「訴え」
「だから俺は給金が少ないなんて話をしているんじゃない‼︎ダンジョンに同行させて戦闘にも参加させるんなら、ちゃんと戦士として扱ってくれと言ってるんだ‼︎」
冒険者チーム《ドラゴン・ベイン》のキャンプに張られた大きな天幕の中に、ヒャクリキの大声が響く。
天幕の中ではチームの主要メンバーと、戦闘には参加しない会計係が会議のテーブルを囲んで座っていた。
「だから戦士としての扱いってなんなんだよ?マンブ野郎を雇ってやって、飯を食わせて、オマケに給金まで出してる。テメェは奴隷出身のくせに、ちっと文句が多過ぎるんじゃあねえのか?あぁン?」
チームメンバーのジョエルがヒャクリキに負けない大声で言い返す。会議に参加している他のメンバーたちも険しい表情をしている。
「そもそも俺は雑用を担当する“従者”としてチームに採用されたはずだ。それを“体が大きいから”とかいう理由でいつの間にかダンジョン攻略と戦闘に駆り出された。それならそれで、戦士として契約を結び直して欲しいと言ってるんだ!そうであれば雑用をする理由も、新入りに仕事を教える筋合いも無い‼︎」
ヒャクリキは自分の不満がどこにあるのかを訴える。
チームの運営に支障が出ないように雑用をこなし、新入りに仕事を教えながら、それでいて休む暇もなく、移動中やダンジョン攻略中に遭遇する脅威生物や人間の無法者たちとの戦闘にも駆り出される。
そんな生活がすでに一年は続いていた。ヒャクリキの体は度重なる怪我でボロボロになり、疲労はピークに達している。
「文句があるなら辞めてもらっても良いんだぜ?募集すれば、代わりはいくらでも集まるんだからな」
手をひらひらと振りながら弓手のガースが言う。
これまでヒャクリキが何度もチームの上層部に不満を訴えても、いつもそう言って取り合ってもらえなかった。こうやって会議に乱入して訴えても、結局は同じ事らしい。
「まあまあ、そうは言っても人手は必要でしょう?何しろ我々はいよいよあの最難関ダンジョン、《キュルケゴルダ迷宮》に挑むのですから」
チームの参謀であるビクターがガースの発言に異を唱える。
彼がこんな事を言うのは決してヒャクリキに味方したり同情しているからではないだろう。
参謀として立案した今回の作戦における戦力の計算に、当然のようにヒャクリキを含めているからに違いない。
「面倒くせえ、俺らはこれからの攻略の事で頭が一杯だってのに、つまんねえ事でわめいてんじゃねえよ!なあ、ブランドン、ここはリーダーのあんたが、ビシッと決めてくれ」
ジョエルのその言葉で会議のメンバーたちは一斉にブランドンの方を向いた。
ブランドンは閉じていた目をゆっくりと開くと、ヒャクリキに向かって言う。
「お前の言う事も分からんではないが、お前の仕事にしろ、契約の見直しにしろ、全ては攻略が終わってからだ。今回の攻略が成功すれば、俺たちは前人未到のダンジョンを攻略した名誉と栄光に浴することになる。その列に加わりたいのなら、大人しく言う事を聞くんだな」
なんともつれない結論だった。
ヒャクリキの訴えは、生きて帰れる保証も無いダンジョン攻略が終わった後の問題として棚上げにされようとしている。
チームの名誉や栄光など、ヒャクリキの知った事ではなかった。
ヒャクリキは大きな拳で作った鉄槌を会議のテーブルに叩きつける。
その大きな音に、ブランドンの後ろに控えているマーテルがビクッと体を震わせた。
「……納得できねえ……」
ヒャクリキがそう呟くと、会計係のヨードンが口を開く。
「それでは、それではね。ヒャクリキ君のお給金については増額の方向で、検討し直しますのでね……ですからここは穏便にですね……」
「また出費が増えるな……どうした?話は終わりだ。仕事に戻れ」
ヨードンに続けてブランドンがそう言ったその時だった。
「だからそういうことを言ってんじゃねえってのが‼︎分かんねえのかああ‼︎」
ヒャクリキが吠えてブランドンに掴みかかろうとテーブルの上に身を乗り出す。
野獣の咆哮を思わせる大声だったが、さすがは百戦錬磨の冒険者たちだ、全く怯む事なくむしろヒャクリキを数人がかりで取り押さえてしまった。
「くっそ‼︎放せ‼︎放せえええ‼︎納得できるか‼︎こんな事‼︎」
なおも暴れるヒャクリキを冷たい目で見ながら、ブランドンは一言、
「つまみ出せ」
と言うのみだった。




