違和感
「いいぞ!やっちまえ‼︎角鬼なんて畜生どもが、人間様に楯突こうなんてふざけた事を許しちゃならねぇ‼︎」
「バッカ野郎‼︎前に、前に出るんだよ‼︎てめえらに幾ら賭けてると思ってんだ!チンタラやってんじゃねえ‼︎」
「いいわよ!《エンシェント・ディバウアーズ》、その調子‼︎今回は勝てると信じてるからね‼︎」
「あれ?俺の財布が無えぞ……嘘だろ⁉︎スられちまったのか⁉︎」
「大会を観ながら、エール片手に食うドラセル焼きは、なんでこんなに美味いのかなあ、たまんねえや!」
「行けぇ!やれぇ!ぶち殺せぇ‼︎グッチャグチャのギッタンギッタンにしてやれ‼︎」
「あああぁぁ‼︎リリアーネお姉様‼︎今日も凛としてお美しい!美しすぎますわ‼︎」
放映会場からは、観客たちの大歓声が引きも切らず聞こえてくる。
観覧席のブランドンの耳にはその歓声は聞こえていない。彼は隣に座っている沈鬱な、冴えない表情のマーテルに気付く事もなく、険しい表情でクリスタルモニターの映像に見入っていた。
冒険者たちは、しばらく前からどのチームも角鬼たちと遭遇しては撃退する事を繰り返しているが、ブランドンはそこに何やら違和感とでも言うべきものを感じている。
(おかしい、“仮面被り”にしては撤退するのが早すぎる。まるで歯ごたえというものが感じられない戦いぶりだ……)
彼の記憶にある“仮面被り”は、常にもっと決死の様相で向かって来た。その記憶と照らし合わせると、画面の中の角鬼たちにはまるでそのような様子が見られない。
どの冒険者チームに襲い掛かる角鬼たちも、3割ほどの数が負傷すると、あっけなく撤退を開始する。冒険者たちは今が好機とばかりに、追撃のため、撤退する角鬼たちを追いかける。
どの視点に切り替わっても、先ほどからそんな様子がずっと映し出されているのだった。
ブランドンの中で、違和感が次第に大きくなっていく。
(……まただ、またろくに戦わないうちに撤退している。どういう事だ?角鬼どもは、一体何を考えている?)
どう見ても角鬼たちが撤退を始めるのが早い。はじめから撤退するつもりで襲撃しているようにも感じられる。
角鬼たちが冒険者を襲撃するために出現する方向もまちまちだった。そして襲撃してくる角鬼の数は、どれも多すぎず少なすぎずといった具合だ。
(何かがおかしい……何がなのかは分からんが、明らかに何かがおかしいぞ)
このダンジョンがそれなりの規模である事は、先遣隊に同行したブランドンはもちろん知っていたが、最初の広間を抜けた先の迷路のようなエリアに差し掛かってから、冒険者たちは広いダンジョン内にほとんどが散らばってしまい、共闘することがほぼ無くなっていた。
(まさか……冒険者たちが角鬼どもに誘導されている?12もの数のチームが潜っているというのに、気付けば全てのチームが孤立している……)
クリスタルモニターの画面の中で繰り返される光景に、ブランドンの中で何とも不吉な違和感とともに、言いようのない不安が湧きあがって来る。
角鬼たちは相変わらず指笛のような音を使って信号のようなものを送り合い、おそらく連絡を取り合っている。
そして冒険者たちを襲撃しては、大した被害も出さないうちにあっさりと撤退していく事を繰り返す。まるで狙ってそうしているかのように。
それらの情報から導き出される結論は……
(やはり‼︎……角鬼どもは何らかの作戦の元に行動している⁉︎そんな……そんな事が……どうなっているんだ?今回の角鬼どもの行動は、経験に無い事ばかりだ)
ブランドンの背筋に戦慄が疾る。
(考えたくはない、考えたくはないが……今見えている事実から判断すれば…………間違いない‼︎冒険者たちは角鬼どもに、“死地”へと誘導されている‼︎‼︎)
その時、観覧席に備え付けられた小型の「公示人の口」から、困惑と驚愕と恐怖が入り混じったような冒険者の声が、細かな雑音とともに聞こえてきた。
「はあっ⁉︎……な、何なんだ、あのデカいのは……何だありゃあ‼︎⁉︎」
ブランドンは思わず身を乗り出してクリスタルモニターに目を釘付けにする。
最終地点間近にある、大きな空間に設置された「隠者の眼」が捉えた映像を映し出しているその画面の中には、忘れもしないあの姿……
《ドラゴン・ベイン》をして、かなりの苦戦を強いられる事さえあった、“強化種”の角鬼、ヤツらの“戦士”数体のシルエットが映し出されていた。




