第五十七話 矛盾
「トゥモロー!」
「明日真!生きてたのね!良かった」
「香奈枝、待って!」
トゥモローに駆け寄ろうとするカムトゥルーを、ホープが制止する。
カムトゥルーはこちらの方を向いて、怪訝な顔をする。
「どうしたの?」
「何か、おかしいわ」
「何かって、何よ?明日真は明日真でしょう?」
「ううん、そういうことじゃなくて。何て言えばいいのかな?」
「そういうことじゃないって、どういうこと?」
カムトゥルーは苛立ち、ホープに食って掛からんとするばかりの勢いだ。
「どうして、ここにいるの?どうやってここまできたの?生きていたなら、どうして私たちに連絡してこないの?」
ホープも違和感を感じてはいるが、どう説明したら良いのかわかっていない感じだ。
気づくと、いつの間にかトゥモローがカムトゥルーの背後まで近づいてきていた。
「どうしてって、私たち仲っギッ……」
カムトゥルーが急に言葉を詰まらせ、後ろを振り返ろうとしている。
よく見ると、カムトゥルーの胸当てから何かが突き立っている。
それは、剣の切っ先だった。
「明日、真、どう、し、て……」
そのまま、カムトゥルーは地面に崩れ落ちる。
「カムトゥルー!」
「香奈枝!」
「どういうことだ!?」
マリやホープ、ブレイブが、カムトゥルーに駆け寄ろうとする。
「矛盾なんて言葉があるが、アダマンソードで、アダマンの胸当てを突いたらどうなるのか。この場合は、盾よりも矛の方が勝つらしい」
カムトゥルーを貫いた剣を引き抜きながら、トゥモローがしかつめらしい台詞を垂れる。
「貴様っ!どういうつもりだ!」
カムトゥルーの側で、ブレイブがトゥモローを睨み付ける。
「キュア!」
マリはカムトゥルーの回復を図ろうとする。
「無駄だよ。心臓を貫いたんだから。キュアでは、そんな深い傷は治せないよ」
トゥモローが嘲るように笑う。カムトゥルーの意識はすでにない。
「傷口を塞ぐだけでいい。後は、俺がなんとかする。みんな、この胸当てを脱がせてくれ」
リュークが声をかけて、カムトゥルーの胸当てを脱がせていく。
「キュア」
脱がし終わったところで、再びマリが『キュア』を唱える。
直後にリュークが心臓マッサージを始めた。
「戻ってこい!戻ってこい!」
リュークがフンッ、フンッ、フンッと力をいれていく。
「勝手なことをするな!」
トゥモローがリュークに向けてアダマンソードを振り下ろす。
ガィン!
ブレイブがそれを盾で防ぐ。
「お前こそ、邪魔をするな!」
そのまま、アダマンハルバードとシールドを構え直し、怒りを露にする。
「お前、なにしたか分かってるんだろうな?カムトゥルーが起きたらお前を庇いかねないからな、それまでにブッ潰す!」
「クククッ、それは無理だよ。お前たちは、俺には勝てない」
「ほざくな!」
フー。ブレイブが怒りを鎮めるように、長く息を吐く。
この人も賢いな。
怒りに我を忘れて冷静さを欠いては、勝てる相手にも勝てない。
それを良くわかっている。
「まあ、いいだろう。理由を聞いてやろう。カムトゥルーが起きてしまう、端的に話せ」
「勘違いするなよ、優羽輝。お前達は命令できる立場じゃぁない。命令できるのは、こっちだ。俺に何かして欲しいことがあるなら命乞いをしろ」
トゥモローが傲岸不遜な態度をとる。
「お前にその名前で呼ばれると反吐が出るな。そもそも、命乞いとはなんだ。何の話をしている?こっちは、理由を聞いてやろうと言ってるんだ」
「理由なんかない。ただ、お前達が邪魔なだけだ。香奈枝みたいになりたくなければ命乞いをしろ。という、つもりだったけど……。やっぱ、止めだ、気が変わった」
トゥモローはそれぞれの顔に視線をやった後に続けた。
「全員、死んでもらおう」
次回、第七章突入でエンディングに向かいます。




