チィルール魚釣られしてみる
「リリィーン! いいか? いまから鯨をフィッシングする!」
「はぁ……。はあっ!?」
チィルールに引っ張り出されて甲板にまで来たはいいのの、相変わらずの無茶振りに驚愕のリリィーン。
「我々には肉が必要だ。そう思わんか?」
「はい、まぁ、ですけど、鯨って?」
「できるぞ! 私達ならできるんだ!」
「……」
「釣るぞ!」
「あの、チィー様、鯨というのはとても大きくて、魚みたいに釣るとかできないものなんですが……」
「ふふっ――アーハハハッ。確かに普通には釣ることはできまい。だがな?」
「はぁ……」
「アレを見よ!」
示す先に見えるクレーン。貨物を積み下ろしするための装備だ。
「あれを?」
「そうだ! アレが釣竿だ。むふふふーぅ」
(素人考えにもほどがありますが。まぁ、適当に付き合ってあげれば満足ですかね)
「貴様にアレの操縦を頼みたい。できるか?」
「できますよぉ。一通りの簡単な資格は習得してます。だって、武芸も学力もなかったから、マフィアに入る条件、それにされたんだもん。ひどいですもん。ウウウぅ――」
「よく分からんが、よし。頼んだぞ」
「え、あの、でもエサはどうするんですか? 鯨って何食べるのかとか?」
「ああ、それか。大丈夫だ。なぜならエサは私自身だからな」
「……はあああああ!?」
さすがにリリィーンもチィルールの提案には度肝を抜かれる。
「とある者に便利なものを貰った。コレだ」
「魔法石? でもどんな効果が?」
「この魔法石。これを持って念じると念じたモノになれるらしい。だからコレでエサに変身する」
「待ってください! なんであなたがそこまで? あなた、いま、自分がどんな状況か……」
「それは知らん。ほっとけ! 今、目の前でタローが弱っておる。それは早急になんとかせねばならぬということだ。違うか?」
「それは……」二人の絆なんて知らない部外者のリリィーンに答えれるはずがなかった。
「頼む。貴様だけが頼りなんだ」頭を下げてお願いのチィルール。
「分かりました。お任せください。ムッフーぅ!」
普段全然頼りにされたことのないリリィーンにとって姫殿下のその台詞は何よりの栄光(光栄)であった。
「よし。いくぞ!」
「ムッフーッ!」
気負う二人。
あまり良い予感はしない。
だが、始まる。
クレーンを釣竿にして人一人をエサにしたフィッシング。
「狩りの時間だー!!」(狩られる方=エサ)
「ヒャッハッー!!」
クレーンの操縦室。最高テンションでクレーンを操るリリィーン。
そのクレーンの先端のフックにはチィルールがしがみ付いている。
客観的に見て尋常な様子ではない。
「いっけー!」
「ヒャハ! ハッヒッー!」
フックを海中に投下するリリィーン。
『ドボン』と海中に沈みこむチィルール。
こいつら完全に頭おかしい。
(タローに、肉を食わせてやるんだ! だから、エサに! エサに? エサって、どんなんだ?)
海中のチィルール困惑。鯨のエサのイメージがない。
(パンでいいのか? んん? それにエサって、私が食われるのダメじゃないのか?)
いまさらである。
(い、息が! オイ! 上げろ! リリィーン、上げろ!)
なんて考えてみても、二人は超能力者でもなければニュータイプでもない。ただのオバカである。
(むお! 死ぬ! ヤバイ!)
慌ててクレーンから伸びるワイヤーをよじ登るチィルール。
グリスにまみれたワイヤーは滑りまくって思うように進まなかったが、なんとか海上に到達。
『プファ』と息継ぎ。
「あかん! これ、ダメだ。死ぬワ!」
やってみないと分からない人もいるのである。
それと船はここの事情なんて知らないから普通に進んでいる。
だから油まみれのワイヤーにしがみ付くのも大変だった。
ヘタをしたら流される。
「それに――なんか、コワイ」
そしてようやく自分の状況に気付いた。
足の着きようのない深い海中。
ワイヤーを離してしまったらどこまで流されるか分からない広い海原。
「ふ、ふぇええ……」
完全に涙目で、情けのない声が自然と口から漏れた。
ついでにオシッコも漏れた。
だがソレが幸いした。
チィルールの股間から溢れる金色液体はスペシャルなロ・モ・ニョである。
その甘い香りに誘われて集まってくる魚たち。
その魚にも誘われて大型魚も集まる。
するとそれらを捕食する獰猛な獣も近づいてくるのだった。
しかも、目前の獲物たちの向こう海面には、何やら赤くヒラヒラとしたおいしそうなモノが漂っている。
チィルールは絶好のルアーになっていた。
まさに計算どおり。
『パシャ・パシャ』後方水面がぴしゃぴしゃ跳ねている。
「ん? 魚だ!」
海面から跳びだしている魚達を発見。とたんに元気出てくる。
だが、数秒後、なぜ魚が水面から跳びだしているのかが明らかに。
盛り上がる海面。その海水を宙に爆散させながら現れる獣の巨大な姿。
魚達はコレから慌てて逃げ出し水面に跳び出ていたのだった。
その獣はまっすぐ十メートル程度も身体を水面から跳び出させたあと再び海中へと沈んでいった。
だが、諦めたわけではない。その赤いおいしそうなモノを肉眼で捕らえたのだ。
「どああああ! でたあああ! 大蛇? いやドラゴンだ! あんなの無理だ!」
おとなしそうな鯨ならクレーンのフックを目の前でフリフリしたらパクッとしてくれるイメージだったが、あんな獰猛そうなドラゴンにそんなことは無理だとチィルールは考えた。どっちにしろ無理だが。
「無理だ! リリィーン、やっぱ無理!」ワイヤーを這いあがる。
「チィー様、やりましたね! チャンスですよぉ!」クレーンを上下に揺するリリィーン。
「イヤぁーン(泣)」悲鳴をアゲながらずり落ちるチィルール。
赤いルアーのチィルール目がけて再びドラゴンがコウベをもたげる。
「ヒィーン!」あわててワイヤーよじ登る。
『ドガッ!』狙いが外れてドラゴンが船体に衝突。船に衝撃が走った。
「!?」そのせいで船内にも、タダならぬ状況が発生していることが伝わる。
「機関停止ぃーっ!」船長は迷い無く決断した。
「状況確認いそーげーっ!」
『ドン!』再び衝撃。ということは停止した機関の問題ではない。
「積荷、及びデッキ、確認いそーげーっ!」
船長の的確ですばやい指示によって原因がすぐに特定されることになる。
そして、続く! 次回へ




