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チィルール頑張ってみる


 夕食の時間。

 貨物として扱われる人々にもちゃんと食事は支給される。が?


「こんだけか!?」


 貨物品の男が船員に抗議。


「文句あるなら食わなくてもいいぜ? なんなら出て行ってもかまわねーぞ? 船から飛び降りな」

「くっ、貴様、私を誰だと思って!!」

「さあな? 名乗ってみろや。おお?」

「そ、それは……」

「この船に乗っておきながら、まだ、どっかの貴族様づもりかよ?」

「っ……」


 そのやり取りが、この場にいる全員の素性、失われた過去の栄光を持つ人々であることを表していた。


「なあ、タロー、あの男はなにが不満なのだ」


 状況把握できないチィルールがタローに問いかけた。


「あっれー? お前だっていっつも足りない、お代わり、もっと、もっと、とか言ってなかったけ?」

「ち、ちっがっーう! ここはちゃんといっぱいくれるだろ?」

「あー、うん、まあ、そだな」


 抗議した男と、ソレを疑問に思ったチィルールの乖離。

 それは、いつのも夕食より品数が少なかったことにあった。

 普段はパンとスープ、それに主采の魚が一欠けら、オマケに果物が付いているのだが、今回はパンとスープのみだったのだ。

 おそらく、魔物に襲われ積荷に損害がでたので、その帳尻を合わせる為のしわ寄せだ。

 だが食べることしかレクリエーションのない囚人生活をしている彼らにとっては耐え難いことだった。

 でも、普段からパンとスープのみの生活を過ごしていたタローたちにとってはどうでもいいことだった。

 しかも、チィルールにとっては野菜と汁だけのスープとはいえ、いくらでもお代わりOKなので上機嫌の食事だった。


「なら、こんな食事など、いらん!!」


 男、絶叫!


「なんだとー! なら、私によこせー! いっぱいクレー!」


 チィルール、乱入。


「はあ?」


 緊迫したやり取りで凍えていた場の空気に、いきなり少女が食欲むき出しで乱入した。

 呆気にとらわれる人々。


「クスクス……」

「なに、あの子、やだ……」

「ミジメねーぇ」


 こそこそ悪口聞こえる。でも……


「いや違う! 当然のことだ。得られるものがあるならなんでも奪わなくてはならないはず」

「這い上がるためなら、不満など必要ない!」

「今はなにがあろうとも、すべてを喰らおうぞ!」


 抗議してた男、素直に引き下がる。

 なんだか、場の雰囲気良くなってる。

 でも、貰えると思ってたご飯、貰えなかったチィルール、ちょっと不満。


「チィルール、よくやったよ。代わりにオレのパンやるからさ?」

「ダメだ!」

「なんで?」

「だって、タロー、いっつも私にご飯くれる」

「いーじゃん。うれしーだろ?」

「うれしくない! だって、タロー、最近ちょっと細くなった」

「え?」


「あー、そうですね。タロー殿、最近やつれてます。どうでもいから話しませんでしたけど」


 リリィーンが口を挟む。


(そーなのか? そーいえば最近、疲れたなーって。野菜中心の粗食でちょっと痩せたとは思ってたけど)


「そっかー、まぁ、久々に肉とか食って体力つけたいわな」


 タローの一言はなんとなくだった。だって他のみんなもそう思っているに違いないと考えてたから。


「肉か……」

「チィルールも食いたいよなぁ」

「確かに」

「まぁこの状況で贅沢はなしだけど」


 その後夕食は終了し、適当な時間を持て余しつつ、就寝時間になって電灯が消える。


 みんなで雑魚寝の中、暗闇の中でチィルールのおめ目がパチパチ。


「肉……か……」


 切実な呟きを残してチィルールも眠りについた。






 翌日、朝からチィルールは大忙し。船内を駆け巡る。


「肉を所望する」


 甲板やエンジンルームに、艦橋の操縦室にまで上がり、手当たりしだいに、そう聞いてまわった。

 そしてようやく辿り着いた厨房。

 調理人に尋ねる。

 だが、答えは。


「肉? そんなイイモンここにあるかよ。どっか肉屋さんにでも頼めよ。ハハハ……」

「では肉屋はどこぞに?」

「はあ? ここは海の上だぞ?」

「知っておるが?」

「……あのなぁ、譲ちゃん。ここに肉も肉屋もねーよ。欲しいなら自分で獲ってくればいいんじゃねーか?」

「なるほど、その手があったか!」

「えぇ? おい、マジか?」


 調理人の言葉を真に受け厨房を後にするチィルール。


「さて、どーするか」


 ココは海の真ん中である。魚はいっぱいいる。


「たしか、鯨とかいう肉が海にはいると聞いた。ならソイツを捕まえるのみ」


 釣竿を探すために再び船内を駆け巡る。


「鯨、釣りたい。竿、欲しい」


「ハぁ? ハハハッハハッー。お譲ちゃんナイスジョークだね」

「釣れるといいな。でもそうしたらこの船沈んじゃうかもなぁwww」


 誰もまともに相手してくれなかった。


「なぜか?」


 甲板の隅で膝を抱えるチィルール。


「君?」

「ん?」


 チィルールに声をかけたのは黒いトレンチコートの不審な人物。


「なぜ? 鯨なの?」

「それは、だってタローが肉食べたいって……」

「それだけのことで?」

「それだけじゃない! タローはいっぱい私によくしてくれた。だから私もなにかしたい」

「そうか、深い絆があるんだね」

「そういうのは分からない。だって私達はいつも、なんか――いつも一緒なだけだ」

「そうなんだ」

「……お前は誰だ?」

「私は旅のかたりべ。名はトロイと申します。チィルール殿下」

「そうか」

「……(え? いま、あの? 反応なし?)」

「ん? まだ何か用か?」

「そうですね。私に一計がありますが」

「ん? なんのだ?」

「いえ、鯨の捕獲など――」

「なんだと、なら最初からそう言わんか!」

(これは・これは……)


 チィルールの見事なアスッペぷり。

 トロイと名乗った人物も苦笑い。






「リリィーン! 起きろ!!」


 昼前のご飯時間までダラダラ寝てるだけのリリィーンをチィルールはたたき起こす。


「なんですか? 今、私、プライベートタイムなんですがぁー」

「急用である。すぐ、起きんかー」

「たとえ、チィー様でも、労働者の権利を踏みにじることわーぁ」

「なにを言っておるか貴様は? いいから来い」

「えええーっ」


 グダグダ・グズグッズの屑のリリィーン。


「オレが代わりに行こうか?」とタローが見かねて助け舟。

「ダメだ! それじゃ意味がない」

「意味?」

「タローは休んでなきゃダメなんだ! そこから、うごくなーっ!!」

「えぇ? そ、そうかぁ――ん?」


 なんとかだったが、リリィーンを引っ張り出すことに成功のチィルール。

 ステージは次に移行する。


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