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異世界コールセンター! ~冒険案内受け付けます~  作者: 國樹田 樹


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上司の知られざる一面


 あの後、ジャンの要望によりイサは医務室でローベニクの診察を受けることになった。


それも彼が立ち会いの下である。イサは全く変化無しだったが、ジャンは確かめないと気が済まなかったようだ。


 結局イサは異常なしとの太鼓判をもらい、今は寮へ帰る準備をしている。


 ジャンが戻ってきたことで、フロアは通常営業となっている。今は遅番勤務の者達が業務についていた。イサは今日は早番だったので夕方で上がりだ。


 支給されている革鞄に荷物を詰め込みながら、離れた場所でエキディウスと話し込んでいるジャンの横顔を見つめた。


 彼が何を理由にあんなにまで追い詰められた表情をしたのか、イサはずっと気になっている。けれど聞くにはまだ距離が遠い。あくまで上司と部下なのだ。


 無理に理由を知りたいわけではないが、ジャンにはもう二度とあんな顔をさせたくはないとイサは思っていた。


(良い人だから……態度は厳しいけど、本当はとても優しい人だから)


 そんなジャンが傷つくのは、嫌だ。自分に何か出来ることはないのだろうか。


(仕事を頑張る……のはまあ、自分のためでもあるとして。ムール統括長に何かできないかなぁ。この間から二回も助けてもらったし)


「おーい、イサ。まだかぁ?」


 ううん、と悩んだところでふいに声がかかって振り向くと、すでに帰り支度を済ませたユッタがいた。


彼は片腕に革鞄を抱え、もう片方の手をポケットの中に突っ込んで立っていた。


 それでイサはおや? と思う。確かユッタはイサより早く仕事を終えていたはずだ。なのに、どうしてまだいるのだろうか。


「あれ、ユッタ。まだいたんだ」


「うっわ。つれねえなぁ。イサを待ってたんだよ。ってかお疲れさん。いやー、お前今日は大変だったな。あのイタ念ってやっぱムール統括長のストーカーだったんだろ?」


 肩を竦めて苦笑するユッタはどうやらイサを待っていてくれたようだ。


 イサがトラブったのを見ていた彼は、先に帰るのは気が引けたのだろう。


「そうなのかな? どっちにしても、何かすごい強烈な感じの人だったよ」


 ストーカーかどうかはわからないが、ジャンに執着しているのは確かだと思った。ジャンも相手については以前から知っているような口ぶりだったし、エキディウスも認識していたようだ。けれどジャンに直接聞けてはいない。いずれ報告書が上がるだろうが、何らかの因縁があることは確かだろう。


 鞄を持って立ち上がり、フロアの出口を出て通路を歩きながらユッタと話す。ユッタはあの時ジャンを内線で呼んでくれた。何だかんだ良い奴である。


 ユッタはイサの返事に軽くため息を吐きながら肩を竦めた。彼の頬に夕暮れの赤い日が差している。


「統括長を名指しだったんだろ? たぶんそいつ、前から有名なストーカー女だぜ。先輩案内人達の間じゃ周知されてるらしくてさ。何度も術式で弾かれてるのに、あの手この手でしつこくかけてくるんだってよ」


「ええ……恐過ぎるよそれ」


「しかもな、昔この案内所にも押しかけてきたらしくて、エキディウスさんが撃退したってことがあったらしいぜ。案内所に女性検知の術がかかってるのもそのせいだってさ」


「何というか色々とぶっ飛んでないかなその人」


 そこまでさせる女性は最早女性というより魔物では。あの呪いとか特に。とイサは思いつつ引きながら答えた。そんなイサにユッタは苦笑を浮かべながら、うーんと顎に手を当てて思案する素振りをする。


「ま、気持ちはわからんでもないけどなぁ。ムール統括長っていや、超絶美形で高給取りなうえ、王子様だろ? おかしなのが寄ってくるのも仕方ないんじゃね」


 そして、さらりとそんな事を言ってのけた。


「……へ?」


 ユッタの言葉に、イサの足が思わず止まった。


それに気付かず数歩進んだユッタが寮へ入る扉の前でようやく気付き、ん? という顔でイサに振り返る。


「あれ、もしかしてイサ、知らなかったのか?」


「ぜ、全然知らない……」


 ぶんぶん、と首を横に振るイサにユッタが手招きをして、寮の扉を開けてくれる。それに慌てて追いつきながら、イサはユッタの話の続きを待った。


ユッタは声を小さくしてイサに耳打ちするように説明してくれた。


「いやあくまで噂なんだけどさ。ムール統括長は、実は現国王の落とし種だって話」


「え……」


 落とし種。それはつまり、王妃以外から産まれた子であるということだ。


「王都に貴族御用達の有名な妓楼が昔あったらしくてさ。そこで……ってことらしい」


「それって」


「ムール統括長の母親はそこにいた娼妓だって噂だぜ。もう亡くなってるらしいけどな。何しろ妓楼自体もかなり昔に焼け落ちて今は更地って話だし」


「で、でもあくまで噂なんでしょ? 本当かどうか、わからないことを話すのは、」


 本人に失礼だよ、と言いかけたところで肩にぽん、と誰かの手が置かれた。


「げ」


 驚いて振り向こうとした時、先に視線を向けたユッタが重たい声を出した。


 なんだ? と思ってイサも目をやると、そこにいたのは―――


「イサくん♪ ユッタくん♪ お仕事お疲れ様♪ 二人にちょっとお話があるんだけど、良いかしらあ?」


 野太い声を発している巨躯を、イサもユッタもそろって見上げた。顔の位置が高すぎて首が痛くなるのはこの人を相手にしている時だけだと誰もが口にする。


それに、ひと目見るだけで色々と精神にダメージを受けてしまうというのも周知の事実だ。


毛深い身体に右肩へ下ろした黒いおさげ髪、身長は案内所の誰より高い二メートルを超えた筋肉質な大男……しかしその服装は、フリフリの白いエプロンなのだから視界の衝撃は凄まじい。


「「りょ、寮母さん……!」」


 仕事上がりに見るにはやや強烈な人を前に、イサもユッタも思わず背中を仰け反らせたのであった。


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