような気がした。


 なのでファーストの前に移動する。

 無事に、ゆっくりこちらに拳が向かって来ているように見えた。

 これなら怖くないねと思ったリリは、ファーストの拳をやさしく止める。

 まったく力を入れずに止められたので、手加減の練習にはばっちりだと思った。

 なのでファーストに伝える。


「最高だよファースト、これなら無事に対人戦の練習ができるね。慣れてきたら少しずつスピードを上げていけば何とかなる気がするよ。お昼に戻ってきたら一度みんなが運動してるのを見ながら、やってみようかな」


「はい、ぜひやりましょう。このくらいの速さであればまだ彼らを、そこまで驚かせることにはならないと思います。それにリリ様が弱いと思われているのも、拠点の全ての者があまりいい気分ではございません。なので、彼らよりも強いということを、一応は分かっていただく必要があるかと思います」


 リリはそれを聞いて、拠点の皆が不愉快な気持だと、皆に悪いなと思ったので笑って答える。


「そうだね。じゃあちょっとだけ速めに動いてみようかな。ファーストならきっと避けられるよ。避けられなくても私は見えてるし、止められるから問題ないね」

「はい、お任せください」


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