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VR小説「バイキングSMに行ってみた」

【実際にVRを着けて体験する様な小説をイメージしました。○○には貴方の名前を入れてお読みください】


 ようこそム・ラモンタへ。

 当店はバイキングSMのお店でございます。

 バイキング、と名乗ってはおりますが、お料理を取りに行くのはお客様ではなく、当店のメイドでございます。お客様はメイドの取ってきた物を問答無用で食べていただきます。バイキングSMとはメイドの取ってきた物を強制的に食べさせられるという、新感覚のSMプレイなのです。

 当店ではハイレベルなメイドを揃えております。官能の世界をごゆるりとお楽しみください。


 それではいってらっしゃいませ。


 貴方は手汗に濡れた手で風俗店のドアを開けた。ピンクでいかにもいかがわしい雰囲気のドアにはジャワ語で「ム・ラモンタ」と書かれている。どうやらこの店の名前のようだ。


 薄暗い店内へ入ると、直ぐに執事が落ち着いた声で貴方を迎え入れる。オールバックにタキシード姿の執事は一般的な風俗店でいうところのボーイだ。


「おかえりなさいませご主人様。お一人でございますか?」


 コクリ、と貴方は頷く。これから始まる官能的な時間に胸は高まり、喉はもうカラカラ。声もマトモに出せない。何とか絞り出して名前とコースを告げた。


「かしこまりました。ではメイドの準備が整いましたらお呼びします。そちらでアンケートを記入してお待ちください」


 貴方は執事に促されるまま待ち合い室のソファへと腰掛け、アンケートに要望を書いていく。肌触りの良い革とふんわりとしたクッションに包まれ、既に夢心地だ。思わず眠りに落ちそうになって貴方は頭をブンブンと振った。そう、本当に夢心地なのはこれから。メイドとめくるめく時間を過ごすのだ。


「○○様、お待たせしました」


 執事に名前を呼ばれ、緊張しながら貴方はカーテンの前に立つ。

 ゴクリ。思わず生唾を飲み込んだ。

 このカーテンの向こう側にメイドがいるのだ。どんな子だろうか。優しい子だといいな、どもっても引かない子だといいな。

 シャッと勢いよくカーテンが引かれ、可愛らしいメイドが頭を下げていた。スレンダーで小柄な方だ。抱き締めたら折れてしまいそうな華奢な体がいとおしい。早く顔が見たいと気持ちは逸るが、こういうのは段取りが大事だ。貴方は執事の言葉を待つ。


「当店自慢のメイド、『こねこ』ちゃんです。いってらっしゃいませ」


 執事の紹介の後、メイドはゆっくりと顔をあげ、ニッコリと笑った。


 一瞬で、貴方は恋に落ちた。


「おかえりなさいませご主人様。こねこです。精一杯お世話をさせて頂きます」


 まるで背後に照明でも背負っているかの様に、眩しかった。恥ずかしくて、照れ臭くて、貴方はメイドの目もちゃんと見れない。視線を落とすが、視界に入ってきたのは無機質な床ではなく、上目使いのメイドの顔。


「ご主人様?」


 顔を覗き込まれていた。心臓はバクバクと騒がしく、今にも飛び出てしまいそうだ。思わず逃げようとするが、不意に手を握られて、貴方は逃げられない。


「あ、お、う」


 その手は暖かくて柔らかくて、上手く喋れない。しまった、これじゃ気持ち悪い客だと思われる、貴方は後悔した。


「フフ、ご主人様可愛い。行きましょうか」


 天使とはこの子の事だろう。決してこの子は自分をキモいとは言わない。いい子で良かったと心から安堵した。

 メイドに手を引かれ奥へ進む。階段を登ると、そこはレストランのフロアの様な空間が広がっていた。豪華なシャンデリアに照らされ、それなりに明るい。中ほどまで進み、一つのテーブルについた。真っ白なクロスにはまだ何も置かれていない。


「それではご主人様、とびきりドMコース60分、只今より始めさせて頂きます」 


 メイドは貴方にそう告げて、店の奥に設けられたビュッフェコーナーへと歩いていく。そして1分ほどで戻ってきた。


「お召し上がりくださいませご主人様」


 コトリと音を立て、真っ白なテーブルクロスにはグラスに入れられた数粒のミニトマト。肉厚でプリッと今にも弾けそうなミニトマトはとても美味しそうに見える。

 その瑞々しさに思わず手を伸ばすが、メイドの声に貴方は手を止めた。


「お待ちください、こちらをおかけしますね」


 エプロンのポケットからチューブを取り出すと真っ赤な液体をブリュリュリュとミニトマトに垂らしていく。

 まさか、と貴方はある可能性に行き着き、恐る恐る確認する。


「これは、何ですか?」


「ケチャップです。どうぞお召し上がりくださいませ」


 何の意味もない。

 トマトにケチャップをかけても何の意味もない。

 真意を問おうとメイドの顔を見るが、彼女の表情には何の躊躇いも無かった。


「いただきます」


 貴方は観念してトマト味のトマトを口に運ぶ。口いっぱいにケチャップの芳醇なトマトの香りと、ミニトマトのジューシーなトマトの香りが広がった。


「お飲み物のカフェオーレです」


 いつの間にかテーブルにはお洒落なコーヒーカップが置かれていた。カップの上品で華やかな造詣から、貴方はこの店が高級店である事を思い出す。

 カップからはコーヒーの香ばしい匂い、ミルクの匂いが湯気と共に立ち上っている。


「フレッシュをお入れしますね」


 メイドはそのままでも美味しそうなカフェオーレにフレッシュの蓋を開けてドボドボと白い液体を流し込んだ。カフェオーレにフレッシュを入れた所で、やはり何の意味もない。

 

「どうぞお召し上がりくださいませ」


 フー、フーと吐息で冷まし、そっと口を付けた。うん、カフェオーレだ。何の変化もない。


「お次はこちらをどうぞ」


 目の前のトレイにしわしわになった長方形の海苔、トレイに直接盛られた米、そしてマヨネーズに和えられたシーチキン。

 何だろうか。考えるが、貴方はこれが何なのかわからない。


「アンケートにツナのオニギリが大好きとありましたので、ばらしてきました。どうぞそのまま海苔を、海苔がなくなったらお米を、お米がなくなりましたらツナをお召し上がりください」


 よく見ると海苔には米粒がついているし、米にもマヨネーズがついていた。実際にツナのオニギリを分解したのだろう。何の意味もない。いや、オニギリは一緒に食べるから美味しいのだ。パリパリした海苔と、ふわふわのお米と、まろやかなシーチキン、3つ一辺に頬張るのが美味しいのだ。ばらす事に何の意味もない。

 貴方はパリパリの海苔を食べ、ミルク多目のカフェオーレで流し込み、少しだけマヨネーズの着いた白米を食べ、最後にツナマヨを食べた。最後に味の濃いツナマヨを食べたから口は白米を欲しがっている。だがどれだけ望んでも白米はそれ以上出てこなかった。


「食後のデザートになります。信州産の『秋映え』という新しい品種のリンゴをふんだんに使用した葛切(くずき)りです」


 葛切りに馴染みのない方もいるかもしれないが、心太(ところてん)の様な見た目でツルツルとした食感が楽しい和スイーツだ。黒蜜をかけたり、この店の様に果物の果汁で作ったりして甘味をつける。


「食後のドリンクです。信州の秋映えという新しい品種のリンゴをふんだんに使用したアップルジュースです」


 何の意味もない。リンゴの葛切りを食べた後にアップルジュースを飲んでも、何の意味もない。


「いただきます」


 チュルチュルっと葛切りを吸い上げれば、リンゴの酸味と上品な甘味が口内を埋め尽くす。最後に口をリセットしようとストローを吸い上げれば、リンゴの酸味と上品な甘味が口内を埋め尽くした。




 食事を終え、心もお腹も満たされた貴方は執事に会計を促した。


「3万6千円になります。ちょうどお預かり致します。ありがとうございました。またお帰りくださいませご主人様」


 店を出て、ふと空を見上げれば頭上に満月。踏み出した足取りは軽く、貴方の心は明日への活力に満ち溢れた。




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