第四十九話 鰐亀《アダマンタートル》
目の前を甲羅を背負った鰐が泳いでいる。
そして、泳いでいるのは水の上ではなく砂の上だ。
鼻先から目にかけて顔の上端と、甲羅の一部を砂から出し、砂の流れに身を任せるように泳いでいる。
俺の隣でリュークが狂喜乱舞している。
あれは、どちらかというと亀というよりは鰐なのだが?
甲羅さえついていれば何でもいいのか?
「いいか?みんな、奴のレベルは高い。コウ達のレベルでは一発で死んでしまうだろう。ただ、リスクはあるがリターンも大きい。しばらくは、1匹倒すたびにレベルが3つ、4つ上がるだろう。確かに、今の俺たちが最終ボスを倒すのに、レベルはほとんど関係ない、それでも高いに越したことはない」
全員が、ブレイブの話を真剣に聞いている。
「システムカットも実践しているんだってな?2人ずつ行くぞ。奴にも有効だ。ただし、甲羅には刃は通らない。気をつけろ!まずは、誰から行く?トゥモローとホープか?」
「俺にやらせてください。システムカットならレベルは関係ないですよね。むしろ、その方が一撃死は無いのでは?」
俺は、手を挙げた。
「コウか、確かにその通りだ。よし、それでいってみよう。」
「俺も」
直前までテンションが高く狂喜乱舞していたリュークが手を挙げている。
「リュークだな。コウと2人で頼む」
ブレイブのGOサインをもらって、俺とリュークはスマホの電源を落とした。
「行くぞ!ショルダー!シールドブロック!」
ブレイブがバフを唱え、カムトゥルーもそれに続く。
「ショートタイム!パーフェクト・ゼ・シールド!」
砂流に入らずにどうやって戦うのかと思っていたら、トゥモローがボウガンをとりだして目を狙って命中させた。
ギィエエ!
声をあげながら、鰐亀が近づいてくる。砂流から流れのない砂の上まで這い上がってくる。
「ダブルウォール!」
ブレイブの周り2メートルの所に透明の壁のようなエフェクトが立ち上がる。
「いいか、アダマンの攻撃力は高い。ウォールもすぐに崩れるぞ。ハタカとマリは後ろに下がっていろ。カムトゥルーの氷魔法は最悪の場合を除いて使用しない。正攻法で奴のHPを削ったら、コウ、リュークの2人が急所を刺して止めだ」
「急所ってどこですか!」
「甲羅で隠しているところだ。首の付け根を狙え!甲羅があっても狙える急所だ!」
氷魔法は使わないと言われたら、ハタカの出番はない。
マリも、回復要員として後ろに下がるが、たぶん出番はないだろう。
カムトゥルーの雷魔法が炸裂し、ホープは手足を狙ってウォールの外で立ち回っている。
俺とリュークは壁の内側から、グレイヴでアダマンの首を狙う。
目や口を狙って攻撃するが皮がなかなか固い。
鰐亀の何度目かの攻撃で、壁の1枚目が崩れた。
「さすがに、この人数がいれば楽だな」
ブレイブが誰に言うでもなく話す。
「この調子でいけば、2枚目のウォールが崩れる前にやれるか?ギリギリだな。コウ、リューク、少し危険だが、ウォールが崩れた瞬間に前に出て、奴の首筋を狙え!」
「「了解!」」
まもなく、2枚目の壁も崩れ落ちた。
自分達を守っていた壁が消えた瞬間に、俺はリュークと顔を一瞬見合わせて前に突っ込む。
「うぉぉおおお!……りゃぁ!」
昔、誰かが言っていたっけ。
力を出したかったら声をあげれば良いって。
思わず腹の底から声が出た。
2人の持つグレイヴが首の付け根、甲羅との隙間に突き刺さる。
「システム外の者による攻撃。アダマンタートルを倒しました。獲得経験値910、獲得金1350〔メル〕」
「レベルが23に上がりました」
「レベルが24に上がりました」
「レベルが25に上がりました」
「レベルが26に上がりました」
「レベルが27に上がりました」
マリ、ハタカのスマホからアナウンスが流れた。
レベルが1度に5つも上がっている。
「5つも上がったか、ワハハハハ」
ブレイブも上機嫌だ。
その後、鰐亀を10匹倒し、その間1人2回ずつシステムカットを担当した。
1度に上がるレベルも3つ、2つと減って1つになるまで戦闘は続き、10匹倒し終わった時点でレベルは36になっていた。