例えるならば深海
生身で深海に放り出され、生きていられる生物はいない。
生きていられるのは、初めから深海に住んでいる者のみ。
であれば、虎子はそういうものであった。
「まずね、こいつやっちゃうでしょ。そしたら次に唐馬さんね。で、最後は喜一くん」
けたけたと、彼女は笑う。
愉快そうに。
心の底から。
「フルコースだよね、これ。こいつと喜一くんのことよく知らないけど……元十二支の——あ、まだ席はあるんだっけ? なんでもいっか。とにかくあの唐馬さんとやれるなんて、うれしーな。テンション上がってきちゃった」
ぞっとするくらいに、気負いのない声色。
闘争の空気で満たされた場で、平然としている。むしろ、楽しんでいる。
弓徒は思い出す。
数年前のインドでの記憶を。
その時の出来事が脳裏を過る。
痛みと、傷の記憶。
しかし——紅虎子。
こいつはこんなやつだったか? と。
狂気はあったが、ここまで箍が外れていたか? と。
何かおかしい。
こいつは一体——?
違和感を覚えた。
その時、だった。
「決闘を申し込む」
唐馬の背後から現れた喜一が、一声を発したのは。
「一対一の決闘を。だから、誰にも手を出すな」




