冒険者たちの選択
「さあ‼︎ついに12チーム目、最後の挑戦者である《エンシェント・ディバウアーズ》の皆さんが、先ほどダンジョンに突入したという情報が今、入って来ました。これで全チーム、エントリー完了です‼︎」
夜空に星が瞬き始め、放映会場である中央広場の篝火が風に揺れている。
あたりが暗くなった事で、クリスタルモニターの映像は相対的により明るく浮かび上がり、ダンジョンを攻略している冒険者たちの姿をその大画面に映し出す。
「そしてそして、すべてのチームの先頭を行く2チームが、またしても角鬼と遭遇した模様です!しかし今回は敵の数が少ない!果たして後続のチームに追いつかれる前に撃破できるでしょうか⁉︎」
「まあ、序盤であれほどの数が出現したとは言え、おそらくこのダンジョンにはまだまだかなりの数の角鬼が潜んでいるでしょうね。角鬼の氏族の規模はまだはっきりとは分かりませんが、かなり大きい氏族の可能性も有るかと思います」
実況役と解説役の言葉は途切れる事なく続いている。
画面の中では、先行している《ファイナル・ピリオド》と《ゴールデン・ラット》の2チームが最初の広間よりはやや狭い部屋で角鬼の集団と会敵し、戦闘が開始されようとしていた。
「広間での大規模な戦闘で角鬼軍団を撃破して意気上がる先頭集団は、3つの通路をそれぞれ何チームかに分かれて奥へ奥へと進んでいます。そのほとんどが、真ん中の通路を選びました」
実況役の声が観客の歓声に混じって広場に響き渡る。
「真ん中の通路以外では《ホムンクルス・ギミック》、《スプーキィ・ファントム》の2チームが右の通路、左の通路を進むのは《ドラセル・パンツァーズ》のみとなっております」
実況役は現在の各チームの状況を説明している。
冒険者チームは次々と突入を続け、ついにすべてのチームがダンジョンに潜っていた。
「隣国から参戦の特別枠チーム、《ハイカイ・メキシキーセ》は最初の広間で相談中。《ヴァーミリオン・ヘル・ナイン》も3つ並んだ通路の入り口の前で、どの通路に進むか迷っている様子です」
広場にある奥へと続く3つに分かれた通路の入り口。進む道によっては行き止まりや悪質なトラップに嵌まるなど、大きなタイムロスの可能性も有る。ランキング上位のチームと言えど、選択には慎重にならざるを得ないようだ。
「各チームが慎重になるのも分かりますが、広場に進むべき道のヒントが有るわけでもありません。早く決断して先に進まないと、“彼ら”に追い付かれてしまいますね……」
実況役の説明に、解説役のビクターが彼の考えを差し込んでいく。
「ああーーーっと‼︎まさにビクターさんの言葉通り、《フーリガンズ・ストライク》の面々が、広場に到着…………ああーーっ‼︎さらに!なんと言う事か‼︎《フーリガンズ・ストライク》全く迷いません‼︎スピードを落とさずに、真ん中の通路に飛び込んで行ったあーっ‼︎」
クリスタルモニターに映った広間を映す俯瞰的視点の中で、《フーリガンズ・ストライク》は他のチームには目もくれず、颯爽と広間を突っ切ると真ん中の通路へと消えて行った。
それを見た広間に残る2チームも、慌てて真ん中の通路を進み始める。2チーム分の人数が一度に通路へ入ろうとしたので、軽い渋滞が通路の入り口前に起こっていた。
迷いのない《フーリガンズ・ストライク》の選択を目の当たりにした観客たちが大きな歓声を上げる。
「“ダンジョンコンクエスト”では特に理由が無い場合、他チームの進路を故意に妨害したと見なされると減点の対象になります。しかしビクターさん、ほとんどのチームが真ん中の通路を選びましたね」
「そうですね。まあ、私の経験上、大抵のダンジョンは分かれ道が有ったとしても、先の方でつながっている事がほとんどですから、やはりここは早く決断して先へ進むべきだったのではないかと思いますね」
伝説の冒険者チーム、《ドラゴン・ベイン》の参謀役を務めていたビクターの言葉に実況役は納得した様子で頷いている。
ビクターはそのまま解説を続ける。
「《フーリガンズ・ストライク》というチームの出現によって、これからのダンジョン攻略はスピードという要素も意識せざるを得なくなるでしょう。しかし、先にも述べた通り、突出して孤立するとなると今回のダンジョンは少々危険な気もしますが……」
「ビクターさんが仰っていた角鬼の“強化種”が存在する可能性についてという事でしょうか?そうなると、唯一左の通路を進んでいる《ドラセル・パンツァーズ》が心配になってきます。ビクターさんはそこをどうお考えですか?」
開始早々に広間で勃発した戦闘。その勝利への最大の貢献者は、間違いなく《ドラセル・パンツァーズ》だと言える。
「そうですね。前後から挟撃を受ければ分かりませんが、先ほどの戦闘を見る限り、彼らは前面の敵には滅法強いようなので、通路を進むうちは私はそれほど心配する必要は無いかと思います」
ビクターは中指で眼鏡をクイっと持ち上げる。
「むしろ心配よりも、《ドラセル・パンツァーズ》の戦術に感心させられたという方が勝っていますね。前衛が防いで後衛の魔術で敵を一掃する。オーソドックスな魔術の運用法と言えますが、非常に完成度が高いと感じます」
「魔術の運用、その完成度……ですか?確かに角鬼軍団相手に彼らの魔術は効果バツグンだったとは私も思います」
「私が現役だった頃から比べると、現在の冒険者チームはどのチームも非常に魔術の運用に長けていると言えますね。あの頃は魔術は“使いにくい”という理由で敬遠されがちでしたから。現に《ドラゴン・ベイン》には専門の魔術師はいませんでした」
ビクターは両肘を実況、解説席のテーブルについて、顎の前に両手を組みながら考えを述べる。
「ああ!そういえば。私も浅学ながら勉強のために“キュルケゴルダ迷宮の攻略”を拝読しましたが、確かに魔術師に関する記述はほとんど無かったと記憶しています」
「魔術や加護を使う際には、どうしても術者の集中力や精神状態が影響しますからね。やはりそれをサポートする魔導触媒に内蔵される魔導術式や魔導回路、その研究が進んだ成果が今になって実を結んでいるという事でしょう」
実際のところ、数多ある冒険者チームでいまどき魔術師を抱えていないチームはほとんど無いと言って良い。そういった意味ではやはり《フーリガンズ・ストライク》は特異なチームだと言える。
「おっと!先頭の2チームはこの間に角鬼たちを撃破!さらに先へと進みます。最初の戦闘とは比べ物にならないほどの圧勝でした。」
「あれぐらいの数なら難なく対応できていますね。足止めくらいにはなるかも知れませんが、角鬼側の戦力投入のタイミング次第では、冒険者たちによる各個撃破で、このダンジョンも思いの外あっさりと攻略できるかも知れません」
適宜切り替わる俯瞰的視点の映像の中で、冒険者たちはダンジョンの奥へ奥へと進んで行く。
脅威生物やトラップを警戒しながらなので全速力とはいかないが、彼らが進む速度はダンジョン攻略としては充分な速さと言えた。
「さあ、そして最後に突入した《エンシェント・ディバウアーズ》が今、広間に到着しました。…………おおっと、彼らはどうやら左の通路を選ぶようです。何か考えがあっての事なのでしょうか?」
「3回連続で《フーリガンズ・ストライク》の後塵を拝している彼らの事ですから、同じルートを選択しても勝算は低いと踏んだのでしょう。多少のリスクを取ってでも大きな賭けに出るという事でしょうね」
「なるほど、前回大会優勝者のプライドを挫かれてなるものかという気持ちの表れと言ったところでしょうか。彼ら冒険者たちの選択に、今大会はますます目が離せない“冒険”となっていくようです!」
テンポ良く進む実況とビクターの解説の掛け合いがクリスタルモニターに映る冒険者たちの一挙手一投足を引き立てる。
全チームが冒険の舞台に上がった事によって、緒戦の冒険者たちの勝利で沸き上がった放映会場の熱気はそのまま冷める事なく、むしろその熱は今なお少しずつ膨張し続けていくのだった。




