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第23話 薬をつくってみたとさ

 知らない世界で、私は強い私を演じていました。私のメンタルは豆腐並ですから、超泣き虫なのです、本当は。でも、悲しくても、涙腺が崩壊しそうになってもぎりぎりまで絶えないといけないって思うようになりました。涙も一つの武器になりますもの、使い時を間違えてはいけません。

 私はきっとこうやって少しずつ、彩月からアザレアになっていくのだと思います。向こうでは、あまったれ小娘でしたからね。

 今日からしばらくレイさんがいないのがさびしいですが、レイさんが返ってきたとき何も成長してゐない私を見て失望なさらないように今日も私は私を磨いていきます。


「ユリアさん、あの薬学を教えていただけませんでしょうか」

「ん、薬学? いいわよ」


 意を決して尋ねたところあっけカランと許可をいただけました。ほぉ、よかったです……あ、いけません。まだ何も始まっていないのに気を抜くなんて、レイさんの弟子失格です。塔の中にあるユリアさんの部屋にはたくさんの書物と薬品が、混在しています。その他にも私が名前を知らない道具から、ビーカーやスポイトなど理科室で見慣れたものも数多く見ます。赤や青、黄色や緑と言った明るい色から紫色や黒といった不気味な色の薬品があります。これ、割らないように気を付けなければなりませんね。どんな効果かわからないので、すごく怖ろしいです。状態以上回復の魔道具があるので、そう大事に至ることは起きないとは思いますが……。


「ありがとうございます」


「まぁ、専門だし、弟弟子の愛弟子だからサービスしてあげるわっ。だって、あの子一人でなんでもできちゃうから、姉弟子ぶることできないしね」


少し残念そうな声音でユリアさんは、言います。弟分の方が先に賢者と言う地位を確立したので、心中は複雑なのかもしれませんね。普段の二人のやり取りを見てゐるとそういったことはあまり感じさせません。とても仲がよさそうに見えます。


「レイさん、本当にすごいですよね。絵本の中の魔法使いみたいです」


「そうそう、いつかどっかの国の英雄にでもなりそうよね。う~ん、まずやっぱ基礎から? でも教科書通りなら、別に私がゐなくても何とかなりそうだし、やっぱ実践的に行こうか」


「はい、よろしくお願いします」


 このようなやり取りの後から、レイさんが帰ってくる前の間私は薬学について重点的に学ぶことになりました。手に職をつけておいて損はないはずです。もし、レイさんに捨てられてしまっても、この知識と技術で生活を支えられるようになるのが理想ですね。向こうの世界では資格の一つも取らなかった私が……人間あまりにもありえないことの連続を体験すると変わらざる得なくなる生き物なのですね。実感しました。


 この塔の付近は珍しい植生のため、世間一般的な植物とかけ離れているらしいので、今日はとりあえずユリアさんおすすめの薬草山に行くことになりました。えぇ、ユニコーンに乗せてもらいました。その前にしっかりと酔い止めをいただきましたし、レイさんから事前に渡されていた魔道具を装着していたおかげで快適な空の旅を今味わっているところです。

 正直なところ私って高所恐怖症なんですよね。高い場所にいる渡航衝動的に飛び降りたくなってしまいたくなるといいますか、危ない人ですね。だからといってバンジージャンプを死体って思わないんですけど、自殺したくなったら死の恐怖を体験するためにバンジージャンプとぐるぐる回転するジェットコースタとかを味わおうと心に決めていましたが、もうそういうアトラクションを挑戦する機会がもしかしたら永遠に訪れないかもしれませんね。

 薬学の勉強は難しかったです。何グラムとか数字がいっぱいで頭がくらくらしてきてしまいます。歴史とか神話とかは物語なので、あらすじを憶えておけば何とかなるじゃないですか、でも数字ってそうはいかないので……理系じゃないんですから仕方がないじゃないですか。

 それに、どの葉も花もみんな似たり寄ったりで、毒があったらどうしようとか思ってすごく悩みます。時間がとってもかかりますね。やはり数こなすのが一番でしょうね。ココには賢者の弟子であるユリアさんがいらっしゃるので多少の私の失敗はカバーしてくれるはずです。甘えでしょうか?


「そうそう、あ! これは違うわよ。こっちは、傷薬に使うやつだけど、こっちは、石鹸とか作るのに使うやつよ」

「そうなのですか。ありがとうございます。葉っぱがギザギザしている方が、クロニードで、ギザギザしていないほうが、ホルチェですね」


 忘れないうちにメモです。ポーチから筆記用具を出して自分用の図鑑に付箋を貼り書き込みを入れます。この世界にカメラはないのでしょうか? あったら、こういう時便利です。図鑑の絵って正直分かりにくいです。色鉛筆や絵の具の色と本物の色はやはり違いますしね。もしかしたら、私が知らないだけであるのかもしれません。今度レイさんに聞いてみましょう。もしかしたら、作ってくださるかもしれません。今使っている付箋もレイさんが作ってくださったとても便利な品です。


「ふふふ、教えがいのある生徒で嬉しいわ」


 ユリアさんはそうおっしゃいますが、私は極めて普通ですよ。学校での授業態度とそう変わらないはずですが、この世界の授業形態は私の知っているものとやはり異なるのでしょうか。


「これは、アマロネの実ですね。これは、ロップで根が大事なのですよね」


「そうそう。ロップは、この山の近辺で多く取れるけどほかじゃあ、見つかりにくいからね」


「そうなのですか? ですが、ロップは薬学においてかなり重要な品ですよね?」

「まぁ、そうなんだけどね。でも、ロップを扱いきれる人間はかなり少ないのよ。ちょっと扱いを間違えると危険な毒薬にもなるしね」


 ロップは、かなり強力な麻酔効果があるようです。私には正直どれも似た雑草にしか見えないんですよね。だから、図鑑とにらめっこして探しています。レイさんにもらった魔道具を使うというインチキ方法はありますけど、魔道具に頼りっぱなしでは成長しません。私は、成長しなければなりません。


「ん、ちょっとおいで。この花の蜜を採取してみようか」


呼ばれて、ユリアさんの元まで行くと、紫色の大きな花弁を持つメルカの花が群生していました。たしか、この花も希少なものだったはずです。この花の蜜を利用した薬品は、どんな効果があるのでしょうか。気になります。少しだけ、楽しくなってきました。ユリアさんに師事されたとおりに、花の蜜を採取していきます。このスポイトのようなかたちをした道具もレイさん作なのだとか。この魔道具は、ユリアさんたちが花の蜜を採取するのをとてもめんどくさそうにしていたのを見かねて作ったそうです。その性能に、一目ぼれしたユリアさんたちは、資金援助をして大量生産させ、有名や腕のいい薬師に販売してぼろもうけしたとか。


このスポイトもどきの容量限界は、見た目を裏切り大量に収納できるので連続採取に向いています。メルカの蜜は、綺麗な黄金色をしているので、楽しくなってしまいます。

 それからお腹が鳴るまでの間、向こうでは考えられないくらい長時間日光を浴びて葉っぱの形や実の色、根の形や、土壌の環境などをじっと観察して、採取しました。


「ふぅ、さすがに疲れますね」

「よく頑張っていたわね。あんまり根を詰めすぎないようにね。貴女、頑張りすぎてダウンするタイプでしょう」


 うっ、確かに。テスト前に頑張って本番ふらふらしてましたけど、この短時間でなぜばれたのでしょうか。私ってそんなにがり勉オーラ出してます? 出してませんよね?





 もう一度空の旅をして、我が家?に帰ってきました。


「それじゃあ、さっそく何か作ってみましょうか」というユリアさんの一言で、薬品を実際に作ることになりました。大なべのある部屋にやってきたので、なんか悪い魔女になった気分です。取れたてのメルカの蜜とバルサの樹液、それからあの場所に生息するハーミュの血、クックロアの羽、切られてもすぐに元通りになるイーモリの尾……ふふふ、いかにも魔女っぽくなってきました。それから、空に流れる川「天川」の水と地に咲くパール、名前をまだ覚えてゐない海藻やそれからいくつかの液体を鍋の中にユリアさんの指示通りに入れていきます。なんか、子供の食べられないままごとをしている気分になりますね。グルグルといかにも魔女の鍋というイメージで混ぜ込みます。


それにしても、私何を一体つくらされているのでしょうかね? これはそもそも飲み薬なのでしょうか、それとも塗り薬? 色を聞かれたことと何か関係があるのでしょうか……。


「そろそろいいわね。あとは、屑魔石を入れて、呪文を言えば完成よ」

「魔法薬ですか」

「そうよ。あなたは、まだ魔道具以外で魔術が発動できなかったのよね。呪文部分は私がやるわ。あと、仕上げの部分は魔道具を使うからあなたにも手伝ってもらうわ」


呪文を唱えながら屑魔石をさらに粉々にし、鍋に投入するとあら不思議、さっきまで異臭を放ちぐつぐつと荒々しい様子だった鍋が急にペ~かって光り静かになります。様々な色が混ざっていたのがウソのように、無色透明の液体へ早変わりしていました。ちなみに、無臭です。いったい何のミラクルが起きたのでしょうか! 魔法と言う存在を知ってなお、こういう現象には驚きを隠せません。


「よし、完成っと、そこの棚にある空瓶をあるだけ持って来て」

「はい」


透明な瓶は、棚の中に20個ほどあります。これは、いっぺんに運ぶことは無理そうです。どこかにトレイらしきものがあればよいのですが。それともここは、何度も往復するべきところなのでしょうか。と、とりあえず、聞いてみましょう。


「ユリアさん、トレイのようなものはありますか?」

「あるわよー、確か机の上に食事用のトレイが」


机の上に、確かにトレイはありました。しかし、その上にとても重そうな本が三冊あります。品を引きずり落としていいものかどうか悩みます。これを持ち上げるのは、骨がおりそうですが、魔道具を使えば三冊一片でも大丈夫です。


≪command:身体強化≫


本を軽々とどかします。魔道具は争いごとに使うよりも日常生活に使うことの方が多いいわたしってそういえばレイさんから見てどうなのでしょうか。レイさんが作ってくれた籠の中にいる鳥的な立場な私は、今のところ目立った悪意にさらされることなく安全で文化的生活を営んでいます。


とりあえずそのままの状態で、瓶を手早くトレイの上に乗せて運びます。この便もどうやら魔道具の一種のようです。なぜならきゅぽんと瓶のふたを外し鍋に向けると自動で吸い込まれていくからです。そして、瓶の容量を無視した量が入っていく非常識の様子からみて、我師匠レイさんの作品のようです。


身体強化をしたままでよかったです。すべての瓶に中身が入った状態はさすがに重たいですしね。とりあえず、瓶はすべて棚に戻していきます。


鍋の中にはまだ少し残っていますから、何か容器を持ってきた方がいいですよね。このまま戦場の魔法を使うようでは、もったいないです。

たっぱたっぱ♪ないかなぁ~などと口ずさみながら室内を探し回りますが、どれも使用済みの容器ばかりです。一度ユリアさん、きちんと掃除をしておいた方がいいと思います。絶対体に害とかありそうです。もしかしたら、他にもこういう部屋がいくつかあるから、レイさんがお菓子の家を建ててくれたのかもしれませんね。






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