愕然
村は明かりが輝いて、倒れたブリ子の向こうにあるな。俺とブリ子の激突は、難なく俺の勝ち、ってなもんで、俺がブリ子を見下ろしたらば、傷口バックリ開いたままよ。こりゃあ生きちゃあいねえなと思った俺は溜め息ついて、倒れたブリ子に向かってよ、「手間をかけさせんじゃあねえよ」なんて若干憎まれ口の言葉をポツリと言ったけど、ブリ子からの返事はねえな。しばらく無言の時間があって、俺はもっかい溜め息ついた。
ブリ子を斬った技はよお、奥義・霧雨揺刀霞斬り。空気で作った刃でよ、敵ぶった斬る技なのよ。防ぐ術などありゃしねえ。だって相手にゃ見えねえからな。俺や師匠のババアなら、僅かに揺らぐ空気を感じてかわすことも出来るかもな。だけどブリ子は多分よお、この技初めて見ただろうしよ、対処なんて出来ねえで、ただただ食らっていたよなあ。まあよ、加減は一応したが、こりゃあ生きてるはずがねえ。マオとウマが合いそうだから、これから仲良くなればよお、マオとブリ子の間には、種族の垣根を超えた友情だって生まれたかもしれねえな。いいや、多分マオとブリ子は既にそんな雰囲気あった。なのに結果的にはよ、俺が引き裂いちまったわけで、思うところはあるよなあ。つーのも、マオが開花したのは、ブリ子と一緒に戦おうとして、心燃やしたからだよな。あの時のマオは迫力あって、俺でもオッと思ったからよ、これから先が楽しみだなあ、なんて思えるもんだけど、ブリ子が死んだとなるとよお、そりゃあガックリ来るだろな。とはいえ過ぎたことだしよ、どうこう言ってもしょうがねえ。俺が今やるべきことは、ブリ子の育った村を滅ぼす。たった一つ、それだけよ。「さてと、そんじゃあやろうかね」呟いた俺の視線は既に、ブリ子じゃなくて村に向いてる。切り替えってのは大事なわけよ。俺も若い頃はよお、仲間と袂を分かつ時、戦うことになった時、色々傷ついたこともあるが、次第に慣れて行ったよな。慣れて行かなきゃダンジョンなんて潜れたもんじゃねえからよ。昨日の友は今日の敵。この判断が出来ねえヤツが死んで行くのがダンジョンよ。なんて考えながらよお、明かりに向かって歩き出したら「待て……」っつってよ、声がしたな。そいだら俺の背中越しに、動く気配があるもんだから、振り向く俺は「ハハッ」っつって、声をあげて笑ったな。そこにはブリ子が這いつくばって、ゆっくりゆっくり体を起こす。ブリ子の体は血塗れで、肩から斜めにはしった傷があって流血してるしよ、足も折れてるもんだから、立ち上がるのもままならねえな。「動くな、足が折れてるからよ」そう言ってみたらばよ、ブリ子は「足は折れてても、やれることはあるからな」なんて言ってよ、尖ってやがる。そんで自分の足首握って、バキバキ言わせて顔歪めたな。どうやら折れた骨をよお、元の位置に戻したわけよ。そいでゆっくり立ち上がる。「力技で治したか」「治ったわけではないけどな」そうは言うがよ、立ち上がれてよ、心が折れてねえからよ、治った様なもんだぜそれは。芯の強さを感じたけども、とはいえ、そもそも霞斬りで死にかけてるわけだから、何ともならねえだろうとよ、思ったもんだったけど、何だかブリ子はまだやる気でよ、構えて拳を握ったな。だから俺はよ、「やめとけ、拾った命だろ? 傷だってそんなにパックリ割れてるじゃねえか」っつって、まあよ、一応気を遣ったわけよ。そしたらブリ子のヤツがよお、「貴様のアゴと比べれば全然割れてないけどな」なんて言われたもんだから、俺はほんとにむかついて、「割れてねえよ」っつって、「割れているが」「割れてねえって」「割れているが」「割れてねえって」「残念だが、割れている」「残念だがとか言うんじゃねえよ。 まるで割れてるみてえじゃねえか」「割れていると言ってるだろう」「うるせえな」「うるさくはない」「うるせえんだよ」「うるさくはない」「うるせえって言ってんだろが」「貴様の方がうるさい」ってなもんで、確かに俺の方がうるせえな。だから俺もよ、ついついよ、「あれ?ほんとだ」なんて言って、認めちまったもんだから、これがほんとに頭に来てよ、ブリ子にゲンコツお見舞いしたな。こりゃあ完璧八つ当たり。そいだらブリ子のヤツがよお、ニヤリと笑いやがったな。だけども俺が心の中で、身構えたらばその時に、そのまま倒れて来たもんで、とっさにフワッと抱き止めた。「限界じゃねえか、おめえよお」っつったらブリ子のヤツがよお、「うるせえよ」ってなもんで、ニヤリと笑いやがってよ、それはいつも俺がよお、言ってるヤツなもんだから、「煽りやがってコノヤロー、てめえ、それは俺のヤツよ」っつって、ツッコんだのはいいんだけどよ、ブリ子は全身脱力してて、戦う余力が残ってねえな。だけどゆっくり俺の手払って、構えやがるもんだから、「おめえ、死ぬまでやる気かよ」「死にはしないさ、意地でもな」ってなもんで、確かに意地は感じるな。だけども俺も決めてるからよ、「まあよ、あの村滅ぼす役目は、やっぱり俺がやるしかねえよ」っつって言ってやったんだけど、そいだらブリ子のヤツがよお、「私の道は私が決める」なんてナマイキ言うもんだから、コイツもらちが開かねえな。意見もアゴも割れてるな。……じゃねえよ、アゴは割れてねえ。ふざけやがって、こんちくしょうが。
……まあよ、俺も「そうかよ」っつって、構えてやるしかなかったな。ギリギリ生きてやがったもんで、こっからもっかい戦うとなりゃあ、今度はマジでブリ子のヤツはくたばるだろな、なんてよお、思った俺はまた溜め息よ。そいだらブリ子は「すまないな。 やはり退きたくないのだ私は」なんて言ってよ、その姿はよ、ボロボロ具合も相まって、マオとダブって見えたよな。だけども俺の前に立つなら、倒すのが俺のやり方よ。「今度こそ、死ぬぜおめえ」「私は殺しすぎた。その贖罪の時と思えば、本望だ」ってなもんで、やっぱ殺るしかねえ流れ。だけども、何だかマオの顔が、頭にチラつくもんだから、ブリ子を何とか殺さずに、気絶させて眠らせてえな。俺も甘くなったもんよ。そんでブリ子が寝てる間に、全てのことを終わらせられたら、一番いいなと思ったが、ブリ子は再度の激突に向けて、一歩踏み出しやがったな。ちょっと真っ直ぐすぎるよ、おめえ。まあよ、こうなっちまったら、気持ちを切り替え無心になるしか、俺にはねえもんだから、ただただ静かにブリ子を見たな。そいだらブリ子が苦笑いよ。俺が無慈悲に殺す気なのが、どうやら分かったみてえだな。「遺言だ。 嫌な役をやらせてすまん」「構わねえよ。 こちとら弱いヤツをよお、殺すだけの人生よ」「貴様にとっては私も弱者か。 全く、途方もないな」戦場にはよ、悲しみがある。弱いヤツはもちろん悲しい。だけど、強すぎるのも時にはよ、悲しい時があるよなあ。ブリ子は心がまっさらすぎて、汚れていねえもんだから、けじめなんてつけようとする。それで向かって来ちまうからよ、甘いことは出来ねえよ。惜しいヤツを亡くすけど、まあよ、仕方ねえよなあ。じゃあなブリ子、さよならだ。
……と思ったその時よ。村から悲鳴があがってよ、家から飛び出すゴブリンいるな。次の瞬間、あちこちでよお、草木がすげえ勢いで、伸びる広がる、ゴブリン襲う。更にダメ押し、火の手もあがる。どういうことだ!?ってなもんで、俺とブリ子は愕然よ。




