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「戦士の咆哮」


 カースドラゴンが噴き出した黒い液体は、そのほとんどが床に撒き散らされた。


 おそらく近付いたジョエルとアンサーを狙ったのだろうが、ジョエルは柱の陰に隠れて回避し、アンサーは液体の射程圏内から脱出していた。


 撒き散らされた謎の黒い液体が床に触れた場所からは、黒い霧のような煙が立ち昇っている。

 炎を警戒していたメンバーたちは、カースドラゴンの意外な行動に驚き、固まってしまった。


「ああぁ‼︎くそっ!足が…………」


 苦しそうな声を上げたのはリョーカだった。ジョエルとアンサーのカバーをしようと近くに立っていたために、飛び散った液体を被弾したらしい。


 リョーカは頭を下げた四つん這いの体勢で身悶えしている。どうやら被弾したのは手で押さえている左足首のあたりのようだ。


 あの黒い液体を浴びると少なくとも何かしらの苦痛を味わう事が、身をよじって震えているリョーカの様子から伝わってくる。

 しかし履いているブーツの上からでも効果を発揮するというのはどういう事なのか?あの液体は一体何なのだろう。

 身動きできずに苦しんでいるリョーカの様子からも、その身に只事ではない事態が起きている事が分かる。


「クエぇェぅおオぉぉぉォーーンン‼︎‼︎」


 一方、カースドラゴンは窮地を脱した事により力を取り戻したのか、今が好機だと思ったのか、上を向いて奇妙な咆哮ほうこうをあげると、粘着弾の拘束を引きちぎってその巨体を自由にしようと暴れ始めた。


「ジョエル‼︎リョーカを連れてそこから離れろ‼︎ユージン‼︎早く追加で粘着弾を撃ち込め‼︎」


 事態の急変に対処するため、ブランドンが指示を飛ばす。


「ダメだ‼︎ブランドン‼︎もう粘着弾の残弾が無い‼︎」


「マジかよ‼︎じゃあもう動きを止められねえじゃねぇか‼︎」


 ユージンの返事に反応してジョエルが分かりきった事を口にした。


 そんなやりとりをしている間に、カースドラゴンは粘着液の拘束から逃れ始める。凝固ぎょうこした粘着液が巨体に引っ張られて細く伸びて、ブチブチと千切れていく。


「いかん‼︎動ける者は固まって陣形を組み直せ‼︎ケイン‼︎前面に立ってあいつの注意を引きつけろ‼︎」


 ブランドンの指示で動きが止まっていたメンバーたちが動き始める。

 ケインは手にした戦斧せんぷで大盾をガンガンと叩いてカースドラゴンの注意を引こうとしている。


 しかし拘束から完全に逃れたカースドラゴンは急に方向転換をすると、陣形を組むために集まり始めたメンバーたちが居る場所とはまるで違う方向へ向かって進み始めた。


 その進路の先にはピラドと、彼を救護中のマーテルが居る。


「しまった‼︎やられた‼︎マーテル‼︎すぐにそこから離れろ‼︎」


 ブランドンが叫ぶが、カースドラゴンは想像以上のスピードで近付いていく。


「ちくしょうダメだ‼︎間に合わねえ‼︎」


 続けてジョエルが悲痛な叫び声を上げた。


 ピラドとマーテルが次の犠牲者になる。メンバーの誰もがそう思った瞬間、カースドラゴンの前方に一つの影が飛び出した。


 ヒャクリキがカースドラゴンの進路に立ち塞がり、ウォーピックを両手で大上段に構える。


「マンブ野郎‼︎‼︎」


 ヒャクリキはカースドラゴンを間合いにとらえると、前進するために低くしていたその頭部にウォーピックを力一杯振り下ろした。


 遠心力で加速したウォーピックの先端がカースドラゴンの頭部の表皮を突き破って深々と突き刺さる。

 突き刺さった場所から少量の発光する白い液体が飛び散った。


 しかしヒャクリキはそのまま勢いのついたカースドラゴンの巨体に弾き飛ばされ、彼の体はピラドとマーテルの近くまで吹っ飛ばされて転がり、床に倒れ込んだ。


「ヒャクリキ‼︎‼︎」


 マーテルが叫ぶ。


「俺が引きつけるから早く逃げろ‼︎皆の居る場所まで戻るんだ‼︎」


 ヒャクリキはマーテルの方を見ずにそう言ってカースドラゴンに視線を固定したまま素早く起き上がると、再びその巨体に向かって走り始めようと姿勢を低くした。


「うぅおおおおおおおあああァァァァァァ‼︎‼︎‼︎」


「ゴリョルrrごアアgxガガgおラqバがアwぅオオぉぉーーーーーーンンn‼︎‼︎」


 野獣のような雄叫びを上げて走り始めたヒャクリキに応えるかのように、カースドラゴンもその大きな口を開けて大音量の咆哮ほうこうを上げた。


 そしてその大きな頭を上に持ち上げてヒャクリキのウォーピックの攻撃が届かない高さに逃すと、またしても折れた背びれを発光させ始める。

 頭を持ち上げて上に大きく伸びたカースドラゴンの首がグロテスクにふくらんでいく。


 またあの黒い液体を噴射するつもりだ‼︎ヒャクリキが攻撃しようにも、目標の頭部は届かない高さにある。


 このままでは一方的にあの液体を浴びせられてしまう。

 見ていたメンバーの誰もがそう思った。



 しかしヒャクリキは走っている勢いそのままに高く跳躍すると、ふくらんだ首の上の方、頭部のすぐ下の位置に思い切り振ったウォーピックの先端をしっかりと深く突き立てて引っ掛けた。


 突き立てた場所から黒い霧のようなものが漏れ出す。


「ぬらあああああぁぁァァ‼︎」


 そしてウォーピックのを強く握りしめたヒャクリキは、そのまま思いきり肘を後方に引くと同時に、カースドラゴンの首に着地した足を下方向に向けて強く蹴って、その大きな体を上に引き上げる。



 ついに空いている方の手でカースドラゴンの頭部の先端にある角をつかんだヒャクリキは、カースドラゴンの頭部に再びウォーピックを突き立てようと、首から引き抜いたそれを高々と振りかぶった。


 ヒャクリキの体は大きく開いたカースドラゴンの口の真正面に位置している。


「ヒャクリキッ‼︎‼︎ダメよッ‼︎‼︎‼︎」


 マーテルの声が響く。


 その声が聞こえているのかいないのか、ヒャクリキがウォーピックを振り下ろすと同時にカースドラゴンがどす黒く輝く液体を噴き出した。



 ウォーピックの先端がカースドラゴンの頭部に深々と突き立った感触が手に伝わって来たその瞬間、ヒャクリキの視界、その全てが黒一色に染まった。


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