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“ダンジョンコンクエスト”チーム編成論


『激しい戦闘が繰り広げられた広間に、今10チーム目の《ヴァーミリオン・ヘル・ナイン》が到着しました。《フーリガンズ・ストライク》もすでに突入しています』


 コーネリアは射手のミントが腰に提げている、運営から渡された小型の「公示人の口」から聞こえる実況を聞きながら、突入の合図が出るのを今か今かと待っている。


 一つ前の《フーリガンズ・ストライク》が突入して行ってから、焦りはより明確な輪郭を持って彼女の精神を責めさいなんでくる。

 これから攻略の本番が始まろうかという時にこの精神状態は正直に言ってよろしくはないのだが、彼女は明確に精神を消耗するまでには至っていなかった。


 理由は彼女以上に突入の合図を心待ちにしている気持ちをまるで隠す事無く、全身を使って表現している目の前のヨーカーにある。


 彼はしばらく前から待機場所に引かれたラインギリギリの位置で、ずっとモモ上げの要領で足踏みを続けていた。

 背筋をピンと伸ばしたまま、軽快な動作で肘を直角に曲げた両腕を振って、左右の足で交互にその場の地面を踏み続けている。

 ヨーカーは膝を腰の高さまでリズム良く交互に持ち上げ続けており、はたから見ても明らかなほど、無駄に体力を浪費していた。


 両肩を微妙に左右に揺らしながら落ち着きなく体を動かしている彼は、まるで飼い主を遊びに誘おうとしている犬のようにも見える。よく聞けばハッハッハッと聞こえてくる彼のゴキゲンな呼吸音も、聞きようによっては犬のようだ。

 仮面を被ってはいるが、その仮面を通り越して彼の嬉しそうな表情が見えるような気さえ、コーネリアはしてくるのだった。


(……鬱陶しいわね、さっきからなんなのよ、コイツ)


 ヨーカーの、目にうるさい動きに軽く苛立いらだちを覚えながらも、それにいくらか意識を奪われる事によって、ある意味コーネリアの精神は辛うじて安定を保っていると言えた。


「まだかな、まだかな、早く、早く…………さすがにもうそろそろだろぉ。待ちきれねえ、待ちきれないよおぉぉう、早く早くぅぅ」


 なぜこの男はここまでお気楽なのだろうか。今までにも、脅威生物モンスターとの戦闘で恐怖するような素振そぶりなどヨーカーは見せた事がない。

 むしろ難敵と戦う時ほど、チームがピンチにおちいった時ほど、彼は異様とも言えるような興奮と高揚を見せる。


 もしかすると彼は、恐怖心というものを母親の腹の中に置き忘れて生まれてきたのかも知れない。

 そんな事をコーネリアは考える。


 まさかとは思うが、開始と同時にチームを置き去りにして一人で飛び出していったりはしないだろうか、そんな心配すらしてしまうヨーカーとは対照的に、チームの他のメンバーは静かに開始の合図を待っていた。



 チームの前衛は“守護神”ボードゥアン、“豪槍”シュベルツ、そして“凶刃”ヨーカー、それから盾持ちのエルスチン。

 後衛は救護役のアンネ、遊撃手レンジャーのクラウスと射手のミント、そして魔術師兼リーダーのコーネリア。


 彼女のチームは結成以来、数えきれないほどの入れ替えを経て今のメンバーと編成に落ち着いた。守備と状況対応の選択肢を重視した今の編成こそがダンジョン攻略に合わせた最適解だとコーネリアは信じている。


 彼女は駆け出し冒険者の頃から、可能な限り“ダンジョンコンクエスト”の中継を観戦し、各チームの戦績を記録し、冒険者組合でありとあらゆる情報をかき集めてきた。

 その努力の結晶が、彼女が導き出したチーム編成のあり方と戦略であり、さらにはそれをもとに彼女のチームがこれまで積み上げてきた実績なのだ。


 かつては冒険者チームと言えば、前衛のリーダーがチームを引っ張る攻撃重視型のスタイルが主流だったが、《エンシェント・ディバウアーズ》がランキングの上位に食い込んでからは、後衛がリーダーを務めるスタイルが爆発的に増えた。


 攻撃型のスタイルから守備型のスタイルへ、《エンシェント・ディバウアーズ》はチーム編成の定石セオリーに革命を起こしたと言っていい。

 その事実はコーネリアの密かな自慢だった。



 ところが、そんな彼女のプライドを粉々に打ち砕く冒険者チームが彗星すいせいのごとく現れた。


 それが《フーリガンズ・ストライク》である。



 《フーリガンズ・ストライク》のチーム構成人数はなんと驚愕のたった五人。

 駆け出しのチームでもないのに、脅威的な少なさだ。

 さらにはチーム内に魔術師も居なければ、救護役すら居ない。


 完全に今までに無い、新世代型のチーム編成と言える。


 このチームには前衛後衛の概念すら無いようで、五人全員が攻撃と守備の両面をその都度入れ替わりながらこなし、戦闘などで負傷した場合は治療さえも各自でやってしまう。

 もっとも彼らが負傷している場面など、滅多に見る事はできないのだが。


 彼らはメンバーの五人ともが状況対応力に非常に優れている。そのためか皆、武装もほぼ同じで、その統一感は冒険者チームと言うよりは軍隊の一部隊のようだった。


 そんな《フーリガンズ・ストライク》の強みはなんと言ってもその少人数ゆえの移動スピードの速さと、連携の取れた波状攻撃にあった。

 彼らは大所帯の冒険者チームでさえ手こずるような凶悪な脅威生物モンスターも、その波状攻撃で危なげなく仕留めてしまう。


「とにかく速く進んで、邪魔する脅威生物モンスターやトラップは連携して排除する」


 小難しい要素を取り去ったシンプルな彼らの戦略は、シンプルなだけに無類の突破力と勢いを持ち、コーネリアたちのような守備型のチームが障害にまごついている間にどんどんダンジョン深部に進んでしまう。

 《フーリガンズ・ストライク》に前に出られてしまうと、まず追いつけない。そんな評判が冒険者たちの間に定着しつつあった。


 ランキング下位からスタートするというルールのもと、《エンシェント・ディバウアーズ》はこれまでに3回とも、先に突入した《フーリガンズ・ストライク》に追い付けず、その背中をとらえる事なく敗北していた。


 そしてもう一つ、《フーリガンズ・ストライク》の最大の特徴として、彼らは頭部に防具を何も装備しない。コイフすら被らない。

 各チームで一人は決めなければいけないルールの、担当者に当たるメンバーこそ例のサークレットを装備しているが、それだけだ。

 つまりはチームの全員がその素顔を晒しているわけだが、安全面から考えると、非常にリスクの高い選択と言える。


 おそらくはチームの方針なのだろう。彼らは“美戦士”とうたわれるリリアーネを筆頭に、普段から非常にその見た目とイメージを大切にしているようだった。

 シンプルな戦略と相まって、その「分かりやすさ」が大いに観客の心をつかんでいる事は間違い無い。そこへ行くと、《エンシェント・ディバウアーズ》のスタイルは完全に玄人くろうと好みというか、少なくとも大衆向けではなかった。


 突如として現れた新しいスタイルの冒険者チームの前に、彼女が築き上げてきた冒険者チームのスタイル、彼女のチームの地位と名声、そして彼女のダンジョン攻略に対する“哲学”とでも呼べるようなもの、その全てが揺らぎ始めている。



 年に一度の大舞台は、彼女にとって「自分が今までに積み上げてきたものを守る戦い」とでも言うべき、使命を帯びたものへとなっていた。



「おい、コーネリア、スタートだ。行くぞ」


 思考の渦にとらわれていたコーネリアに、ボードゥアンが声をかけた事で、彼女は現実に引き戻される。


「おおぃ、何やってんだよぉ、早く行こうぜ、俺様もう先走り脳汁が出ちゃいそうなんだけど!」


 前を見ると、人格破綻者ヨーカーが足踏みをしながらこっちを見て、何かわけの分からない事を言っている。


「この大会は絶対に勝つ!行くわよ!みんな‼︎」


 確固たる決意を口にしたコーネリアと彼女のチームは、勢いよくダンジョンの中へと突入して行った。


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