見慣れない客
「いらっしゃい、お客さん。ご注文は?エールで?分かりやした」
「はい、どうぞ。…………え?よく冷えてる?でしょおー、何しろウチには魔導氷室が有りますからね。樽から専用の容器に移して冷やしてるんですよ」
「え?いつもこんなに繁盛してるのかって?いやー、もしそうだったらどんなに良い事か。いつもはボチボチですよ、ボチボチ」
「今日の客入りはあれのおかげですよ。ホラ、あの壁に掛かったクリスタルモニターに映ってる……え?クリスタルモニターなんて高価な物が何故あるのかって?いやね、ウチのオーナーは進歩的で、ああいう魔導具に目が無い人なんですよ」
「……お客さん、さては王都から来なすったね。なんで分かるのかって?そりゃあなんか、格好がシュッとしてるし。《ドラセルオード・チャンピオンシップ》を観た事が無いなんて聞いたらね……」
「それにしても変わったデザインの帽子ですねえ。え?三角帽っていうんですか?へー、王都じゃ今はそんなのが流行ってるんですねえ。あ、エールおかわり?はいはい、少々お待ちを」
「そうそう、それですよ、“ダンジョンコンクエスト”ってやつです。ご存じでしょ?この街でここ何年か、毎年やってるそれの大会なんですよ。ほら、出場チームのインタビューが始まりますぜ」
「そういえば、さっきどこのダンジョンに潜るか発表されたんですがね、全く新しい、最近発見されたやつらしいんでさあ。だからどのチームもまだ潜ってない、全チームまっさらの状態で今年はやるらしいんですよ」
「え?それがどうしたって?いやいや、潜った事のないダンジョンなんて、何があるか、何が起きるか、まったく分からない。要は危なっかしくてしょうがないんですよ。ワクワクしてきませんか?」
「なにしろね、そのダンジョン、抜け駆けして潜ったチームが全滅してたらしいんですよ。さっき生き残りの様子が映像に映りましたけど、可哀想にねえ、若い嬢ちゃんなんですけど、まるで廃人ですよ、廃人。いきなり狂ったように暴れ出すし……」
「だから今年は優勝チームの予想もだいぶバラけると思いますよ。……ワタシもね、今年はチャンスと見て大穴に賭けるつもりなんです」
「ええ、そりゃもう。賭けないんじゃ何も面白くないじゃないですか。まあ、確かに観てるだけで楽しいなんて人も居ますがね……って、ありゃ!これはこれはトリダーの旦那、ご無沙汰じゃあないですか!」
「旦那、良いんですか?ウチとしちゃあありがたいですけど、また奥さんに叱られるんじゃ……はいはい、いつものですね、もちろんもちろん、黙ってお出ししますよ」
「はい、どうぞ、“イミソーマ”、いっちょ上がり、と。いやね、旦那、聞いてくださいよ、こちらの旦那の隣に座ってるお客さん、《ドラセルオード・チャンピオンシップ》を観た事がないらしいんですよ」
「え?私らの大会もまだまだだって……。そんな弱気な事言わないでくださいよ。旦那のお仕事のおかげでああやって開催できるんじゃあないですか」
「ええ、そうなんですよ、お客さん。こちらの旦那、冒険者組合の方なんですよ。でもダメですよ、この旦那の優勝予想、当たったためしがないんで……いやいや旦那!冗談!冗談じゃないですか!へへ……」
「あれ?お客さん、お帰りで?はい、じゃあお代はこちらに……って、良いんですかい?こんなに。……え?トリダーの旦那にもう一杯と、残りはとっとけ?いやあ、やっぱり王都の人はやることが粋ですねえ!」
「ありがとうございます!街から王都へお帰りの際は、また寄ってやってくださいよ!お待ちしてますからね!」