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美戦士リリアーネ


 出場チーム発表会見の会場である街の劇場に設営された壇上には、《ドラセルオード・チャンピオンシップ》出場チームのメンバーたちが登壇していた。


 各チームともチームリーダーと、もう一人のチームメンバーの二人組で壇上に立っている。

 第1回大会では各チームの全員が壇上に上がっていたが、出場チーム数が倍以上に増えた現在、それをしてしまうと壇上からメンバーがあふれてしまう。

 チーム数が増えていくのに合わせて、自然と登壇できるひとチームあたりの人数は減っていったのだった。


「それではいよいよ皆さんお待ちかね、次のチームは新進気鋭!怒涛どとうの連携攻撃を武器に、目下もっか“ダンジョンコンクエスト”3連勝中の要注目チーム!《フーリガンズ・ストライク》のおふたりです‼︎」


 司会進行役の女性の、チーム名を呼ぶ声が「公示人の口」と呼ばれる魔導具から響く。その声に応えて二人の冒険者が前に出てきた。


 その途端とたんに、


「キャアアアーーー‼︎リリアーネお姉様ぁーーー‼︎」

「お姉様ぁー‼︎こっち‼︎こっち向いてぇーーー‼︎」

「美しい‼︎美しすぎますわ‼︎お姉様‼︎」

「キャー‼︎お姉様と目が合っちゃった‼︎どうしましょう‼︎」


 などと、観客席からは「かしましい」という表現がぴったりの、若い女性たちの声が聞こえてくる。


 その嬌声きょうせいのあまりの勢いに、司会の女性もたじろいでしまっていた。


 壇上の前に出てきている二人のうちの一人は、彼女たちの声に応えて小さく手を振る。

 するとたちまち嬌声きょうせいはより勢いと大きさを増し、その若い女性たちが固まって陣取っている観客席の前のほうの一角は、さながら花が咲き乱れる花畑の様相ようそうていするのであった。



 ダイソンは観客に向かって手を振るリリアーネの様子を横目に見ながら、チームの宣伝戦略が間違っていなかった事を改めて実感していた。


 彼が昔から整った顔立ちをしているな、と思っていたリリアーネは、貴族御用達(ごようたし)のスタイリストを雇って髪型や化粧、服装などを勉強させた途端とたんに、有名な舞台女優も顔負けの容姿に変貌を遂げた。


 彼女の褐色の肌とゆるやかにクセのついた黒髪も相まって、エキゾチックな、なんとも蠱惑こわく的なオーラもまとうようになった。


 その変貌ぶりは、まさに「変身」と言っても過言ではないものだった。

 今では街を歩けばすれ違う通行人は皆、彼女の美貌に目を釘付けにする。


 そんな彼女をようする《フーリガンズ・ストライク》は、“ダンジョンコンクエスト”へ出場し始めてから、いくらもしないうちに人気に火が着き始め、彼らの元々の実力も相まって、あっという間にトップチームの仲間入りを果たしたのだった。


 そう、これからの冒険者稼業で成功したいのであれば、ダンジョン攻略に必要な能力を備えているだけではまるでダメだ、それにプラスされる何らかの魅力がなければお話にならない。ダイソンはそう考えている。


 “ダンジョンコンクエスト”というものの本質を、ダイソンは他のどの冒険者チームのリーダーよりも先んじて見抜いていた。

 そう、これは競技と言うよりは、大衆に向けたショーなのだ、と。


 《フーリガンズ・ストライク》の人気に目ざとく気付いた者たち、つまりいくつかの商会や組合は、ダイソンの狙い通り、広告主として出資したいと彼らに申し出て来た。

 今やチームの主な収入源は、“ダンジョンコンクエスト”の賞金ではなく、それら広告主からのスポンサー収入になっている。


 嬉しい誤算もあった。

 始めのうちは男性の観客からだけだったリリアーネの人気は、いつの間にか若い女性たちにも拡がっていた。


 それも異様な熱気をともなって。


 彼女のスラッとした高身長かつ均整の取れた体型、そこへ磨かれた美貌が加わる事で生まれるその独特ユニークな魅力は、一部の乙女たちのハート鷲掴わしづかみにして離さないらしい。


 その乙女たちのうちの少なくない割合が、貴族や裕福な家庭に生まれた者たちだった。そのため彼のチームには、上流階級とのパイプも出来始めている。


 “名誉”という点では、かの《ドラゴン・ベイン》にはまだまだ遠く及ばないかも知れないが、《フーリガンズ・ストライク》は成功の階段を驚くべきスピードで登り続けていた。


 インタビューに答えるダイソンを見ている会場全体の観客の目は、他のチームを見るのとは明らかに違う眼差しを彼に向けてくる。

 その眼差しは、まるで間違い無くダイソンたちこそが優勝候補筆頭であると言っているかのように感じられるのだった。



「そ、それではリーダーであるダイソンさんに続いて、リリアーネさんにも、一言いただきたいと思います。どうですか?リリアーネさん。今大会に向けての意気込みのほどは……」


 司会の女性はダイソンにインタビューした後、「隠者の耳」と呼ばれる魔導具を今度はリリアーネに近付ける。


「隠者の耳」と「公示人の口」は、こういった大人数が集まるイベントなどでは、今や必須の魔導具となっていた。「隠者の耳」が話す者の言葉を拾って、「公示人の口」がその声を大きく増幅させてあたりに響かせる。

 さらには観客席最前列から壇上へ向けられている「隠者の眼」がとらえた映像が、壇上後方に設置された大きなクリスタルモニターに表示される。


 そこには乙女たちを魅了してやまない、美戦士リリアーネの顔がアップで映っていた。


 リリアーネは優雅な動きで司会の女性の「隠者の耳」を持つ手を両手でそっと包んだかと思うと、ゆっくりとその手から「隠者の耳」を抜き取って、それを自分で自分の口に向けながら女性にしては低めの、しかしよく通る声で話し始める。


「皆さん、ご声援どうもありがとう。……ボクたちは今回初出場だけど、いつも通りやればチャンピオンになるのはほぼ間違い無いと思ってる。そのためにチーム結成以来、地道に準備してきたからね」


 彼女はそこで一旦いったん言葉を区切る。


「ボクから言える事は……そうだな、“ダンジョンコンクエスト”のファンの皆さんが、心の底からワクワクするような“冒険”をお届けすると約束するよ。だから、ファンの皆さん、そして……ボクの子猫ちゃんたち、応援、どうかよろしくね」


 そう言うと、リリアーネは観客席の女性たちに向かって投げキッスを飛ばす。


「キャアアアアアアアァァァァァァ‼︎‼︎」

「ああ!ああ‼︎わたくしもう、もうダメかも……」

「心臓が‼︎心臓がとまっちゃう‼︎」

「お姉様‼︎もう一回!もう一回お願いしますぅぅ‼︎」


 ひときわ大きくなった嬌声きょうせいを浴びながら、リリアーネは司会の女性に「隠者の耳」を返す。見れば司会の女性も、その顔をうっすらと朱色に染めて、陶然とうぜんとした表情を浮かべている。


(それでいてコイツも男ではなく女が好きなんだから、本当にタチが悪い……)


 他の冒険者チームのメンバーが並んでいる場所まで戻りながら、ダイソンは眉を八の字に少し歪ませてそう思う。


 リーダーであるダイソンはさまざまな用事でメンバーたちの住処を訪ねるのだが、リリアーネ宅を訪れるたびに、彼女はいたいけな年頃の少女を連れ込んでいた。

 彼女の中でのお気に入りも何人か居るようではあるが、訪れるたびにほとんど毎回違う少女が居る。


 たまに彼女は男と女を間違えて生まれてきたのでは?とダイソンが思ってしまう理由の一つなのだが、リリアーネの性愛の対象は女性であった。


 とはいえ、だからこそチームで紅一点の彼女がこれまでうまくやってこれたとも言える。

 昔と違い、女性が冒険者になっても違和感がなくなった昨今、多くのチームリーダーが自分たちのチーム内で起きる「男女間の問題」に頭を痛めていた。


 ダイソンは昔から彼女を女性として意識した事は無い。だからと言って、彼女の体に欲情した事も無いと言ってしまうと、それはそれで嘘になるのだが。

 

「もちろん最後にご紹介させていただくのはこのチーム!前大会優勝の栄光をかかげて登場!伝説の再来なるか⁉︎《エンシェント・ディバウアーズ》のお二人です‼︎」


 会場に最後の出場チームを呼ぶ司会の声が鳴り響く。


 するとダイソンの横に立っていた二人が前の方へ歩み出ていった。


(すまないが、あんたたちの時代はここまでだ。せいぜい俺たちの引き立て役になってくれ)


 二人の冒険者の背中に、ダイソンは心の中でそう語りかけるのだった。

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