全てを背負う半端者
後ろに村を背負うブリ子は全身ズタボロ虫の息。片や俺は無傷でよ、実力の差は明白よ。こうなりゃブリ子が逆転狙って、デカい一発狙ってくるな。そう思っていたらばよ、案の定アレやる気だな。奥義・光剣カカト落としよ。真っ直ぐ上げた右足に、黄金色の光が宿る。乱れた呼吸を整えて、息をゆっくり吐く度に、光が天に伸びて行く。そんで鋭く尖ったな。まさに光剣、ってなもんで、振り下ろされたら普通はよ、一刀両断、真っぷたつ。だけど相手はこの俺よ。そんなもんはよ、効きゃしねえ。これは過信なんかじゃねえな。ただただ自信があるだけよ。そんでよ、この自信がよ、どこから来るのかっつーと、現役時代の経験からよ。どんな攻撃食らっても、かすり傷すら負わなかった。それがこの俺、ディー・ヤーよ。だけど、マオのヤツにはよ、アゴを割られちまったよな。こんなことは今までなかった。アイツなかなかやるなあなんて、ちっと思いもしたけどよ、素質がいくらあるって言っても、俺に攻撃効く程なのは、何だかおかしな気がするな。そんなこんなでウダウダと、マオのことを考えてたら、どうやらブリ子の体勢が、完全に整ってたな。全身からも気を集めてよ、足に力を集中させて、この一撃に懸ける気よ。
自分の気をよ、ギリギリまでよ、足に集めているもんだから、技の威力は上がるけど、他の部分の防御力は赤ん坊みたいなもんなのよ。これってえのは薄々よ、俺にかなわねえってのが、分かってるからの戦法よ。しっかし体の中の気をコントロールする流派ってーと、やっぱり俺とは同門だよな。ブリ子は赤ん坊の時に、さらわれてここで育ったんだよな?ならよ、ババアがここによお、来ねえと技の修得は、無理ってことになるよなあ。意外と目ざといあのババアがよ、ゴブリンの肌の色の違いを、見て気付かねえわけがねえ。それでここのゴブリンで、ブリ子だけが武術をよ、教わっているみてえだからよ、何かがありそうではあるな。それが何かは分からねえがよ、ここの黒幕、司祭ならよ、何かしら知っているかもな。そいだら俺は絶対に、司祭に会うべきだよな。まあよ、今はとりあえず、ブリ子の想いと一撃をガッチリしっかり受け止めて、戦いの場においてはよ、何がどうなっちまうのか、教えてやらなきゃいけねえな。そう思う俺は目を細めてよ、ブリ子のツラを見据えたな。そいだらブリ子と目が合った。その表情は何とも言えねえ自嘲の笑いに歪んでる様に見えたよな。そいだらブリ子はゆっくりと、一際大きく息吐いて、「受けてくれる気なのだろう? まさに武人だ、貴様はな」なんて言ってよ、目を瞑ってよ、毒気が一瞬抜けた笑み。全身傷だらけなんだけども、この時一瞬女神みてえに、美しく見えたよな。
まあよ、俺を前にして、しっかり目を瞑るなんて、自殺行為でしかねえよ。正直隙だらけでよ、この時俺が踏み込んで、一撃当てりゃあそれで終わりよ。だけども俺はそうはしねえよ。技をガッチリ受け止めた上でブリ子を倒してやる気だからよ。そんでブリ子が寝てるうちに、俺が村を滅ぼしてやる。ブリ子にゃ村には触らせねえよ。それってえのは理由があって、ブリ子に殺戮させるのは、得策だとは思えねえ。戦士としちゃあなかなかだけど、やっぱりブリ子はまだ若い。若いヤツが強い力で女子供を殺戮すると、今はいいかもしれねえが、精神じわじわやられてよ、心が全部壊れちまって、再起に人生費やすか、殺しに取り憑かれるかになるな。そうなったらよ、人生狂う。この場合はゴブリン生か?まあよ、何でもいいんだけどよ、気付けば全部終わってりゃあよ、ブリ子の心はへこむだろうが、壊れるよりはずっとマシよ。その後、何で心を埋めるか、そこまでは俺も分からねえ。もしかしたらよ、俺を憎んで、敵になるかもしれねえが、そうなったらばそうなった時よ。俺は逃げるが隠れはしねえ。つーか、今が戦う時よ。まあよ、生かしてやるつもりだが、これでブリ子がおっ死んだらば、俺がアイツの人生を心に刻んで生きてやるよ。まあよ、俺は一撃よ。アイツにゃ一撃するだけよ。それで生き残ったらば、てめえの心燃やしてよ、へこみ直して這い上がれ。戦士だったら這い上がれ。マオや俺と一緒に来るなら、それがおめえの道ってもんよ。だから俺はよ、言ったよな。「おめえが半端なヤツだから、俺が代わりにやってやる。 それを心に刻んどけ。 いいヤツぶるなら最初から、牙を剥いちゃあいけねえよ」ってなもんで、そいだらブリ子は泣き顔よ。
だがよ、俺はコイツをよ、どうやら見くびっていたな。「全く貴様の言う通りだよ。 私は半端なゴブリンだ。 しかし貴様にやらせはしない。 私が自分で滅ぼさないと、倒した戦士たちへの侮辱にもなる。 だから私は鬼となる。これまで育ったこの村を、故郷と信じたこの村を、自らの手で滅ぼしてみせる。 でないと半端に情けをかけて、このまま村を残したら、残った者の中からきっと、私と同じ半端者が、生まれてしまうことだろう。 だから私は貴様を止める。 そして私のこの手を汚し、全てを自ら背負うのだ」まあよ、声は震えてやがる。痩せ我慢も甚だしいな。ブリ子も俺から見ればよお、まだまだガキなもんでよお、背伸びしている様に見えるよな。だから余計に、ここは俺に渡して寝てろと思うのよ。だから俺は退かねえよ。俺が若い頃ならよお、多分投げ出してるよなあ。そう思ったもんだけど、どうやら退く気はなさそうだから、「いいぜ、やってみろよ」ってなもんで、俺はブリ子に向かってよ、ただ真っ直ぐに歩き出した。
ブリ子は頷き「感謝する」一言呟きながらよお、全てを振り切る様によお、遂に右足振り下ろしたな。「光剣ッッッ! カカトォォッッッ! ォォォォォォォッッッ落としィィッッッ!」まばゆい光が落ちて来る。光の刃を俺はよお、肩でしっかり受けたよな。ブリ子が俺の名絶叫する。「ディィ、ヤァァァァァァ!」だがよ、俺には効いちゃあいねえ。肩に光剣受けたまま、俺は無言でスタスタ歩く。そして零距離まで近付いた。そいだら光の刃はよ、俺の肩口切り裂くこともないまま次第に消えて行く。力の消費が激しくて、ブリ子が光剣維持出来ねえのよ。そいだら俺のターンだからよ、ブリ子の足首握ったな。そんなに力を入れたつもりは別になかったもんだけど、一気に骨を粉砕よ。「ぐぁッ!」痛みに声あげて、ブリ子が顔を歪めたな。毒気のなかった笑顔はよ、今はもうよお、必死な顔よ。早く終わらせてやらねえと、痛みが長引くもんだから、すかさず俺は右手でよ、見えない剣を握ったな。そしてスイッと斜めに振った。「霧雨揺刀霞斬り」「……!」ブリ子が目を丸くして、肩から斜めに傷口開く。紫の血が噴き出して、ブリ子の体が脱力したな。俺は返り血浴びながら、無言でブリ子の足放す。そいだらブリ子は受け身も取れず、そのまま地面に倒れてよ、勝負あった、ってなもんよ。




