表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェアリーリング・ダイアリーズ  作者: Cigale
現世・桐野・イソマツ(2014-2017)
6/15

部屋の隅 〈2016年2月〉

 フッ。お茶の間の電気が、不意に消えた。


「あ。停電」


 そう声をあげたのは桐野だった。

 桐野たち三人は夕食を食べ終えたあと、お茶の間のこたつで温まっていた。


「ブレーカーが落ちたのかの」


 現世は言った。


「ちょっと見てくるよ」


 イソマツがお茶の間を出ていく。

 外は大雪である。暗闇のお茶の間の温度は、見る見る下がっていく。


「……寒い」


 ガラリ。イソマツが戻ってきた。


「ブレーカーじゃないね。電線が雪で切れたのかも」


 ということは、電気がいつ復旧するか分からないということだ。

 家の中には桐野たち三人だけであり、大人たちは用事で今夜は誰も帰ってこない。


「うう……、こたつの中は温かいのに背中が寒くて変な感じだのう。頭が重くなってきよった……」


 がばり。桐野が突然出て、みんなに言う。


「このままこたつに入っていたら、寝てしまって風邪引いちゃう。寒いけど外に出て、眠らないようにしないと」


 桐野が、この状況を切り抜ける策として出した提案はこうだった。

 三人は部屋の四隅にそれぞれ座る。これで部屋の四隅は左角から順に、イソマツ、現世、桐野、誰もいない空間、という状態になる。

 イソマツは、隣の隅に座っている現世のところまで歩いて行き、肩を叩いてからその場所に座る。そして現世は、桐野の場所まで歩いてイソマツの時と同じことをする。桐野の隣の隅には誰もいないから、曲がって通過し、イソマツの肩を叩く。

 これで一周するというわけだ。


   イ ← ※

   

(襖)↓   ↑

 

   現 → 桐


 現世が「おお、何だか面白そうなのだ!」と声をあげる。


 三人は早速、四隅に行って開始した。

 まずイソマツが壁、というよりふすまを伝って、現世のところまで向かう。


「現世ちゃん」


 そう声をかけて、現世は肩をたたかれる。


「うむ……。いかん。寝るところだったのだ」


 現世が桐野のところまで行き、肩を叩く。


「ん」


 桐野は自分が言った通り、壁伝いに誰もいないところを通過し、イソマツの肩を叩く。


「¡Guau(グァウ)!」


 これで一周したことになった。

 イソマツは現世を肩を叩き、その位置に座る。

 そして、自分が叩かれるまで待つ。


(――なんか、雪山で遭難したみたいだなあ)


 そんなことを考えていると、桐野に肩を叩かれた。

 イソマツは立ち上がり、誰もいない隅を通過する。

 そして、現世の肩を叩いた。……

 そんな運動を、何回か繰り返した頃であっただろうか。


 パッ!


 明かりがついた。


「おお! 電気が戻ったのだ!」


 現世が言った。

 桐野の肩を叩きにいく途中だった。


「……」

「ん? どしたのキリちゃん。変な顔して」


 桐野は、何故か真っ青な顔をしてイソマツをにらんでいた。


「――何でアンタ、最初の位置にいるわけ?」


「……へ?」


 イソマツはたしかに、最初自分が座っていた。

 しかし、それがなんだというのだろうか。

 桐野の発言を不可解に思う、現世とイソマツ。


「このやり方だと一度回り始めたら、一周目で一番目の人がいた場所には、誰も座らなくなるはずなんだよ」

「……どういうことなのだ?」

「だって、一番目の隅の人は二番目の隅の人のところに座るわけでしょ? そしたら一番目の隅には、もう誰もいないじゃん。だから三番目の人は都合、二回角を曲がら(・・・・・・・)なきゃいけない(・・・・・・・)計算になるんだよ」


 イ ← ※  ② ← ①  ② ← ①  ② ← ①  ② ← ①

       

 ↓   ↑  桐   ↑  現   ↑  イ   ↑  桐   ↑ ……

        ↓      ↓      ↓      ↓

 現 → 桐  イ → 現  桐 → イ  現 → 桐  イ → 現

 

 桐野の言うことを了解したのか、イソマツの顔が青ざめていく。


Ay(アイ)......ちょっと待ってよ。そしたらここに座っていて、僕が肩を叩いたのは……」


 言いよどむような口ぶりで、桐野が解説する。


「アンタが最初にいた部屋の隅に、『四人目の人物』が座りでもしない限り、この状況はありえない。イソマツは『四人目の人物』を起こして、そいつが現世の肩を叩いたということになるんだよ」


 ?←イ ①  イ ← ①  イ ← ①

       

 ↓   ↑  ?   ↑      ↑

        ↓

 現 → 桐  現 → 桐  ? 現→桐


 現世たちは、目を見開いて二番目の隅――最初現世がいた部屋の角を振り向く。

 しかし当然、そこには誰もいるわけがない。


「「「………………」」」


 黙りこむ三人。


「今夜は……。客間に布団を敷いて、川の字で寝ようか」


 震える唇で、イソマツが提案する。

 桐野と現世は、無言でコクコクと頷いて同意した。

 外の雪が、ドサリと落ちる音が壁越しに聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ