01. プロローグ
数ある作品の中から見つけていただきありがとうございます。
久々の投稿ですが、ぜひ最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
「……第一王子と公爵の娘の結婚……ね……」
静まり返った薄暗い部屋の中に、淡々とした女の声が響いた。女の手には、一枚の紙切れが握られている。それは王都で広く配られている、大衆向けの新聞だった。
紙面を飾っているのは、来年に迫った自国の第一王子と、名門公爵家の令嬢の婚儀の報せ。幼い頃に婚約を結んだ二人が、来年の王立高等学園卒業を機に、ついに結ばれるのだという。
そこには、互いを慈しむように微笑み合う、幸せそうな二人の絵姿が鮮明に描かれていた。
女はそれを見つめたまま、昏い双眸を細める。直後、部屋の空気をピリつかせるような、苛烈な舌打ちが響いた。
「こんな奴らだけが幸せになるなんて、絶対に許さない……」
グシャリ、と容赦のない音がした。美しい絵姿が描かれた紙面が、女の細い指によって無残に握り潰される。塊となったそれを胸の前へと持ち上げ、女は細く息を吐いた。
――瞬間。
女の奥底から恐ろしいほどの魔力が、濁流となって指先へと流れ込む。ボッと、音を立てて噴き出したのは、光を吸い込むような禍々しい黒い炎だった。熱を孕んだ闇の炎は、一瞬にして紙塊を包み込み、灰すら残さず、跡形もなく燃やし尽くしてしまう。
「……魔力は、十分戻っているわ。これなら……」
煤ひとつ落ちない手のひらを見つめ、女はくすりと妖しく、愉しげに唇を歪めた。その瞳は僅かにルビーのような妖しい煌めきを宿している。
軋む床を鳴らして窓辺へと歩み寄り、そっと木枠の手すりに手をかける。外へと押し開かれた窓からは、遮るもののない涼しい夜風が吹き込み、女の頬を冷たく撫で上げていった。夜の闇に、彼女の薄桃色の長い髪がふわりと不吉に靡く。
窓の外に広がっているのは、地上のすべてを呑み込もうとするかのような、深い漆黒の闇。
そしてその闇のなかで、一際存在感を放ちながら、天上に白く輝く大きな月。
――もうすぐ、月が満ちる。
大掛かりな仕掛けを施すには、これ以上ない最高の夜が来る。女は夜空の月を見上げ、まるで愛しい恋人の名を呼ぶかのように、酷く甘やかに、けれど骨の髄まで凍りつくような怨嗟を込めて囁いた。
「さぁ、王子様――復讐を、始めましょうか」
プロローグをお読みいただき、ありがとうございます。
ここから少しずつ物語が動き出していきます。
もし「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや下部の評価(★)をいただけますと大変励みになります。
それでは、次回以降もどうぞよろしくお付き合いください。




