33話 手加減
ピーちゃん、アルバート、サラは冒険者ギルドに向かっている。
きっと丁度良く最後の方になる時間だ。
町の人達が町のどこでもこんな話をしているのが聞こえる。
勇者パーティがいないのに事件が起きたんだって、良かった犯人は勇者パーティじゃないんだね、勇者パーティがこんなことやるわけがない。
無事に噂が変わったようで3人は笑いながら、冒険者ギルドに到着した。
多くの冒険者が森に出た後のようで本当にちょうどいい時間だったようだ。
ピーちゃん効果でマッチェのいる受付に行く。
マッチェは3人を見つけて楽しそうに声をかけてくる。
「皆さん、完璧な作戦の通りに町の噂が変わりましたよ。皆さんのことを疑う人は誰もいません。そして事件が起きたことを誰も疑っていません。空を走る光が犯人だという噂は完全に消えたようです」
それからと言ってから続ける。
「このことを知ったギルド長からの伝言です。今日は予定があるだろうから、明日俺に会いに来てくれ。大々的には言えないが感謝を伝えたい、とのことです。明日ギルドに来ることは可能ですか?」
3人は笑いながら言う。
「もちろん、ギルドに来るよ」「「もちろん、ギルドに来ます」」
それをきいて、マッチェは嬉しそうに伝える。
「ではそのようにギルド長に伝えておきます。ギルド長は明日を楽しみにされていると思いますよ。そして、今日は森に討伐に向かうということで、よろしいでしょうか?」
「うん、そうだよ。今日も今まで通り全員雇うよ」
マッチェは、ネックレスを用意しながらこう言う。
「分かりました。もう他の冒険者の方々は森に向かっていった後なので、今ここにいらっしゃる方を全員雇う形になります。すぐに用意しますので、少しだけお待ちください」
マッチェが受付を離れると、職員が大勢出てきてその場にいるパーティに振り子のようなものを渡していく。
すぐに用意が整った。
今回は一番多い23パーティだ。
3人は人数が多すぎる気もしたが、待ち時間は全くなくなると思うと丁度いい気もすると思った。
全てのパーティと挨拶をする。
その時に必ず完璧な作戦だと伝えられた。
冒険者達は全員知ってるんだね、とピーちゃんは面白く思う。
冒険者ギルドを出て、勇者パーティだと言われながら町を出る。
サクサク、トスッで待ち時間が全くなかったため、80台を軽く超えてしまった。
狩りすぎたねと3人で笑いながら森を出た。
今回雇った冒険者達が集まって来る。
彼らも今までと同じように、森で採集を行ってから町に戻るようだ。
彼らが森に戻ったのを見とどけてから、3人も今日は森に戻る。
ピーちゃんをバックアップに任せてから、アルバートとサラは拠点に戻って来た。
リリと一緒に空を走る光のもとに向かう。
リリはアルバートとサラに伝える。
「明日はアルバートとサラも一緒に犯人逮捕に協力してくれるかな?」
それを聞いてアルバートとサラが答える。
「はい、お任せください。彼らだけでやったという風にするのは、少し難しいと思われます。なので、私たちが協力した方がよいでしょう」
「はい、お任せください。私たちが協力することで彼らが無事に犯人を捕まえられるのであれば、喜ばしいことです」
「ありがとうアルバート、サラ。じゃあ今日は空を走る光にふたりを紹介しないとね」
2人はそれを聞いて楽しそうだ。
任せてくださいと力強く言う。
空を走る光がお互いに戦って、対人戦の練習をしている場所に着く。
武器や防具が大量に仕舞ってある倉庫がある広場だ。
それを見ているファーストとスペードに声をかける。
「ただいま、ファースト、スペード。今戻ったよ」
「「ただいま戻りました、ファースト様、スペードさん」」
ファーストとスペードが声をかけられたので、その方向を向いて言う。
「おかえりなさいませ、リリ様、それにアルバート、サラ。午前中の内に彼らは無事に戦いの勘が戻ったようですよ」
「おかえりなさいませ、リリ様、アルバート様、サラ様。私も少しだけ相手を務めましたが、動きに問題は無いように思います」
それを聞いてリリはこっそりいう。
「スペードって手加減上手なんだね」
「いいえ、リリ様。彼らが打ち込んでくるのを、全て避けるか防いだだけです。攻撃はしておりません」
その様子を見ていたファーストが言う。
「スペードに全ての攻撃が当たらないことに、彼らはかなり驚いておりました。録画しておきましたので、是非リリ様には対人戦における手加減の参考にしていただければ幸いです」
「やるね、ファースト。後でゆっくり見せてもらうね。じゃあファーストは、軽く対人戦の練習に付き合ってね。みんなも大丈夫そうだったら、練習に付き合ってもらうかもしれない。そのつもりでいてね。武器は抜いちゃダメだよ、つい殴り飛ばしそうな気がするから」
スペードとアルバートとサラは、リリに殴られた場合どうなるかを想像した。
スペードは思う。
自分は普通であれば物理攻撃は効かないはずである。
だが、リリ様に殴られた場合は別だ。
きっと一瞬で砕け散るだろう。
アルバートは思う。
リリ様に殴られた場合、良くて近くの木を数本なぎ倒して何とか止まる。
悪くてこの星を1周してここに戻って来るだろう。
サラは思う。
リリ様に殴られた場合、前後左右ならまだリリ様にここで止めてもらえるかもしれない。
上だと他の星に突き刺さることになる気がした。
全員が武器を抜かないことを決めたので返事をする。
「「「畏まりました。武器は抜かないように気をつけます」」」
リリは大丈夫そうだと思った。
なので、離れてファーストに向き合う。
ファーストもリリの方を向く。
リリとファーストがよろしくね、よろしくお願いいたします、と声をかけあってから、リリは思う。
戦闘モードと。
視界が切り替わる。
ファーストが、かなりゆっくり走って近づいてきた。
それを見てリリは近くにあった石を拾う。
そして、空を走る光に当たらないよう、立つ位置を調整してから、石をゆっくり投げる。
リリにとって、遅いスピードで真っすぐ石が飛んでいく。
ファーストはそれを避けた。
そしてそのまま、ゆっくりと拳を突き出してくる。
リリはそれをとても軽く力を入れて、止めた。
反動で、ファーストが後ろに下がる。
リリは足を前に動かす。
ファーストが無事に体勢を立て直した。
リリはファーストにゆっくりと近づいて、足払いの体勢に移行した。
ファーストはジャンプしようと膝を曲げ始める。
ファーストに当たる直前で足を止め、ファーストの足に脚を当ててから軽く力をいれてゆっくり転ばせた。
きちんと受け身の体勢を取って倒れるファースト。
ここで、先ほどリリが投げた石が木にぶつかったようだ。
木が折れ、石が砕け散った。
空を走る光は、いきなり木が折れたことに驚いている。
それに気がつかなかったので、リリは言う。
「ありがとう、ファースト。これくらいなら無事に手加減が出来そうだよ」
「ありがとうございます。リリ様、そう言っていただけて嬉しいです」
それを見ていたアルバート、サラ、スペードは手加減の練習がしたいんだということに気がついた。
それなら何とか自分達でもお役に立てそうだと、安心している。
そしてリリが言う。
「じゃあ、みんなでかかってきてね。あ、怖いって思った瞬間にちょっとスピードが上がるかもしれないけど、攻撃には振らないように気をつけるね」
それを聞いた4人の方が若干の恐怖を感じたが、攻撃されないなら何とかなると気持ちを切り替えた。
なので、リリとファースト、アルバート、サラ、スペードが向きあう。
そして、よろしくね、よろしくお願いいたします、と言った後に、リリは戦闘モードと考えた。
リリは最初と同じように石を拾うことにした、ついでに砂も片手に握れる程度に掬う。
四人も同じことを考えたようで、石を拾っている。
そして4つの石がゆっくりとリリに向かって飛んできた。
それを砂を握っていない方の手で、軽く捕まえて砂を握っている方に持ち替える。
そして砂ごと軽く4人にばらまいた。
ゆっくりと広がって飛ぶ砂と石。
これは避けられないと、ゆっくり前に出て、〈障壁〉を張るアルバート。
見事に砂と石を防ぐことには成功した。
リリはその時には既に障壁に足をかけている。
見た目にはそこまで硬そうには見えない障壁だが、100レベルのアルバートが張った障壁なので壊すにはかなりの力がいる。
それをリリはちょっとだけ強めに力を入れることで、粉砕した。
リリは思った、障壁ってこんなに脆いのと。
そのまま近くにいたアルバートの胸倉をつかんで、ゆっくり持ち上げて、足払いを軽くかけた。
ゆっくりと倒れていくアルバート。
それを気にせずに次の標的はと、一番近くにいるスペードを見る。
スペードはかなりの勇気を振り絞って、リリに向かって拳を突き出す。
リリはそれを片手で抑えた。
そして、この中では一番レベルが低いスペードのことを、とても軽く押し出した。
ゆっくりと吹き飛んでいくスペード。
地面に倒れるその前に、次はサラの方を見る。
サラは、蹴りを入れようとしているようだ。
ゆっくりと足を持ち上げていく。
足が自分の方に近づいたのを確認して、それを1歩下がって避けてから、サラの上半身を軽く押す。
そうすることでバランスを崩して、サラはゆっくりと倒れていく。
最後にファーストが向かってくる。
ゆっくりと拳を突き出してくるファースト。
それに合わせるようにリリもパンチをしてみた。
手と手が合わさった瞬間、見た目からは想像できないくらい大きな音がする。
ファーストは少しずつ力を入れているようだ。
リリも同じだけの力で対抗する。
最終的にファーストが全力で力をこめるが、全くリリを押し返せなかった。
だから、リリがそれを少しだけ上回る力を込めてみる。
ファーストは見事に吹き飛んだ。
ゆっくりと飛んでいく。
無事に地面に倒れたところで、リリは4人を見てみる。
ほとんど同じタイミングで、倒れているような気がした。
まあ、手加減には成功しているからセーフだねと考えて4人に声をかける。
「ありがとうみんな、これくらいなら何とか手加減できそうだよ」
倒れた状態から起き上がった4人がそれを聞いてリリに、お役に立てて良かったですと伝えた。




