第五十九話 PARALLEL WORLD
そこからは、ほぼ、一方的な攻撃となった。
お互いにシステムカットの状態で戦っていたが、トゥモローの身体能力が俺たちとは違いすぎる。
一緒にいたときは隠していたんだろう。
こちらは防戦一方、鎧や盾の隙間を狙って、至るところに傷を負わされていた。
「俺は海外での傭兵の経験があるんだ。こんな話、普通は聞かないだろう。俺は普通じゃないんだよ。それが俺が選ばれた理由だ!」
そう言いながらも、剣を振り下ろしてくる。
システムに依存し、唯一の回復役であるマリを庇いながら、なんとか盾で防ぐ。
「ちっ、往生際が悪いな。いい加減、殺られろよ」
トゥモローが苛立つように言う。
それに対して俺は、マリがコッソリ回復して回るのを、誤魔化し時間を稼ぐように話す。
「傭兵の経験って、そんな単純なものじゃないだろう?今の時代に、剣を振る戦闘なんて、それこそ聞いたことがないぞ!」
こうやって話すことで、なんとかトゥモローの隙を作れないだろうか。
「当たり前だ!銃での戦闘に決まっているだろう。たまには、ナイフなんてものもあるがな」
「それじゃあ、この差はなんだ」
トゥモローと、俺たちでは人数の差がある。
足を負傷して初めから動けないハタカ、回復役のマリ、そしてカムトゥルーをのぞいても4人いる。
多勢に無勢という言葉がある。
いくら傭兵あがりだといっても4対1では勝てないだろう。
「体の動かしかた。戦闘経験、命のやり取りの経験。それと、この星での経験年数か?伊達に10年も過ごしちゃいない。毎日、剣を振ってたさ」
なるほど俺やリュークからすると10年の差は大きいかもしれない。
ただ、ブレイブやホープはどうだ。
2人だって、伊達に長く過ごしてはいないはずだ。
「それでは、説明になってない。ブレイブやホープはどうだ?レベルは2人の方が高いだろう」
「この星のシステムによるレベルに何の意味がある。長く時間をかければレベルはあがる。それだけだ。俺はこの星に来て10年。ずっと、システムカットだ」
「何?どおりでレベルが低いはずだ。俺はここに来て11年。1年しか変わらないのに、レベルが10以上も低いのはそういう訳か」
ブレイブが苛立たしげな顔をする。
「そのレベル差が、今の戦闘力の差か?」
「まあ、そうだな。後、しいて挙げるなら“気持ち”だろう。俺は、負けないと知っている。未来ではそう決まっている」
先程から、トゥモローの言葉に違和感を覚えていた。
その違和感がなにかわかった気がする。
そして、そこに付け入る隙があるように思う。
「トゥモロー、さっきから未来、未来と言うが、本当にその未来は正しいのか?」
「ん?ああ、ダメダメ。俺を動揺させようって魂胆だろう。無駄だよ。奴らの言っていることに間違いはない」
「何でそう言いきれる?」
「見せてもらったからだよ。未来を」
「行ったのか?80万年後の未来へ?」
「行くわけないだろう、死滅しかかっている地球へなんて。競馬だよ」
「競馬?」
「誰でも考えるだろう?自分だけ未来が見えたら、賭け事では負けなしだって。万馬券を教えてもらったんだよ」
10年くらい前、父親が新聞を見て、「1億の万馬券が出たって。スゲーな」と言っていた気がする。
当てた人の名前は……、さすがに覚えていない。
それまで知らなかった競馬について、少し興味を持って調べたことがあった。
あれは、小学校の5年生か6年生の時だったかな。
「1億の万馬券か?」
「良く知ってるな。まあ、全国のニュースになったからな。あの後、税金でゴッソリ持っていかれたけどな」
「その、たった1 回でか?それだけで信じたのか?」
「1回じゃない。何回もだ」
「何回も万馬券が出たら怪しまれるだろう?そんなニュースはなかったはずだ」
「お前は、見ず知らずの人間が“、私は未来人です。競馬の万馬券を教えます”と言って、すぐに信じるのか?すぐに信じてそれに10万も突っ込んだりするか?」
トゥモローは何を言っている?
「そんなこと、するわけない。何度か予想を聞いて、100円ずつ賭けて、全て的中すれば信じ……。あ、そういうことか?」
「そうだ」
「その話は、わかった。で?それで信じたのか?自分の未来を?」
「そうだ」
「実際に見たわけではないんだろう?自分が俺たちに勝つところを」
「そうだ。見る必要はない。奴らが俺を騙す理由はない。奴らの都合の良いように動いているんだからな」
「で、どうやって俺たちに勝つんだ?見たわけではないんだろう?どうやって勝つか聞いたか?」
「どうやってだと?すでに、俺にお前達は負けそうじゃないか」
「そういう意味じゃない。誰から倒すのかとか、最後は誰で、とどめはどうやって刺すのかとか。そういう未来が決まっているんだろう?教えてもらってないのか?」
「そんなものを聞いてどうする?自由に動けなくなるだろう。俺が考え動いた結果が未来だ」
「カッコいい台詞のように聞こえるが、本当にそうか?」
「何?」
「未来では本当に、カムトゥルーは一番初めにやられるのか?俺たちにとどめを刺すのは、そのドラゴンではないのか?」
「何が言いたい?」
マリを庇う振りをしながら回り込み、トゥモローの視線をこちらに向ける。
トゥモローの視界からハタカが消えるように……。
「パラレルワールドって知っているか?」
「パラレルワールド?」
トゥモローが何かを考えるように、一瞬視線を斜め上にそらす。
その刹那、ハタカの唱えた『アイスブロック』がトゥモローを捕らえる。
同時にブレイブがアダマンハルバードをトゥモローに向かって叩きつける。
氷は2つに割れ、そこから崩れ落ちるように倒れていった。
マリのスマホから非情にも聞こえる音声が流れる。
「トゥモローを倒しました。獲得経験値………………」
ここまで、お読みいただきありがとうございます。次回、最終話です。