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それもまた人生なのかなって

 

 翌日、いつも通り朝に起きる。食材の仕込みをしないといけないから、営業時間の2時間前から仕込みをする必要があるんだ。


 ささっと準備して、お店に向かおう。


 車に乗ってお店まで移動する。車に乗る時に、必ず聴く音楽がある。


  【SUN SMILE】

 

 サブスクのおすすめに出てきたバンドだ。

知り合いにバンド好きな人がいて、前にお勧めされてから聴いてる。なんだかんだ、2年は聴き続けてる。


 激しいロックな曲が車内を。なんか魂を削って歌ってるって感じがする。

言葉一つ一つに、全身全霊の力を込めて歌ってる。 


 遠く離れた友人を思う歌だ。

元気でやってるか、無茶はしてないか、今は何をしてるのか。お前は1人じゃない、俺たちがいるから安心して帰ってこい。俺たちもお前がいないと寂しいから。早く元気な姿を見せてくれ。


 素直な気持ちを綴った歌詞は、まるで手紙のようだ。


「……いいな」


 僕は人気バンドに歌われた友達のことを羨む自分に驚いた。

なぜ、こんな言葉を呟いてしまったのか……。僕には、友達なんて呼べる人いないじゃないか。


 自分の意思で、みんな上辺だけの付き合いで終わらせてきたんだから……自業自得だ。


 あんまり思い耽ってしまうと負の気持ちになってくるし、事故を起こしてしまうので切り替える。


 店につくと、すでにゼンさんが仕込みを始めている。


「おはよう、アキラ君」

「おはようございます、ゼンさん」


 挨拶をしてからいつも通り準備に取り掛かった。


 お店のオープン15分前に、ヨシコさんやアルバイトの人たちが出勤してくる。

5分前になると、みんなで今日も1日頑張ろうと声をかけあってからお店をオープンする。


 お店が開店すると、ぞろぞろとお客さんが来店してくる。

ゼンさん達と一緒に、料理を作っては提供し、料理を作っては提供しを繰り返す。


 ここはオープンキッチンなので、料理をしている姿がお客さんから見える。

僕がオムライスやハンバーグ、ピザを作ってる姿を見る人はよくいる。


 最初は慣れなかったけど、慣れてしまえばどうってことはない。

子供達なんかは、調理工程を楽しそうに見てくるんだ。じっと見てくる子供は結構可愛くて、意外と自分は子供好きなんだなと知れた。


 お昼のピーク時間を過ぎると、お客さんも少なくなる。

この時間に、ゼンさんやヨシコさんと僕は、バラバラに休憩に入る。


 ヨシコさんとゼンさんが休憩に入ったので、僕とアルバイトの人でお店を回す。

僕は夜に向けての仕込みの準備があるから、キッチンでひたすら食材を仕込みつつ、料理が入ったら作るんだ。


「いらっしゃいませー、こんにちはー」


 お客さんが入ってくる。

夏休みだし、ピーク中以外の14時〜17時でも、いつも以上にお客さんが入ってくる。


 1人の女性がカウンターに座る。

カウンターは料理姿が見えるから、あんまり座りたがる人はいない。常に僕らもいるから、食べにくいってのもあるしね。


 注文が入ったので、料理を作る。どうやらピザをご所望のようだ。

慣れた手つきで料理を作って料理を提供する。


 カウンターから直接料理を出すのも、ここの面白いところだ。


「失礼します。マルゲリータです」

「おや、ここからくるのか」

「ああ、すみません。驚かせてしまって」

「いや、気にしていないよ。相変わらず美味しそうだ」


 相変わらず? ここの常連さんかな。

僕は見たことないから、前にきていた人なのかも知れない。


「うまい。やはり、ピザはいいな」

「ありがとうございます」

「ワインはあるかな?」

「ありますよ、何にしますか?」

「おすすめで頼む」

「かしこまりました。なら、辛口の白ワインをお出ししますね」

「ありがとう」


 疑問に思わないんだな。結構驚く人も多いんだけど、この人はどうやら本当にピザが好きなようだ。


「ローさん、料理お願いします!」

「わかった」


 料理を作って提供してもらう。料理がくる前に仕込みを進めていく。

ある程度終わると、ヨシコさんとゼンさんが戻ってきたので、今度は僕が休憩に行く。


 賄いを10分程度で食べ終えてから、外に出る。


「ふー」


 まさか、自分がタバコを吸う日がくるとは思わなかったな。

ストレスでタバコを吸う人を今まで結構見てきたけど、自分がなるとは思わなかった、

 

 吸い始めたのはここ最近。

疲れ切った時にゼンさんからもらったタバコを吸ってから、僕も吸い始めてしまった。


 なんか……リセットされるんだよな……。


「……驚いたな、まさかタバコを吸ってるとは」

「ああ、すみません。ここ、共通の喫煙所なんですよ」

「いや、そういう意味では……なんでもない。料理、美味しかったよ。ありがとう」

「いえ、こちらこそ。感想とご来店ありがとうございました」

「ああ……隣、いいかな?」

「もちろんです」


 慣れた手つきでタバコを吸う美しい女性。

彼女もタバコを吸うようで、その姿はなにか惹かれるものを感じる。付き合いたいとか、やりたいとかじゃない。ただ、なんとなく気になってしまう。


「……君は、南の空という人を知っているかな?」

「ああ、水彩画家の人ですよね。学生の頃、研修先の近くで美術系のイベントやってて、暇つぶしに見に行ったんですよ。そこでポストカードを買ったんです。綺麗な景色と同じ男の人を描き続けてるんですよね。思い出を絵に描いてるところが好きで、今ではファンです」

「そうか……私も、似たようなものだ」

「そうなんですね」


 そもそも、なんでこの人は南の空の名前を出したんだろうか?


「……これは記念だ。南の空本人から貰った非売品だ」

「いいんですか?」

「ああ、君には美味しい料理を食べさせてもらったからな」

「それが仕事ですから」

「はは、たしかにな。だが、それでも受け取って欲しい」


 彼女は僕と目を合わせる。彼女の目はあまりにも真剣で、それでいて寂しそうだ。

受け取ってくれなかったらどうしようかという感情が、僕にまで届くくらいに。


「わ、わかりました。それでは、遠慮なく」

「ああ、またどこかで会う日もあるだろう。その時は、よろしく頼む」

「わかりました。またのお越しをお待ちしております」

「ああ、ではな」


 彼女がくれたポストカードは、ネットで探しても見当たらないものだった。

どうやら本当に本人から貰ったのだろう。サインも本物だし。


 そこには、いつも通り素晴らしい景色と男の人。それ以外にも、見知らぬ面々が笑顔で描かれている。

雰囲気が昔の僕と、僕の友達達に似てる気がした。


「っつ」


 そのポストカードを見ていると、頭痛がした。

タバコの吸いすぎだろか。最近、吸う本数が増えてるから減らせって体が忠告してるのかも知れないな。


 僕は貰ったポストカードを大事にカバンにしまってから、もう一度タバコを吸いに行った。


 夜は結構忙しかったけど、みんなでなんとか乗り越えることができた。

明日はお店の定休日なので、みんなで食事をすることになった。


 1人で食べるよりも、みんなで食べるご飯の方が美味しいなと思いつつ、夜遅くまでお店のみんなと食事を楽しんだ。



 休日は基本的に家にいる。料理の勉強をしたり、ちょっと豪華な食事を楽しんだり、ネットサーフィンしてみたりと、インドアなことしかやらない。


 動画のおすすめに出てきた【探し人】という動画配信者が出てきた。

気になったので、動画を見ることにした。

 

 バイクで色々な場所に向かって、景色を楽しんだり、観光したり、食事を楽しむ配信者だ。

病気になった彼女は病気を克服して、今は乗ってみたかったバイクで旅をしている。


 観光地はだいたい花畑のある場所で、食べるものもオムライスやピザにパスタと偏りがある。


 過去の配信を遡って見ているけど、どうやら人を探しているみたいだ。

探し人にとってすごく大切な人みたいで、どうやら探し人がその人に救われたみたいだ。

 

 いつか必ず会えると信じて、各地を巡っているらしい。


 初めて動画を載せた日のコメント欄は荒れていた。

男を探すためだろとか、見つかるわけないとか、ストーカーかよとか、散々な書かれようだった。


 でも、更新するたびに、彼女の本気具合が視聴者にも伝わったのか、徐々に応援するコメントが増えていた。


 人を探すというコンテンツが受けたのか、彼女の人柄に惚れたのかは分からないけど、今では登録者100万人超えの人気配信者になっている。


 そんな探し人の動画を見ていたら、時間が溶けるように消えていった。


 休日はあっという間に終わった。

探し人の動画は全て見れないけど、僕は応援しつつベットに潜り込む。

 

 動画の中の探し人は、今という時間を大切に楽しんで生きている気がした。

 

 一方、それに比べて僕は、なんかつまらない人生を送っているなと思ってしまった。


 でも、それもまた人生なのかなって思ったりして、眠りについた。

次回、最終回

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