緒戦決着
数体の角鬼の体のあちこちに収斂された魔素の欠片が突き刺さる。
途端に角鬼たちは欠片が突き刺さった場所を抑えて身悶えし、地面を転げ回った。
そんな角鬼たちにはまるでお構いなしに、《ドラセル・パンツァーズ》の重装備に身を包んだ前衛の陰で、後衛の魔術師二人は詠唱を続ける。
五人並んだ重装備の前衛は五人ともが、左手に盾を構え、その盾の陰から右手に持った槍を突き出している。
真正面から突っ込んでいく角鬼は、盾に攻撃を防がれ、次々と突き出される槍の餌食になっていく。
それを見た無謀な特攻を躊躇した角鬼たちが距離を取って固まっていると、今度はそこへ先ほどのように、魔術師二人が放った「マナの榴弾」が飛んでいく。
結晶のように輝く収斂された魔素の欠片の塊は、角鬼たちの近くに着弾したかと思うと、着弾した場所を中心に周囲に弾け飛んだ。
そしてまたしても、周囲の角鬼たちの体に魔素の欠片が突き刺さり、角鬼たちは悲鳴を上げながら悶絶する。
攻防一体の《ドラセル・パンツァーズ》の戦術の前に、角鬼たちの負傷者がどんどんと増えていく。
他の3チームの冒険者たちは、《ドラセル・パンツァーズ》を前面に置いて、左右と後ろに展開し、4チーム合わせた一つの陣形を組んで、周囲の角鬼たちを攻撃、牽制する。
《ドラセル・パンツァーズ》の加勢によって、今や形勢は完全に冒険者有利へと逆転していた。
角鬼たちは攻撃の意志が挫けたのか、負傷した角鬼が3つある通路の入り口からちらほらと撤退を始めている。
残った角鬼たちは二、三層の横列に並んでかろうじて戦線のようなものを構築し、撤退する角鬼たちを援護しようとするが、遮蔽物と呼べるような物が無いこの広間にあって、盾を持たない角鬼たちには有効な防御手段が存在しない。
《ドラセル・パンツァーズ》の後衛の魔術師は使用する魔導術式を変える。
「マナの榴弾」のように収斂した魔素の欠片を固めるのではなく、一本に魔素を収斂、凝縮させていく。
そうして強い輝きを放つ大きさにまで圧縮された魔素は、通路の入り口に固まっている角鬼たちめがけて発射された。
輝く軌跡を描いて高速で飛んでいった槍のような形の魔素は、そのまま通路に飛び込んで行き、壁のような無機物の障害にぶつかるまで、軌跡の線上に居た角鬼たちをまとめて刺し貫いていく。
「マナの矢」の強化版と言える、「マナの投擲槍」である。
横列に並んだ角鬼たちからなる“壁”が、まるで意味を為していない。数体が重なって犠牲になったところで、角鬼たちの肉体では「マナの投擲槍」を止める事は不可能だった。
前衛の重装兵が敵を釘付けにしたまま後衛を守りつつ前進し、後衛が強力な魔術で敵に大ダメージを与える。
それが《ドラセル・パンツァーズ》の基本戦術であった。
この戦術には横や後方からの急襲に弱いという弱点があるものの、今現在、それらの弱点は他の冒険者チームによってカバーされている。
隙の無い4チーム合同の陣形の前に、角鬼たちは虚しくその数を減らしていく。
まさに一方的な“殲滅”と呼ぶのが相応しい状況だった。
「マナの投擲槍」の威力を目の当たりにした角鬼たちの戦線はついに崩壊し、小さな“兵士”たちは我先にと撤退を開始する。
一度は壊滅させられかけた冒険者たちの反撃に慈悲など無く、幸運な少数の角鬼が広間から撤退を完了させるまで、3つの通路の入り口を中心に、角鬼たちの死体が広間の石畳に積み上がっていくのだった。