表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/28

第22話 「英雄になんてなってたまるかっ」だとさ

「ん、よく寝た」

 すっかり日が上っているけど、気にしない。昨日は散々な目にあったんだ、一応魔物を退治した一番の功労者だからこれくらいの予定の狂いは、彩月だって許してくれるに違いな……い、うん。

 捨てられた子犬のようなあの目をもう一度されると理性が保つ自信がないので、なるべく早く移動して次の目的を果たさなくてはならない。昨日の荒れようから考えて、この宿で朝食をとるのは無理かもしれない。あれから、特に騒ぎはなかったから、妙に静かなのはみんな寝坊したからか、喪に服しているからだろう。


 手早く着替え、身支度を整えると、持ってきた荷物を背負い部屋を出ようとして、ふっと思案する。前金払いだから、このまま部屋の窓から飛び降りるのもありだろうか? いろいろとめんどくさそうなことに巻き込まれる気がするのだ。こいう予感ほどよく当たるのはいったいどういうシステムなのだろう。


 コンコン


 ドアをたたく音を聞いて、今すぐにでも窓から出てしまおうかとは思ったが、昨日ヴェレルのやつに後処理を任せてしまったので、事後経過くらいは、聞いてやった方がいいかと思い、ドアの向こうにヴェレルがいることを確信しながら、開ける。

 そこにいたのは、やはり彼であった。こういう気配を読むのは、さぼらなきゃ俺でもできる。なんで、魔物の襲撃に気が付かなかったのかって? いやぁ、気がついていたけど警備隊で何とかなるって思っていたんだよ。

 それが、あのざま。


「ヴェレムか。どうした」

「どうしたって、後処理全部僕に任せましたよね。自分はとっとと部屋に戻ってしまうし」


 目の下にクマを作った吟遊詩人がそこにはいた。もしかしてこいつ、徹夜で?

 さすがに、悪いと俺だって思う。


「すまん」

「それ、全然済まないと思ってないですよね?」

「いや、そんなことはない。」

「別に、構いませんよ。おかげで。生き延びられましたし。報酬とかもらえましたよ。これを渡そうと思って」


 ヴェレムが、ひょいとよこしたのは銀貨がほどほどに入った小さな袋だった。俺はほとんど何もしていないに等しいからこれをもらうわけには行かない。


「いらん、おまえにやる。事後処理の礼だ。あ、ちょっと待て。今から、あの魔物についての俺の見立てっていうか、実際に戦闘してみて分かったこと書きだすから」

「! あぁ、そうしてくれると助かるよ。僕は実際に戦ってないし、なんかものすごく速く倒されてたからね」


 なんで、もっと早く倒さなかったのか!

 町の人たちを見殺しにしたのか!

 おまえなら、助けられるだろう!


 そういう言葉が正直、こいつの口から出てくると思っていた。見くびっていたな。

 たぶん、へらへらとしている割に、こいつは意外と周囲のことを見ている。旅をしているうちに身についた処世術みたいなものかな。さすが、賢者の弟子入りを目指しただけはあるな。


 こいつは、ヒーローがいないということをきっとわかっている。



 羽ペンと羊用紙といったファンタジーなものではなく、前世で俺とカズで広めた紙に文字を書いている。爆発的に広まった紙は、今では庶民でも手が出せるようになっているのでいまおれがこうして使っていてもあまり違和感がないはずだ。


「なぁ、おまえギルドに登録してるか?」


 さらさらと、昨日戦った魔物のデーターを書き込んでいく。身長、体重、硬度、強度、属性、主な攻撃パターン……今わかっていることを書き込んでいく。あの魔物、新種だと騒いでいたな。俺も、全部の魔物の名称や特徴を憶えているわけじゃない。今度、図鑑とか本の内容をデーターベース化させて持ち運べる方法を考えるか。

 それにしても、不自然だった。ああいう二種類の生物が組み合わさったものには大概継ぎ目部分があるキメラが一般的だ。だが、あれはどう見ても蜘蛛とカエルをまるで遺伝子レベルで組み合わせたかのようだ。

 あとで、こっそりと回収した魔物の残骸を塔にある機材で詳しく調べるつもりだが、これは自然に発生したものではなく人為的なものと考えるべきだろう。ああいう個体がほかにもいるのかどうかも、気になるな。魔花が咲きそうだという噂もあるし、これは気にしたほうがいいな。

 今は、俺一人じゃないしな。彩月という保護対象がいるのだから。守るものができると、人は弱くなるのだろうか? 向こうにいた時、暇つぶしに読んだ小説でそんなことをだれかが言っていた気がする。一人でいたほうが多分強い。守るべきものができた時点で負け……本当に? 彩月の存在がマイナスになるなら、それを上回るプラスをどこかで生み出せばいい。


「まぁ、一応ね。荒事じゃなくて採取系中心だけど……ランクは、D+」


 歌っているだけじゃあ、稼げないんだと、肩をすくめていう。まぁ、確かにそうだろう。娯楽に金を使えるほど富んだ町もあれば、明日の食糧すら怪しい町もある。そういう町から町へと旅する上である程度の腕っ節は必要である。Cもあれば、十分だとされている。





「ヴェレム、おまえはこの後の予定決まっているか? いないんなら、ちょっくらこの町の警備兵を回収に付き合わないか?」


 一通り書き終え、ほかに名に書き残したことがないか確認してヴェレムに渡す。ヴェレムは、興味深げに報告書もどきを読み込む。そんなに面白いもののはずじゃないんだが。


「戦いながら、これだけの情報を手に入れていたのかい? 信じられない。いや、君を疑っているわけじゃないんだ。僕には到底まねできないなと」

「マネしたいなら、させてやってもいいぞ?」

 D+それだけ、あれば十分。あとはこっちで引き上げてやればいい。


 ちょっと、ハイテクすぎる魔道具を使いこなせるようになればランクは、あっという間に上がるだろう。というか、俺があげて見せる。ウィンディーネとのハーフなら、水属性の適正が高いはずだ。ユリア姉さんの任務にこいつを連れて行っても、きっと役立つだろう。


「そんな簡単にマネできたら苦労しないって」

「魔道具を使えば簡単だ。んで、予定の方はどうよ」

「予定の方なら問題ないよ。本当はもう少し滞在する予定だったけどこの様子じゃあ、邪魔だろうしね……魔道具ってめちゃくちゃ高いから、僕には手が届かないよ」

「まぁ、それが普通だよな。出発は、速い方がいいだろう。ケンタウロスのおっちゃんは、どうよ。昨日、腰抜かしてたみたいだからさ」


 男から見てもなかなか整っているって思う顔を歪めて、言いにくそうな様子からあまりいい話題ではないようだ。別に気にしないから、話せと頼むとしぶしぶ話してくれた内容をまとめると……どうやらかなりご立腹らしい。そりゃあ、当たり前か。一瞬にして、鎮火させる腕と新種の魔物に対して始終余裕綽々とした様子で、対応し討伐するのを目の前で見せられたんだもんな。

 そんな腕があるのなら早く倒せよって思っちまうよな。

 俺や吟遊詩人はこの町の人間じゃないけど、おっちゃんは違う。これからも、この町で暮らして行かなくちゃならない。

 だからこそ、俺は極力手を出さなかった。なぜならば、いつもこの町のピンチに駆けつけることは俺にはできない。そういうご当地ヒーローは現地の人間が成るべきものなのだ。誰か一人をいけにえにするのではなく全員が、ヒーローになるべきなのだ。



「悪気はないんだと思うよ。ただ、自分の住んでいる町が、こんなことになっちゃったから」

「わかってる。むしろ、そういう反応が普通だ」

「感謝される謂れこそあれ、憎まれたり恨まれたりする謂れは、ありませんよ」

「慣れているよ」


 そうもう慣れた。なぜ、守ってくれなかった。見殺しにした。この人殺し。そういう言葉は、聞きなれてしまった。初めは胸が押しつぶされそうになった。だけど、俺はこうする。俺は、過去の失敗を繰り返さない。



 彩月に手を貸すのは完全に、俺の趣味だ。あいつもあいつで、この世界での安全と引き換えに俺が与えるぬるま湯に自らの意思で浸かっている。観察していれば、いろいろとわかる。あいつは、天秤にかけて、損得を計算して、俺のもとに今はいる。だが、力と知恵と知識を身に着けたあいつの行動は今の俺には読めない。あいつは俺の用意したかごからあっという間に旅立っていきそうな気さえする。できれば、もう少しそばにいて話をしたい。向こうの世界に俺は今も縛られている。いつまで、俺は縛られているのだろうか。


「……そうですか。あなたは難儀な性格をしていますね」

「ふん、別にいいだろう」

「ええ。面白そうですから、ついて行くことにすることにしますよ。見ていて、おもしろそうだ。あなたはいつか、僕が歌うような人になる気がしますね」


 既になっているよ。お前が歌う英雄は、前世の俺だ。まったく、混んでは静かに優雅にのんびりと自由気ままに暮らすんだ。英雄になんてなってたまるかっ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ