第四十七話 炭鉱と鍛冶の街
なるほど、ゲートを潜った瞬間に、気温が下がったのを感じた。
それでもそこは、潜る前にいた部屋と雰囲気は変わらない、気温だけが急激に下がったような感覚。
もちろん、家具の配置は全く異なるが、どこか懐かしい感じを覚える。
そして、部屋の中は薄暗くなっている。
「ようこそ、私たちのアジトへ!」
ゲートを後から潜ってきたカムトゥルーが、先程と同じ言葉を発する。
「ここは、どこですか?」
あきらかな気温の違いと時差を感じて、俺は問う。
「私たちのアジトよ」
「いえ、そういう意味ではなく……」
「ふふ、わかってるわよ。外に出たらわかるわ」
カムトゥルーが焦らすように答える。
「自己紹介がまだだったわね、私は安藤香奈枝。この星ではカムトゥルーと呼ばれているわ。レベル64の賢者よ」
「「「「64!?」」」」
俺たち一同は驚く。
トゥモローがたしかレベル58?
一緒に行動するようになってから俺たちはレベル22になっていたが、トゥモローは1つしか上がっていない。
カムトゥルーはトゥモローよりも長くここにいるに違いない。
「山下浩一郎です。コウです。シールドアーマーでレベル22になりました。よろしくお願いします」
俺がお辞儀をすると、カムトゥルーの方から手を差し出してきた。
「よろしくね」
軽くその手を握る。
後の3人も名前を言いながら、それに続いた。
「さて、自己紹介もすんだし。行きましょうか」
「どこへ?」
「ついてくれば、わかるわ」
カムトゥルーが先頭に立って、部屋を出ていく。
短い廊下を抜けて、外に出るであろう扉を抜けると、さらに一段気温が下がっ……。
あれ、暖かい?
近くの建物から熱気を感じる。
そちらの方向からだろうか、コーン、カーンと何かを叩く音が響いてくる。
そして、遠くの空が赤から紫に染まっている。
夕方?コナートジフルに着いたのは、昼過ぎだった。
ここは、もうすでに日が傾きかけている。
「皆、さっと出て。扉を閉めるわよ」
ガチャリと音がする。
カムトゥルーが後ろの方で扉の鍵を閉めているようだった。
「ここは……?」
どこ?という言葉が多分続くのだろう。
マリの疑問にはトゥモローが答えた。
「マニュファートだ。炭鉱と鍛冶が盛んな街だよ。ドワーフがいる」
この熱気は、鍛冶の炉か……。
なるほど、路地を抜けて通りにでると、身長は俺たちの胸の高さぐらい、腕っぷしの良さそうな体格の良い人たちが行き交っている。
この星では何と呼ばれている人種かわからないが、どこからどう見てもドワーフだ。
「マップ!」
リュークがスマホを出して地図を見ている。
トゼフルやコナートジフルよりも北に位置するこの街の気候は、日中に炉の側の暑い中で働かなければならない鍛冶という仕事に向いているのかもしれない。
コナートジフルとの時差を考えると、6時間ぐらいだろうか?
「良い鍛冶屋を紹介するわ」
カムトゥルーの後についていくと、ある建物の中へと入っていった。大きな炉が部屋の中央に位置しており、その周りで数人のドワーフたちが作業をしている。金属を叩く音が響く。その音に負けじとカムトゥルーが声を上げる。
「こんにちは!!」
作業中の男たちが顔を上げるが、すぐに顔を下す。その中の1人、正面の男だけがこちらを向いて、ぶっきらぼうに話してくれた。
「ん゛?あ゛あ゛。お゛めが、どう゛じだ?」
「新しい仲間を連れてきたの、武器を作って欲しいのだけど」
「6人が?」
「今は6人だけど8人分。鉄を貫けるような武器ってない?」
「でづ?」
「そう、鉄」
「“アダマンタイト”だ。8人ぶん゛、もっでごい゛」
「8人分ってどれくらい?」
「アダマン8頭ぶん゛だ」
「わかった、ありがとう!この子たち、よろしくね」
この“子”?いったい、カムトゥルーさんはいくつなんだろう?
「あ゛あ゛。お゛めがづれでぎだん゛なら信用じでる」
このドワーフとカムトゥルーの間で何があったんだろう?連れているだけで信用するとは……。
「さあ、紹介は終わり。後、2人を呼んで、アダマン倒しに行くわよ」
「後、2人?アダマンって?」
俺たちは、立て続けに質問する。
「私たちの仲間よ。トゥモローと私の2人だけだと思った?」
まあ、“私たちのアジト”と言っていたぐらいだから、何人かはいるのだろうと思ったが、逆に後2人だとすると、少ない気もする。
そして、アダマンの方は答えてくれない。
「1人はこの街の外でモンスターを倒しているわ。もうすぐでレベルが上がりそうだからっと言ってたから、そのうち戻ってくるわ。もう1人は、現地にいる。そこで合流しましょう」
「おう、それよりも飯が食いたいんだが。昼飯まだだったんだよ」
トゥモローがカムトゥルーに言う。
この時間では、昼飯というより、夕飯かもしれない。
「そうね、希望美を待つ間、夕飯にして、今日はここに泊りね」
カムトゥルーが答える。
希望美。名前からすると女性だろうか。
◇◇◇
その後、俺たちは夕飯に、味は大雑把だが量の多い鶏肉の料理を堪能し、カムトゥルーの仲間の内の1人千種希望美と合流し、アジトでなかなか寝付けない夜を過ごすこととなった。