第18話 レイさんの魔道具は半端ないんだとさ
すみません、今回は少し短めです。でも、きりがいいので。
「わぁ、この子えげつな。のど元掻っ切ろうとしたよねぇ、君」
「はい。まぁ、その全てを防がれてますけどね」
「この速度なら生半可の魔物なら、一瞬で仕留められそうだね。うぅん、あたしがタフじゃなきゃ危なかったかもね」
ふぅ、このままじゃあ埒がありませんね。今度は蹴り技を試してみましょうか。この人になぜか雷撃があまり効かないようなので、今度は風をまとってみましょうか。身を低くして、横からユリアさんの足めがけて回し蹴りを繰り出すと、それをあらかじめ察したユリアさんがひょいっと後ろに跳躍し着地。肩をすくめて、残念と言っているユリアさんには悪いんだけど、この回し蹴り実は後から見えないけりがついて来たりしちゃうんです。それにしても、あの高い厚底の靴でひょいひょい動けるのは本当に不思議で仕方がない。
実は今の蹴りはユリアさんの足を半場本気で狙ってはいたのですが、目的はその勢いで風の蹴りを数メートル先に飛ばすこと。
「うわっ、なにこれ」
見えない突風に、おもわずユリアさんの態勢が崩れ、片膝をつく。近接戦はやはりユリアさんの十八番のようなので、遠距離攻撃に切り替える。右手の中指にはめてある指輪が淡く発光し、弓を作り出す。
『Command:氷矢乱舞』
狙うのはユリアさんの足元。私が戦闘の初めに張った《水壁》は、ユリアさんの攻撃を受けて、ただの水になってしまっているけど確かに、地面にまだ残留している。そして、それは今ちょうどユリアさんの足元にある。
魔道具の発動キーは、地球の言語だ。これは、翻訳されないように、レイさんがいろいろ魔道具をちゃちゃちゃっと改良した結果なのだが、そのおかげで、こちらの世界の人には詠唱内容の把握ができない。何の攻撃が来るかあらかじめ知ることができなくなるのだ。
ためらったら負けてしまう。私の戦闘経験なんてほとんどないに等しい。 私この魔道具の威力知らないんだよねの一つもなかった私が今みたいにたった一週間で戦えるようになっているのには色々とトリックがあったりする。
「ちょっ、あなた本当に遠慮ってやつが皆無なのね。あぁ、もう《魔術障壁》!」
ユリアさんが、自分を守るために発動させたのは魔法のみを防ぐ障壁。だけど、障壁の外側の水に氷の矢が当たりじわじわ浸食するように、凍っていくのは魔術であって魔術でないので、防ぎきれない。ユリアさんは魔法を発動させるときにイメージしたのは、氷矢をすべて防ぐことのみ。この世界での魔法が、かなりのイメージ力が必要なんだとか。私の場合魔法は魔法でも魔道具だから、ちょっと違うんだけどね。まぁ、そんなわけで、たくさんの氷矢が発する冷気によって障壁の内側にある水が凍っていくのは防げないのだ。
「な」
片足を見事に水たまりに着けていたユリアさんは、あわてたように足を抜こうとする。なかなか、抜けないと悟るや否や、炎の魔法を発動させると同時に、身体強化系の魔法を使って無理やりに足を抜く。身動きができないって、やっぱ戦闘中に望ましくない。今度はしっかりと、私を見ている。
魔術障壁は物理的な攻撃は通すので、ナイフを地面すれすれを走らせるようにして近づきのど元に突き付けるよりも早く、ユリアさんの右の拳が私の鳩尾を狙って打ってくる。でも、下半身の動きが不自由な今のユリアさんの攻撃の速度なら、私でも体を右にずらしながら左手でユリアさんの手をつかむと同時に、良くわからない魔道具を発動させる。
「Command:《幻視痛》」
確か、本当にけがをしたわけではないけど、そう錯覚するほどの痛みが襲う精神攻撃型の魔道具だ。これは、まだ改良が必要な一品らしく相手に直接五秒以上触れていなければならないっていう欠点があるのだ。
ごめんなさい、ユリアさん。私この魔道具の威力しらないんだよね。
「あ゛ああああああああっ」
私に掴まれた右腕を抑えながら突如としてうずくまり、悲鳴を上げるユリアさん。えっと、これって戦闘続行不可でいいのかな。
「そこまでっ」
レイさんが、そう声を張り上げて、指をぱちんとして発動中だった試作品魔道具の魔力供給を遠距離操作でカットしてさっきまで発動していた魔道具を止める。それから、よくやったといった表情で頭をやさしくぽんぽんと撫でてくれた後、ユリアさんに近づき《精神回復》の魔法をささっとかけてしまう。あの魔法って、けっこう難易度が高いとかレイさんが教科書という名目で貸してくれた本に書いてあった気がする。もう、この人だから何でもアリかな。
「はぁ、はぁはぁ。っ、負けたわ。で、でも、負けたのはあんたにじゃなくて、その子にだからねっ。あそこまで、遠慮容赦なく、模擬戦で攻撃してくるとは思わなかったわ」
「往生際が悪いというかなんというか。アザレアは、俺の一番弟子ですから、強いのは当然ですよ。といっても、一週間前からなんですけどね」
「はぁ?」
「一週間前までは、本より重たいものは持ったことがないわって本気で言えちゃうくらい箱入り娘のお嬢様でしたから、彼女」
「冗談でしょ」
戦闘中ほとんど汗をかかなかったユリアさんの顔に冷や汗がたらりと流れる。うん、その気持ちわかるよ。でも、信じられなけど真実なんだよね。
「いや、マジで。俺って意外に師匠とかに向いているなって実感したところ」
「レイさん、でもあれは普通じゃついて行けませんよ。心が折れます」
「でも、アザレアは平気だっただろ」
「私の場合は強くならないと死んじゃうっていう危機感がほかの人より格段に強かったからですよ。なんせ、平和なとこでこの二十年間生活してましたもの」
ははは、私の体をレイさんがマリオネットみたいにして、体に直接戦闘術を叩き込んだのだ。それをカーヤ様に頂いた祝福《強化》が、学習速度を強化してくれて、ものすごく物覚えがよくなったってわけ。うぅん、カーヤ様から加護をいただいていなかったら私、ダウンしていたかもしれない。普通なら筋肉痛で動けなくなるであろう体を強化して守ってくれたのもまたたぶん魔道具以上にこの祝福のおかげだって、レイさんが言ってたし。
「それで、ユリア姉さん、最後の攻撃を喰らった感想、良かったら聞かせてくれません?」
レイさんのその一言で今回のやりとり、それも出会ってから始まっていたのがすべてこの魔道具の機能テストだと気付いたユリアさんの魂の絶叫が樹海に響き渡る。
「――――っ。誰が、教えるか。ボケッ!」
鳥がめっちゃバサバサと飛んで行ったのは、多分気のせいじゃないだろう。
まぁ、とにもかくにも、私もレイさんに同行できるようです。危ないのは怖いですけど今は一人になることの方が何倍にも怖いんです。




